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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
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・第九十一話 『女神の鉄槌』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、時刻はもう朝に向かっているらしい。

 兄貴は無事にドロータイミングを迎えました。

 だけど・・・うん、使う間無いね。

 今はむしろ非戦闘員と自身の身を守ることで手一杯です。

 もうね・・・どうしてこうなった?とかそんな次元じゃ無いわけだ。

 何事って? 

 んー、簡単に言うと、狂った神様と怒った女神様がガチンコしてるんすよ。

 うん、普通に余波で人が死ぬよ。

 おれも確かに怒ってたけど・・・怒ってたけどもー!

 どうか願わくば、流れ弾がこっちに来ませんように。



 ■



 『正義神』ダインの神殿は、怒れる女神の舞台に変わった。

 膨大な光属性の魔力を撒き散らす二人のキャストに、観客であるおれたちは声も出ない。

 体感30分以上、ウララが自身の身体より遥かに巨大なハンマーを振り回し、『正義神』ダインと戦っていた。


 ギンッ!ガギンッ!メキャ!

 止める、弾く、叩く。

 斜め上から振り下ろされた剣を、ハンマーの石突で器用に止めてそのまま一回転。

 約1m、小学生の子供くらいはある盾を容易くかち上げ、がら空きになったわき腹へ痛撃を叩き込む。

 鉄槌から注がれたウララの魔力。

 それが光の波動に変わり、ダインの顔が苦痛に歪む。 


 ゴンッ!ベギッ!グシャ!

 押し込む、叩き折る、潰す。

 更に追撃。

 ダインの持つ盾を押し返し、槍をへし折り、下から掬い上げてきた槌を、上段から振り下ろした鉄槌でその腕ごと叩き潰す。

 容赦はない。

 地面を通して伝わったウララの魔力が、ダインの足元から吹き上げ吹き飛ばす。

 

 少しだけ距離を取るウララ。

 ダインがゆっくりと起き上がる。


 「あ、あ、あ、ああああああああ!!!」


 狂気染みた叫び。

 通路側にまだ残っていた『感染者』たちが光の粒子に変わり、ダインに吸い込まれていくと、ウララが付けた傷が癒されてしまう。


 「めんどっくさいわねー!」


 鉄槌部分を床へドンと降ろし、腰に手を当て心底鬱陶しそうに吐き捨てるウララ。

 うん、ナニコレ。

 普通に怖い。


 なぜか子供たちは大喜び。

 女の子は胸の前で手を握り祈りのポーズ。

 男の子たちは拳を突き上げやんやの大喝采だ。

 「ウララ様、素敵です。」だの「聖女様かっこいー!」だのと怪しいセリフがそこかしこから聞こえてくる。

 その中の一人、兎族と思われる少年を手招きする。


 「お前がウララが助けた兎族の少年で間違いないか?」


 「はい!兎族のラビトと言います!ウララ様が名前を付けて下さりました!」


 やたらハキハキ、元気の良いラビト君。

 しかしウララよ・・・兎だからラビトってお前・・・。

 明るいラビト君の笑顔に心が痛む。

 ラビト君はにこにこしながら、「貴方がセイ様ですか?」と聞いてくる。


 「そうだ。おれは異世界の魔導師セイ。よろしくな?」


 思わずその長耳をもふってしまう。

 するとラビト君、「女神であるウララ様が仰っていた通り、セイ様も素敵な方です!」と破顔した。

 その言葉にこちらを伺っていた子供たちが一斉に頷く。


 ・・・oh・・・女神です・・・か。

 どうやらウララはこの国で神になったようです。

 『正義ジャスティス』教怖い・・・。


 逆におれの腕の中、子犬状態のロカさんがガクブルになっている。

 目もちょっとウルウル、涙目だ。 


 「あ、主。あの攻撃は、我輩・・・掠っただけで致命傷である。」


 あーうん、まぁそうだろうな。

 こってりとんこつラーメンより濃厚な、光の魔力がのりにのってるしな・・・。

 余波だけでも、闇属性でごめんなさい。かもしれない。

 サーデインも「ウンウン」と頷き肯定している。


 「主殿。私の障壁でも、直撃なら最低五枚はいかれると・・・。」


 まじでー?

 ダインで三枚だったのに五枚とか・・・もう完全に神様越えてるじゃん。

 アフィナがそっと寄って来て、おれに囁く。


 「ねね、セイも大概だったけど・・・ウララさんってホントに人間?」


 「あー・・・たぶん、おそらく、きっと・・・。」


 おれはそっと目を逸らす。

 ウララの耳に入らないように囁いたのは正解だと思うぞ?

 アイツ、バッと振り返ったし手遅れかもしれないが。


 「まぁ今回は武器がな・・・。」


 おれの呟きに、「どゆこと?」と小首を傾げるアフィナ。


 「その話、私も聞かせてもらえないか?」


 「自分もお願いしたい。」


 どうやらマルキストとアーライザも興味を持ったようだ。

 障壁の維持に勤しむサラとサーデインには悪いが、外に出ると流れ弾で蒸発する可能性がある以上やることがない。

 ウララがまたしてもダインを吹っ飛ばしているのを横目に、少々暢気だが説明しようか・・・。



 ■



 「ウララの使ってる『女神の鉄槌』って武器はな。起動した時にかけた、光属性の強化魔法一つにつき、その威力が進化していく武器なんだ。一枚で将軍級、二枚で指導者級、三枚で英雄級って具合にな。今回は四枚使ってた・・・つまり。」


 「神級ってことですか?」


 マルキストの問いに首肯で答える。

 しかも今回アイツが使ったのは、受け流し強化魔法『盾力シールドフォース』、反応強化魔法『脚力アンクルフォース』、腕力強化魔法『腕力キーンフォース』、命中強化魔法『眼力コンタクトフォース』と、被り無しの全身強化だ。

 その上『範囲回復エリアヒール』まで引いていたのだから、どっちがデビルドローなのかと小一時間問い詰めたい。


 「なるほど、それでウララさんがカードを四枚選択した時に、あれだけ急いだのですね。」と、サーデインも得心顔だ。


 「しかしセイ殿。あの武器を使ってなお、押し切れないように見えるのだが・・・。」


 不安気なアーライザをおれは、「いや、もうすぐ終わると思うぞ?」と否定した。

 ウララの戦闘に夢中な子供たち以外、全員の視線がおれに集中する。

 まぁ説明が要るよな。


 「今回の神召喚は云わば裏技だからな。ティル・ワールドが使った魔法は、本来こっちの世界には無いはずの魔法、『傲慢アーロゲント』って言うんだ。あれは英雄一人の生贄で神を召喚できるって言う反則な効果だが・・・呼び出している間中、生贄の供給が必要になる。」


 おれの言葉を反芻する一同。

 マルキストが代表して、半ば答えを予測しているであろう質問を投げかけてくる。


 「ということは、先ほどから『封印されし氷水ひすい王』の『感染者』が光に変わっているのは?」


 おれは一つ頷き説明を続ける。


 「まぁコストにされてるんだろうな。・・・その上でだ。ウララにもらったダメージを、『感染者』を生贄にすることで回復してるよな?」


 そう言って視線を廊下側へ。

 そこに残っている『感染者』は、もう両の手があれば数えられる程度。

 一同納得しかけ、アーライザが訝し気な表情を浮かべる。


 「だがセイ殿。それでは子供たちは・・・」


 アーライザが言い淀み、おれの盟友ユニット以外のメンバーは表情が曇る。

 言いたい事はわかる。

 現についさっきまで生贄にされかかっていたんだからな。

 だが・・・。


 「今この子たちはおれたちの陣営に居るだろう?つまりおれたちの友軍であって、ダインからは敵軍に当たるわけだ。当然敵を生贄に捧げることは出来ない。」


 一瞬納得しかけるも、なおも心配点に気付くマルキスト。

 

 「しかし・・・なんらかの方法で、強制的に自軍に設定されていたら・・・。」


 「それも対策済みだ。さっきサーデインが『制約』の魔法で「拘束」を禁じているからな。この空間で自由を縛る行為は一切行えない。因みに・・・さっきロカさんを抱きかかえた時も、ロカさんがちょっとでも抵抗したら、拘束に判定されて弾かれてたからな。」


 おれの説明を聞き終わり、ゾーっと背中の毛を逆立てるロカさん。

 ロカさん?犬じゃないの?猫なの?あっ狼でした・・・。

 ようやくマルキストとアーライザも安心したようだ。

 「そこまで読んで・・・。」とか呟いてるが、おれサーデインに丸投げだったからね?

 そこはむしろサーデインを褒めるべき。



 ■



 「主殿。そろそろです。」


 「だな。」


 サーデインの誘導に従い残っていた『感染者』の全滅を確認。

 「しつっこいわね!はっ倒すわよ!」の言葉と共に、全力で振りぬかれる巨大ハンマー。

 ウララさん、すでにはっ倒してます。

 全力で振るわれたハンマーが、ダインのどてっ腹に突き刺さる。

 正確には刺さっていない、刺さっているかのようにぶち当たっているだけだが。

 そしてウララの込めた魔力、光属性のそれがダインの全身へ染み渡る。


 その瞬間、ダインが「ウゲァーーーー!」と呻き、口から緑色の粘液を吐き出した。

 こっちを見たダインの瞳が緑から青へ変わっていく。 


 (・・・もしかして!)


 更にトドメとばかり、ハンマーを上段に高々と振り上げるウララ。


 「ウララー!待てー!ストーップ!」


 「うるっさいわね!今トドメなんだからちょっと待ちなさいよ!」


 この娘全然言うこと聞きません、やだー。

 こうなったら仕方ない。 


 「ウララ!ハウス!」

 

 「ハウスってなによ!あたしはペットじゃないのよ!」


 おれの言葉に、ハンマーを上段に構えたままゆらぁりと振り向くウララ。

 はい、矛先がこちらに向きました・・・こえー。


 「そいつには聞きたい事があるんだ。トドメの前にちょっと試させてくれ。」


 お冠のウララさん、「聞きたい事って何よ!?」とのことですが、「おれたちが『地球』に帰るための方法だ。そいつが知ってる可能性がある。」と言うと、「ホントでしょーね?」と少々訝しがりながらもハンマーを下ろした。

 ふー、色んな意味で火力が高すぎる・・・。


 「シルキー、頼む。」


 シルキーは「ブルルン。」と一ついななき、ダインへ向けて『浄化の雷』を放った。

 バチリリリリッ!

 雷に撃たれ、ダインがもう一度緑の粘液を吐き出す。

 瞳が完全に青に戻った。


 「わ・・・我は一体・・・。」


 明確な戸惑いの意思を感じさせる表情。

 どうやら成功したようだ。

 思わずほっと安堵、この王城に入ってから初めて、一瞬警戒を緩めてしまう。

 それはおれたちの中で、たった一人を除き全員だった。

 そう・・・その時おれは知らなかった。

 今までの一部始終を、高見の見物していた者が居たと言う事を・・・。

 



ここまで読んで頂きありがとうございます。

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