・第七十七話 『南天門』
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※2/10 書き漏らしがあったので加筆しました。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、割り切れない事ってあるよな。
兄貴もそれはわかる。
たとえばどうだろう。
君の両親が、美祈を置いて先に逝ってしまったこと。
当人たちからすれば、「事故だった。運が無かった。」と、それまでの話かもしれない。
だけど君にとっては違うよな?
言うなればあの日その戦場に行っていなければ・・・もっと言えば、両親が戦場カメラマンとジャーナリストなんて職種で無かったら。
所詮たらればの話とは言え、それが叶うなら・・・君の涙はもっと少なかったはずなんだ。
あの事が無ければおれと君の出会いはもっとずっと先、もしかしたら全然接点が無かった可能性だってある。
それでも・・・お門違いかもしれないが、おれはそれが未だに許せない。
でもそれってきっと、おれたちだけじゃないんだよ。
この世界の住人だって、現実に生きている。
おれの盟友たちだって生きていたんだ。
そんな単純なこと、また今日も思い知る。
■
『雲の高見台』を通過し、更に一日が過ぎた。
今のところ襲撃は無い。
時刻はもう昼下がりと言って良いだろう。
上空から降り注ぐ陽光が、それなりに体力を削ってくる。
自分の足で移動している訳ではないおれやアフィナ、プレズントはそうでもないが、シルキーとリゲルは元より、ロカさんにも少々疲れが見える。
ロカさんの場合はその存在により、陽光自体が得意じゃないんだろう。
箱の中に入ってもらえたら多少マシなんだろうが、もし襲撃があった時にどうしてもタイミングが遅れそうだしな。
すでに目的地、『南天門』は目視が適う距離にある。
これ以上は急いでもそう変わらないだろう。
おれはシルキーの背から降りた。
「少し歩こう。」
おれの言葉に全員が頷き、アフィナとプレズントも地に降りた所で速度を緩める。
見た感じゆっくり歩いても一時間はかからない距離。
少し感じた違和感を解決しておこう。
おれの隣に並んだプレズントへ、静かに声をかける。
「で・・・本心は?」
「・・・ん?マスター、何の事?」
チラっと伺った横顔に浮かんだ驚愕。
言葉を一瞬詰まらせ、慌ててとぼけたことでバレバレだった。
「まぁ・・・話したくないなら良いんだけどな。おれには正直、あれが冗談だったとも、お前がただの火力バカだとも思えなかった。それだけの話だ。」
思ったことを正直に伝えてみる。
プレズントは盛大にため息をついた。
「マスターには敵わないなぁ・・・。自分の事には鈍なのにね?」
そんな事を言いながら一つウインクする奴に、おれは憮然と言い放つ。
「失礼な、おれは鈍じゃない。」
おれたちの会話を聞くとはなしに聞いていたんだろう。
他のメンバー、特に女性陣が「すわっ!」とおれを二度見する。
なんだお前ら・・・。
そんなおれたちの様子を見ながらプレズントは、いつものさわやかスマイルではない、どこか憂いを帯びた笑顔を作った。
「まぁバレちゃったみたいだから正直に言うよ。」
そうして彼が語ったのは、こんなことだった。
「天使族を見ると・・・20年前のワンシーンが蘇るんだ。阿鼻叫喚の地獄の中、あざ笑うように人々を殺す三枚羽根の翼人。ウィッシュと二人で・・・いや、ギルド『伝説の旅人』で守ろうとした全てが、閃光に沈んだあの日を。地面に這いつくばってウィッシュの背中を眺めたこと。自分の無力さに絶望したこと。これはきっとトラウマと言うか・・・強迫観念みたいなものかな。」
なるほどな。
イアネメリラ同様、プレズントも最期の日を覚えていたって事か。
「復讐・・・でも、したいのか?」
おれの問いにプレズントは、「まさかぁ。」と手を広げ、所謂「お手上げ」のポーズ。
「無意味だよ・・・。失った命も時間も、絶対に返って来ない。でも・・・同じようなことが起きようとしてるなら・・・今度は止めたい。」
「そうか・・・。」
言葉は続かない。
プレズントの独白と、おれの短い相槌以外は誰も話さない。
「マスター、幻滅しちゃったかい?最強の火魔術師なんて言われてたって、所詮20そこそこの若造なんだよ・・・。」
プレズントが命を散らしたのは、20歳そこそこ。
平和な『地球』の日本で言えば、それこそやっと大学卒、もしくは社会人になって数年くらいの歳だ。
この世界の成人が『地球』のそれよりもずっと早いとは言え、まだまだ若造と言うのもわからないでもない。
『永炎術師』なんて大層な称号を持ち、世界最強の火魔術師なんて言われていたとしても・・・違うな。
そう言われていたからこそ、守りたかった物を守れずに力尽きた時、その無念は如何ほどか。
「それを言ったら、おれなんてまだ17のガキだ。」
自嘲気なプレズントに、慰めになっているのかわからないような返答。
少しだけ驚いた顔の彼が、「それもそうだったね。なんでかな、マスターとは、随分長いこと一緒に過ごしたような気がするんだ。」と言って、微笑んだのが印象的だった。
■
その後、何となく皆押し黙ったままで歩き続け、程なく神々の通用門『南天門』へとたどり着いた。
道中、いっそ不気味なほどに襲撃は無く、否応無しに緊張感を高められる。
おそらく決戦は彼の国、もしくはそれこそ王城ということなんだろう。
それはともかく。
(うーん、でかいな。)
その門を見た時に思ったのはそんなこと。
神々の通用門って言われるくらいだから、それなりにでかいとは思っていたが。
確かにこのデカさなら、『自由神』セリーヌくらいの身長があっても余裕で通過できそうだ。
全高10mと聞いていたから、三階建ての建物くらいを想像していたが、どうやらその神々しさというか、威圧感と言った類の物で実際より大きく見えてしまうようだ。
「しかしこれ・・・どうしたもんか。」
力づくで押そうが、魔力を流そうが全く開きそうな気配は無い。
そのうえ目測で大体8mくらい?
一般的な二階建ての建物の屋上くらいの場所に、これまた巨大なノッカーが二つぶら下がっているが、とてもじゃないが普通の人間が届く位置じゃない。
大体にしてだ。
ノッカー叩いたからって開けてくれる訳無いし。
いや、それなら何の為のノッカーよ?と言いたい。
正直途方に暮れるおれ。
プレズントじゃないが、「いっそ門ごとイっとく?」って気分になってきた。
おれがいよいよ、『魔導書』を展開しようかと思っている所に声がかかる。
キアラだ。
「あ、あ、あ、あの!『南天門』の開閉には『合言葉』があるんです!」
「ほう・・・キアラは知ってるのか?」
なるほど、『合言葉』ね。
それで開けば苦労はしないが、たぶん・・・。
「は、は、は、はい!試してみますね!」
そう言ってキアラはノッカーまで浮かび上がり、人間の耳では聞き取れない言葉を唱える。
二、三分だろうか?
かなりの回数試していたようだが、結局開かなかったらしく、すごすごと降りてきた。
「だめか?」
「・・・はい。何種類か試したんですけど、私の知ってる『合言葉』は全滅でした。」
そう言ってションボリという字を背中に張り付かせ、おれの金箱の中へ戻っていくキアラ。
まぁそうだろうな。
奴ら曰く、「邪教徒に与する堕天使」に知られている可能性のある『合言葉』なんて、即変えるだろう。
飛んで越えるにしても、門の周りには目で見えるほどの結界。
さすがにそこに飛び込んだら、誘蛾灯みたいになってしまいそうだ。
(やっぱり普通に壊して進むか?)
何となくだけど『魔王の左腕』召喚に、『二重』辺りでも重ねがけすればいける気がする。
そんな物騒な事を本気で決意しかけた時だった。
「セイさん!あそこ・・・何か違和感が・・・。」
人型になり、門の全体を子細に観察していたシルキーが指を指す。
それは門の正に天頂部。
言われてみれば、確かにそこだけ何となく違和感がある。
しかし良く気付いたな、本当に小さな反応だ。
ここで立ち往生してても仕方ないし、とりあえず調べてみるか。
「魔導書」
おれの周りに浮かび上がる、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚。
一枚を選択する。
跳躍強化魔法『翔歩』を発動。
魔法の効果で空気を足場に、跳躍ができるようになる。
空中を三角跳びの要領で駆け上がり、『南天門』の天辺を目指す。
「セイ!?待って何処に行くの!」
アフィナが気にして叫んでいるが、「そこで待ってろ。」と言ってそのままノッカーに足をかける。
「ロカさん!セイが!」
慌ててロカさんにチクるアフィナ。
告げ口イクナイ。
「主!無茶はいかんのである!」
心配したロカさんが門扉をすごい勢いで、(垂直に)駆け上がってきた。
どうやってんのそれ?
おれが足を掛けているノッカーの、逆方向にあるそれに到達したロカさんは、子犬モードになってダイブしてくる。
おれは彼を受け止め、頭の上に乗せた。
「ロカさん、なんかシルキーが違和感があるって言うんだ。」
おれがそう言って指し示した先。
門の頂上部を見たロカさんも、「むぅ、確かに少々感じるであるな。」と答える。
「だからと言って主!一人で行くのはいかんのである!」
おれの頭を肉球で、たっしたっしと優しく叩くロカさん。
なんだかロカさんの過保護が加速している気がする。
おれはロカさんを頭に乗せたまま、もう一度空中を蹴って門の上へと降り立った。
「鍵・・・穴?」
そうとしか形容のしようがない所謂、円形に長方形を繋げたような形。
大きさは約1m、おれの腰の高さと同じくらいだ。
空間に真っ暗な鍵穴が開いているような違和感に、首を捻りつつも観察していると。
突然体がその穴に吸い込まれていくような感覚を覚える。
すごい吸引力、抗えそうに無い。
ずるずると穴に引っ張られていく。
こんなとこにダイ○ンとか!
「マスター!」「セイ!」「セイさん!」
おれの動向を見守っていた仲間たちが悲鳴を上げる。
限界だ。
おれは咄嗟にカードを一枚選択し、プレズントへ投擲した。
「プレズント、15分だ!15分で戻らなかったらなんとかしてくれ!」
「了解!」
「ロカさん!セイを!」と、アフィナが叫ぶ。
ロカさんが、「無論!」と答えたのが耳に届くと同時、おれたちは暗い鍵穴の中へ吸い込まれ、一瞬意識を失った。
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