・第八十二話 『裁断刀』
いつも読んで頂き感謝感激であります!
ブクマが作者の養分です!
評価もあるともっと育ちます!
すみません、仕事で疲れすぎててテンションがおかしくなりましたorz
※今回は三人称視点、その頃のシャングリラは・・・ってお話です。
昨日、活動報告にバレンタインSS載せてます。
是非覗いてやってください^^
少々時間は遡る。
セイが『不死鳥を追う者』ラカティス・サンシャインを呼び、彼の奥技『クリムゾンシャウト』によって王城へ突貫をかける少し前。
細く長い本当に綱渡りのような道を潜り抜け、やっとの思いで男の下へたどり着いた、戦天使の女。
傷だらけの彼女が、それでも必死に語ったこの国の真実。
その男が話を聞いた時、すでに事態は取り返しの付かない局面へと進んでいた。
カッカッカ!
彼は走っていた。
靴音も高らかに、呼び止める人族の文官たちには目もくれず。
混乱を極める王城の中を、阿鼻叫喚の渦を今はひたすらに意識の外へ向け。
身体能力強化の魔法を、何重にも重ねがけしたその脚力は、すでに常人の域を遥かに逸脱している。
翻る純白だったはずの神官服はすでに、大量の得体も知れない緑色の粘液を張り付かせていた。
彼は切り結んでいた。
『天空の聖域シャングリラ』の王城、その最深部と言われている『正義神』ダインの祭壇へ向けて、その類稀な戦闘能力で、立ち塞がる天使族へ致命傷を打ち込み、あっさりと無力化しながら。
普段の彼を知るものならば、到底考えられない事。
両手に二本、抜き身の長剣を構えている。
「バカな事を・・・!」
彼は怒っていた。
それは相手にか・・・それとも今まで気付けなかった自分自身へか・・・。
再度現れた天使兵が問答無用、突然手に持った槍を突き出してくる。
その刃先にはべったりと赤い物・・・血だ。
兵士の肩越しに見えたのは、もう二度と動かない幼子と、それを守るように蹲り、庇ったのであろう幼子共々、串刺しにされた女・・・。
母子の種族は獣人種、おそらくは犬系の獣人だったのだろう。
彼は一瞬でその全貌を把握すると、手にした剣を一度ずつ振るう。
それだけで槍を持った天使兵は三枚におろされた。
彼の名は『裁く者』マルキスト。
この国の軍事最高責任者にして右大臣。
そして、『天空の聖域シャングリラ』の最高戦力。
マルキストは想起する。
今は亡き師に、ずっと言われてきた。
『法政官』のトップ、『裁く者』は常に両者の意見を吟味すべし、決して冤罪を良しとするな。
自身をことのほか気に入り、良くしてくれた前王には病床で懇願された。
どうか息子を・・・『天尊』カルズダートをよろしく頼むと。
「もうだめだ。師よ、私はこれを看過できない!」
マルキストは決意した。
今からでも遅くは無い。
自分は後世に語り継がれる背信者と言われても、かまわない。
先代である師や、更に言えば自分を推挙してくれた前王、世話になった・・・或いは己を慕ってくれた人々の顔が、一瞬脳裏を過ぎる。
だがそれを頭を振って振り払う。
今までずっと・・・そうやって日和見を続けた結果が・・・この事態だ。
これを見過ごせばそこで、己が魂が曇ってしまう。
■
ドガァッ!
半ば蹴破るようにマルキストが、『正義神』ダインの神殿とされる部屋の扉を開け放った時、その光景が目に入る。
中央にウララが封じられた巨大な結晶。
その前には、こちらに背を向けて佇む八枚羽根の天使族。
横には同様に、こちらへ背を向けて立つ三枚羽根の有翼種。
床には淡く光る魔方陣。
そして・・・胸にぽっかりと人の握り拳くらいある穴を開け、完全にこときれているとわかる獣人族が数人。
信じられないほどむせ返るような鉄の臭いと、魔法陣に吸い込まれていく大量の血。
その血の上でもがく、傷だらけで無残に痛めつけられてはいるが辛うじて生きている、極少数の子供たち。
マルキストの目の前が真っ赤に染まった。
「ふ・・・ふざけるなっ!なにをやっている!」
思わず迸った彼の闘気。
莫大な怒気を孕み光属性の魔力を伴ったそれは、精神の弱い者ならば、感じた時点で気絶するほどのものだ。
事実、傷つきもがいていた子供たちが意識を失う。
しかし、その決然たる闘気を叩きつけられた当の本人たち。
この国の現国王『天尊』カルズダート三世と、『聖域の守護者』ティル・ワールドは微動だにしない。
ちらりとお互いを見た後、小声で何かを囁きあっている。
その様子に、更に頭に血を上らせたマルキストが叫ぶ。
「なにをやっていると、聞いているんだ!」
ズガッズガッ!
淡く光る魔方陣の端へと、手に持った剣を突き立て、強引に術式を乱す。
そこでやっと二人は振り向いた。
ティル・ワールドは、その灰色の髪から少しだけ覗く瞳で、招かざる闖入者をじっと見つめる。
カルズダートが実に気だるげ、そして面倒くさそうに口を開く。
「マルキスト、邪魔をするな。神気が逃げる。扉を閉めてとっとと出て行け。」
用事は済んだとばかりに背を向けようとするカルズダートに、マルキストはその迸る怒気を隠そうともせずに吼えた。
「ばかも休み休み言え!こんな愚行を放っておけるか!貴様らはなにを企んでいるんだ!」
その言葉にティル・ワールドが、その手に持つ杖を構え不穏な空気を醸し出した所で、カルズダートはそれを手で制す。
そして盛大にため息。
「マルキストよ。貴様の不敬な態度に対しては、後ほど正式に罰則を与える。とにかく今は邪魔だから出て行け。これは王命だ。」
実に不愉快。
そんな態度が見て取れる。
だが、そんなもの・・・王命などと今更言われても、マルキストは納得しない。
彼の心は最早、『天尊』カルズダート三世を王とは認めていないのだ。
「何度も言わせるな。何をやっていると言ってるんだ。」
普段の彼が取っている態度は、いかにも昼行灯・・・。
そこにはそんな姿は微塵も感じられない。
そのマルキストの様子に、カルズダートは「ふー、やれやれ。」と、これ見よがしに嘆息してから吐き捨てるように言った。
「知れたこと。我らが『正義神』ダイン様を召喚するのだ。本来ならば邪教の信徒を使って完全召喚したものを・・・。神敵が迫っている現在、そう悠長な事も言っていられないだろう?ダイン様を我が身に降ろすことにしたのだ。」
■
マルキストは耳を疑った。
『正義神』ダインを自身に降ろす?
この方法で?
如何に多種族とはいえ自国の国民を、ここまでむごたらしい生贄にしてやる事がそれ?
気は確かか?と言わざるおえない。
「邪神の間違いじゃないのか?」
思わず口にした瞬間、マルキストの身体は宙を舞っていた。
数m吹き飛んだ彼が、壁に激突して止まる。
ぶつかった反動を利用して、あっさりと立ち上がるが肋骨の何本かは持っていかれた。
今は身体能力を強化しているからそれほどでもないが、切れたときには想像を絶する痛みがやってくるはずだ。
「さすがにそれは聞き捨てならんな。ティル・ワールド、奴を拘束しておけ。」
「御意。」
この国の最高戦力、更には『予知』という戦闘において絶対的強者であるマルキストでもってすら、認識の範囲外から放たれた魔力塊。
右手を掲げ、それを放ったままの姿でティル・ワールドに命令を下すカルズダート。
答えたティル・ワールドが、即席の拘束魔法陣をマルキストの足元に展開する。
マルキストはこの国の至宝『裁断刀』ゲイルを、背中の鞘から抜き放った。
魔方陣へ向けてゲイルを突き出すと、あっさりと瓦解する拘束魔方陣。
ゲイルには刀身が無い。
しかし、魔を払い邪を砕く性能はピカ一。
低級や即席の魔法など、この魔剣の前には塵も同じだった。
「チィッ!厄介よの。」
憎々しげにマルキストをねめつけるカルズダート。
ティル・ワールドも、さすがに手を出しかねるのか様子を伺っている。
呼吸を整えながら、改めて状況を確認するマルキスト。
(さっきまでの、身を焦がすような怒りはどこへ行ってしまったのか?)
マルキストは、驚くほど冷静になった自分を感じていた。
自分のできること、今すべきことを照らし出す。
一番はウララを助けることだろう。
だがそれは、どう考えても難しい。
『晶柩』クラスの封印魔法には、さすがのゲイルも弾かれる。
なにより彼とウララの間に陣取る二人が、それを黙って見過ごすなどあり得ない。
生贄の人々を救っても同じだろう。
根本を解決しなければ、すぐにまた同様の犠牲者を増やすだけだ。
それに今の傷ついた身体では、助けた人々を到底守り抜く自信も無かった。
(ならばできることは一つ!)
この邪悪な魔方陣を破壊する。
先ほど普通の長剣でも術式を乱せたことから、規模こそでかいが強度は脆いと当たりをつけ、即座にその方向で動こうとしたマルキスト。
しかしそれはティル・ワールドが懐から持ち出した小瓶。
更に彼の告げたセリフによって不発に終わる。
「良いのか?籠の鳥が死ぬぞ?」
「なんだとっ!?・・・ア、アーライザ!」
傷つきながら自分に窮地を告げた天使族の女、更に数人のぐったりとした獣人族が、まるでフィギュアのようなサイズになって小瓶の中に入れられていた。
マルキストの動きが止まってしまう。
それを宙に浮かび、満足げに見下ろしたカルズダートが、自身の頭上に何本もの光の槍を産み出した。
そしてゆっくりと右手を掲げる。
「どこまでも・・・どこまでもぉ!これのどこに正義があるんだぁ!」
叫ぶマルキスト。
カルズダートが光の槍を、マルキストへ向けて放とうとした瞬間。
ズドンッ!
突然の衝撃に、王城が激しく揺れた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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※いよいよシャングリラ編もクライマックスですぞー!
みなさんどうか飽きずにお付き合いくださいー!
次回はセイ視点です。