・第八十一話 『不死鳥を追う者(フェニックス・シーカー)』
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ブクマ、励みになります。
※次回は三人称視点、シャングリラ側を描写する予定です。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、いよいよだ。
兄貴はこの国の暗部に乗り込むぞ。
夜に行くのかって?
そうだな・・・確かに夜は不利な面もあるよな。
だけどそこはそれ。
こんだけ闇、闇言われてたら自分でもわかるさ。
たぶんだが、おれには夜間戦闘が向いている。
もちろん第一目標はウララの救出だが、話はそう単純じゃない。
見つけたー、確保ー、開放ーとは行かないだろう。
今までも大概だったが、王城に乗り込んでからだって、『封印されし氷水王』、『聖域の守護者』ティル・ワールド、『正義神』ダインと、大物が待ち構えていると見て間違いない。
おれたちが『地球』に戻るための魔法、『回帰』のことも絡んでくるだろう。
サーデインが言ったとおり、隠密行動はとっくに諦めたさ。
ここまで来たらむしろ・・・ドでかい花火を打ち上げてやんよ。
■
魔力譲渡が終わり、少しだけ休憩。
いよいよサラが『南天門』を開こうとした所で、アフィナが思い出したように言った。
「セイ、竜君には?」
そうだな・・・。
結構長い間連絡を取っていない。
この先はいよいよ無理だろうし、今のうちに話を通しておくか。
おれは『図書館』から『吹雪竜帝』のカードを取り出し、『念話』を送った。
【竜兵、聞こえるか?】
【セイ殿ー!アフィナは、アフィナは無事なのかっ!?】
そこに答えたのは竜兵ではなく、爺様エルフの大声。
うん、孫大好き爺さんにジョブチェンジしたヒンデックですね。
つーか、またかよ!
おれは無言でアフィナにカードを手渡した。
今回は早い。
約一分ほどで、「もう!いい加減にして!」と怒鳴ったアフィナが、おれにカードを返す。
おれは苦笑しつつもカードを受け取った。
【竜兵か?】
【セイ殿・・・アフィナは反抗期なんじゃろうか・・・?】
ちょっと涙声で、そんなことを言うヒンデック。
おいアフィナ、ちゃんと竜兵に交代させてから渡せ。
【・・・まぁ、必ず無事に返すから、大人しく待っとけ。】
【むぅ・・・くれぐれも、くれぐれも頼みましたぞ!】
あれ?なんかおれ、誘拐犯みたいなセリフになってない?
もう本当にめんどくさいわー、この一家。
心配なのもわかるけどさ。
相手が竜兵に代わったのがわかった。
【アニキー!無事ー!?】
【ああ、なんとかな。これからいよいよ、『天空の聖域シャングリラ』の王城に乗り込む。それでちょっとだけまずいことになってな。この先しばらく連絡が取れそうに無い。】
【まずいこと?】
訝しむ竜兵に、おれは事のあらましを語った。
全て(重要でない部分は省いてだが)を聞いた後、竜兵はこんなことを言った。
【アニキ、ウラ姉を・・・ううん、ウラ姉だけじゃなくて、サラ姉ちゃんもマルキストもアーライザもだね。助けてあげて。アニキならできる。違うね、アニキにしかできない!】
竜兵の言葉を自分の中で反芻してみる。
驚くほどすんなりと出された結論。
その覚悟はすでに、おれの中に存在していた。
思えばあの日アフィナにも言った、「自分の手が届く範囲なら助けてやる。」これはきっと・・・。
最早おれの信念と言えるかもしれない。
ここは異世界。
出来る限り身内以外との接触を避けてきた『地球』とは違う。
この世界は悲しみが溢れていて、幸い今のおれには力がある。
理由もわからない今だけの仮初めの力だったとしても、おれの手が届く範囲なら全力を尽くすのに躊躇う必要も無い。
やっぱり竜兵と話しておいて良かった。
アイツは本当にこの世界で、一回りも二回りも成長したんだな。
【竜兵、ウララは必ず連れて帰る。この国の奴らも助けてやるさ。帰ったら、から揚げパーティだ。腹空かせて待ってろよ!】
【アニキ・・・さすがおいらのアニキだ!最っ高にカッコいいや!】
【おれを誰だと思ってるんだ?『悪魔』のセイだぞ。じゃあまたな!】
そう言って、竜兵との会話を打ち切った。
少し悪ノリで、厨二っぽくなったおれを許してくれ。
この日の『念話』は、おれと竜兵だけの秘密だ。
■
「終わったの?」と尋ねてくるアフィナに首肯を返す。
こいつもヒンデックの元に無事に返してやらないとな。
しかし将軍級下位程度の実力で、良くもまぁここまで付いてきたな。
「疲れた。」だの「辛い。」だのは絶対言わないし・・・よっぽど使命感が強いのか。
思わずそんな風に考え見つめてしまう。
「な、なに!?」と慌てるアフィナの頭をポンポンと撫で、「何でもない。」と背を向けた。
「じゃあ開けるわよ?準備は良い?」
『南天門』の前に立ち、問いかけるサラに「やってくれ。」と返す。
そしてサラが、人間には聞き取れない言語で詠唱を始める。
謎物質でできた『南天門』全体が淡い燐光を放ち、ゆっくりと扉が開き始めた。
全部開け放つ必要も無い。
人が二人並んで通れるくらいになった所でおれは、「行くぞ。」と仲間たちに声をかける。
「了解。」とか「承知。」とか、各々返答を返しながら、おれたちは遂にその門を潜り抜けた。
「・・・うわぁ・・・。」
最初に引きつった声を漏らしたのはアフィナ。
気持ちは分かる。
目の前には断崖絶壁。
そして斜め前方に悠然と浮かぶ、小島とは言えないレベルの巨大な岩塊。
その岩塊と崖を繋ぐように、何本も渡されたぶっとい金属製の鎖。
それは風景。
昼間ならきっと、雄大な景色と称せる類の物だろう。
問題はその崖と岩塊の間、夜空に浮かぶ羽根、羽根、羽根。
正におびただしい数、100や200じゃ到底きかない数の天使族が、隊列を組んで待ち構えていた。
パッと見でわかるのは、普通の槍持ち『天使兵』の中に、『弓天使』や『戦天使』が巧妙に紛れ込んでいること。
「ど、どうするのセイ?」
目に見えて怯えたアフィナが聞いてくる。
「まぁ想定の範囲だな。一番ありえるだろうと思ったパターンだ。」
おれは全く動じて居ない。
本当にこのパターンが一番ありそうだと思っていたんだ。
無駄と知りつつも、一応言うだけの事は言っておく。
「おれはセイ。『天空の聖域シャングリラ』の王城に用がある。これは『四姉妹』の次女、『銀髪の天女』サラも認めていることだ。素直に通すつもりはあるか?」
おれの言葉に返ってきたのは、『弓天使』の放った矢だった。
見事におれの顔を狙って撃たれた矢の、側面を拳で殴りへし折る。
「マスター、どうやら無駄みたいだね。焼く?」
プレズントが簡易の魔力壁を張り、おれの隣に並び立つ。
ロカさんが逆側へ。
おれたちの後ろに庇うように他のメンバー。
リゲルの背にはアフィナと、まだ歩くのに難儀しているサラ。
シルキーにはあえて人間モードのままで居てもらっている。
「いや、高火力の魔法カードが手札に無い。」
おれはプレズントの問いかけを否定する。
こんな圧力の中、如何に空中を走れるとはいえ、リゲルとシルキーの背に揺られ、ぽっくりぽっくりと進軍するわけにもいかない。
高火力の魔法カードが無い以上、いくら紋章で代用できるとは言え、プレズントに任せきるのも危険。
ロカさんの『魔霧』も敵に分散されれば効果が薄い。
方針はすでに決まっていた。
『南天門』を潜るとき、そのカードを引いてきたのはおそらく天啓。
「魔導書」
おれの周りに五枚のカードが浮かび上がる。
その内の一枚を見て、障壁で矢を弾き続けるプレズントが得心した。
「なるほど。彼を呼ぶんだね。」
おれは首肯で答え、灰色のカードを一枚炎の紋章三つに変換。
光を放つカードを選択し、召喚の理を唱えた。
『伝説の旅を続けし者、不死鳥の舞に魅せられし者、我と共に!』
金箱の蓋が開き、辺り一面が金色の光に包まれる。
「よぉ大将!やっと俺を呼んでくれたか!」
いかにも男くさい声でそう言いながら、光を割って現れたのは、こげ茶色の髪と赤い目の身長2mほどはある人族の男。
見た目は三十代後半。
まるで『蒼槍の聖騎士』ウィッシュとは対になるような、真紅の金属鎧を着込み、同じく真紅の長剣と盾を持った騎士だった。
彼の名は『不死鳥を追う者』ラカティス・サンシャイン。
50年前の戦争で滅んだ小国、『トリニティ・ガスキン』の騎士だった男だ。
戦時中、彼を守るために身を呈した事で散った、己が守護者の不死鳥。
その転生体を探して放浪していた所を、ギルド『伝説の旅人』に保護され、その後幾多の冒険を経て、やっと己が守護者を見つけ出したとテキストにはあった。
彼はプレズントとグータッチすると、おれに向けて「で、どうする大将?」と、聞く。
おれは一つ頷き、指示を出す。
「ラカティス、正面突破だ。頼むぞ!」
ラカティスはおれの言葉を聞いて、「了解!」と答えニカっと笑った。
彼が長剣を抜き放ち、鋭くも華麗に振るうと・・・空中に炎で出来た文字が生まれた。
その文字を盾で一押し。
「『接続』!」
ラカティスの言葉に応じ、空中に浮かぶ炎で出来た文字が魔方陣に変わり、そこから身の丈10mほどの不死鳥が現れた。
キュルァァァ!
不死鳥は一声鳴くと、その巨大な羽根でおれたちを優しく包み込む。
おれやプレズント以外の面々は大いに慌てるが、少しして静かになった。
炎で出来ているはずの羽根は、まったく熱さを感じずむしろ心地よいくらいだ。
おれたちを抱えたまま、重力などまるで感じさせずに浮かび上がる不死鳥。
その頭部には、ラカティスだけが乗っている。
「大将、出し惜しみ無しで良いんだよな?」
ラカティスの問いに、「全開で行け!」とおれは答える。
もう一度ニカっと笑ったラカティスが吼えた。
「クリムゾンシャウトー!!!」
その咆哮に合わせて、不死鳥が炎の塊へと変化する。
そしてそのまま・・・敵天使の群れを巻き込みなぎ払いながら、王城へと向けて飛翔した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
※前話ですが・・・ごめんなさいorz
間違って下書きを投稿するという痛恨のミス。
今日清書の方を再投稿しましたので、よろしければそちらを・・・。
お詫びと言う訳でも無いですが、活動報告の方へバレンタイン特別SSを載せます。
是非覗いてやってください。
SSと言いながらいつもと変わらない分量・・・。
いつもよりコメディタッチで書いたつもりです。
「いつ自分の作品が、コメディでないと勘違いしていた・・・!」
な、なにか聞こえましたがキノセイのはずです!