・第九十四話 『道』
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※2/28 設定を少し変更。改稿させて頂きましたorz
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、おれの幼馴染たちはやっぱりすごいな。
兄貴が気付けなかったこと、アイツはとっくに気付いていたんだ。
その内で一人苦言を呈し、ともすれば憎まれ役になってしまうことも平然とやってのける。
それが・・・橋本麗と言う人間だ。
おれは一瞬、そのことを見失ってしまったことを恥じるよ。
言動、行動で誤解されやすい彼女が、心底優しい人間だってこと、おれたちには周知の事実だったのにな。
そうでなけりゃ、迫害され常に怯えているはずの獣人族の子供たちが、「女神」だ「聖女」だともてはやし、心から屈託無く懐くわけも無い。
そのくらいにこの世界は世知辛い。
目に見える優しさだけじゃ救えない人もいる。
嘆くだけじゃ先には進めない。
それを痛感した日だった。
■
「ア・・・ルカ様?」
自分の声がかすれている事に改めて気付く。
それくらいに唐突、かつ予想外だった。
最初に『双子巫女』の案内で会った時より、少しだけ成長しているような気はすれど、その容姿・・・特に赤と緑のオッドアイなんて、おれの記憶には一人しか存在しない。
目の前に浮かぶ美少女が、おれに向けて目礼する。
「突然で驚かせてしまったね。実はずっと見守っては居たんだ。ただ・・・顕現する為の条件が整ったのが今でね・・・。」
彼女が簡単に状況を語る。
おれが『略奪者』と関係がありそうな者を、かなり輪廻に戻したおかげで力を少し取り戻しつつあること。
特に帝国の『魔導兵器』が大きかったらしい。
そして現在、この神殿に神が降りていることによる神域化。
ダインは今、彼女の力によって『傲慢』のくびきからはずされ、維持コスト無しでも存在できているらしい。
更にウララに派生した『加護』によって、ようやく自力で顕現することができたこと。
周りの面々は声も出せない。
それもそうだろう。
彼女はこの世界の主神アールカナディアヴェルターシェ、通称『カードの女神』。
如何に大きな力を失っているとはいえ、ダインどころではない圧倒的な神々しさと、伝承で伝わっているだろう彼女の容姿は、間違いなく本物の主神であることを半ば本能レベルで理解させる。
『リ・アルカナ』の住人たちが自然と跪く。
それに習わないのはおれとウララ、それに未だサラに必死で回復魔法をかけ続けるアフィナだけだ。
ウララはなぜか足を肩幅に、腕組みで警戒しているが・・・おれでも様付けする相手なんだから行儀良くしてて?
その様子を見たアルカ様が寂しそうに微笑み、「皆、楽にしてくれて構わないよ。」と言った事で、やっと場の空気が軟化する。
「とりあえず・・・ウララさん?これを・・・。」と、言って白い背表紙のカタログを、ウララに差し出すアルカ様。
ウララがおれに目配せをしたので、一つ頷くと大人しく受け取った。
おれも困惑はしている。
しかし彼女が突然姿を現したには、きっと意味があるのだろう。
だがまずはサラを・・・。
「アルカ様・・・サラは・・・。」
「うん。そのこともあってね。体はすぐに治せるんだ。」
おれの言葉に即頷き、サラに向けて手を振るうアルカ様。
彼女の手から広がった柔らかい光が、横たわるサラに降り注ぎその傷を癒していく。
その効果は絶大だった。
先刻受けた傷はおろか、失っていた三枚の羽根すらも、DVDの逆再生を見せられているかのように完治する。
サラの瞼が数回動き、ゆっくりとその瞳が開かれる。
その瞳には確かな光があった。
思わず駆け寄り、その背に手を入れ優しく抱き起こす。
「サラ・・・。」
「・・・その声はセイさんね。予想通り・・・良い男なのね。」
おれの顔に焦点を合わせたサラが、頬を薄っすら赤く染めそんな感想を漏らした。
どうやら視力まで戻ったらしい。
そこにすーっと宙を滑り寄って来るアルカ様が語る。
「肉体の損傷は・・・治せるんだ。だけど・・・。」
そう、彼女は最初に言った。
「体すぐに治せる」と・・・。
おれもそれには気付いていた。
サラの全身から、小さな光の粒子が舞っている・・・。
「どうにも・・・どうにもならないのか?」
おれの問いに対し、悲し気に首を振る主神。
「・・・セル、ネルの時と同じような状態・・・と言えば、わかってもらえるかな・・・。」
おれと幼馴染たちをこの世界へ召喚し、アルカ様とおれを引き合わせるために命を捧げた二人の老婆。
彼女たちの事を思い出す。
「魂の・・・磨耗?」
「正確には・・・流出かな。」
微妙に訂正するアルカ様に、言葉が続かない。
そんなおれの頬にサラがすっと手を添える。
すべらかなのに、やけに冷たいその掌。
生気を感じられない・・・。
「セイさんが気にすることじゃないわ。」
「だが・・・。」
アルカ様がふわりと地面に降り立ち、おれに向かって正対する。
「これは、後付けの言い訳に聞こえてしまうかもしれないが・・・。」
そんな前置きの後、彼女は語る。
「サラの肉体はすでに限界だったんだ。神からの攻撃を受け、50年以上も身を隠す事に力を注いでいたせいでね。彼女の肉体と魂がすでに分離しかけているのを感じて、あの空間に導いたのは私なんだよ。サラをあそこから出してあげて欲しくてね・・・。セイ君が神の騎獣である『一角馬』、それも人化できるシルキーと一緒に居てくれたからこそできたことなんだが。だから先ほどの攻撃を受けていなかったとしても、遅かれ早かれこうなることは決まっていたんだ。せめて、新たに繋がれる器でもあればね・・・。」
そうか、あの時の鍵穴はアルカ様の仕業だった訳だ。
色々と納得はするが、彼女の言葉は確かに後付けの言い訳だ・・・。
それを聞いたところで、サラが身を呈しておれたちを庇った事実は無くならない。
「最後に・・・私に優しくしてくれた人を守れて嬉しかったわ。できれば・・・もう一度だけでも、セイさんの作った物を口にしたかったな・・・。」
すでに結構な量の光の粒子を撒き散らすサラが、おれににっこりと微笑んだ。
あんなもの・・・これからいくらだって作ってやれるのに。
その時だった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
静観していたウララが叫んだ。
■
見事な半眼、ウララはその超が付く美少女顔に、明らかな怒りの表情を浮かべていた。
「アンタ・・・それで本当に満足な訳?」
全員が黙ってウララに注目している。
ウララは腰に手を当て、サラを睨みつけていた。
「ウ、ウララ・・・?」
戸惑いつつも声をかけたおれに、「セイは黙ってなさい!」と厳しい答えが返ってくる。
一体何なんだ?
ウララはゆっくりとおれたちに近寄ってくる。
誰一人動けない。
「騙され、裏切られ、傷つけられ、血を分けた姉妹を殺され、終いには見ず知らずの異世界人を庇って、黙って死ぬの?それで救われた方は、どんな気持ちになるか考えた?悲劇のヒロインになりたいの?」
「わ・・・私はそんなつもりじゃ・・・。」
悲し気に目を伏せるサラ。
言い過ぎだ、彼女に救われたのはウララも同じだろうに。
「お前なん・・・で。」
言いかけた言葉が途中で詰まる。
ウララはきつい表情のまま、ひっそりと泣いていた。
少女漫画の登場人物のような大きく綺麗な黒目。
ともすれば不釣合いになってしまいかねないそれは、神が創った美術品のように完璧な調和を持って、その小顔に収まっている。
その瞳一杯に貯まった涙を見て、おれは二の句がつげなかった。
耐え切れず瞳から零れた涙を、グイっとドレスの袖で拭うウララ。
一つ大きく深呼吸、その後決然とした表情で告げる。
「道を示すわ!」
「・・・道?」
繰り返したサラに、しっかりと頷くウララ。
「一つ、このまま輪廻に戻る安らかな道。もう一つ、あたしと共に理不尽と戦う茨道。選ぶのはアンタよ、サラ!」
なるほど。
ウララの言葉と先ほどの涙に得心する。
つまりウララは・・・彼女の思い、おれたちの気持ち、全て察した上で自分と一緒に来ないか?と誘っているんだ。
どこまでも不器用な・・・。
ウララの言葉を反芻したサラの表情が、戸惑いから驚きに変わっていく。
「私も・・・私も一緒に行って・・・良いの?」
呟くサラにアルカ様が笑顔で頷く。
「決まりね!」と叫んだウララが、箱の控え(サイド)から一枚のカードを取り出した。
そのカードはもちろん、『銀髪の天女』サラ。
サラから発生した光の粒子が、そのカードにドンドン吸い込まれていく。
彼女の体がおれの腕の中から完全に消失し、ウララはそのカードに一言「これからよろしくね・・・サラ。」と声をかけると、金箱へしまった。
この日、『四姉妹』の次女『銀髪の天女』サラは、一度死んだ・・・。
そしてウララの盟友として生まれ変わる。
50年の長きを一人で耐えた彼女が、この先は笑って過ごせるように。
ウララの箱の中で、姉妹たちと再会しただろう彼女に対し、おれはそう願わずには居られなかった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※大方の予想通り、シャングリラ編長引いております><
もうちょっとで終幕です。
どうぞ飽きずにお付き合いくださいorz