・第九十一話 『女神の鉄槌』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、時刻はもう朝に向かっているらしい。
兄貴は無事にドロータイミングを迎えました。
だけど・・・うん、使う間無いね。
今はむしろ非戦闘員と自身の身を守ることで手一杯です。
もうね・・・どうしてこうなった?とかそんな次元じゃ無いわけだ。
何事って?
んー、簡単に言うと、狂った神様と怒った女神様がガチンコしてるんすよ。
うん、普通に余波で人が死ぬよ。
おれも確かに怒ってたけど・・・怒ってたけどもー!
どうか願わくば、流れ弾がこっちに来ませんように。
■
『正義神』ダインの神殿は、怒れる女神の舞台に変わった。
膨大な光属性の魔力を撒き散らす二人のキャストに、観客であるおれたちは声も出ない。
体感30分以上、ウララが自身の身体より遥かに巨大なハンマーを振り回し、『正義神』ダインと戦っていた。
ギンッ!ガギンッ!メキャ!
止める、弾く、叩く。
斜め上から振り下ろされた剣を、ハンマーの石突で器用に止めてそのまま一回転。
約1m、小学生の子供くらいはある盾を容易くかち上げ、がら空きになったわき腹へ痛撃を叩き込む。
鉄槌から注がれたウララの魔力。
それが光の波動に変わり、ダインの顔が苦痛に歪む。
ゴンッ!ベギッ!グシャ!
押し込む、叩き折る、潰す。
更に追撃。
ダインの持つ盾を押し返し、槍をへし折り、下から掬い上げてきた槌を、上段から振り下ろした鉄槌でその腕ごと叩き潰す。
容赦はない。
地面を通して伝わったウララの魔力が、ダインの足元から吹き上げ吹き飛ばす。
少しだけ距離を取るウララ。
ダインがゆっくりと起き上がる。
「あ、あ、あ、ああああああああ!!!」
狂気染みた叫び。
通路側にまだ残っていた『感染者』たちが光の粒子に変わり、ダインに吸い込まれていくと、ウララが付けた傷が癒されてしまう。
「めんどっくさいわねー!」
鉄槌部分を床へドンと降ろし、腰に手を当て心底鬱陶しそうに吐き捨てるウララ。
うん、ナニコレ。
普通に怖い。
なぜか子供たちは大喜び。
女の子は胸の前で手を握り祈りのポーズ。
男の子たちは拳を突き上げやんやの大喝采だ。
「ウララ様、素敵です。」だの「聖女様かっこいー!」だのと怪しいセリフがそこかしこから聞こえてくる。
その中の一人、兎族と思われる少年を手招きする。
「お前がウララが助けた兎族の少年で間違いないか?」
「はい!兎族のラビトと言います!ウララ様が名前を付けて下さりました!」
やたらハキハキ、元気の良いラビト君。
しかしウララよ・・・兎だからラビトってお前・・・。
明るいラビト君の笑顔に心が痛む。
ラビト君はにこにこしながら、「貴方がセイ様ですか?」と聞いてくる。
「そうだ。おれは異世界の魔導師セイ。よろしくな?」
思わずその長耳をもふってしまう。
するとラビト君、「女神であるウララ様が仰っていた通り、セイ様も素敵な方です!」と破顔した。
その言葉にこちらを伺っていた子供たちが一斉に頷く。
・・・oh・・・女神です・・・か。
どうやらウララはこの国で神になったようです。
『正義』教怖い・・・。
逆におれの腕の中、子犬状態のロカさんがガクブルになっている。
目もちょっとウルウル、涙目だ。
「あ、主。あの攻撃は、我輩・・・掠っただけで致命傷である。」
あーうん、まぁそうだろうな。
こってりとんこつラーメンより濃厚な、光の魔力がのりにのってるしな・・・。
余波だけでも、闇属性でごめんなさい。かもしれない。
サーデインも「ウンウン」と頷き肯定している。
「主殿。私の障壁でも、直撃なら最低五枚はいかれると・・・。」
まじでー?
ダインで三枚だったのに五枚とか・・・もう完全に神様越えてるじゃん。
アフィナがそっと寄って来て、おれに囁く。
「ねね、セイも大概だったけど・・・ウララさんってホントに人間?」
「あー・・・たぶん、おそらく、きっと・・・。」
おれはそっと目を逸らす。
ウララの耳に入らないように囁いたのは正解だと思うぞ?
アイツ、バッと振り返ったし手遅れかもしれないが。
「まぁ今回は武器がな・・・。」
おれの呟きに、「どゆこと?」と小首を傾げるアフィナ。
「その話、私も聞かせてもらえないか?」
「自分もお願いしたい。」
どうやらマルキストとアーライザも興味を持ったようだ。
障壁の維持に勤しむサラとサーデインには悪いが、外に出ると流れ弾で蒸発する可能性がある以上やることがない。
ウララがまたしてもダインを吹っ飛ばしているのを横目に、少々暢気だが説明しようか・・・。
■
「ウララの使ってる『女神の鉄槌』って武器はな。起動した時にかけた、光属性の強化魔法一つにつき、その威力が進化していく武器なんだ。一枚で将軍級、二枚で指導者級、三枚で英雄級って具合にな。今回は四枚使ってた・・・つまり。」
「神級ってことですか?」
マルキストの問いに首肯で答える。
しかも今回アイツが使ったのは、受け流し強化魔法『盾力』、反応強化魔法『脚力』、腕力強化魔法『腕力』、命中強化魔法『眼力』と、被り無しの全身強化だ。
その上『範囲回復』まで引いていたのだから、どっちがデビルドローなのかと小一時間問い詰めたい。
「なるほど、それでウララさんがカードを四枚選択した時に、あれだけ急いだのですね。」と、サーデインも得心顔だ。
「しかしセイ殿。あの武器を使ってなお、押し切れないように見えるのだが・・・。」
不安気なアーライザをおれは、「いや、もうすぐ終わると思うぞ?」と否定した。
ウララの戦闘に夢中な子供たち以外、全員の視線がおれに集中する。
まぁ説明が要るよな。
「今回の神召喚は云わば裏技だからな。ティル・ワールドが使った魔法は、本来こっちの世界には無いはずの魔法、『傲慢』って言うんだ。あれは英雄一人の生贄で神を召喚できるって言う反則な効果だが・・・呼び出している間中、生贄の供給が必要になる。」
おれの言葉を反芻する一同。
マルキストが代表して、半ば答えを予測しているであろう質問を投げかけてくる。
「ということは、先ほどから『封印されし氷水王』の『感染者』が光に変わっているのは?」
おれは一つ頷き説明を続ける。
「まぁコストにされてるんだろうな。・・・その上でだ。ウララにもらったダメージを、『感染者』を生贄にすることで回復してるよな?」
そう言って視線を廊下側へ。
そこに残っている『感染者』は、もう両の手があれば数えられる程度。
一同納得しかけ、アーライザが訝し気な表情を浮かべる。
「だがセイ殿。それでは子供たちは・・・」
アーライザが言い淀み、おれの盟友以外のメンバーは表情が曇る。
言いたい事はわかる。
現についさっきまで生贄にされかかっていたんだからな。
だが・・・。
「今この子たちはおれたちの陣営に居るだろう?つまりおれたちの友軍であって、ダインからは敵軍に当たるわけだ。当然敵を生贄に捧げることは出来ない。」
一瞬納得しかけるも、なおも心配点に気付くマルキスト。
「しかし・・・なんらかの方法で、強制的に自軍に設定されていたら・・・。」
「それも対策済みだ。さっきサーデインが『制約』の魔法で「拘束」を禁じているからな。この空間で自由を縛る行為は一切行えない。因みに・・・さっきロカさんを抱きかかえた時も、ロカさんがちょっとでも抵抗したら、拘束に判定されて弾かれてたからな。」
おれの説明を聞き終わり、ゾーっと背中の毛を逆立てるロカさん。
ロカさん?犬じゃないの?猫なの?あっ狼でした・・・。
ようやくマルキストとアーライザも安心したようだ。
「そこまで読んで・・・。」とか呟いてるが、おれサーデインに丸投げだったからね?
そこはむしろサーデインを褒めるべき。
■
「主殿。そろそろです。」
「だな。」
サーデインの誘導に従い残っていた『感染者』の全滅を確認。
「しつっこいわね!はっ倒すわよ!」の言葉と共に、全力で振りぬかれる巨大ハンマー。
ウララさん、すでにはっ倒してます。
全力で振るわれたハンマーが、ダインのどてっ腹に突き刺さる。
正確には刺さっていない、刺さっているかのようにぶち当たっているだけだが。
そしてウララの込めた魔力、光属性のそれがダインの全身へ染み渡る。
その瞬間、ダインが「ウゲァーーーー!」と呻き、口から緑色の粘液を吐き出した。
こっちを見たダインの瞳が緑から青へ変わっていく。
(・・・もしかして!)
更にトドメとばかり、ハンマーを上段に高々と振り上げるウララ。
「ウララー!待てー!ストーップ!」
「うるっさいわね!今トドメなんだからちょっと待ちなさいよ!」
この娘全然言うこと聞きません、やだー。
こうなったら仕方ない。
「ウララ!ハウス!」
「ハウスってなによ!あたしはペットじゃないのよ!」
おれの言葉に、ハンマーを上段に構えたままゆらぁりと振り向くウララ。
はい、矛先がこちらに向きました・・・こえー。
「そいつには聞きたい事があるんだ。トドメの前にちょっと試させてくれ。」
お冠のウララさん、「聞きたい事って何よ!?」とのことですが、「おれたちが『地球』に帰るための方法だ。そいつが知ってる可能性がある。」と言うと、「ホントでしょーね?」と少々訝しがりながらもハンマーを下ろした。
ふー、色んな意味で火力が高すぎる・・・。
「シルキー、頼む。」
シルキーは「ブルルン。」と一ついななき、ダインへ向けて『浄化の雷』を放った。
バチリリリリッ!
雷に撃たれ、ダインがもう一度緑の粘液を吐き出す。
瞳が完全に青に戻った。
「わ・・・我は一体・・・。」
明確な戸惑いの意思を感じさせる表情。
どうやら成功したようだ。
思わずほっと安堵、この王城に入ってから初めて、一瞬警戒を緩めてしまう。
それはおれたちの中で、たった一人を除き全員だった。
そう・・・その時おれは知らなかった。
今までの一部始終を、高見の見物していた者が居たと言う事を・・・。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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