表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
96/266

・第九十三話 『有翼種』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります。


※突然三人称視点、しかも『略奪者プランダー』側ですみません。

「前話の続きの方が気になるぞ!」って方もいらっしゃるかもしれませんが、時系列的にここでこの話を持ってこないと、載せるタイミングが難しくて^^;


 セイたちと『略奪者プランダー』が相対した廊下とは、丁度反対側。

 『聖域の守護者』ティル・ワールドが消えていった隠し扉の向こう。

 造りこそ似通っているが、そのサイズ、装飾共に隠匿されていることが明らかなそこ。

 『封印されし氷水ひすい王』が安置されていると噂される、開かずの扉へ続く廊下に突如、西洋風の扉が現れる。

 扉が音も無く開き、中から白いローブを纏い、黒髪のベリーショート、猫目が印象的な小柄な少女が現れる。

 セイたちの宿敵、『略奪者プランダー』ハルである。


 額の傷から血が流れる。

 本来ならもっと長距離の転移も可能な彼女が、必死で飛べたのがこの程度の距離。

 ウララのハンマーが壁に当たった時生じた破片で受けた傷が、長距離の転移に必要な集中を乱していた。


 「ホンマ・・・どんだけタチ悪いねん!アイツら!」


 不機嫌さを隠そうともせず、手近にあった柱にゲシゲシと蹴りを入れ、そう吐き捨てる。

 ハルは大いに苛立っていた。

 予想外、想定外の連続で、うまくいかないにも程がある。

 緑色の球体が彼女の肩で小さな人型に変わる。


 「マ・・・マ・・・。」


 人で言えば口に当たる部分、ぽっかりと開いただけの空洞からそんな音が漏れる。

 それで少し落ち着きを取り戻し、「大丈夫や。ひーやん逃げるで。」と人型に声をかけ、『封印されし氷水ひすい王』の寝所へと走り出す。


 ハルは走りながら想起していた。

 この国に潜伏してから、はや十数年。

 微に入り、細に渡り、どれほどの苦心を続けてここまで漕ぎ着けたのかを思い出し、またも苛立つ心を押さえ込む。


 元を正せば・・・ホナミが告げた訃報、『悪魔デビル』襲来。

 あそこからすでに計画は狂ってきていた。

 あの男とその仲間たちの厄介さは、『地球』に居た頃から痛感していたはずなのに、この世界では勝手が違うだろうと楽観した。

 そんな判断から、サカキの打った逃げの一手すらいっそ臆病とすら感じていたのだ。

 しかし現実は違った。


 神々とその従者でしか開けないはずの『南天門』をあっさりと開き、王城の前を固めていた天使兵の群れを無傷で突破。

 その後の追撃も振り切り、とうとう『正義神』ダインの神殿に到着してしまう。

 それでもまだ、隠れて様子を伺っていたハルには余裕があった。

 自分ですら手の出せない、『天空の聖域シャングリラ』の秘匿魔法『晶柩』だ。

 流石の『悪魔デビル』とて、おいそれと封印を解くことは出来ないだろう。

 

 そんな淡い期待は一瞬で瓦解する。

 いとも簡単に、当然の如く『正義ジャスティス』は復活してしまう。

 本当に最悪の場合を想定し、『傲慢アーロゲント』をティル・ワールドに貸してはいたが、よもやあっさりと切り札を切らされるとは思わなかった。

 それでもまだ後ろには神が控えている。

 ちょうど『悪魔デビル』も手札を使い切ったし、ここから巻き返しも不可能ではない。

 

 しかし期待は見事に裏切られた。

 『悪魔デビル』ならまだわかる。

 アイツの異常さはよく知っていたし、仲間たちからも聞かされていた。

 それがまさか、『晶柩』から出たばかり、病み上がりのはずの『正義ジャスティス』によって、完膚なきまでに叩き潰されようとは・・・。

 もはや悪夢以外の何者でもない。


 だがハルは諦めなかった。

 きっと最後の最後、必ず奴らが油断するタイミングがあるはずだ。

 それだけを信じ、息を潜めて待ち続けた。

 祈りは届く。

 神をどうやってか正気に戻した奴らが、一瞬気を緩ませる。


 ここしかない!そう思い放った、全力の攻撃。

 全滅させることは無理でも、最悪セイかウララどちらかでも無力化できれば・・・。

 思った以上に効果がありそうな攻撃が、意図せぬ形で無駄玉に変わる。

 『銀髪の天女』サラのみの力で打ち消されたのだ。

 その後の展開・・・とても戦闘を継続させる事は不可能だった。


 どこまでも想定外、今ならわかる。

 サカキがニアミスしただけで、逃げの一手に及んだ理由が。

 『地球』の頃どころではない。

 むしろこれじゃあ、凶悪さに拍車がかかっている。



 ■



 開かずの扉に辿り着く。

 この十数年で集めた戦果、カードに変え保管してある天使族や、『法政官』だけでも持って帰らなければ、これまでのことが無駄になる。

 それに・・・このままでは正直、ツツジたちに合わせる顔が無い。


 ハルはそこでハタと気付く。


 (扉が・・・開いている!?)


 警戒しながら扉を潜ると、中には先客が居た。

 

 「なんで・・・アンタがここに居るんや・・・?」

 

 中に居たのは三枚羽根の有翼種、『聖域の守護者』ティル・ワールド。

 入り口に背を向け、ハルが保管したカードをしまってある箱を、ガサガサと雑に漁っている。

 プレズントに負わされた傷、羽根を一枚打ち抜かれたはずなのに、そんなものは最初から受けていないとでも言わんばかり、今は完全に癒えている。


 ハルには全く理解できない。

 彼とは外で落ち合う予定だったし、そう命令を下していた。

 ティル・ワールドが声に反応し、ゆっくりと振り返る。

 その手にはハルがこの国で集め続けたカードの束。


 「『女帝エンプレス』か・・・。意外と早かったな・・・。」


 ティル・ワールドのセリフに、思わずゾッとするしかないハル。


 「な・・・なんで・・・それを。」


 確かにハルの称号は『女帝エンプレス』である。

 しかし、彼女はその事を身内以外に明かしていない。

 つまり、この世界でそれを知るのは『略奪者プランダー』の数名だけ。

 当然この世界の住人であるはずのティル・ワールドが、その事実を知っているはずが無いのだ。

 ティル・ワールドはハルの問いには答えず、もはや興味は失ったとばかり再度、箱の中を漁り始める。


 異常事態だ。

 どこからつっこめばいいかわからないが、ハルにもそれだけはわかった。

 底知れぬ不安を抱えながら、それでも声を振り絞るハル。


 「ティル・ワールド!外で合流やって命令したやろ!それに・・・そのカードをどうするつもりやねん!?」


 怒りで虚勢を張らなければ潰されてしまいそうだ。

 それほどに不気味だった。

 ハルの叫びをしばらく無視しながら箱を漁り、大方必要な物は回収し終えたのかティル・ワールドがゆっくりと振り返る。

 そしてハルへと一歩ずつ近寄りながら、淡々とした口調で言い放つ。


 「なぜ、私が貴様の命令を受けねばならんのだ?」


 背は明らかに彼の方が高いはずなのに、下からねめつけてくるような陰惨な瞳に、身動きが取れない。


 「ひ・・・ひーやんに操られてるのと違うん?」


 声が震えてしまうのを止められない。

 小首を傾げるティル・ワールドが、「操られてなどいないが?」と答える。


 (おかしい、おかしい、おかしい。)


 ハルは混乱しながらも、必死で言葉を繋ぐ。


 「せやかて!この国の天使で操られていないのは、サラとアーライザだけやって自分が言うたんやんか!?」


 その叫びに一つ頷き、「確かに言ったな。」と答えるティル・ワールド。

 じゃあ何故!?思えども口には上らない。

 感じたことの無い恐怖に強張ってしまっているのだ。

 しかしハルの瞳は、その問いを雄弁に語っている。

 ティル・ワールドが少し俯いたまま、口だけでニヤァーっと笑った。


 「『女帝エンプレス』、いつ、私が、天使族だと言った?」


 確かに・・・ちょっと考えたらわかることだ。

 彼は天使族であることを否定はしなかった・・・。

 しかし、自身を語る際は必ず『有翼種』と言っている。

 操られていないならば・・・何のためにこんな事を?


 更にゆっくりと近寄ってくるティル・ワールド。

 ハルは未だ動けない。

 主の危機を感じ取った『封印されし氷水ひすい王』が、緑の球体から触手を形成しティル・ワールドに襲い掛かる。 


 「計画が頓挫しそうだったからな。これももらっていくぞ。」


 一瞬でハルの真横、息がかかりそうな場所まで移動するティル・ワールド。

 瞬きすらしていないハルにはその挙動が一切見えなかった。

 そして触手に突き刺さる一枚のカード。

 それは・・・ハルが厳重に管理していたはずの『色欲ラスト』。

 触手を即座に収めた緑の球体が、ティル・ワールドの掌に移動する。

 

 「ツツジにはこれを渡しておけ。」


 そう言ってハルの手にねじ込まれたのは、『天尊』カルズダート三世のカード。

 そのまま何事も無かったかのようにすれ違い、去っていこうとするティル・ワールドにハルが必死で待ったをかける。


 「アンタ!つつじっちと知り合いなん!?それになんでひーやんを持って行くんよ!せめてそれだけ教えてーな!」


 ハルとて馬鹿ではない。

 自身の感じる恐怖で思い知らされる、明らかに存在自体が格上と思われる彼への抵抗は無駄だろう。

 むしろ今、見逃してくれるつもりなら異を唱えるつもりもない。

 それでもその口から出てきた知己の名と、カードの力とは言え自分に懐いていた物を奪われる理由ぐらいは、聞く権利があるはずだ。


 ティル・ワールドの歩みがピタリと止まり、「私も暇ではないのだがな・・・。」と面倒くさそうに呟く。

 それでもハルが、自然と巻き起こる震えに必死で耐えている姿を見て、何かしら思うところがあったのか正対する。


 「その二つの質問にだけは答えてやろう。まず一つ目、ツツジの事は昔から知っている。奴とは協力関係だ。別に仲良しこよしな訳ではないが・・・道は違えど目的が同じと言った所か。それと二つ目、『封印されし氷水ひすい王』をこれ以上乱用されると色々とよろしくない。」


 ツツジとのことは何となくわかった。

 しかし『封印さされし氷水ひすい王』のことが不明瞭だ。

 「よろしくない?」と思わず聞き返したハルに、あからさまなため息をつくティル・ワールド。


 「気付かず・・・と言うより、教えられずに使っていたのか?簡単な話だ。ある一定以上の等級を持つ盟友ユニットが、『封印されし氷水ひすい王』の『感染者』になって他者を殺すと、殺された者はカードにならない。これは私にとって非常によろしくない、と言う訳だ。」


 「なっ・・・!」


 絶句するしかないハル。

 そんなことは・・・一切聞いていない。

 今の話が本当ならば・・・自分たちの目的と相反しすぎる!

 凍りつく彼女を尻目に、あっさりと背を向けたティル・ワールドが去っていく。

 その姿を黙って見送るしかないハルは、二つの言葉を反芻していた。

 ハルの脳裏にまざまざと蘇る言葉。

 ホナミが言った「ツツジに気をつけろ。」

 それと去り際に彼が残した言葉・・・「世界は『終末』を望んでいる。」


 ツツジとティル・ワールドの目的とは。

 今までやってきたことはなんだったのだろうか?

 一体自分はどこへ向かっているのだろうか。


 「とりあえず・・・つつじっちと話さんことには・・・。」


 不安と不信、その感情を抱えながらも、彼女に選べる選択肢は余りにも少なかった。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※次回はセイ視点の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ