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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
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・第九十五話 『女神』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、この国での出来事もやっと終幕のようだ。

 兄貴には結局何ができたんだろうな?

 確かにウララを助けたのはおれだろう。

 でもそれはサーデインの『制約』があったからだし、他の盟友ユニットたちの尽力が無ければ、到底ここに着地することは適わなかった。

 盟友ユニットたち以外にも、シルキーやリゲルが居てくれなければ、ここまでの道程間に合わなかっただろうし、『感染者』の浄化もできなかった。

 キアラが知らせてくれなければウララの現状も把握できなかったし、『南天門』はサラが開けてくれたんだ。

 こうして考えると、自分がカードチートに恵まれただけでは、到底どうにもならなかった事は想像できる。

 チープなセリフだけど、助け助けられ・・・それって人の生活で基本なんだよな。

 勝手な理由で巻き込まれた異世界だけど、例え帰る手段が目の前にあっても、このまま「はい、さよなら。」って気持ちじゃ無くなってきているみたいだ。

 傲慢かもしれないが、自分の関わった人々くらい、平穏を取り戻してあげたい。

 そんな風に思ったんだ。


 

 ■



 「ウララさん・・・ありがとう。」


 真摯に頭を下げる、この世界の主神であるはずの少女。

 「別に・・・あたしがやりたかっただけよ。」と、そっぽを向くウララ。

 その頬に差す朱は、間違いなく照れだろう。


 「さて、それはそれとして・・・。」

 

 アルカ様が一気に表情を引き締めた。

 おれを改めて見つめる彼女に、「『略奪者プランダー』と『封印されし氷水ひすい王』は?」と尋ねる。

 それとティル・ワールドもか・・・。

 なんかアイツだけ毛色が違う気がしたんだが。

 彼女は宙を睨み、しばらくして首を振った。


 「どちらも近くには存在を感じられない。因みにティル・ワールドもだね。まぁ不幸中の幸いは、『感染者』の存在も感じられないことかな・・・。」


 思わずロカさんを伺うと、彼も「うむ。敵対勢力の沈黙を確認したのである。」と頷いた。

 そうか。

 今回は完全に後手後手だったな。

 唯一の救いは『感染者』の解放だろうか。

 ウララがおれを怪訝な顔で見つめる。


 「その人・・・神?がこの世界の主神ってのは把握したわ。『図書館ライブラリ』?これ触ったら何と言うか・・・本能が理解した感じね。だけどセイ、『略奪者プランダー』ってなによ?」


 『図書館ライブラリ』にそんな機能が?

 おれは直接対面したからわからなかったのか、竜兵ならわかったのかもしれないな。

 それはともかく。

 『略奪者プランダー』のことは、ウララが知らないのも当然だな。

 最初にアルカ様に聞いてなければ、おれも未だに知らなかったかもしれない。


 「さっきの猫面白ローブの奴だ。この世界で問題を起こしている。」


 おれの返答に、なぜかウララはとても不思議そうな顔をする。


 「アンタ、それマジで言ってんの?」


 何だろうか?

 いまいち彼女の言いたいことがわからない。

 ウララはため息一つ、自身がぶん投げたハンマーを回収に向かいながら、おれに言う。


 「アンタが何で気付いてないのかわからないけど、アイツどう見ても『女帝エンプレス』だったでしょうが?確か・・・桜庭春さくらば はる。あたしたちと同い年で関西区のトップランカーでしょ。あの猫目は絶対忘れないわよ?」


 「なん・・・だと?」


 ウララに言われた途端、さっきの猫面・・・いや、『女帝エンプレス桜庭春さくらばはるの情報を思い出す。

 確かに・・・言われてみればあの猫目・・・。

 ともすれば、もしかして・・・。

 いやな予感が襲ってくる。

 突然黙り込んだおれの様子を、仲間たちが心配そうに伺っていた。

 代表してか、他の面々が遠慮してかアルカ様が声をかけてくる。

  

 「セイ君。『略奪者プランダー』と知り合いなのかい?」


 「・・・いや、他の奴はわからない。ただ・・・今回現れた猫面に関しては心当たりがある・・・。」


 そしておれは、竜兵と話していた内容を照らし合わせ、アルカ様に相談する。

 『略奪者プランダー』も転移者ではないか?という事。

 奴らはおれたち同様に、カードの力を使えるのではないか?という事。

 更に、今回のように『地球』で称号持ちだった人物である可能性。


 おれの話を聞き終えたアルカ様は、一つほぅっと息を漏らし、「在りえないことではないね・・・。」と呟いた。

 さっきの猫面が事実、『女帝エンプレス』だとすると、最悪の場合他にも称号持ちが居る。

 少なくとも鳥面と猿面。


 話を黙って聞いていたウララが、トンっとハンマーを肩に乗せ、息を吐く。


 「ふぅ~、まぁ話はわかったわ。たぶんそれ、今考えても答えが出ないことよ。それよりもまず、この後どうするかが重要だわ。」


 彼女の目線の先。

 放置され続け最早オブジェと化した『正義神』ダインの姿があった。



 ■



 アルカ様もウララの言葉に頷く。


 「そうだね。今はこちらの方を優先だね。」


 巨大なハンマーを担いだ超美少女と、この世界の主神に睨みつけられ、思わず身を竦める八枚羽根の神。

 どもりながらも言い訳を始めるダイン。


 「ア、アルカ様・・・話の内容からして、我は操られていただけで・・・。」


 言い訳の途中、ふぅ~っと深いため息、アルカ様は目を閉じ左右に首を振る。


 「ダイン・・・。最早そんな次元の話では無いんだよ。50年前の大戦を皮切りに、この世界でどれほどの命が失われたか・・・知らない訳じゃないだろう?いかに操られていた・・・と言われても誰も納得しまい。」


 「し・・・しかし・・・。」


 アルカ様は、「元を正せば・・・。」と前置きして、その心を語る。


 「一番まずかったことから話そうか。いかに自国民を守るためとは言え、遺失級魔法を二つも使いこの国を他所と断絶した。それが間違いなく発端だよ。あの行いで、ほとんどの存在がこの国に介入できなくなってしまった。きっと君ほどの存在を傀儡にするには、相当な時間をかけているはずだ。それなのに君を始め、国民全員が気付けなかった。私は言ったはずだよね?閉じこもれば腐敗すると・・・。もちろん大きな力を失っていて、私が介入できなかったせいもある。それでも・・・君の正義はもう地に落ちてしまったんだ。それに、長年の寄生で魂が穢れてしまった事にも気付いているだろう?」


 ダインにはもう返す言葉は無い。

 正義・・・難しい言葉だよな。

 それに魂の穢れか。


 「だからダイン。君は一度やりなおすしかないと思うよ。」


 やりなおすってのは・・・そういうことなんだろうな。

 はっきりと言い切った彼女に対し、おずおずと口を開いたのはマルキストだった。


 「アールカナディア様、一つよろしいでしょうか?」


 「畏まらないでいいよ。私はこの世界を憂いることしかできない小娘だ。」


 うーん・・・10万年生きてて小娘は無いと思うんだが・・・。

 おれがそんなことをふと考えている間にマルキスト、「では、失礼して。」と話し始める。

 

 「現在この国は、国民は元より多数の天使族と王を同時に失っています。この上、信仰の対象まで失うのは・・・。」


 なるほど、マルキストの言葉も一理ある。

 このままでは国自体が存続できない可能性もあるだろう。

 アルカ様は一つ頷き、「それはわかっているよ。」と答えた。


 「今、この国には正義の女神がいるだろう?」


 えっ・・・?

 その視線の先には、腕組みでふんぞり返るウララさん。

 嘘でしょ?それはいくらなんでも。

 獣人族の子供たちが一瞬ざわめき、途端に歓声を上げる。

 

 「女神様バンザーイ!聖女様バンザーイ!」


 ちょっとおおおおおおお!?

 子供たちに囲まれ、やたらキリっとした表情のウララが「いいわ!」と叫ぶ。

 おまっ!「いいわ」って何が?

 おれの動揺をよそに、話がドンドン纏まっていく。


 「ウララさん、女神としてこの国を救ってくれますか?」


 「お安い御用よ!だけどずっとは無理よ。私はあくまで異世界の人間だからね。いずれはアッチに帰らなくちゃいけないわ。」


 マルキストの依頼に応じる形のウララ。

 良かった、そこはわかってたんですね。

 そしてウララは、初仕事とばかりに命を下す。


 「その代わり、マルキスト。アンタこの国の王になりなさい!それで子供たちをちゃんと保護するの。それが私がこの国を救う最低条件だわ。」


 「なっ!?」


 今度はマルキストが絶句した。



 ■



 話は滞りなくまとまった。

 おれとその仲間たちを完全に置き去りにして・・・。

 美祈ー!ウララがマジで神様になったぞ!

 どうすんだこれ・・・。


 「そういう訳だよダイン。ウララさんが居てくれる間、元の世界に帰ってしまう前に、きちんとその魂を浄化するんだ。」

 

 「・・・わかりました。ウララ殿、我がこんな事を言えた義理でもないが・・・どうか臣民をよろしくお願い致します。」

 

 アルカ様に諭されたダインは、ウララに向け深々と土下座する。

 ウララは「任せなさい。」と言い切った。

 なぜにそんなに男前なのか・・・もうちょっと躊躇とかしてくださいよ(涙目

 そんなウララがハタとした感じで思い出す。


 「そういえばセイ?アンタ、ダインが元の世界に戻る方法知ってるかも、とか言ってなかった?」


 おー、そうだった。

 危なく忘れ・・・忘れてませんよ?


 「そうだな、ダイン。『回帰』って魔法のパーツを知らないか?」


 小首を傾げたダインが、「これか?」と言って一枚のカードを差し出す。

 間違いなく、『回帰』だ。

 これで四枚目・・・少し前進した。

 カードを受け取り、『図書館ライブラリ』に収納。

 スタックが4/7になったことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。


 「ふぅん、それが帰還用の魔法なのね。七つ集めるってなんかドラゴ・・・。」


 「ウララ!イケナイ!」


 危険な事を口走りかけたウララの機先を制す。

 秋広ウイルスが我々を完全に蝕んでいる。

 

 「ではそろそろ。」


 アルカ様がおれたちに声をかける。

 その手が振るわれ、ダインの上に光のヴェールが舞い降りる。

 徐々に小さくなっていくダイン。

 そしてダインは人の赤ん坊と同じ大きさまで縮み、アルカ様が衣で包んだ後優しく抱きかかえる。


 「セイ君、ウララさん、ありがとう。自分の世界のことなのに、大きな力を貸すことが出来ずに済まない。きっとまた近いうちに合えると思うが・・・私はいつも君たちを見守っている。」


 頷くおれたちに優しく微笑んだ彼女は、赤子になったダインと共に光の粒子になって消えていく。


 「では、女神ウララ様。ダイン様が再び降臨なされる日まで・・・どうぞよろしくお願いします。」


 主神とダインを見送った後。

 ウララに深々と頭を垂れる、この国の王となったマルキスト。


 「わかってるわ、マルキスト王。これからちょっと忙しいわよ。」


 それに応え、ニヤリと笑うウララ。

 だ、大丈夫だろうか・・・。

 国民皆鈍器主義とかになったりしないだろうか。

 二人の様子に背中に冷たい汗が流れるおれ。

 

 それはともかく。

 こうしてやっと、有翼種の国『天空の聖域シャングリラ』を揺るがした事変。

 そして50年前から続いていた悲劇の連鎖が、ようやく一応の終幕を迎えるのだった。

 あ・・・ラカティス回収しにいかねーと。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※これにてシャングリラ編一先ず閉幕です。

この後エピローグ的お話と、活動報告に乗せたSSを二つ転載、今執筆中のSSを一つ、ここまでの人物紹介を投稿してから第三章に進む予定です。

これからもよろしくお願いしますorz

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