・第八十三話 『渦の破槌(ヴォーテックス・ブロウ)』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、また扉やで。
兄貴は何かに呪われているのだろうか・・・。
いや、変態の呪いは今は大丈夫。
箱の中で大人しくしてると思うぞ・・・おそらく・・・たぶん。
そりゃなにかしらの仕掛けがあるとは思ってたけどさ。
とりあえず扉に強化かけとけ・・・みたいなのって手抜きだと思うんですよ。
違うか。
天使族の空中防衛を、あんなにあっさり抜けると思わなかったんだろうな。
ごめん、おれたちがチートでした。
それはそうと、おれの『魔導書』の主張がすごい。
まるで読んでたように引いてくるな。
アフィナは言う。
「セイの『魔導書』って魔法のバッグみたい。」
魔法は魔法なんだろうがちょっと待て。
その発言は、某空の上にお城があったり、少女が降って来たりする・・・ぐ・・・頭痛が痛い。
いや、落ち着けおれ!
デビルドローは確かにどうかとは思うが・・・なんだか「こんなこともあろうかと。」な気持ちになってきたぞ?
■
「『不死鳥を追う者』ラカティス様も呼べたんだ・・・。」
呆然と呟くアフィナ。
あいつの、ギルド『伝説の旅人』への傾倒ぶりを振り返れば、まぁ頷けなくも無い。
むしろ、イアネメリラとプレズントを呼んでいる時点で気付いても良さそうなんだが。
「もしかして、他の方も?」とおれを伺うアフィナに、「ん、まぁな。」と端的に答える。
実際おれの『魔導書』には、まだ何人かギルド『伝説の旅人』の盟友が入っていた。
『蒼槍の聖騎士』ウィッシュ同様、VRに反応しなかった何人かを除き、少なくとも称号持ち・・・所謂ネームレベルと言われる盟友はほぼ網羅しているといっても過言ではない。
とは言っても、かのギルドに所属していたと言われるメンバー自体はそんなに多くないのだが。
それはともかく。
おれたちは今、不死鳥の懐に収まり悠然と空を舞っていた。
時速はそんなに出ていないはずだ。
体感20kmとかそのくらい。
もっとずっと早く飛ぶこともできるが、ラカティスは防御性能と攻撃性能を高めた事で、速度を犠牲にする選択をしたのだろう。
おれとしては彼の判断に全く異論が無かった。
急いでいるとはいえ、空の上というこちらが圧倒的に無防備な場所で、速度を優先したばかりに下手な攻撃をもらうのは避けたい。
ましてこちらには戦闘能力に不安が残るアフィナやシルキー、リゲル。
そして病み上がりのサラと言った弱点も抱えている。
敵勢力、おびただしい数の天使兵。
本来であればその程度の速度、追いつくも追い越すも簡単なことだろう。
しかし奴らは、まともに近寄ることすら出来ない。
それどころか隊列を組んで事に当たっていたはずなのに、すっかり混乱し本能にしたがってか逃げるように右往左往するものが目立った。
ぶっちゃけ思う。
大した信念も無く、『封印されし氷水王』に操られていると言える存在。
そんなものがこの圧倒的脅威の前に、平静を保てるはずも無いだろう。
中には果敢に特攻をしかけるものが居なくも無いが・・・。
ちょっとでもおれたちに近寄れば、あっと言う間も無く火だるまになる。
炎の塊と化した不死鳥の侵攻を妨げるもの、それらに与えられるのは等しく滅び。
浮き足立っていてもそれなりの意志力、使命感などは残しているのか、他の者より一回りサイズも羽根も大きな、隊長格と思われる固体が必死に叫ぶ。
「距離を取れ!弓と投擲で攻撃しろ!」
その言葉に慌てて従い距離を取る、『弓天使』や『戦天使』の面々。
一番数の多い『天使兵』よりは、かなり迅速な対応だ。
体勢を立て直し、構えたものから射撃、投擲を繰り返す。
矢のほとんどは不死鳥に届く間も無く空中で燃え尽き、何本か炎を掻い潜ることができた投槍も、一人懐ではなく己が守護者不死鳥の頭部に立っているラカティスが、長剣や盾を操りあっさりと叩き落す。
「あいつだ!頭部に乗っている男を狙え!」
その姿にまたもや大声で指示を出す隊長っぽい奴。
なるほど、将を射るにはまず馬からの逆って訳ね。
(それでも無駄だけどな・・・。)
「大将、全部落とすか?」
ラカティスは、イイ笑顔でおれにお伺いを立てる。
「深追いは良い。脅威度の高いのが居たら、優先して落とせ。」
おれが下した命令に「了解。」と一声告げ、長剣を一振り。
空中に浮かんだ炎の文字が、瞬く間に小さな火球に変わる。
それを手に持つ盾で一押し。
突如そのサイズを膨れ上がらせた火球が、爆散するように弾けとんだ。
そして弾けとんだ一つ一つが小さな針のように変化し、距離を取り弓や投槍の投擲で攻撃してきた天使たちへと飛んでいく。
威力はおそらくそれほどでも無いだろう。
ちょっと背景や性能が特殊とは言えラカティスは騎士であり、基本的に重歩兵型の近接盟友。
当然攻撃魔法に特化したプレズントなどとは比べるべくも無い。
しかし、彼の放った火の針。
その狙いは胴体や頭など、殺傷能力が高くとも鎧や兜に覆われた場所へではない。
正確に武器や羽根、手や足などの壊れやすい場所や、生身がむき出しの場所へ突き刺さる。
ほとんどの敵は一発二発で無力化されていくが、指示を出していた隊長っぽい奴には、特に念入り・・・無数の針が突き立てられている。
空中で羽根を打ち抜かれればどうなるか?
問うまでも無い、落下だ。
まるで弾幕系のシューティングゲームさながら、悲鳴を上げながら落ちていく天使たちを尻目に、おれたちは制空権を完全に掌握した。
■
「じゃあ大将、降りるぜ。」
「頼む。」
『天空の聖域シャングリラ』の王城、『総本山』と呼ばれるその一種異様な建造物。
複数の教会が寄り集まってできたような建物の、入り口と思われる広場を眼下に見下ろしている。
不死鳥はおれたちを抱えたまま、その広場へゆっくりと降り立った。
生き残った『天使兵』たちも、その姿を上空から眺めるしかない状態だろう。
飛び道具の使い手はとっくにラカティスに駆逐され、近付いて攻撃しようにも不死鳥が怖い。
おれたちには一種優しさすら感じられる不死鳥の炎だが、奴らにとっては地獄の業火も同じ。
そのことはここまでの道程でしっかりと証明されていた。
おれたちをふわりと地面へ降ろし、不死鳥が厳かな光に包まれる。
光が消えるとそこには、宙へ浮かぶ一人の美少女。
少女と言って良いのか微妙なのは、彼女の全身が炎でできているからだ。
「イーオ。ありがとさん。」
ラカティスは彼女を「イーオ」と呼び、その炎でできた身体を何でもないことのようにぎゅっと抱きしめる。
もちろんラカティスが燃え上がったりはしない。
イーオと呼ばれた少女は、精巧に出来た人形のように無表情ながら端正なその顔に、ほんの少しだけ照れたような表情を浮かべ「ん。」っと一つ頷いた。
彼女はラカティスの守護者、『不死鳥』のメルテイーオ。
イーオとはイアネメリラのメリラ同様、愛称なのだろう。
その時、入り口と思われる大きな扉を検分していたプレズントが、おれを振り返り声をかけてきた。
「マスター。少しまずい。」
「どうした?」
プレズントは黙って扉を指差す。
「あれ、魔法じゃ開かないよ。おそらく壊せないし。」
おれもその扉を観察する。
なるほど・・・『光の鎧』みたいに魔法無効化がかかった扉のようだ。
しっかり閂もかかっていそうだな。
また扉で苦労するパターンか・・・面倒くせぇ。
「サラ、何とかできないのか?」
「・・・ごめんなさい。無理ね。」
扉に触れて考え込んだサラが、非常に申し訳無さそうな顔で答えを告げる。
ふむ、もしかしてと思ったがだめか。
なら仕方ないな。
魔法がだめなら物理で壊そう。
「魔導書」
おれの周りに浮かび上がるカードは三枚。
すでに確認済みだったこともあり、当然の如くその中の一枚を選択する。
選んだカードは『渦の破槌』。
カードが光の粒子に変わり、おれの左腕に集まってくる。
青く変色した光の粒子は、不思議な魔法文字に変わり円環を三重に作り出し、回転を始める。
見るものが見れば一発でわかるその力。
「セ、セイ?どうするの?」
少々怯え気味のアフィナがおれに問う。
愚問だな。
「殴って壊す。」
告げられた内容に、おれの力を知っていながら絶句する面々。
相変わらずおれの盟友たちは、至極当然のような表情をしているが。
ラカティスに至っては「ヒュウ♪」なんて、口笛を吹いているくらいだ。
おれは半身で構え、最大限引き絞った左腕を扉に向けて叩きつけた。
ゴッガン!!
生身の拳から発生するとは到底思えない音を立て、おれの拳が扉に突き刺さる。
うん、『南天門』とは違い謎物質ではないが、明らかに鋼鉄製っぽい扉に自分の拳が突き刺さる光景はあんまり納得いかないね。
おれ人間だよ?
ちょっと遠い目をしたくなっている間に、青い魔法文字が螺旋を描きながら扉へ吸い込まれていく。
そして拳が突き刺さった部分から一気にひび割れが広がり、扉がまるで内部から破裂するかのように轟音を立てて爆発した。
おれが使った魔法『渦の破槌』とは、要は攻撃力強化魔法だ。
他の攻撃力強化魔法と違い、効果が一撃と言う何とも長期戦には向かない仕様だが、この魔法の最大の特徴は別の所にある。
そのテキストはこうだ。
【渦状の魔法文字が破壊力を増強する。特性「壁」「門」「扉」を持つ盟友や、『謎の道具』を一撃で破壊する。】
単純に言うと破城槌。
生身でやるのはどうかと言う意見に関しては、できるんだから仕方ないと言うしかない。
たぶん普通の攻撃魔法だと無効化されるんだろうが、この効果はあくまで特定の条件を満たした場合の破壊。
ゆえに問題なく壊せたのだろう。
「さすが「マスター。」「主。」「大将。」
おれの盟友たちは手放しで褒めてくるが、他のメンバーはドン引きである。
唯一見えていないサラだけが「何が起きたの?」と不安そうだ。
「よし、進むぞ。」
額にちょっとだけ汗を流しつつ、おれは先を促す。
「いやいやいや!セイおかしいでしょ?プレズント様が魔法無効化の扉って言ったじゃない!?」
『渦の破槌』の効果を知らないアフィナは、納得がいかないのだろう。
プレズントが、そんな彼女の肩をポンと叩き説明する。
「アフィナ君。今マスターが使ったカードは、壁や扉を一撃で壊すっていう魔法なんだ。普通は素手でやるものじゃないけどね?まぁ・・・そこはマスターだから・・・。」
その言葉に仲間たち全員(サラ除く)が生暖かい視線を向けてくる。
なんすか・・・。
アフィナがため息混じりに呟く。
「そのカードを都合よく引いてるって・・・セイの『魔導書』って魔法のバッグみたい。」
おい、そのセリフは色々とまずい!
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