・第八十八話 『万華鏡(カレイドスコープ)』
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※今回開幕のボヤキ無しです。
ネ、ネタが尽きたんじゃないですよっ!?
状況的に無い方が良いかなって・・・(汗
戦いは膠着状態だった。
「マスター!」
ギャイン!ギャイン!
プレズントが張った障壁を、光の槍が削り取っていく。
ロカさんが産み出した『魔霧』を、ティル・ワールドが光のモヤで遮る。
マルキストとアーライザは神殿の外、駆けつけた『感染者』たちと戦っていた。
なぜかカードゲームの『リ・アルカナ』でも彼の代名詞だった、『裁断刀』ゲイルを持っていない。
それどころかマルキスト、最初は無手だったんだが、瞬く間に『感染者』の一人から片手剣を奪い取り、返す刃で二人ほど切り捨てる。
その後も突き出された槍の軌道を逸らし、柄を握って方向を転換。
背後から迫っていた別固体の胸に突き入れ、そのまま足払い。
倒れたところに光属性を纏った掌底を当て無力化。
屈んだのを狙って襲い掛かった相手には、いつのまに拾っていたのか小型の投げナイフを、両目と喉下に正確に投擲し、当身の要領で二、三人纏めて吹き飛ばすなどなど。
ちょっとした無双空間を作り上げている。
武器の技能と格闘を織り交ぜたその動きは、おれから見ても美しくまるで舞を踊っているような戦いだった。
アーライザは補助に徹している。
と言うより、マルキストの邪魔にならないように動いているといった感じか。
確かにあれはおおっぴらに手を出すのは難しいだろう。
おれとサシでやっても良い勝負どころか、下手するとおれが負けるかもしれない。
武芸百般とか、そんな感じだ。
敵の数が際限無く沸いてくるせいで都合、サラやアフィナ、シルキーを中央に挟む形になっている。
サラは打ち合わせ通りその銀髪を展開し、女性陣の守りを固めている。
シルキーは『感染者』へ向けて『浄化の雷』を放ち、マルキスト、アーライザの補助。
アフィナはちょくちょくプレズントに火種を提供しようとしているが、いち早くからくりに気付いたティル・ワールドに阻まれ難航している。
『三賢人』の称号は伊達じゃないってことか。
この状況、なるべくしてなったとも言える。
ある程度予想はしていた。
なにせ、おれの手札が一枚しかない。
ドロータイミングにはまだ少し時間がある。
持っている一枚も、身体強化や攻撃魔法の類ではない。
絶対必要なカードなんだが、使いどころが難しい。
少なくともやつらとの立ち位置を入れ替えないことには・・・。
奴らは傷ついた獣人族や子供たちを、巧みに盾にし壁にして、おれたちの接近を許さない。
そして特にいやらしいのが、カルズダートの持つ大剣。
本来ならば『裁く者』マルキストの得物であるはずの『裁断刀』ゲイルを振るい、プレズントやロカさんの放つ魔法を切り裂いてしまう。
その度に『裁断刀』ゲイルが、ルウォン!ルウォン!とまるで泣き声のような音を鳴らす。
これはおれの予想だが、彼の剣は本来の持ち主マルキストから、なにかしら不正な手法で奪われたのだろう。
おそらくカルズダートか、ティル・ワールドによって。
「剣が泣いてるな。お前は器じゃないってよ。」
カマをかけると共に、軽く挑発。
自分でも気付いていたのか、「黙れぇ!」と激昂し安い挑発に乗るカルズダート。
型も何も無くただ力任せに振るわれる剣を、おれはあっさりと避ける。
剣を振るというより振り回されていると言った方がしっくり来る。
そんな攻撃で更に、自身の器をさらけ出すカルズダートがいっそ哀れにすら思えてきた。
そんなこんなを繰り返し、攻め手と守り手をめまぐるしく交代しながら戦っているが。
正直状況はあまり良くない。
神殿の外、廊下側の喧騒もドンドン激しくなっている。
時間を追うごとに状況は悪くなるだろう。
今は何とかマルキストたちがしのいではいるが、このままではジリ貧。
本来なら焦れているだろう。
だがおれにはどこか確信があった。
焦っているのは何も、おれたちだけではない。
その証拠にカルズダートもティル・ワールドもチラチラと横目で魔方陣を確認している。
端の方から光が消えていく魔法陣を見て大いに納得。
おそらくはタイムリミットがある。
むしろ時間に余裕が無いのは奴らの方かもしれない。
必ずそのタイミングがやってくる。
なぜなら奴らはどこまでも汚いからだ・・・。
■
そしてその時は唐突にやってきた。
「ええい、小賢しい!」と叫んだカルズダートが、倒れ伏す獣人族の子供に、光の槍の照準を合わせる。
それを見ておれは、一気にカルズダートと距離を詰める。
奴は一瞬逡巡した。
急接近する脅威と、刈り取りやすい命。
ホバリングで下がりながら、子供に向けて槍を解き放つ。
それは愚策だ。
すでに布石は打ってある。
おーけー、勝利へのルートは見えた。
「ロカさん!プレズント!」
「承知!」「了解!」
子供の影に潜ませてあったロカさんの『魔霧』が、光の槍を飲み込み霧散させる。
おれを妨害しようとティル・ワールドが放った魔力球を、プレズントが障壁で防ぐ。
カルズダートが下がりながら繰り出した『裁断刀』の一撃を、おれは剣の腹に掌底を当て逸らす。
普段から剣を使っていたのであれば・・・正面から肉薄する敵に振り下ろしなどはしないんだろう。
横なぎにされていればもう少し手間取った。
そのまま追いかけ、鳩尾へと拳を繰り出す。
それを嫌って「ふん、ばかめ。」などと毒づきながら、更に後退するカルズダート。
(ばかはお前だ・・・。)
自分がウララから離れてしまったことに気付いていないようだ。
「魔導書」
おれの前に浮かぶ一枚のカード。
流れるような動作で選択。
すぐに魔力を流し解き放つ。
普段から使い慣れている武器なら違っただろう。
もしくは武器で無く魔法だったのなら・・・。
だが、奴は持ってしまった。
己のが身には不相応すぎる武器、『裁断刀』ゲイルというものを。
その力によって、簡単な魔法なら切り裂ける。
そう思ったからこそ、逃げずにそこで構えた。
だが・・・おれが使った魔法は攻撃魔法ではない。
『魔王の左腕』召喚や、『絶望』のような直接の火力ではないこの一枚が、おれの切り札の一つ。
この一手で詰みだ。
『万華鏡』
おれの告げた魔法名と共に、プレズントの前に極彩色の幾何学模様で形成された鏡面が現れる。
「マスター、またね。」と一声残し、プレズントはその鏡面に飛び込んだ。
まるで水面に石を投げ入れた時のように、とぷんっと揺らぐ鏡面。
薄く、到底人が隠れるようなものではないはずなのに、プレズントの姿が掻き消える。
そして、プレズントが飛び込んだ方とは逆方向から、一人の人物が鏡面を割りながら現れる。
黒髪に緑の瞳、黒い神官服を着て、聖書のような分厚い本を脇に抱えたエルフ族の男性。
『古の語り部』サーデインだ。
「さすがは主殿。完璧ですね。」
現れたサーデインに一つ頷く。
おれが使った特殊召喚魔法、『万華鏡』とは・・・。
自身の使役する盟友一人を『魔導書』に送還することで、共通項のある盟友を特殊召喚することができる魔法だ。
その共通項とは多岐に渡る。
例えば属性。
ロカさんで言えば闇と水。
例えば所属。
ラカティスとイアネメリラのようにギルド『伝説の旅人』所属。
そして職業・・・『永炎術師』プレズント、『古の語り部』サーデイン、どちらも・・・魔法使い。
更に状況は進む。
特殊召喚魔法『万華鏡』のテキストはこうだ。
【万華鏡の魔力が盟友を繋ぐ。使役する盟友一人を『魔導書』に送還し、共通項を有す盟友を特殊召喚する。選べる盟友は等級が上下一つ差の者に限られる。この際送還された盟友よりも等級が上の場合は紋章を支払い、等級が下の場合はドロー1を得る。】
プレズントの等級は英雄、サーデインの等級は指導者。
つまり・・・。
割れて空中を漂う幾何学模様の鏡面が、光の粒子に変わりおれの手元に集まってくる。
手元に集まった光は、光り輝く一枚のカードへ変わっていく。
「王よ!あれはまずい!」
何かを察したティル・ワールドが叫ぶ。
その声でおれを妨害しようとしたカルズダートが、サーデインが作った障壁にぶつかり動きを止める。
おれの手元、完全に姿を現した光り輝くカードを、そのままサーデインへ投擲。
今更内容の確認などしない。
引いてきたのはわかっている。
いや、むしろこの状況、このタイミングでおれが引けない訳が無い。
サーデインも同様だ。
ただにこやかに呟く。
「ふふ、そういう風に作ってるんですから。」
カードを掲げるサーデイン。
「やらせん!」とサーデインに迫るティル・ワールドを、おれは連撃で牽制。
「もう遅い!」
おれの宣告と共に、サーデインの魔法は完成した。
「『制約』!禁ずるは拘束!」
カードから生まれた波動が、容赦なく『正義神』ダインの神殿を貫いた。
効果は劇的だった。
まずカルズダートが『裁断刀』ゲイルを取り落とす。
その後はどうやっても持てないらしい。
おれとサーデインを憎悪の篭った目で睨み、「おのれぇぇぇ!」と絶叫する。
そして・・・ウララを閉じ込めていた結晶が、シャリィーンっと音を立て粉々に砕けた。
ウララが重力に従い落下する。
おれは即座にウララを抱き止めた。
青白かった顔に、ほんの少しだけ赤みが戻っていく。
しっかりと閉じられた瞼、その長い睫毛がふるふると揺れ、ゆっくりと目を開く。
まだぼんやりとしたその瞳。
おれは慌てて声をかける。
「ウララ、ウララ!おれがわかるか?」
『晶柩』の効果はどこまで影響を及ぼしているのか?
ウララの綺麗な黒目、その焦点が合うと途端に眉を顰める。
そして開口一番。
「アンタ、なんでこんなとこに居んのよ?」
ウララはウララだった・・・。
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