・第七話 『カードの女神』前編
※4/26 微修正しました
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君は今どうしているだろうか?
兄貴は今、神様とお話中だ。
どうもおれの意思に反して、テンプレが止まらない。
この手のお話は、秋広にお任せしたいのが本音だ・・・。
とりあえず、情報の擦り合わせをしてみることにした。
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「感謝する、異世界の魔導士よ・・・。」
そんなことを言いながら、神様が光り輝いて小さくなっていく。
何故か今まで、ぼんやりとしか見えなかった神様が、年の頃10歳くらい、銀の長髪、右目が赤、左目が緑、陶磁器のような白い肌、まるで西洋人形のような美幼女に変身している。
世界一有名な東京の電気街を闊歩する、例の紳士たちが「Yes!ロリータ、No!タッチ。」なんて、叫びながら敬礼しそうだから勘弁してくれ・・・。
それにオッドアイって・・・おれの意思に反してテンプレが止まらない。
最近の神様は幼女が流行らしい。
おかしなフレーズもあったな・・・魔導士ってなんだよ?ちょっと『悪魔』なんて通り名が付いてるだけで、普通の高校生なんだが?
「あー神様?その姿はなんだ?それと魔導士って・・・おれは普通の学生なんだが・・・。」
おれが疑問をぶつけると、幼女は小首を傾げその姿には不釣合いな、先ほどと同じ口調で悩みだす。
「ふむ?魔導士では無いと・・・その魔力量と格好で一般人とは考えられぬが・・・これも異世界人の力なのか?」
どうも自分の世界へ旅立ってしまったようだ。
格好・・・?なんか違和感があったぞ・・・?
おれは自身の体を改めて見回す。
なんでVRで選択した、漆黒の法衣を着てるんだ・・・
ご丁寧に金の箱も腰に下がっている。
幼女はおれの方へ手をかざした後、またもやなにかを考え出してしまった。
仕方なくおれは、さっきから空気と化している二人の老婆に視線を向ける。
意味を理解したのか、『双子巫女』が疑問に答えてくれる。
「あれが『カードの女神』アールカナディア様の、本来のお姿だよ。」
「そうさねぇ、ただ少しお力を使いすぎたのか、幼生体に退行されておるがね。」
ふむ・・・『カードの女神』か・・・おれが『リ・アルカナ』をやってたことに、なにか関係があるのかもしれんな。
その後しばらく『双子巫女』の二人が、現状を教えてくれた。
神の間の外、おれが召喚された場所は、『精霊王国フローリア』の北端、リラ大平原という荒野に程近い『双子巫女』が守護する結界塔の一つらしい。
この国は『レイベース帝国』とやらに宣戦布告を受けているらしい。
どうやら専守防衛の国らしく、藁にもすがる思いってやつで、神代級空間転移魔法『流転』を使用して勇者?を召喚しようとした、と。
まぁそこに運悪く引っかかってしまったのが、おれたちだってことか。
神代級と同じ効果を及ぼす魔法は、相当レアだってこともわかってしまった。
『双子巫女』はこの辺の事情を語ったあと、この魔法を使ったのは自分たちである、もう一人協力者が居るが、そいつは悪い奴じゃないから、どうか悪感情を持たないでやってくれと言ってきた。
そおいう言われ方したら丸わかりだよな。
発案がもう一人のそいつで、協力者が二人の老婆な訳だろ?そんで老婆はその一人をかばってるわけだ。
まぁそいつをどうするかは会ってからだな。
どうやら『カードの女神』とやらも、自分の世界からもどってきたようだ。
「あぁ済まない、改めて自己紹介させて頂く。この『リ・アルカナ』の主神『カードの女神』アールカナディアヴェルダーシェだ。呼びにくければ、アルカとでも呼んでくれ。さっきの姿は、初対面の者と会う時のカモフラージュのようなものなんだ。この姿だと、話を聞いてもらうのにも苦労するのでね。」
なるほど、たしかに幼女の姿でも、どことなく神々しさのようなものは感じるが説得力は無いな。
「じゃあお言葉に甘えて・・・アルカ様?魔導士ってのは?」
幼女に様付けで話すのも、なんだか変な感覚だが相手は一応神様なんだ、仕方ないだろう。
おれがそう尋ねると、彼女は一度頷き答える。
「そのことなんだが、君・・・ええと、君って言うのもアレだな。名前を教えてもらえるかな?」
「あぁ、おれは九条聖、セイと呼んでくれればいい。」
自己紹介が済んだところで本題に入ろう。
「まずセイ君、住んでいた世界のことを教えてほしい。」
ここは素直に話す所だな、ある程度かいつまんで説明をする。
大まかな世界のこと、おれたち幼馴染のこと、そしてこの世界と同じ名前のカードゲームのこと・・・
どう考えても、なにか繋がりがあるとしか思えない。
幼女はおれの話を目を閉じて聞いていたが、
「まず身体能力が違いすぎるようだ。たぶん召喚された四人全員が、この世界の英雄と同等かそれ以上。一般人と比べたらそれこそ10倍とかになりそうだよ?それと一つ試してみたい。そのVRとやらでやっていたように、魔導書だったか?を出してみてはくれないか?」
と、言ってきた。
なんだと・・・?魔導書が現実で出る訳あるだろうか・・・
だが異世界ならあるいは・・・
半信半疑、おそるおそるおれはその言葉を口にする。
「魔導書」
その言葉に反応し、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚、確かにおれの周りに現れた。
「これは・・・」
思わず絶句するおれに、したり顔で頷く幼女。
「セイ君、おそらく考えている通りだよ。」
(召喚もできるのか・・・?ここは『精霊王国フローリア』だったな・・・ならアイツがいいか。)
おれの魔導書に『精霊王国フローリア』縁の盟友は少ない。
灰色のカードを一枚タップして、星型の紋章に変える。
カードを一枚引く感覚、やっぱり来るか・・・。
おれが『悪魔』と呼ばれるようになった所以の一つ、ありえない引きの良さ。
それが発動して、おれはそのカードを選択する。
『霧の精霊を統べる者、全ての姿を得られし者、我と共に!』
最小魔力で呼び出したそれは、精霊王国フローリアの英雄級盟友『幻獣王』ロカ。
本来2m程の大きさの赤い目を光らせ霧を纏う狼なのだが、魔力の注いだ量でサイズや能力が変わる、今回は子犬サイズで目だけが爛々と光っている。
「主、なにゆえ我輩は、このような姿で・・・」
非常に不本意そうに尻尾も耳も項垂れるロカ、声がシッブいおっさんなだけに余計哀れだな・・・。おれは現状を説明した。
「なるほど・・・それでは我輩は箱の中で皆に説明を。」
そう言って金箱の中へ戻っていく子犬をみつめながら、おれは(そうか、箱の中に皆居るのか・・・)なんて考えていた。
待てよこれ・・・まさかあいつらも・・・幼馴染たちの顔が脳裏をよぎる。
秋広は良い、あいつならきっと巧くやる。
問題はあと二人だ・・・。
ゴスロリドレスを翻し、得意な得物のハンマーや棍棒等の鈍器片手に、サムズアップで「正義は必ず勝つのよ!」なんてドヤ顔のウララ。
ありえない程のドラゴンに囲まれて「戦いは数だよ!アニキ!」なんて、某中将様よろしく言ってくる竜兵。
これ、帝国どころか転移者が『災害』じゃねーか。
やばい、頭が痛くなってきた。
そこへ、おそるおそる声をかけてくる老婆。
「坊や・・・今のは・・・。」
「ああ、『幻獣王』ロカだよ。ここが『精霊王国』フローリアの近くだって聞いたからな。」
おれが答えると今度は幼女が、得心顔だ。
「これで確信したよ。セイ君の力にはおそらく奴らの関与があるだろう。」
また知らないテンプレだ・・・。