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第11話 元獣はお礼の品を食べる

ブクマありがとうございます!


やっと森から出せましたぁ

ここまでが異様に長かったような気がする……

 恐怖の根源からの逃走劇を終えたヒデ達は辺りを警戒しながら森の中を進む。


 この森の中は昼夜が全くの不明の為、時間経過が勘でしかわからない。そのため、疲れたら休むということを繰り返していた。


 暫くするとようやくエルも回復したようですぐに歩けるようになった。


 食料はヒデが用意していた。ヒデの嗅覚をもってすれば、例え人間四人が移動していても見つけることは容易である。その途中で緑の肌をした人型の生き物が三匹程いたため、餌になるかと思い狩り取ると霧になって消え綺麗な意志だけが残った。


 ヒデは知識の引き出しの中を探ることで、いま狩ったのが魔物であり、『ゴブリン』という生き物だということが分かった。刃のついた物を持っており、ただ、一人だけ杖を持っていたが、特に気にすることなく殺して消した。


 魔物と言う生物を改めて理解したヒデはその場に魔石を置きっぱなしにして食料を人間達に与え、周囲を警戒しながら生肉を食む。


 そんな生活を続けていると、先頭を歩いている少女の先から、懐かしくも暖かい光が彼らを温めた。それを感じた四人は疲労を忘れ、少女を追い抜かし、ついに森を出た。


「外だ」


「ああ、外だ。俺達は……生き残ったんだ!」


 暗闇で凍てついた心を温める恩恵に目を潤ませ全身で喜びを表していた。エルとレティは更に温めようと涙を零しながら抱き合い腰を落とした。リッチェルとギデはお互いの体に一発ずつ活を入れるように殴ると肩を貸し合い喜びを分かち合った。


 その後を追うように森から出てきたヒデは果実を咀嚼しながら喜んでいる四人を日陰の中から興味もなく見ていた。


「ありがとう、ヒデちゃん。本当にありがとう!」


 憔悴しきった顔をしながら涙を流すレティはヒデの肩に手を置き、そしてすぐに強くだ抱きしめる。


『よきに計らうのじゃ』


「オメェじゃねぇよドラ猫」


 感激の嗚咽を漏らすレティの言葉に特に疲労感を全く漂わせない一見可愛らしい猫が上から目線でものをいう。


「本当にありがとうヒデさん。お礼に何か……そうだ、今手持ちにはこれしかないから、一先ず……これを」


 感謝の言葉を告げながらリッチェルは懐をあさり森の中での逃走中に唯一投げなかった小さな袋の中に手を入れるが、一瞬だけ戸惑うそぶりを見せると、袋ごとヒデに渡した。


 金属が打ち合う音と共にヒデの手に収まった袋の中には三種類の丸い形をした物が入っていた。


 今まで見たことがない物を見て、これは何なのかを考えるが考えるよりも食べれるかどうかの方がヒデにとって重要だったため、袋の中から一枚取り出して噛みつく。


「ちょっ!? 何噛んでるの!?」


 渡したものをいきなり食べたヒデに驚きリッチェルは声を荒げる。


「不味い、しかも硬い」


『ほう、これが人間が使っておる金か。ふむ、やはり食えんのか。残念じゃな』


 味の感想を言うと、ヒデは頭の上で寝そべっているアイデンにも金を噛ませ、アイデンは心底がっかりしたような声を出した。


「……なぁ、もう一回確認するがよぉ。お前達には人間の知識があるんだろう? なら、金が喰えないってことは分かってるんじゃねぇのか?」


「そうだね。でも、私達は知っているだけで、本当に知っているわけではないの」


 ヒデは手に持っていた金を親指ではじくと金は回転しながら真上へと飛び、落下する。そして、猫のアイデンの額に丁度のっかった。


「お金は食べることができないことを知っている。でも、私達は疑問に思うの。本当に食べれないのかな、ってね」


『好奇心は猫を殺すと言うじゃろう? 猫である儂にとって嫌いな言葉だが、これは獣に杢尾紀信があることを物語っておるじゃろう?』


「猫のあなたが言うとなんだか凄い説得力がありますね」


「そうだな。しかし、金はやっぱりお礼にならないか」


『当然じゃ。森の中でいったい何に使えるんじゃ? 身の安全が金で交換できるわけでもなし』


 森の中で金を使える場所があれば貰ったかもしれないが、残念ながら森の中は弱肉強食の世界であり、交換などというのは獣にとって全くの無意味なのである。


 殺して喰らう。これ以外に存在しない。


「でも、やっぱりお礼は必要よねぇ」


「別にそこまでしなくても……」


「そうはういかないわ」


 断ろうとしたヒデの言葉を遮るように真剣身を帯びた声音がレティの口から放たれる。


「恩には礼を、それは人間として絶対にしなければならないことなの。それさえもしなかったら、そいつは人として最底辺な存在なのよ」


 他人に恩を与えるのは人間だけであり、それを恩だと思うこともまた、人間だけである。そして、恩に報いるのも仇で返すのも、また人間だけである。


「う~ん……あっ!」


『おい、変態。何無垢な女子の体をじろじろ見ておるんじゃ。このド変態鬼畜野郎にゃ』


「断じて違う! 俺は、ヒデちゃんに服をお礼にするのはどうかと考えていたんだ」


 ヒデの今現在の服装はエルから与えられたボロボロのローブを着ており、その下は自前した獣の皮、正確には亜獣の皮を最低限大切なところを隠している程度で、とてもではないが人前には出せない状況である。


 もっと大胆な格好をしている者もいるが、しっかりと下着は付けているし絶対に見えないようになっている。しかし、ヒデはそうではないため、露出狂に間違えられても仕方がないと言えてしまう。


「そうですよめ。ならヒデさん、ちょっとここで待っていてもらえますか?」


「え~……う~ん、まぁ、いいよ。待ってて上げる」


 不満を漏らすが、特に何かしなければならないことがあるわけでもなく、待っている間に泉が汚されても別に既に一度汚れてしまっている。綺麗にはなったが一回汚れたのは確かなので別にもう一度汚れても問題ない。


 泉を汚されないようにするのもいわば暇つぶし以外の何物でもないためまた別の暇つぶしを考えればいいだけの事。


「そうか、じゃあ、すぐ戻るから」


「じゃあね、ヒデちゃん。可愛い服用意するからね」


「服選びには自信があります! 任せてください」


「じゃあ任せるは。そんじゃ、俺は組合で生存報告をしにいってくるわ」


 手を振りながら四人の人間達は街へ向かって走っていった。


 ヒデとアイデンは太陽の光を拒むように木の陰から出ようとしない。特に出たくないというわけではなく、なんとなくという以外何も考えはない。


『しかし、あの者達が向かった街は随分と大きいのぉ』


 四人が向かった街はヒデ達がいる場所からでもよく見える位置にできていた。あそこまでなら半日もかからずに街に入ることができるだろう。


「そうだね。まぁ、あんな脆弱な人間でも、知恵と数はあるからね。あれぐらい作らないと身を守れないのさ、きっと」


 目の前に存在する巨大な壁に囲まれた人間が作った住処を冷めた目で見る。あんな巨大な物を作らなければ身を守ることができないのかと思う。


 遮蔽物がないため軟らかい風が二匹に当たる。青く美しい髪と白く柔らかな毛が風によって靡いてている。


「クゥ~」


 突然可愛らしい音がヒデの腹部から聞こえてくる。


「お腹減ったみたい。餌取って……うん?」


 餌をとりに行こうと日の光偽を向けて森の中へと戻ろうとした時、ヒデの大きな耳が何かの音を聞き取り左右に傾く。


『にゃ? どうしたのじゃ? 餌を探すのでは……あ~、成程。これは馬車の音じゃな。大方どこかの商人じゃろう』


 音で何なのかを把握したアイデンの意見にヒデも同様に考えていた。そして、暗闇の中で身に着けた驚異的な視力によってヒデは馬車の存在を確認した。


 暗闇の中で生活していれば、普通ならば目は衰え、五感などが鋭くなると言われているが、ヒデは何故か生まれた時から暗闇でもよく見え、当然五感も鋭かった。


「ふ~ん。へぇ~あれが馬車か……まぁ、いっか。よし、食事にしよう」


 まるで料理屋にでも行くかのような軽い気持ちでアイデンを頭の上にのせたままヒデは日の下に出た。

 そして、音がした方向へと歩みを進める。太陽の光に照らされて鈍く光る鋭い牙を見せびらかしながらその先にいる餌の味を想像し、舌なめずりをする。


「久しぶりの人間だ」


 その瞳は正に捕食者のものであった。

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