・第七十八話 『銀髪の天女』
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※2/18 誤字修正しました。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、不思議な事ってあるもんだ。
兄貴は今日、高さ約1m程の穴に吸い込まれました。
その吸引力も当社比何倍よ?って話だけど、1mの穴に身長180ちょいのおれが吸い込まれていく姿は、傍から見たらなかなかシュールな光景なんじゃなかろうか。
いや、「ファンタジー」で済ますのは簡単なんだけどさ。
色々と釈然としないぞ、実際。
まぁ当然の如く、その先には驚きが待っているわけだ。
たった1m、人が屈まなければ到底通れない玄関を抜けると、なんということでしょう。
そこには驚きの広さを誇る、真っ白な空間。
壁や天井を一切取り払った開放的なリビングは、一体何処まで広がっているのでしょうか?
まったく先が見通せません。
少し進んでみましょう。
おや?あれはなんでしょうか。
中央部に見えるのは匠のこだわりでしょうか?
なんだかぼんやり光る魔方陣の上、美女がぐったりしていますね。
魔方陣?美女?ぐったり???
・・・落ち着こう。
一瞬劇的な何かが脳内再生されたが・・・。
■
意識を失ったと思ったのは、どうやら本当に一瞬だったらしい。
咄嗟に周りを警戒する。
そこは・・・。
まるで『双子巫女』セル・ネルに連れられて訪れた、『カードの女神』が居た部屋のような空間。
壁も天井も見当たらず、白い地平線がどこまでも広がっているような場所だった。
ふと気付く。
「ロカさん!?」
「主!無事であるか!?」
良かった。
ロカさんは無事だったようで、おれの頭の上にしがみついていた。
二人顔を見合わせ、もう一度辺りを見回す。
「セ、セ、セ、セイ様!私も居ます!」
そうか、箱の中に居たんだったな。
おれの金箱から、上半身を出したキアラに思わず苦笑が漏れる。
「さて・・・ここはどこなんだろうな?」
「むぅ・・・光属性の魔力が強い空間であるな。我輩には少し辛いのである。」
ふむ、ロカさんと相性の悪い光属性の空間か。
「キアラは何か知らないか?『南天門』にこんな空間が繋がっているとか・・・。」
おれの問いかけにキアラは、申し訳無さそうに頭を振った。
(情報は無し・・・か。)
まぁこうしていても仕方ない。
入り口だったと思わしき鍵穴はすでにどこかに消えているし、とりあえず探索してみるしかないだろう。
幸いロカさんが付いて来てくれていることだしな。
如何に空間との相性が悪いとは言え、そう簡単に遅れを取るような事も無いだろう。
「とりあえず・・・歩いてみるか。」
おれは念のためロカさんに魔力を譲渡。
戦闘モードの2mサイズになってもらい、揃って歩き始めた。
怪しいもの・・・と言うか、本来ありえない物を見つけたのは意外とすぐだった。
時間にしたらほんの二、三分だろう。
青色に淡く燐光を放つ大型の魔方陣。
直径5,6mはあるんじゃないだろうか?
その中央部に一人、天使族の女性が所謂女の子座り、両足を揃え正座を崩した形で座っていた。
眠っている感じではないが、その両目はしっかりと閉じられている。
遠目からでもわかる、明らかな美女だった。
それこそ絶世の美女であるイアネメリラと比べても遜色が無いほどに。
判断基準にするのもどうかとは思うし、実際問題系統が違うのだから甲乙も付け難いのだが。
年の頃は20代後半?30には達していないだろう。
驚くほど白い肌に、自身の身長より長いであろう銀髪、左目の下にある泣きボクロが何とも色っぽい。
そして背中に見える羽根も同じく銀色で、枚数は三枚・・・。
そんな美しい彼女を見ても、ほとんどの男が感じるのは情欲ではないだろう。
ただ、痛々しい。
そう思うだけだ。
何故なら彼女は、完全にやつれていた。
驚くほど白い肌も病的なそれであるし、本来なら絹のような質感であろう銀髪も、まるでくすんだ色合いをしている。
そして何よりその翼。
彼女の羽根は六枚だったのだろう。
その片側が根元から完全に断ち切られ、残りの三枚も傷だらけ。
「主・・・。」「ロカさん・・・。」
二の句が告げない。
一体これは何だろうか?
おれとロカさんが困惑ひとしおで顔を見合わせる中、彼女は肩で息をしながらも、おれたちの存在を感じ口を開いた。
「強大な闇属性の魔力が二つ・・・。とうとう私を・・・殺しに来たのね。」
■
おれもロカさんもどうしていいかわからず、思わず揃って首を傾げる。
彼女はひどく勘違いしているようだ。
大体にして誰かもわからない相手を殺しになど、ましてここに来たこと自体が不測の事態だったんだが・・・。
逡巡した束の間に、彼女の長い銀髪がまるで生き物のように、もしくはさざ波のように蠢きだした。
その顔が苦痛に歪む。
おい、大人しくしとけ。
「私は殺されるでしょう。それでも、ただでは死ねません。先に逝った、姉妹たちの為にも!」
そう言って、決意も新たにおれたちへ向けて、その長い銀髪を振るう。
本来の量からはありえないような数、銀色の錐が鎌首をもたげた。
全ての錐が一斉に向かってくる。
その時。
「も、も、も、もしかして!サラ様!サラ様じゃないですかっ!?」
キアラが叫びながら箱から飛び出した。
おれたちに襲い掛かる寸前だった銀色の錐が、空中でピタリと止まる。
「そ・・・その声は・・・まさか!キアラちゃん!?」
「サ、サ、サ、サラ様ー!私です!キアラです!」
突然起きた再会。
サラと呼ばれた美女の胸に飛び込むキアラ。
おれの意識は『地球』のカードゲーム『リ・アルカナ』を検索していた。
(サラ・・・サラ・・・銀髪・・・?)
「思い出した・・・。『四姉妹』、『銀髪の天女』サラだ。」
50年以上前に、行方不明になったと言われている『四姉妹』の次女。
VRには反応せず、ウララが使っていなかった最後の一人だ。
「・・・貴方は・・・?」
そう言っておれに顔を向け、初めて目を開くサラ。
その銀色の瞳には・・・光が見えなかった。
「お前・・・目が?」
そういえばキアラに反応した時も、「声」にだった。
ハっとした表情になり、彼女の身体を省みたのだろう、慌てて離れようとするキアラを、優しく抱きしめるサラ。
「サラ・・・様・・・。」
「いいのよキアラちゃん。私たちの可愛い末っ子。生きて・・・いたのね。」
そう言って、光の無い相貌からはらはらと涙を流す。
「可笑しいわね。涙なんてとっくに枯れ果てたと思っていたのに・・・。」
そんなサラの胸元に頭を付けたまま、キアラも「ごめんなさい。」と何度も謝りながら泣き出した。
サラはキアラの頭を優しく撫でながら、「謝ることなんて無いのよ。」と慰めているが。
くそっ・・・思わずもらい泣きしそうになって、視線を上へ向ける。
キアラが謝ってるのは・・・。
「サラ様・・・私、もう死んでるんです。」
「・・・え?」
■
「そう・・・そんなことがあったのね・・・。」
キアラに簡単な説明を受け、呟いたサラは酷く寂しそうだった。
生きていたと思ったキアラが、実際にはとっくに死んでいた。
それに彼女のセリフから考えても、ウララが彼女以外の『四姉妹』を使役していた事から考えても、100%他の姉妹は死んでいる。
そして彼女の傷ついた姿。
カードに描かれていたサラは、もっと健康的な姿だった。
まして「盲目」なんて記述は、どこにも見当たらなかったはず。
一体彼女の身に何があったのか。
それはおそらく、彼女たち『四姉妹』が行方不明になった50年前の何かに起因している。
きっと『封印されし氷水王』も関係しているんだろう。
逆に・・・ロカさんが少々辛いと言うような光属性の空間で、『感染者』などとは到底考えられない。
彼女は白だろう。
「キアラちゃん。そちらのお二人を紹介してくれる?どう見ても、闇属性のように感じられるのだけれど・・・。」
見えなくても属性は感じられるらしい。
逆に見えないからこそ鋭敏に何かを感じ取れるのか?
勘違いしていた先ほどとは違い、今現在おれたちに敵意が全く無いのも分かっている様だ。
「こちらのお二人は異世界の魔導師セイ様と、セイ様の使役されている『幻獣王』ロカ様です。」
キアラの紹介に驚愕するサラ。
「異世界・・・転移?それに『幻獣王』・・・。」
困惑するサラにおれは、本当にかいつまんでざっくりと、今までのことを説明する。
「サラ、聞きたいのは二つ。『南天門』を開けるか?それと・・・お前をこんな姿にしたのは誰だ?」
おれの問いに一つ頷くサラ。
「『南天門』は私が開けるわ。この空間から出ないといけないけれど。そしてもう一つの問いへの答え。私を・・・いいえ、私たち『四姉妹』を罠にかけ、殺害したのは・・・。」
そこで一旦、言葉を切り深呼吸。
その姿を見て、背筋にザワリと悪寒が走った。
とてつもなくイヤな予感がする。
「『天空の聖域シャングリラ』の守護神、『正義神』ダインよ。」
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