表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
95/266

・第九十二話 『図書館(ライブラリ)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※今回もボヤキ無しです。

前回の引きから無い方が良いなーと思ったんです。

ネ、ネタがないw(ry


 まだ何も終わっていない。

 そんなことは先刻承知だったはずだ。

 けれど・・・おれはこの王城に入って、初めて思考を弛緩させてしまった。


 『天尊』カルズダート三世は生贄にされて死に、『聖域の守護者』ティル・ワールドは明らかな逃げを打った。

 目の前に居るのはウララに叩きのめされ、シルキーの雷によってその瞳に光を戻した『正義神』ダイン。

 被害は甚大だったが致命的ではない。

 少なくともウララや獣人族の子供たちは救えたんだ。

 満点ではないが、合格点くらい貰ってもいいだろう。

 そんな甘い考えに・・・代償は付き物だ。


 それは一瞬の空白。

 誰もが『正義神』ダインの動向に注目してしまった。

 それもそうだろう。

 ついさっきまでウララと、とんでもない死闘を繰り広げていた相手だ。

 ちょっとでも気を抜けば、流れ弾一発で蒸発しかねない濃厚な光属性の魔力の激突。

 それが障壁に阻まれているとはいえ、すでに30分以上目の前で展開していたんだ。

 その相手方に注目しないことなど不可能だろう。

 いかにそれが、ほぼウララの一方的な暴行によるものだとしても・・・。


 おれがかけた言葉により、一時的にとは言え殺気を抑えたウララ。

 突然正気を取り戻したかのように見える己が国の守護神に、理由は推察出来れど戸惑いを隠せない、マルキストとアーライザ。

 それは障壁を張っていたサーデインや、おれの腕の中で一部始終を見守っていたロカさんとて変わらない。

 むしろ二人は、この光属性が満ち溢れる空間に、相当な居心地の悪さを感じていただろうことは想像に難くない。


 アフィナやシルキーは逆に、まごう事無き神を冠する存在が、自身と同年代の少女、それも『晶柩』に囚われ完全に衰弱していた者に、一方的に蹂躙された姿に動揺していた。

 子供たちはウララを見つめている。

 その空間で、ずっと緊張を保ち続けていられたのは一人だけだった。


 いつからかはわからない。

 そいつはずっと観察していた。

 人と神との戦い。

 それがどのような形にせよ決着が付き、全ての人間の思考が一瞬硬直する、もしくは弛緩するその時を。

 それは『正義神』ダインの浄化が、完了したタイミングだった。


 チリリッ!

 首筋に走るいやな予感。

 いつもの危険察知だ。

 だが・・・『正義神』ダインは動かない。

 否、困惑状態にしか見えず動けないと言う方が正しいだろう。


 (どこだっ!?)


 おれが気付くのとほぼ同時。

 マルキストも何かの異変を感じ取ったのだろう。

 同様にダインを観察、おれと二人顔を見合わせた瞬間。


 (後ろっ!?)


 ダインの動向を窺う都合、揃って前に出ていたのが仇となる。

 脅威は後方廊下側、生贄として食いつぶされた『感染者』たちの居た方からやってきた。

 

 本来ならそんな場所に、絶対ありえないもの。

 空間に直接開いた西洋風のドア。

 ドアから半身身体を出し、そこに居たのはやけに小柄な白ローブ。

 顔に猫を模した面を被り、こちらへ向かって差し出した両手の先に翡翠色の球体。


 「まずっ!!!」


 叫びすら間に合わない。

 神殿の扉をぶち破り、数えることすら不可能な数、緑の触手がおれたちに向かって降り注ぐ。

 おれの様子に気が付いたサーデインが障壁を張るが、触手の量が多すぎる上、前方に注視していたせいで枚数が少ない。

 あっという間に飲み込まれ、次々消滅していく障壁。

 

 明らかな油断だった。

 時間はあったのだから、せめてロカさんに魔力を戻し『魔霧』の障壁を展開してもらえるようにしておけば・・・。

 悔やんでも所詮アフターカーニバル。

 後の祭りだ。

 それにちょっと考えれば思い当たったはず。

 まだ『封印されし氷水ひすい王』が片付いていないなんてこと。


 心の中で悪態を付きながらも、必死で状況を確認する。

 おれたちはまだ何とかなるだろう。

 この状況でも多少の混乱はあれ、誰も諦めては居ない。

 ウララが一瞬で『女神の鉄槌』を前面に構え、見事としか言いようの無い障壁を張った。

 それでも・・・それでも足りない気がする。

 即死こそ免れても、全員戦闘不能になりそうだ。


 その上・・・どう考えても子供たちが守りきれない。

 ウララの障壁に含まれるのは、ダインに近寄っていたおれたちまでがせいぜいだ。

 矢も盾も堪らずロカさんをアフィナへ放り、とりあえず飛び出すおれ。

 策なんて無い。

 「主!」「セイ!」ロカさんや、アフィナの悲痛な叫びを聞かないふりして前に出る。


 横から・・・おれの視界に銀色が光る。

 後ろ向きでおれの一歩前に進み出たサラが、その銀髪を最大限に広げていた。

 少しだけ寂しそうに呟くサラ。


 「私が・・・みんなを守るわ・・・。」


 彼女だけは警戒を怠っていなかった。

 そう・・・目の見えない彼女だけが、ダインの変化にも油断せず、ずっとこの展開を警戒していた。

 だが、その銀髪の展開の仕方がおかしい。

 その形じゃ・・・おれたちは守れても、自分が守れない!

 おれは有無を言わせずサラを抱きしめる。

 

 彼女が銀髪の障壁を展開していない背中側、そちらを庇うために身体を入れ替えようとした時だった。

 サラが微笑みながら告げる。


 「セイさん・・・それは違うわ。これは私の役目・・・。」


 そう言っておれの胸を、トンっと優しく押し返した。

 発動してしまう『制約』の効果・・・拘束の禁止。

 弾かれ投げ出され、彼女が作った安全圏へと押し戻されながら、無様に手を伸ばす。


 「サラ・・・!だめだ!」


 そして・・・サラの華奢な胸元から、緑色の触手が生えた。



 ■



 緑の奔流が止む。

 おれたちは一人を除き全員無事だ。

 トサ・・・。

 やけに軽い音を立て、サラが床に崩れ落ちる。

 全員声も出せない。


 ほんの数時間の旅の友。

 信じていた神に突然裏切られ、血を分けた姉妹を殺され、傷だらけのまま50年の長きを一人で過ごした女。

 おれが即席で作った飲み物を、「温かい。」と言って泣いていた彼女。

 こんな短時間の付き合いで、おれたちのためにその身を投げ出し、子供たちを庇い殺される。

 彼女が一体・・・何をした・・・?


 「てっめぇーーー!!!」


 吠える。

 即座に立ち上がり駆け出す。

 『略奪者プランダー』と思われる小柄な人物は、自身の必殺の策が思ったより効果を発揮しなかったことに驚いているようだ。

 「これで一人とか、ホンマやってられへん!」などと妙に甲高い声、関西弁で吐き捨てる。

 そこまで一足飛び。

 御託はいい、とりあえず殴る!

  

 「ひーやん!」


 猫面が叫ぶ。

 床や天井の隙間、ありとあらゆる所から緑の触手が飛び出してくる。

 くそっ!近寄れない!

 触手をスウェーで避けながら隙を伺うが、どうにも触手が鬱陶しい。


 「セイ!しゃがみなさい!」


 ウララの声に、半ば反射的に身体を沈み込ませる。

 ブゥオンッ!

 豪快な風きり音を上げ、『女神の鉄槌』がおれの頭上を飛んでいく。

 ハンマーを防ごうと折り重なる触手が、一瞬でただの肉塊に変わる。 

 それでも軌道だけはどうにかズラしたのか、猫面には当たらずに壁に突き刺さるハンマー。

 しかし衝撃で飛び散った破片が、猫面にぶつかりその面を弾き飛ばす。


 そこに現れたのは、黒髪をベリーショートにした猫目の人物だった。

 見覚えは・・・無い。

 破片で傷を負ったのか、額から血を流している。

  

 すーっと音も無くおれの横へ、武器を構え並び立つマルキスト。

 その人物はおれたちを憎々しげに睨みつけ、流れ出る血をローブの袖でごしごしと拭う。 


 「こらホンマにあかん。だからおたくらは嫌いなんや・・・。」


 それだけ言ってドアの向こうへ、あっさりと扉を閉める。

 空間に開いたドアが、何事も無かったように背景に同化した。

 猫面に合わせ蠢いていた触手も消える。


 慌ててドアのあった場所に駆け寄っても、そこには当然何も無かった。

 ただ・・・ただサラを犠牲にしただけで・・・おれたちは何もできなかった。



 ■



 「セイ殿・・・まずはサラ様の治療を・・・。」


 項垂れるおれに、今出来ることを言ってくるマルキスト。

 そうだな・・・諦めるのはまだ早いかもしれない。


 「アフィナ、サラは・・・?」


 サラを囲むメンバーの表情は暗い。

 アーライザはずっと羽根からの微治癒を放射している。

 床に横たわったサラから血液がドンドン流れていく。

 アフィナも必死で木属性の回復魔法をかけているようだが、どうにも効果が薄いようだ。

 「『薬箱』は?」の問いにも「さっきウララさんに使ったのが最後・・・。」と項垂れる。


 「ウララ・・・回復魔法は?」


 さっき六枚使っていたが、もしかしたらドロータイミングを過ぎているんじゃないか?

 そんな一縷の期待と共にウララを見る。

 あっさりと首を振るウララ。


 「だめね。一枚引いてるけど、回復魔法じゃないわ。」


 その間にもサラの容態は悪化している。

 こんな時くらい役に立たねーのか?と、万感の思いを込めダインを睨みつける。

 しかしダインも、「我には他人を回復する類の物は・・・。」と縮こまる。

 この神・・・狂うわ、身内襲うわ、回復もできねーわ・・・しまいに人間にびびるわ。

 役立たずにも程がある。


 その時、一つの可能性に気付く。

 

 (ウララが一枚引いているなら・・・確率は低いが。)


 「図書館ライブラリ


 おれは『図書館ライブラリ』を開き、『夢の林檎』を取り出した。

 これをウララが『魔導書グリモア』に入れて、もし引くことが出来れば回復魔法が引けるかもしれない・・・。

 「ウララ、これを。」と、怪訝な表情を浮かべるウララにカードを差し出す。

 そしておれと『夢の林檎』、更にウララが繋がった瞬間。

 辺りに眩い光が広がった。


 光が収まった先には、銀の長髪に赤と緑のオッドアイ、12歳くらいの美少女が、白い背表紙のカタログを胸に抱き浮いていた。


 「セイ君・・・久しぶりだね。」


 「ア・・・ルカ様?」


 『カードの女神』アールカナディアヴェルダーシェ、この世界『リ・アルカナ』の主神が、突如光臨した。


 




ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ