・第八十五話 『脱出(エスケープ)』
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※2/18 誤表記修正しました。
書き漏れ発見につき、加筆しました。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、不思議だよな。
兄貴の盟友たちが言うんだ。
おれのセリフ、どこか懐かしいって。
それがなんなのか、おれには今まったくわからないけれど。
その小さな一つ一つが、大切な何かの一欠けら。
漠然とだけど、そんな気がするんだ。
ただ一つだけわかっているのは、幼馴染たち同様、盟友たちもおれの友だってことだろうか。
皆がそれぞれの信念の下、命を・・・いや、その魂を賭ける。
その中で異世界の人間であるおれたちに何ができるのか。
おれの怒りも、アイツの願いも、この先に続く場所に届くのだろうか?
■
苦しんで・・・死んだ・・・子供、20人程度の生贄だと・・・。
(ふざけるなよ・・・!)
せっかく少しだけ落ち着いた怒りが、なお一層燃え上がる。
「セ、セイ、落ち着いて・・・。」
ぎゅっと握ったおれの右手に、更に力を込めて握るアフィナも顔面蒼白。
『精霊王国フローリア』でも、自身の生贄問題の際におれがブチキレたことを思い出しているのだろう。
それが今回は子供、それも20人以上だ。
アフィナの予想は正しい。
おれはすでにキレている。
「キアラ、ダインの神殿はわかるか?」
おそらく儀式はそこだろう。
「は、は、は、はい!ウララ様の魔力は微かにリンクがあるので・・・ウララ様は神殿で『晶柩』に囚われています!」
「よし!ナビをしろ。」
その時だった。
「主、・・・まずいのである。」
すぐにでも走り出そうとしたおれを、思わず呟いてしまったという体で、ロカさんが引き止める。
「ロカさん、どうした?」
一瞬言っても良いものかどうかと、逡巡する素振りを見せるロカさん。
おれは黙って目線で促す
「こちらに向かってくる敵意がおよそ200以上・・・。我輩たちが抜ければ・・・。」
そう言ってロカさんは、すっと視線を傷ついた『法政官』や非戦闘員たちに向けた。
その言葉にアフィナやシルキーを始めとして、サラも表情を強張らせる。
確かに・・・今ここに200人を超す敵天使の群れが突っ込んだら・・・。
傷ついた『法政官』や非戦闘員ではひとたまりも無いだろう。
となると・・・その200人を殲滅してから・・・。
しかし、生贄にされていると思われる子供たちも・・・。
判断に迷い指示を出せないおれに、カーデム老人が厳かに言った。
「行ってくだされ。この蛮行を止められるのは貴方だけなのでしょう?サラ様を頼みますぞ。」
「・・・カーデム。」
「爺さん・・・。」
思わず呟くことしかできないおれとサラに、どこか晴れやかな表情で胸を叩くカーデム老人。
「なぁに老いたりとは言え、『法政官副長』カーデムと言えば、『裁く者』マルキスト様でも一目置く、と言われる剛の者ですぞ?簡単にくたばりゃしません。」
その時、沈黙を守っていた男が口を開く。
「大将。俺はここに残るぜ。」
ラカティスだった。
■
「何を言いなさる!お前さんみたいな強そうなお人が・・・」
「どういうことだ?」
驚愕の表情で何か言いかけるカーデム老人を遮り、その真意を尋ねる。
ラカティスは一度「ふー、やれやれ」と言った体で首を振り、彼にしては非常に珍しく面倒そうな態度をして、その心を吐露した。
「あんたらしくねーぜ、何を迷ってんだい大将?単純な話だろ、どっちも救いたいなら両方に手を差し出せば良い。俺がこっちを、大将はボスを、そんだけだ。」
言い切った後、「俺が」と言って、メルテイーオを含まなかった事に関して、ビンタの制裁を受けるラカティス。
カーデム老人が、少し剣呑な雰囲気を纏い尋ねる。
「それで、どちらの手も支えきれねばなんとする?」
メルテイーオにビンタされた頬をさすっていたラカティスは、カーデム老人の目をしっかりと見据え、きっぱりと言い切った。
「そんときゃどっちも助けて、てめぇが死ぬ。」
その潔さに心がすっと軽くなる。
思わず「くく・・・くくく。」と、堪えきれない笑いが零れだす。
究極論。
崖の上で救いを求める者が二人、助けられるのは一人だけ、さぁ貴方ならどうする?って奴だ。
ラカティスの答えはおれと同じ。
こんな所でも絆を感じてしまうのは不謹慎だろうか?
急に笑い出したおれに、反応に困る女性陣及びカーデム老人と、納得顔の盟友たち。
「わかった。ここはラカティスに任せる。」
「おうよ。俺とイーオに任せてくれ。それに殿は騎士の誉れだからな。」
今度はきっちりとメルテイーオを含み、イイ笑顔のラカティスとグータッチ。
だがこれだけは言っておく。
絶対に譲れないことがあった。
「ラカティス、プレズント、ロカさん、それにメルテイーオ。キアラは箱の中の奴らにも伝えてくれ。お前らは道具じゃない。おれの盟友なんだ。だから、おれの許可無く命を散らす事は、絶対に許さん。」
ラカティスとプレズントが驚愕に目を見開き、揃って顔を見合わせた。
プレズントの驚くところは珍しいな。
そんなにおかしなこと言ったか?
確かにちょっとクサかったかもしれんが・・・。
「サブリーダー・・・。」
「うん、聞いたことあるね、今のセリフ・・・。」
(どういうことだ?)
不思議がるおれの視線に気付き、ラカティスがこんなことを言った。
「今大将が言ったセリフ。俺は昔リーダーに言われたんだよ。その時は確か・・・「君たちは僕の友達だ。だから僕より先に死ぬなんて絶対許さないよ。」だったかな・・・。」
プレズントも聞き覚えがあったのか、「良く覚えてるね。」と言いながら苦笑している。
そんな中ロカさんだけが、おれの脛を肉球でたっしたっしと叩く。
「一番に危険に飛び込む主が言っても、説得力が無いのである!」
・・・違いない。
それはともかく。
「魔導書」
おれの周りに二枚のカードが浮かび上がる。
その内の一枚を選択し、ラカティスへ渡す。
「これは?」と訝し気な表情を浮かべるラカティスに、おれは厳命する。
「アンティルールのこともある。勝手に死ぬことは絶対に許さん。危なくなったら必ずそれを使え。」
おれが渡したカードは『脱出』。
自分の使役する盟友を『魔導書』に戻す魔法カードだ。
ラカティスはそのテキストを読んで苦笑い。
「40近いおっさんにまで過保護なもんだ。大将はほんとに甘いねぇ。」
「いいな。それが守れないなら残ることは許さん。」
再度厳命したおれに、表情を改めたラカティスは「了解。」と頷いた。
■
「頼むぞ、メルテイーオ。」
「ん。ラカティスは私が守る。」
彼の守護者『不死鳥』のメルテイーオにも言い含め、首肯を確認したところでまた新たな人(?)物が動いた。
やたらキリッとした表情の馬・・・『一角馬』のリゲルだ。
「ブルルン。」
通訳を頼もうとシルキーを見れば、言葉を失うかのように呆然としている。
「おい、シルキー。リゲルはなんて言ってる?」
「ここに残るって・・・自分も多少なら『浄化の雷』を使えるからって。」
どういう風の吹き回しだ?
ここに気になる処女が?
・・・いや、邪推はやめよう。
おれがリゲルに向かい、「大丈夫か?」と尋ねれば「ブルルン(任せろ。)」的ないななきが返ってきた。
いや、わかんないけどね?
表情でなんとなく・・・。
リゲルはおれに返事を返すと、ささっと自分の背からサラを降ろす。
ロカさんがおれを見上げる。
「主、これ以上は敵勢力と鉢合わせになるのである。」
ロカさんの『索敵』にも、だいぶひっかかってきているのだろう。
ラカティスがプレズントへ、「サブリーダー、持ってけ。」の言葉と共に、小火球を五個ほど渡す。
プレズントの杖上に火球が移動したのを確認。
ラカティスに限界ぎりぎりまで魔力を譲渡し、おれは覚悟を決める。
「・・・わかった。アフィナ、自分で走れるな?シルキーはサラを頼む。ラカティス、メルテイーオ、リゲル、それに爺さん・・・死ぬなよ!」
その言葉を皮切りに、全員が自分の役目に向けて動き出す。
ラカティスを中央に、『法政官』たちを左右に配した陣形で、迫り来る異形の天使たちを迎え撃つ彼らを尻目に、おれはキアラの案内の下、王城の奥地へ向かい駆け出した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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※次回、いよいよシャングリラ編最終局面。
にも関わらずセイの手札は一枚!
どうぞ飽きずに読んでやってください。