表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
97/266

・第九十四話 『道』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

評価もありがとうございます。


※2/28 設定を少し変更。改稿させて頂きましたorz

 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、おれの幼馴染たちはやっぱりすごいな。

 兄貴が気付けなかったこと、アイツはとっくに気付いていたんだ。

 その内で一人苦言を呈し、ともすれば憎まれ役になってしまうことも平然とやってのける。

 それが・・・橋本麗はしもとうららと言う人間だ。

 おれは一瞬、そのことを見失ってしまったことを恥じるよ。

 言動、行動で誤解されやすい彼女が、心底優しい人間だってこと、おれたちには周知の事実だったのにな。

 そうでなけりゃ、迫害され常に怯えているはずの獣人族の子供たちが、「女神」だ「聖女」だともてはやし、心から屈託無く懐くわけも無い。

 そのくらいにこの世界は世知辛い。

 目に見える優しさだけじゃ救えない人もいる。

 嘆くだけじゃ先には進めない。

 それを痛感した日だった。



 ■



 「ア・・・ルカ様?」


 自分の声がかすれている事に改めて気付く。

 それくらいに唐突、かつ予想外だった。

 最初に『双子巫女』の案内で会った時より、少しだけ成長しているような気はすれど、その容姿・・・特に赤と緑のオッドアイなんて、おれの記憶には一人しか存在しない。

 目の前に浮かぶ美少女が、おれに向けて目礼する。

 

 「突然で驚かせてしまったね。実はずっと見守っては居たんだ。ただ・・・顕現する為の条件が整ったのが今でね・・・。」


 彼女が簡単に状況を語る。

 おれが『略奪者プランダー』と関係がありそうな者を、かなり輪廻に戻したおかげで力を少し取り戻しつつあること。

 特に帝国の『魔導兵器』が大きかったらしい。

 そして現在、この神殿に神が降りていることによる神域化。

 ダインは今、彼女の力によって『傲慢アーロゲント』のくびきからはずされ、維持コスト無しでも存在できているらしい。

 更にウララに派生した『加護』によって、ようやく自力で顕現することができたこと。


 周りの面々は声も出せない。

 それもそうだろう。

 彼女はこの世界の主神アールカナディアヴェルターシェ、通称『カードの女神』。

 如何に大きな力を失っているとはいえ、ダインどころではない圧倒的な神々しさと、伝承で伝わっているだろう彼女の容姿は、間違いなく本物の主神であることを半ば本能レベルで理解させる。

 『リ・アルカナ』の住人たちが自然と跪く。


 それに習わないのはおれとウララ、それに未だサラに必死で回復魔法をかけ続けるアフィナだけだ。

 ウララはなぜか足を肩幅に、腕組みで警戒しているが・・・おれでも様付けする相手なんだから行儀良くしてて?

 その様子を見たアルカ様が寂しそうに微笑み、「皆、楽にしてくれて構わないよ。」と言った事で、やっと場の空気が軟化する。

 「とりあえず・・・ウララさん?これを・・・。」と、言って白い背表紙のカタログを、ウララに差し出すアルカ様。

 ウララがおれに目配せをしたので、一つ頷くと大人しく受け取った。


 おれも困惑はしている。

 しかし彼女が突然姿を現したには、きっと意味があるのだろう。

 だがまずはサラを・・・。


 「アルカ様・・・サラは・・・。」


 「うん。そのこともあってね。体はすぐに治せるんだ。」


 おれの言葉に即頷き、サラに向けて手を振るうアルカ様。

 彼女の手から広がった柔らかい光が、横たわるサラに降り注ぎその傷を癒していく。

 その効果は絶大だった。

 先刻受けた傷はおろか、失っていた三枚の羽根すらも、DVDの逆再生を見せられているかのように完治する。

 サラの瞼が数回動き、ゆっくりとその瞳が開かれる。

 その瞳には確かな光があった。

 思わず駆け寄り、その背に手を入れ優しく抱き起こす。


 「サラ・・・。」


 「・・・その声はセイさんね。予想通り・・・良い男なのね。」


 おれの顔に焦点を合わせたサラが、頬を薄っすら赤く染めそんな感想を漏らした。

 どうやら視力まで戻ったらしい。

 そこにすーっと宙を滑り寄って来るアルカ様が語る。


 「肉体の損傷は・・・治せるんだ。だけど・・・。」


 そう、彼女は最初に言った。

 「すぐに治せる」と・・・。

 おれもそれには気付いていた。

 サラの全身から、小さな光の粒子が舞っている・・・。


 「どうにも・・・どうにもならないのか?」


 おれの問いに対し、悲し気に首を振る主神。

 

 「・・・セル、ネルの時と同じような状態・・・と言えば、わかってもらえるかな・・・。」


 おれと幼馴染たちをこの世界へ召喚し、アルカ様とおれを引き合わせるために命を捧げた二人の老婆。

 彼女たちの事を思い出す。


 「魂の・・・磨耗?」

 

 「正確には・・・流出かな。」

 

 微妙に訂正するアルカ様に、言葉が続かない。

 そんなおれの頬にサラがすっと手を添える。

 すべらかなのに、やけに冷たいその掌。

 生気を感じられない・・・。


 「セイさんが気にすることじゃないわ。」


 「だが・・・。」


 アルカ様がふわりと地面に降り立ち、おれに向かって正対する。


 「これは、後付けの言い訳に聞こえてしまうかもしれないが・・・。」


 そんな前置きの後、彼女は語る。


 「サラの肉体はすでに限界だったんだ。神からの攻撃を受け、50年以上も身を隠す事に力を注いでいたせいでね。彼女の肉体と魂がすでに分離しかけているのを感じて、あの空間に導いたのは私なんだよ。サラをあそこから出してあげて欲しくてね・・・。セイ君が神の騎獣である『一角馬ユニコーン』、それも人化できるシルキーと一緒に居てくれたからこそできたことなんだが。だから先ほどの攻撃を受けていなかったとしても、遅かれ早かれこうなることは決まっていたんだ。せめて、新たに繋がれる器でもあればね・・・。」


 そうか、あの時の鍵穴はアルカ様の仕業だった訳だ。

 色々と納得はするが、彼女の言葉は確かに後付けの言い訳だ・・・。

 それを聞いたところで、サラが身を呈しておれたちを庇った事実は無くならない。

 

 「最後に・・・私に優しくしてくれた人を守れて嬉しかったわ。できれば・・・もう一度だけでも、セイさんの作った物を口にしたかったな・・・。」


 すでに結構な量の光の粒子を撒き散らすサラが、おれににっこりと微笑んだ。

 あんなもの・・・これからいくらだって作ってやれるのに。

 その時だった。


 「ちょっと待ちなさいよ!」


 静観していたウララが叫んだ。



 ■




 見事な半眼、ウララはその超が付く美少女顔に、明らかな怒りの表情を浮かべていた。


 「アンタ・・・それで本当に満足な訳?」


 全員が黙ってウララに注目している。

 ウララは腰に手を当て、サラを睨みつけていた。

 

 「ウ、ウララ・・・?」


 戸惑いつつも声をかけたおれに、「セイは黙ってなさい!」と厳しい答えが返ってくる。

 一体何なんだ?

 ウララはゆっくりとおれたちに近寄ってくる。

 誰一人動けない。

 

 「騙され、裏切られ、傷つけられ、血を分けた姉妹を殺され、終いには見ず知らずの異世界人を庇って、黙って死ぬの?それで救われた方は、どんな気持ちになるか考えた?悲劇のヒロインになりたいの?」


 「わ・・・私はそんなつもりじゃ・・・。」


 悲し気に目を伏せるサラ。

 言い過ぎだ、彼女に救われたのはウララも同じだろうに。


 「お前なん・・・で。」


 言いかけた言葉が途中で詰まる。

 ウララはきつい表情のまま、ひっそりと泣いていた。

 少女漫画の登場人物のような大きく綺麗な黒目。

 ともすれば不釣合いになってしまいかねないそれは、神が創った美術品のように完璧な調和を持って、その小顔に収まっている。

 その瞳一杯に貯まった涙を見て、おれは二の句がつげなかった。

 耐え切れず瞳から零れた涙を、グイっとドレスの袖で拭うウララ。

 一つ大きく深呼吸、その後決然とした表情で告げる。


 「道を示すわ!」


 「・・・道?」


 繰り返したサラに、しっかりと頷くウララ。


 「一つ、このまま輪廻に戻る安らかな道。もう一つ、あたしと共に理不尽と戦う茨道。選ぶのはアンタよ、サラ!」


 なるほど。

 ウララの言葉と先ほどの涙に得心する。

 つまりウララは・・・彼女の思い、おれたちの気持ち、全て察した上で自分と一緒に来ないか?と誘っているんだ。

 どこまでも不器用な・・・。

 ウララの言葉を反芻したサラの表情が、戸惑いから驚きに変わっていく。


 「私も・・・私も一緒に行って・・・良いの?」


 呟くサラにアルカ様が笑顔で頷く。

 「決まりね!」と叫んだウララが、箱の控え(サイド)から一枚のカードを取り出した。

 そのカードはもちろん、『銀髪の天女』サラ。

 サラから発生した光の粒子が、そのカードにドンドン吸い込まれていく。

 彼女の体がおれの腕の中から完全に消失し、ウララはそのカードに一言「これからよろしくね・・・サラ。」と声をかけると、金箱へしまった。


 この日、『四姉妹』の次女『銀髪の天女』サラは、一度死んだ・・・。

 そしてウララの盟友ユニットとして生まれ変わる。

 50年の長きを一人で耐えた彼女が、この先は笑って過ごせるように。

 ウララの箱の中で、姉妹たちと再会しただろう彼女に対し、おれはそう願わずには居られなかった。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※大方の予想通り、シャングリラ編長引いております><

もうちょっとで終幕です。

どうぞ飽きずにお付き合いくださいorz

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ