・第九十話 『正義神』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、これで三人目・・・いや、三柱目っていうのか?
兄貴、神様と三度目のご対面です。
前の二柱が友好的だった分、今回はなかなかハードになりそうだ。
おれたちはずっと勘違いしていた。
黒幕はテンプレ雑魚ボスの、『天尊』カルズダート三世じゃなかったんだ。
どうにも全て『聖域の守護者』ティル・ワールドの計画だったらしい。
最後に見せた動きからしても、奴が直前まで手を抜いていたのは明白だろう。
それに奴が使った魔法『傲慢』。
あれは七つの大罪、第二版に収録されたもはや絶版になっているカードのはずだ。
何度も感じた違和感を、そのままうやむやにしていたつけを払うことになる。
手札は0で、盟友はロカさんとサーデイン。
ドロータイミングまではまだ少しある・・・。
どうにか・・・なるのかっ!?
■
『正義神』ダインの神殿に広がっていく、濃厚なプレッシャー。
魔方陣の中央に浮かび上がる光の球。
光の球が収束し、人型に変わっていく。
生まれたての胎児のように、羽根に包まれて現れたダインが、その羽根を広げ魔方陣の上へと降り立つ。
身の丈はおよそ4m、『自由神』セリーヌとほぼ同じくらいか・・・。
だがその体格は違う。
背中に八枚の巨大な羽根があるからだ。
金髪を刈り上げに、今はその瞳閉じられているが、カードゲームでの情報と同じなら確か青。
この国の兵士が良く着ているような、金属製の軽鎧を纏っていた。
そして腕が四本、それぞれに剣、盾、槍、槌を握っている。
ゆっくりと瞼が開く。
そこにあった瞳は・・・濁った緑!
(コイツもか!)
「あ、あ、あ、あああああああああああああああ!!!」
突然絶叫するダイン。
魔力を帯び、確かな狂気に彩られたその声は、常人なら耐えられないだろう。
事実、おれと盟友たち、マルキストやアーライザなんかは無事だが、アフィナは必死に耳を塞ぎ、シルキーも顔色が悪い。
サラとサーデインが張った防御陣で多少は軽減されているようだが。
その絶叫で、廊下側から迫る『感染者』がビクビクと震え、光の粒子に変わるとそのままダインに吸い込まれていく。
『傲慢』、本来ならば英雄級といえ二、三人の生贄を必要とする神の召喚を、英雄一人の生贄で強制的に発動する禁止カードだった。
デメリットは神を維持する間中、自軍の盟友を生贄に捧げなくてはいけないこと。
獣人族の遺体や『感染者』たちが、光の粒子に変わったのはおそらくそのためのコストだろう。
彼ら犠牲者の魔力を食いつぶしたら・・・次はおそらくまだ息のある子供たち。
その辺の優先順位がどうなっているのかはわからないが、おそらく間違いないだろう。
『正義神』ダインは、その濁った瞳でおれたちをしっかりと見据えた。
さてどうするか・・・。
絶望的に手札が無い。
ドロータイミングにも、まだ少し時間があるはずだ。
アタッカー役の盟友も、光属性そのものと思える『正義神』ダインに対して、相性が悪すぎるロカさん。
サーデインも闇属性の神官だし、何よりおれが攻撃魔法のカードを持っていない以上、防御主体の彼に期待は出来ない。
廊下側の『感染者』は数が急激に減ったため、マルキスト一人で事足りているのが救いと言えば救いだが・・・。
手が空いたアーライザが、こっちを手伝ってくれてもどうにかなるんだろうか?
50年前にはこの国最強の英雄だった『四姉妹』を、不意打ちとは言え三人殺害し、唯一生き延びたサラにも一生物の傷を残している。
そこまで一気に考えて思う。
(やべー、これ詰んでねーか?)
最早ある種の諦め、ドローまでの時間を稼ぐためにも、とりあえず物理で殴るかと覚悟を決め、ロカさんとアイコンタクトした時に、一人の人物がおれを庇うように立った。
■
ピンクのゴスロリドレスと、黒髪のツインテールを揺らしながら、おれの前に進み出た少女。
ウララだ。
「ウララ・・・お前、大丈夫なのか?」
「シイナが『薬箱』かけてくれたわ。」
(シイナ・・・?)
あっ!アフィナのことか。
最初の時のおれ同様、アフィナが母親である『風の乙女』シイナと勘違いしているらしい。
慌ててアフィナを確認するが、非常に困ったような顔で頭を左右に振る。
どうも全快には程遠いようだが・・・。
「お前、まだ・・・。」
おれが苦言を呈すのを遮り、「アンタ、手札が無いんでしょ!」とウララ。
いや、それはそうなんだが・・・。
ここで無理して倒れられると、せっかく助けに来たのが本末転倒になるんだが?
やっぱりこれは我慢してもらった方が良いだろう。
そう思い、ウララの横に並ぼうとする。
瞬間おれを睨みつけるウララ。
「うるっさいわね!アンタ、引っ込んでなさいよ!」
待て待て、何事だよ?
おれ味方、敵神様、ドゥーユーアンダスタン?
「魔導書!」と叫び、自身の周りに六枚のカードを展開したウララの視線の先。
そこには気絶したままの獣人族の子供たち。
中の一人・・・兎族と思われる長耳を頭に生やした子供。
(まさか・・・)
あれがウララが守りたかった少年なのか?
その身を犠牲にしてまで救ったはずなのに、生贄として傷つけられていた!?
『範囲回復』
おれが現状を予測している間に、ウララがエリア回復魔法を唱える。
ウララを中心に広がった光の波が、傷ついた子供たちの傷をあっさりと癒していく。
自身もかじった程度とは言え、回復魔法を使えるアフィナが「すごい・・・。」と絶句する。
この世界の魔法でこの効果を起こしたいなら・・・おそらくは神代級の魔法ってことになるんだろう。
おれの感覚だと、ウララが使ったのは上級程度だと思うが。
子供たちが、何事も無かったように立ち上がりきょろきょろする。
兎族の少年がウララの姿を見止め「ウ・・・ウララ様・・・。」と呟いた。
一つ頷いたウララが、「あんたたち、こっちに来なさい!」と叫ぶ。
子供たちは一瞬驚いた顔をしたが、すばやく辺りを見回し状況を確認したのだろう。
慌てておれたちに向かって走ってくる。
それを邪魔しようとしたのか、ダインが槌と槍で子供たちを狙った。
神様が子供狙うとか!
操られてました。で済むと思うなよ・・・。
ダインの目論見は失敗する。
ある程度予想していたのだろうサーデインが、三枚重ねの障壁で槍と槌を受け止めた。
さすがに神の攻撃だけはある。
受け止めた途端に砕け散る障壁。
それでも子供たちが、おれたちの後ろに駆け込むだけの時間は稼げた。
サーデイン、グッジョブだ。
■
濁った瞳でウララを睨むダイン。
おれは今・・・戦慄している。
神であるダインにじゃあない。
後ろ姿でも雄弁に語っている膨大な怒り。
何だかウララの背後から、陽炎がけぶっているような・・・。
ゆらぁりと揺れたウララが、自身の『魔導書』から一枚を選択する。
「『神器・女神の鉄槌』起動!」
ウララの眼前に、50cmくらいのサイズ、銀色の女神像が浮かび上がる。
びしぃー!っとダインを指差し一言。
「神様だか何だか知らないけどね・・・この世に生を受けたことを後悔させてやるわっ!」
更に全てのカードを選択する。
『女神の鉄槌』の効果と、ウララの雰囲気、カードを四枚使用したことを確認して悪寒が走る。
マジギレ?・・・これアカンやつやー!
「サーデイン、サラ全力だ!全員障壁に入れぇ!」
「ぬぅ!主!?」
戸惑うロカさんから強制的に魔力を回収。
子犬モードにして抱きかかえ、女性陣の居る所まで一気に下がる。
事態が飲み込めない子供たちも途中で拾っていく。
おれの只ならぬ様子に気付いたマルキストも、最も近い敵に拳を当て、そこから発生した力場によって『感染者』を一気に吹き飛ばし、おれたちとは反対側から女性陣に合流した。
おれたちが障壁に滑り込むのと同時、ウララの不穏な雰囲気を感じ取ったダインが、先制攻撃とばかり手に持った剣を振り下ろし、光の刃で攻撃する。
キンッ!
どこか硬質な金属を叩いた音を響かせ、女神像が光の刃を弾く。
ウララの涼やかな声が、神殿に響き渡る。
『盾力』
彼女の両肩に、魔力でできた丸い肩甲が現れる。
【女神の欠片を確認。鉄槌は上位に進化します。】
いつもなら使用者の頭の中で流れるはずの、無機質な女性の声のインフォメーション。
それがなぜか神殿に響き渡り、空中に浮かぶ女神像が一回り大きくなる。
『脚力』
ウララは止まらない。
今度は足首の辺りに魔法文字でできた円環が現れる。
【女神の欠片を確認。鉄槌は上位に進化します。】
更に女神像が一回り、約1mの大きさへ。
『腕力』
【女神の欠片を確認。鉄槌は上位に進化します。】
ウララの細腕には不釣合いなほど巨大な手甲が現れ、ほとんどウララの背丈と変わらないサイズに女神像が膨れ上がる。
ダインも悪寒を覚えているのか、手に持つ武器で攻撃を繰り返し、その全てがウララの遥か眼前で弾かれる。
『眼力』
最後の一枚。
ウララの額を覆うように、白銀に輝くティアラ。
【女神の欠片を確認。鉄槌は上位に進化します。】
そのインフォメーションと共に、女神像がとうとう2m、明らかにウララどころかおれの身長を越えた。
ウララが一つ頷くと、女神像がその形状を変えていく。
目を閉じ胸元で両手を組み合わせたその女神像。
その部分以外が、巨大な円柱に変わってゆく。
ウララが女神像に手を伸ばす。
彼女の手元へと伸びるように、長い長い金属製の棒が現れ、その掌にしっかりと納まる。
そう、彼女のメイン武器『女神の鉄槌』とは・・・。
美麗な女神の意匠が施された、常識はずれなサイズのハンマーなのだ。
ウララはハンマーと化した女神像を軽々と片手で振り回し、自分の肩へ担ぐ。
そしてダインへ向け再度、びしぃーっと人差し指を突きつけ啖呵を切った。
「一つだけ教えといてあげるわ。天上天下、古今東西、未来永劫、『正義』はあたしの下にあるってことをね!」
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