・第八十九話 『傲慢(アーロゲント)』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、これってあんまりじゃないか?
兄貴はそれなりに心配も苦労もしたんだが・・・。
そうです、我らが「元祖残念美少女」ウララさんのことですよ!
開口一番「アンタ、何でこんなとこに居んのよ?」だぞ。
まぁ、らしいっちゃらしいけども。
いや、最初からまともなお礼なんか期待してないし、そんなことの為に助けた訳でもないから別に良いんだけどな?
相変わらずの口の悪さに思わず苦笑い。
君も向こうで「ウララちゃんらしいね。」って笑っているだろう。
少なくとも記憶に障害があったりしなくてほっとした。
とりあえずこの国に来た最大の目的、ウララの救出は完了した訳だ。
次は申し訳ないけど後回しになっている、獣人族のみなさんを回収して・・・。
楽しい楽しいOshiokiタイムに突入だ。
■
起き抜けの発言に苦笑するしかないおれ。
だいぶ意識がはっきりしてきたのか、おれを見上げたウララが、「竜は?」と尋ねてくる。
まずそこが一番か。
「大丈夫だ。安全な所で待ってる。」
おれの言葉に満足したのか、「そう。なら良いわ。」とお姫様からお許しが出る。
相変わらず普段の行動とその心が伴わない奴だ。
「で、何でここに?」と、再度尋ねるウララ。
おれはちょっと逡巡する。
今ここで夢で見た美祈の助言、と言うのも説明が難しい。
なので、「キアラがすげー頑張ってたぞ。あいつがおれを見つけなかったら間に合わなかった。」と、とりあえずキアラに丸投げしておくことにした。
それを聞いたウララはなぜか少しバツの悪そうな顔をし、「そっか。セイ、ありがとね。」と消えそうな声で呟いた。
自分でなんとかするって言ってたのに、助けられてしまったのが悔しいんだろうか?
おれたちの仲で今更だろうに。
(しかし・・・めちゃくちゃ軽いな・・・。)
いくらこの世界でおれの身体能力が上がっているとは言えだ。
とてもではないが同年齢の少女を抱きかかえているとは思えない。
ウララを抱いたままそんな事を考える。
元々食の細いウララだが、『晶柩』に囚われている間その小さな身体から、ずっと魔力を搾り取られていたのだ。
更に痩せていても不思議ではなかった。
むしろ彼女の胸が、これ以上抉れていなかったことを感謝するべきだろう。
突然ウララがおれを射殺さんばかりに睨む。
「アンタ・・・今、スゲー失礼なこと考えたでしょ?」
おれはそっと目を逸らす。
やめて、心を読まないで。
今間違いなく彼女の頭上に「キュピーン」と擬音が付いている。
そんなばかな話はどうでも良いんだ。
「ウララ、動けるか?」
半ば話をずらす意味もあるおれの問いに、数回自身の手をグーパーするウララ。
「ごめん、ちょっときつそう。」
そうだろうな。
さすがにそこまでは期待しすぎだ。
おれは一つ頷き、「サーデイン、頼む!」と、カルズダートとティル・ワールドを牽制していた彼に声をかけた。
サーデインは油断無くおれの近くまで来ると、ウララを障壁で作った板の上へ乗せ、自身も共に女性陣の下まで後退する。
一瞬目が合ったアフィナが、「任せて!」言わんばかりにとサムズアップ。
おれは首肯で返した。
さてと・・・。
後は獣人族の皆さんを救出しないとな。
今現在は幸い、魔方陣の中央をおれとロカさんが占拠中だ。
奴らも下手な真似はできないだろう。
「おのれ・・・おのれ!邪教の信徒めぇ!なぜ!なぜ我に従わぬ『裁断刀』ゲイルよ!」
何らかの『特技』を使っているのだろう。
カルズダートが『裁断刀』ゲイルに、必死で魔力を叩きつけているのが感じられた。
たぶん奴の『特技』は、さっきサーデインが『制約』した項目、「拘束」にひっかっかっている。
効果時間は約半日だ。
ご愁傷様だな、お前がその剣を手に取れることはもう無い。
猛るカルズダートが『裁断刀』ゲイルを蹴り飛ばす。
ティル・ワールドは少し距離を取り、何事か詠唱しているようだ。
脅威度で言えば断然ティル・ワールドを妨害したいんだが。
さっきおれの連撃でも捕らえきれなかったからな・・・。
まぁいざとなればサーデインが何とかするだろう。
攻撃魔法こそプレズントには及ばないが、こと防御に関してはサーデインに一日の長がある。
おそらく彼はエルフ族というその長い寿命を、防御能力と知識の研鑽に費やしてきたのだろう。
等級一つの差も、得意分野において上位を凌駕することは珍しくないのだ。
「ロカさん。人質をすぐ庇えるように対策しといてくれ。まずあの愚王を潰そう。」
「承知。」
ロカさんと軽く作戦を立て、二人揃って動き出す。
■
(しかし・・・何だろうな?この違和感は・・・。)
はっきりとはしない。
喉に刺さった魚の骨のような感覚を覚えていた。
カルズダートが、半ば自棄を起こしたように撃ち込んでくる多数の光槍を、スウェーの要領でさっくり避ける。
獣人族を巻き込んでしまいそうなものは、ロカさんの『魔霧』とサーデインの障壁で対応。
頭に相当血が上っているのか、指向性も範囲もでたらめだ。
『魔力炉』としてのおれの能力、ほぼ無尽蔵の魔力を持つこちら側と違い、生身である以上魔力切れを起こしてもおかしくは無いんだが。
カードゲームの『リ・アルカナ』では見覚えの無い『天尊』カルズダートだが、果たしてそんなに強いのだろうか・・・?
どうにも違和感が拭えない。
あえて形容するとしたら・・・三下感と言った所か?
これがボスと言われても納得がいかない。
ゲームじゃないんだから仕方ない。と言われればそれまでだが、これは違う気がする。
おれがそんな思考に囚われている間も、当然ティル・ワールドを視界の端には捕らえたままだ。
奴は散発的に魔力弾を飛ばしてくる以外、一定の距離を保ち続け、特に目立った行動を起こさない。
その姿に、何とも言えない嫌な予感を覚える。
状況が動く。
ロカさんが床にこっそりと仕掛けていた『魔霧』が、カルズダートを捕らえた。
光属性の防御を張っていたらしく、傷こそ負わせられないが動きが鈍る。
そこへおれは距離を詰め身体を半回転。
「ふっ!」気合を込め、ソバット気味の回し蹴りを叩き込む。
それすらも咄嗟に張った障壁で防ぐが、勢いが止まらず弾き飛ばされるカルズダート。
空中で制動しようとしたカルズダートの動きが止まる。
サーデインがほとんど目視できない障壁で、吹っ飛んだ先にコの字型の檻を作っていた。
相変わらずやることがイヤらしい。
「があああ!貴様らあああ!」
自由に動けず激昂するカルズダート。
そんなものを見逃すロカさんではない。
「年貢の納め時である!」
将軍級ですら一撃で屠るその薙ぎ爪が、カルズダートを切り裂いた。
■
「ぎゃああああ!!!」
悲鳴を上げ仰け反るカルズダート。
それでも浮いたままなのはどういう仕様なのか。
追撃をかけようとするロカさん。
その時いつもの危険察知。
首筋がちりっとする。
バッとティル・ワールドを振り返るが、奴は特に何もしていない。
と、言うことは・・・。
「ロカさん!退がれぇー!」
おれの声に咄嗟に反応し、「ぬぅ!」と言いながら飛びのくロカさん。
今までロカさんの居た場所に、緑の触手が殺到する。
その触手は・・・カルズダートの傷口から生えていた。
ゆらぁ~っと仰け反った上半身を起こすカルズダート。
ロカさんが切り裂いた傷跡から、ダラダラと緑の粘液を流している。
こいつ・・・自分は操られていないと言ってたよな?
「グ・・・ゴボ・・・な、何だ・・・コレは・・・。」
口からも緑の粘液を流しつつ、自身の身体から零れ落ちるそれを掌にすくい、怪訝な表情を浮かべるカルズダート。
「ティ・・・ル・・・ワ・・・ルド。我は・・・感染して・・・いないと・・・!?」
カルズダートはそう言いながら、ティル・ワールドを見つめた。
都合おれたちもティル・ワールドの様子を伺うことになる。
視線を受けた本人は、少し俯いたまま肩を震わせていた。
その揺れがドンドン大きくなる。
「くく・・・くくく・・・アハハハハー!」
最初は含み笑い。
それが哄笑に変わる。
突然の狂気じみた笑いに、空間が凍りつく。
「アハ、アハハ!傑作だな!そんな戯言を本気で信じたのか?この国で感染していない天使など、50年隠れ続けたサラと、そこにいるアーライザだけよ!」
(これかっ!)
ティル・ワールドのセリフで、違和感の正体にやっと当たりが付いた。
カルズダートの妙な三下感・・・それは『感染者』だったからだ!
「ばか・・・な。」と呟き、動きが止まるカルズダート。
それでも触手はうねうねと蠢き続けている。
「こうなってしまってはもう仕方あるまい。」
一人何かに納得したティル・ワールドが、懐からカードを取り出す。
こちらがアクションを起こすより早く、一瞬でカルズダートの側まで転移したティル・ワールドが、カードを使用する。
カルズダートが内部から爆発、緑の粘液を撒き散らしながらカードに変わる。
そのカードを掴み、懐にしまうティル・ワールド。
粘液を避けるため、サーデインの張った障壁に隠れたおれたちは、ただその光景を眺めていることしか出来なかった。
粘液がかかった獣人族の遺体が光の粒子に変わる。
光の粒子が魔方陣に吸い込まれ、魔方陣が力を帯びていく。
それを見てティル・ワールドは、おれたちに背を向けた。
「それでは私は失礼しよう。」
「待て!何をした!」
おれは無駄と思いつつも、ティル・ワールドに声をかける。
奴はおれの方へ振り向くとニタリと笑い、「『傲慢』」と呟き去っていく。
ティル・ワールドが神殿の奥、隠し扉を開き中へ潜った。
それとほぼ同時・・・魔方陣が一際輝き、すさまじいプレッシャーが産まれる。
『傲慢』・・・七つの大罪を冠した魔法カード。
英雄一人の生贄で、強制的に神を召喚する魔法だ・・・。
ここまで読んで頂きありがとうございますorz
良ければご意見、ご感想お願いします。
※シャングリラ編最終決戦は残り二話の予定です。
たぶん・・・おそらく・・・。
お付き合いくださいー><




