・第八十四話 『法政官』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、『地球』で天使と言えばどんなのを思い出す?
兄貴も大体同じだな。
所謂アレだよな。
薄い布をまとって、白い羽根に頭にわっかみたいな。
自分のことを擁護する気も、ましてや勘違いしているつもりもないが、この世界の天使ってのは悪魔よりよっぽど性質が悪いと思う。
天使を自称する有翼種って言ってた、クリフォードの気持ちが良くわかる。
『封印されし氷水王』の関係で、おそらくほとんどの天使族がイカれているだろうことは予想していたが・・・。
ラカティスを引いてきたのも天啓だった。
あそこで躊躇していたらと思うと、正直背筋が寒くなる。
嫌な予感もひとしおだったが、まさかこんなことになっていたとは・・・。
おれの切れる手札も少なく、ウララに残された時間も僅か。
それでも・・・見捨てられる訳ねーだろ。
待ってろよ・・・ウララ!
■
入り口の魔法扉をぶち破り、入ったそこには信じられない光景が待っていた。
完全武装の天使族が、王城に仕えていたであろう人々を虐殺している光景。
神官衣と学童のような帽子、片手剣を持った人族の『法政官』と思われる集団が、非武装の獣人族や女の使用人たちを必死で守っている。
それを取り囲むように陣を敷き、半ばなぶる様に嬌声を上げながら、手に持った得物を繰り出す天使兵。
その瞳には理性は感じられない。
『法政官』の中にはそれなりの使い手もいるようだが、数が違いすぎる。
その上背後には非武装の人々。
必死で堪えるも徐々に切り崩され、引き倒され・・・そして倒されれば集中砲火を浴びる。
光の粒子が広がっていく。
彼はもう助からないだろう・・・。
逆に手練の『法政官』に切り捨てられた『天使兵』の傷口から、緑色の触手が生えてくる。
そんな塊が、目に見えるだけで何箇所もできていた。
悲鳴や怒号から考察すればおそらく、この王城のどこかしこでも同じ光景が繰り広げられていることは、想像に難くない。
造りがまるで『地球』でいう教会のような建物だけに、その異様な光景はどこかTVや映画で見るもののようだった。
(なんだこれは・・・。)
どう考えても、襲っている方も襲われている方も『天空の聖域シャングリラ』の民だろう。
とうとう自国民にまで手を出し始めたのか。
雰囲気を察したのだろう。
病み上がりのサラの顔色がどんどん悪くなっていく。
アフィナとシルキーは「ひどい・・・。」と呟いたまま呆然としている。
「大将・・・こいつぁ・・・。」
ラカティスも、思わずと言った体でおれの様子を伺っているのがわかった。
正直ここまでとは・・・。
実際かなりのところで、『封印されし氷水王』の侵食は進んでいるだろうと予感はあった。
なにせ『四姉妹』が罠にかけられて、この国の表舞台から姿を消し50年。
その間せっせと自身の『感染者』を増やしてきたのなら・・・。
いや、考えても仕方ない。
今は目先のことだ。
「ラカティス、プレズント、敵天使だけ狙い撃てるか?」
おれの問いに、顔を見合わせる二人。
「いけるよな?サブリーダー。」
「二人なら余裕だね。」
ラカティスとプレズントがグータッチした所で、その拳に自身の手を重ね「ん、三人。」と釘を刺す『不死鳥』のメルテイーオ。
おれはその姿を確認し、「他の奴らの被害を抑えることが最優先だ。」と指示を出す。
ロカさんがおれを見上げる。
「主、我輩は?」
「ロカさんは殺傷能力の無い『魔霧』を敵天使の居る床に散布。」
「「了解。」」「ん。」「承知。」
各盟友が自分の役割を理解した所で、シルキーに『一角馬』モードに戻ってもらう。
まず動いたのはラカティス。
長剣で描いた炎の魔法文字を、盾で一押し。
いつもの手順で広がった一文字一文字を、メルテイーオが口付けて大きな火球に変える。
産み出された火球は丁度10個。
その火球はプレズントへ向かい、彼の掲げた杖の上で円回転を始める。
プレズントが地面にトンっと杖の石突を落とす。
その途端、火球は10羽の鳥と化し、無法を続ける敵天使へ突っ込んだ。
敵天使たちは、藁人形のように勢い良く燃える。
極々近くで切り結んでいた『法政官』たちや、その背後に庇われる非戦闘員には一切、燃え移ることは無い。
敵天使たちの身体から、緑のうねうねが現れる。
ロカさんがほぼ真水状態の『魔霧』を散布。
「シルキー、今だ。」
おれの合図に合わせ、「ブルル。」と軽く嘶いたシルキーが、『特技』『浄化の雷』を放つ。
予想通りロカさんが『魔霧』で濡らした床へ誘導され、緑の触手は駆逐された。
■
命を救われた実感が無いのか、きょとんとしている一同。
『法政官』たちの中でもかなりの年嵩、少なくとも60は越えていそうな人族が近寄ってくる。
「窮地をお救い頂き感謝するが・・・貴方がたは一体・・・。」
おれたちを順繰りに値踏みしながら、そんな風に離しかけてきた老人が、サラの姿を見止めて手に持った片手剣を取り落とした。
「ま・・・まさか・・・サラ様!?『銀髪の天女』サラ様!?」
老人の叫びに、襲われていた一同がざわめく。
サラは一瞬首を傾げるが、すぐにハッとした表情を作り、その見えない瞳で老人を見つめた。
「あなた・・・もしかして・・・カーデム?」
サラにカーデムと呼ばれた老人は、即座に「そうです!鼻垂れのカーデムですぞ!」と言って彼女の手を握り締めた。
サラは「ああ、カーデム。あの小さな坊やがこんなしわしわの手になって・・・苦労したんでしょう。」と涙を零した。
カーデム老人がハッとする。
「サラ様・・・まさか目が・・・。」
サラは涙を堪え、それを押し止める。
「カーデム。それは今はいいの。何が起きてるか教えてちょうだい?」
「はい・・・はい!わかりました!とりあえず・・・戦えるものは防衛の準備、非戦闘員は退避の準備だ。」
カーデム老人は、他の『法政官』と非戦闘員に指示を出してから、現在の状況を語り始めた。
「事態は昼過ぎから発生しております。『天尊』カルズダート三世様が、『正義神』ダイン様の神託を受け、神敵である邪教の信徒を討つ為に神降ろしの儀をなさると・・・。その為に純粋な天使族でない者を生贄にするとおっしゃ・・・。」
「なんだと?」
思わず口を挟んでしまうおれ。
だが今、絶対に聞き捨てなら無い単語があった。
「『天尊』カルズダートだかって奴は何者だ?」
急に雰囲気の変わったおれに、カーデム老人が明確な怯えを見せる。
彼は怯えながらも質問に答えた。
「こ、この国の現国王だ。」
おれの身体からオーラがだだ漏れな気がする。
アフィナがすっと寄ってきて、さっとおれの右手を握った。
「セイ・・・まず話聞こ?」
彼女の少し冷たい掌に、ちょっとだけ頭が冷える。
ふー、そうだな。
この老人を威圧しても仕方ない。
おれは「悪かった。」と謝り、続きを促した。
「余りの内容に王城が混乱を極める中、行方不明とされていたアーライザ様がお戻りになり、マルキスト様に何事か報告して倒れられた。その報告を聞いたマルキスト様が、『正義神』ダイン様の神殿に向かうと出て行ってから、天使族の様子が急変し天使族で無い者、特に獣人族の民を襲い始めたのだ。我々はマルキスト様の判断を仰ごうと、今まで非戦闘員を守りながら戦っておったのだが、やむおえず倒した天使族が緑の触手を生やし・・・これはまさか伝説の『封印されし氷水王』の呪いかと・・・。」
なんてこった。
事態は最悪の方向へ推移している。
「アーライザは?」
「わからん。安静にと、隔離したベットで寝かせていたのだが、いつのまにかおらなんだ。」
やばいな。
いやな予感しかしない。
アーライザもマルキストもまだ生きていてくれるだろうか・・・。
「それで貴方がたは一体?」
カーデム老人の問いは、サラが「味方よ。」とばっさりと切って捨てた。
そんな中、おれの金箱からキアラが飛び出してくる。
「セ、セ、セ、セイ様!サーデイン様が伝えたいことがあると!」
「サーデインが?なんだ?」
このタイミングでサーデインが・・・何をみつけた?
メモを必死にめくりながらキアラがしゃべる。
「聖典を検索していたら、まずいことがわかったって仰ったんです!何でも『封印されし氷水王』は何らかの制限で、一国の一種族を完全に支配下に置かないと、次の種族を対象にできないらしいんです!今、アーライザちゃんとサラ様が支配できていませんよね?たぶんサラ様のことをずっと探してたんですよ!二人を狙ってうまくいかなかったら・・・まず多種族の口減らしを始めるって!」
(原因はそれか!)
ちょっとタイミングは遅いが、確かに重要な情報だ。
カーデム老人が「ま、まさか!『見習い天使』キアラ様!?」とか口角から泡を飛ばしているがそれどころじゃない。
これは本当に急がないとまずそうだぞ。
「そ、そ、そ、それに!邪法らしいんですが、王族が子供を生贄に・・・それも苦しんで死んだ子供を生贄にした場合。20人程度で神降ろしができるらしいんです!」
「なんだとっ!?」
おれの仲間たち、及びカーデム老人の顔が青ざめる。
さっと非戦闘員の居る場所を振り返る。
居ない・・・子供が全然居ない。
サラが恐る恐る口を開く。
「カーデム・・・今、王城に居た子供は何人くらい?」
「ざっとですが・・・約30人・・・。」
くそったれ!!!
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