第12話 元獣は服を手に入れる
最近リメイク前の作品より面白くかけているかどうか自信が無くなってきました……
リメイク前を読まなくてもいいので
読者様方どうか感想をください
四人がいなくなってから大分時間が過ぎ、今太陽が地平線の彼方に隠れようとしており、今現在、ヒデの目の前には森の中では見たことがないくらいの赤をアイデンと共に見ていた。
それを見ながらヒデは歯に挟まった肉片を先の尖った何かの骨で取り除こうとしている。そして、その近くには壊れた馬車と赤く染まった誰かの服が落ちていたが、普通の者ならばヒデ達のいる所からでは、そこまで見えることはなく、ただ何かある程度にしか見えない。
「遅いね」
『じゃのぉ』
それからまたしばらくしても四人は帰ってくることはなかったため二匹は夕食を取りに行く。
都合よくヒデが襲った馬車の中にはたくさんの食べ物があったため感謝をしずに頂くことにした。腹がいっぱいになった二匹は木に登りそこで睡眠をとり明日に備えた。
次の日、日が昇り眩しさで目を覚ます体験を初めてしたヒデはなんとなく昨日の餌が乗っていた馬車はどうなっているかを覗いてみると、そこには何もなかった。
正確には馬車の残骸などは残っているが、そこに積んであっただろう物は一つも残っていなかった。自分達がとったのは一部だけであり、大半はその場に残していた。
それがないということは、盗賊と言う人間が盗んでいったのか、それとも獣が全て食べつくしたのか定かではないが、ヒデにとってはどうでもいいことであった。
「……暇」
『じゃのぉ』
長い間待っているというのに一向にあの人間共は帰ってこない。そんなことにイライラを募らせていると不意にヒデは思った。
(どうして私が律儀に待っていなくちゃいけないの?)
待つのを止め森に帰ろうとした時、再び馬車の音が聞こえてきた。
『おぉ! ヒデや、どうやらようやっと来たようじゃぞ」
「やっと? 一日を損した気分」
「お~い!」
ヒデ達の視界には四人が歩いて向かってくる姿があった。
昨日とあまり変わっていない服装で、しかし武器はまともに使える物に変わっている。
『遅すぎるのじゃ! いったい何をしとったエテ公ども!』
「こっちだっていろいろあんだよ!」
一日も待たせた人間に激高するアイデンだが、その姿はぐうたら猫にしか見えない。それにイラついたのかギデがアイデンと同じくらいの激高した声音で叫ぶ。
そして、遅れた理由は言った方がいいと思ったのか、エルが理由を淡々と言う。
「そうですね。理由は、失敗の報告と生存の報告、森で出会った魔物、亜獣の報告並びに植物の報告、その後は宿の予約に、壊れた防具と武器の買い替えもしくは修理。それとやっぱり癒しが欲しいですからお風呂に入って体の疲れと汚れを落としたりですかね」
「そんで、妙な気怠さがベットに横たわった途端に一気に襲ってきて、そのままグゥ~ってね」
「へぇ……まぁいいけど……ねぇ、それは?」
ヒデは寛大な心で遅刻したことを許すと、今度はエルが両手で抱えている布が気になり指をさす。
「あ、これがリッチェルさんが言っていた服です」
「そうなんだ。ありがとう、ならさっそく……」
そういうとヒデは着ていたローブを一気に脱ぐ。男二人がいるその場で。
「グハッ!」
「グォオオ! 目が! 目がぁあああ!」
レティはその場で跳躍してギデの顔面に回し蹴りをくらわし、エルは躊躇なくリッチェルの眼球二つに指を突き刺した。
理不尽な暴行を受けギデは顔面を抑えて、リッチェルは溢れ出る涙を拭きながらその場でうずくまっている。
その時、ヒデに悪戯心が芽生えた。
「ねぇ、リッチェル~」
艶めかしく相手を誘惑するような声音で、獣の皮一枚でしか隠していない自分の胸を強調しながら頭にある色っぽい女性像を意識しながらその場で俯いているリッチェルに声をかける。
「ん? なんだヒ……デ……」
「あは、やっぱり男の子は、こういうのが好きなの?」
胸を腕にくっつけて耳元で優しく息を吹きかけるようにして囁くと、リッチェルは顔を赤く染めてヒデの胸へと熱い視線を向ける。
「ドリャアア!」
「セイヤァ!」
「え、グワァアア!」
顔を赤らめ視界を贅肉の塊だけに狭めていたリッチェルは隣から襲いかかる二つの暴威を避けることは叶わなかった。ヒデはちゃっかりと二人からの攻撃が当たる直前に避難していたため被害は受けていない。
「この変態! ドスケベ! 淫乱男!」
「失望しましたリッチェルさん! 貴方がそんな女性に見境のない狼さんだったなんて!」
「ご、誤解うごぉ!」
「言い訳無用よ! 諸悪の根源、今この場でもぎ取ってやるわ!」
「どこを!?」
二人にマウントを取られたリッチェルは暴言を吐かれながら暴力を振るわれその度に悲鳴を上げる。そして、レティからもぎ取る宣言をされた途端にリッチェルの瞳には痛みではない涙がこぼれ始めた。
「アッハハハハハハ!」
『にゃはははは!』
「……なんて恐ろしい奴だ」
腹を抱えて笑う二匹に心底恐怖したギデは同時に、哀れにも被害にあい続けている同胞に冥福を祈り手で十字架をつづった。
ヒデは気づいていない。徐々に自分が人間らしくなっていっていることに。
「はい、着たよ。どう? 私綺麗?」
「ええ、とてもお似合いですよ」
「おう、えれぇ別嬪さんだ」
「私達のセンスも捨てたものじゃないわね」
「……」
空色を吉兆として白を織り交ぜたかのような服はヒデの水色の髪との相性がいい。ひざ丈まであるスカートは明るい青とは対照の暗い赤をしている。その赤がより蒼を引き立てるのに役立っている。
勿論下着もしっかりと着用済みである。
その姿を見てそれぞれ褒め言葉を述べるが、若干一名だけ、地面に伏して微動だにしない情けない男がいたが、同じ男であるギデは同乗していたがその他は全く気にも留めていない。
「ありがと。それじゃ、ここでお別れだね」
『もしかしたら、また会うかもしれんから、その時はよろしくのぉ』
「あ、ちょっと待ってくれ」
『にゃ?』
「うん?」
別れを告げて再び森に入ろうとしていたヒデはリッチェルに呼び止められたためその場に立ち止まった。
「えっっとな、森の中でヒデちゃん一回逃げたよな? できたら、そいつの姿とかを教えてほしいんだ?」
「なんで……ああ、うん、なんとなく理由は分かったよ」
姿が分かっていなくてもあれ程のものを殺気を放つのだからわかるだろうとヒデは思ったが、逃げている時四人は少しは感じていたかもしれないがあまりよく分かっていなかったことを思い出す。
「でもごめん。私一度もそいつの姿見てないんだよね」
『儂もじゃ』
「そ、そうか」
心底残念そうな表情をするリッチェルにヒデは疑問を抱く。
「ねぇ、なんでそんなこと聞くの?」
「え? ああ、冒険者っていうのはですね、未確認の亜獣か魔物を報告した場合、危険度に応じて報酬が支払われるんですよ」
「そ、だから、面倒だけど、こうして聞いたわけ」
エルはいつものように丁寧な言葉で答え、レティは面倒そうな声音で答えた。
「面倒……なら、何で冒険者なんてやってるの? 記憶ではもっと楽な仕事だってあると思ったんだけど」
知識の中には人間達がたくさんおり、その中で大人達が様々な仕事というお金がもらえる事をしていたとある。
少なからず目の前の人間達に興味を抱き始めているヒデは、その感情に気づくことなく問うと、四人は苦笑を浮かべ、リッチェルが初めに口を開いた。
「冒険者っていうのは要は人とあまり関わりたくない奴がなる職業だ」
自分達の仕事を下卑するような言葉で始めて、そして続ける。
「料理屋を開けば客には笑顔、病院で働けば患者には敬語、衛兵や兵士なんかは上司に頭を下げる、素の自分を表に出さないのが苦手で嫌いな奴らが、最後の手段でなるのが冒険者なんだ」
「もちろん、戦いが好きでとか、自由が好きでなる奴もいる。でも、地道に働きたくない奴や一攫千金を目指してなるようなロクデナシもいるんだ。むしろそっちの方が多いかもしれない」
もちろんヒデは知識には冒険者の情報もあるが、冒険者に会うことすらほとんどなかったため詳細な情報はない。
故にヒデはならばこの四人もそのロクデナシの内に入っているのだろうかと考えていると、エルが口を開いた。
「私は人とのお付き合いはあんまり得意じゃないんです。人の機嫌を読み取るのが苦手で、だから冒険者になったんです。冒険者なら最低限の話さえすればいいので……」
「あたしもだよ。私はこんな性格だから敬語を使うと鳥肌が立つのさ」
「俺もレティと同じだ。ま、単純に戦ってた方が性に合うと思ったからでもあるがな。確か、リッチェルも同じようなもんだったか?」
「そうだな。俺は元々貴族なんだが、貴族同士の腹の探り合い、それに屑みたいな菅家方や、人を物みたいに扱うさまに嫌気がさしてな。だから、俺は家から逃げ出して冒険者になった」
「貴族……」
『にゃ~……』
貴族と言う単語を聞いた瞬間、アイデンとヒデの目が一瞬だけ視線が鋭くなりその体からあふれんばかりの怒気が浮かぶ。
自分が貧しかったせいか、一人の女性を自分以外助けようとしなかったせいか、アイデンと言う人間はごく普通の一般人をも嫌っていた節がある。その中でも貴族を最も嫌っていた。
大切な人を壊した元凶なのだから仕方がないと言える。
アイデンと言う人間から受け継いだのは知識や記憶だけであり、感情などは一切入っていない。しかし、それでも二匹が憤慨しているのは、やはり記憶に影響されているといえる。
「うん? どうかしたか?」
「え? ううんううん、何でもないよ」
『その通りじゃ。特に気にするようなことでわないのぉ』
ギデに話しかけられると同時にヒデとアイデンの怒気は鳴りを潜めいつも通りに戻っていた。
「そうか。一応言っておくが、体は大事にしとけよ」
「はいはい、言われなくても分かってますよ~」
「本当に大事にしてくださいね。お友達が傷つくのは悲しいですから」
「え? とも、だち?」
唐突に言われた言葉にヒデの目が点になる。
友達と言うものはどういうものかもちろん知っている。だが、それは人同士でしかなりえない。故に、どれだけ長く一緒にいようと友達には慣れないとヒデは考えていた。
しかし、ヒデのその考えは嘲笑うかのようにエルは微笑みながら口にする。
「ええ。少なくとも、私はまたヒデさんに会いたいと思っています。あなたは私達の命の恩人で人間ではありませんけど、それでも、私は貴方ともっと仲良くなりたいんです」
邪念を一切含まれていないその言霊はすんなりとヒデの心の奥底へと侵入していく。ヒデはずっと自由だった。自由だからこそ、ヒデはずっと孤独だった。
寂しいという感情は当時はなかったが、現時点で振り返ると、今迄の生活は寂しい物だったのではないのかとヒデは思った。
「まだ知り合って何日も経ってないけど、あれだけ濃い時間を一緒に過ごしたのよ。もう私達は友達よ」
「おいおい、もしかしたらヒデちゃんは友達になるのが嫌なんぐげぇ!」
「え?」
余計なことを口にしようとしたギデを止めようとレティが腹に一発決めようかと思い拳に力を入れると同時に、ギデの顔面にヒデの蹴りがさく裂した。
その蹴り方はレティがギデにした蹴り方を真似たのか、すごく似ていた。
「……」
蹴りを入れたヒデは綺麗な姿勢でその場に着地するとプルプルと体を震わせる。
「あ、あの、ヒデさん……もしかして、怒ってきゃあ!」
「うわ!」
震えているのは起こったせいなのかもと思い恐る恐ると言った具合にエルがヒデにこをかけると、言い終わる前にエルとレティはヒデに、抱き付かれた。
「嬉しい! 友達なのじゃ! 人生で初めての友達! とっても嬉しいのじゃぁ!」
面々の笑みを浮かべ二人に抱き付きながらその場で軽い跳躍を何度もするヒデは口調が猫のアイデンと同じような古風なものに変わっている。
「うわぁ、ちょ、ちょっと、ジャンプしないで!」
「あうあうあう」
「あはははは!」
抱き付かれているため同様に二人も跳躍を強いられているため体が上下に揺れる。エルの体を気遣ってすぐに抱き付くのを止めるヒデだったが、今度は一人で嬉しそうに飛び跳ねる。
「うぉ」
ヒデの体格は貧相なものではない。出る所は出ていて引っ込むところは引っ込んでいる正に女性の憧れるそれである。故に、飛び跳ねるごとに揺れる一部に視線がいくのも仕方がないと得るのかもしれない。
「……てぇい!」
「グハァ!」
「えい!」
「また、目ぇえええ!」
しかし、それを許さない存在が見ていた野獣を攻撃した。