・第七十六話 『増幅』
いつも読んで頂きありがとうございます。
ブクマ感謝です。
※2/10 書き漏らしがあったので加筆しました。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今日判明したことがある。
兄貴の盟友の中に危険人物が混ざっています。
変態でしょって?
いや、違う。
アイツも確かに危険っちゃ危険だが、一応おれが片手であしらえる程度だしな。
こいつは違うぞ。
そう、プレズントのことだ。
火力って点ではまったく問題は無い。
むしろ最初に言ったように歩く「オーバーキル」を体言しているかのようだ。
正直もうちょっと加減ってものを覚えて欲しいとは思うんだが。
問題はそこじゃない。
なんて言うかもう、思考がやば気だ。
ターゲットだけ倒すのが無理なら、建物ごと焼いちゃえばいいじゃん。的な。
イアネメリラが「優しい子」って言ってたのは、おれの聞き間違いだったんだろうか?
■
敵勢力を掃討したおれたちは、とりあえず小休止を取った。
急いだ方が良いと思ったんだが、ロカさんに断固として反対されたんだ。
おれの魔力の消費もそれなりだったことに踏まえ、今までの二日間、ほぼまともな休憩を取っていなかったこと。
その上、先ほどのような完全装備の天使族が残っていた際のリスクなどなどを語られ。
「それに主。我輩とプレズント殿以外は・・・。」
小声になったロカさんに促され、他のメンバーの様子を伺う。
気丈には振舞っているが、明らかに疲労の色濃い女性陣。
(確かに・・・それもそうか。)
まともな休憩も取らない二日間。
その間もただの旅程ではなく、襲撃者をあしらいながらだ。
主におれやロカさん、プレズントで処理していたとは言え、襲撃を受けると言ったこと事態が負担になっていたのも理解はできる。
更に言い募るロカさん。
「あと、『魔霧』を回収する時間も欲しいのである。」
「ああ、なるほど。」
ロカさんのセリフと、彼の目線の先で地面にぺったりと座り込んでいるアフィナの姿を見止め、最早問答自体が無駄だったことを思い知る。
最初からそれを言ってくれれば良いのに。
思わず苦笑が漏れるおれに、済まなそうな雰囲気を纏うロカさん。
考えてみたらそうだよな。
指導者級までもを即死、または全身麻痺に追い込むような毒が充満した建造物の中。
自爆スイッチを押さずにはいられないような、残念ハーフを守りつつ進む事の苦労に、思い当たらなかったおれの方がどうかしている。
テンプレとフラグは彼女の代名詞。
(アイツ、絶対やらかすよね?)
おれに次いで、アフィナの起こす厄介ごとに晒されている、ロカさんの懸念もわかるわ。
思わず一瞬顔を見合わせ、二人揃ってアフィナを見ながら嘆息する。
おれとロカさん二人の生暖かい視線の先、アフィナがバッと振り向いて「な、なに!?」と言ったが、その時にはすでにおれたちは目線をはずしていた。
改めて現在の状況を思いなおす。
気付かずに相当焦っていたのかもしれない。
彼女たちに無理をさせるのも、この先更に予断を許さない状況になるであろう予想から、絶対に得策ではない。
おれも考えを改めた。
まぁ、急がば回れってやつだな。
■
そうして約半日。
ロカさんが『魔霧』を回収しつつ、最大限に広げた『索敵』にも、とりあえずの脅威となり得る存在が見つからないことを確認して、やっと『雲の高見台』に突入した。
実際にはすぐに脅威にはならないだけで、なかなかにショッキングな事態に陥ることになるのだが、それはさすがに『索敵』で見つけろと言うのが間違っているように思う。
雲を加工したと思われる不思議な建造物の中は、結構な惨状が広がっていた。
事前にロカさんの『魔霧』で駆逐されたであろう天使族。
そのほとんどがすでに、カードに変わり消えていた。
しかし、ロカさんの言にもあったとおり、(名前を知らないことから指導者級のそれではなく、おそらくは将軍級の上位にあたるであろう)幾人かは、体を弛緩させたまま床へと転がっていた。
それだけならいいんだが・・・。
そいつらが等しく体の穴という穴から、緑色の触手を生やしている光景は如何ともしがたい。
一本一本が、独自の意志でも持つかのようにうねうねと蠢いている姿に、さすがのおれも吐き気を覚えた。
なんだか増殖もしているようで、建物の端々にまるで「中に人でも入ってますよー。」と言わんばかりのサイズの塊があり、ドクンドクンと妙にリアルな鼓動を打っている。
いきなり襲い掛かってくるような事は無いが、かといって「これが安全か?」と聞かれれば当然答えは否。
見事に嫌な予感しかしない。
建物に侵入する際に『一角馬』モードから、人型へと変身したシルキーを筆頭に、メンバーの女性陣が「うっ・・・。」と一言。
慌てて視線をはずすのを誰が責められるだろう。
「ロカさん、プレズント、何とかならないのか?」
さすがにこのままは、色んな意味でまずい気がする。
そんな思いを込め尋ねるおれに、二人揃って「うーん・・・。」と唸る。
ロカさんは爪で恐る恐る触手の一本をツンツンした後、確信を持って言った。
「主。この緑の触手は、闇への抵抗力がやたら強いようである。」
少し離れた所で、隅に転がっている塊を観察していたプレズントも補足する。
「卵?も同じかなー。ロカさんの『魔霧』じゃきついだろうね。」
ぬぅ・・・面倒な。
これはどう考えても『封印されし氷水王』関係だとわかるんだが。
むしろそのものか?
サーデインも言っていた『封印されし氷水王』の対策は光属性の攻撃だったし、元が天使の王族だったとは言え、その実態は最早、完全な闇属性のモンスターと言うことか。
まぁ寄生されている『感染者』の方は、それこそ『光の鎧』でも着てない限り、ロカさんの『魔霧』を防げない。
つまり、闇属性に対する抵抗はほぼ無いと思って良いのだけが救いか。
それにやっぱり卵なんだなぁ。
そうとは思ったけど、できれば認めたくなかった。
どう見ても某有名SF映画のそれに近い物体に、心底うんざりする。
■
(どうしたもんかな・・・。)
正直まったく係わり合いになりたくは無いが、どう考えても現在の惨状を引き起こしたのはおれたちだ。
「魔導書」
おれは何か打開策は無いものか、と『魔導書』を展開する。
周囲に浮かび上がる四枚のカード。
今回はどうもだめなようだ。
状況を打開するような何かを引いていない。
と言うか、光属性のカードなんて持っていないし、『魔導書』にも入っていないのだから、引かなくても当然ではあるが。
「マスター、何か良い物引いた?」
軽い調子でそんな事を言いながら寄ってきて、おれの展開した手札をプレズントは覗き込む。
他の連中も合わせて近寄ってくる。
たぶん離れているところを、あの緑色に襲われないかとでも警戒したんだろう。
まぁ、気持ちは分かる。
「いや、だめだな。」と頭を振る俺に、「うーん、デビルドローでもさすがに無理かぁ。」そんな軽口を叩き、肩を竦めるプレズント。
「そう言えば・・・プレズントお前、他人の魔力で攻撃魔法が使えるなら先に言えよ。」
昨晩の彼が起こした行動。
アフィナの火魔法をコストにして火槍を産み出していた。
そのことに、いまさらとは思うが一言言っておく。
もっと早く聞いていれば、手札の温存にも繋がったのは明白だ。
「うーん、一応『増幅』の『特技』で強化したんだけどさ。あれってどう見ても間に合わせでしょ?威力も弱いし。」
非常に不本意。
それが見て取れるプレズントの言葉に、全員が思わず絶句。
こいつの火力に対する価値観はどうなってんだ?
威力が弱い?決してそんなことは無い。
彼が昨日見せた火槍は、『光の鎧』に阻まれただけで、本来なら将軍級に一発で致命傷を与えられる程の威力に見えた。
因みにだが、プレズントの『特技』、『増幅』とは。
その名の通り、攻撃魔法を強化する『特技』だ。
火属性なら二、三段階、その他なら一段階、等級を引き上げる。
たとえば中級の『火炎』を使って、相手の古代級魔法『大雪崩』を蒸発させたように。
「他人の魔力から魔法を撃つなら・・・特に火属性以外なら威力はガタ落ちするよ?」
そんなもんなんだろうか?
いまいち釈然としないが。
「マスターが『炎帝』でも使ってくれたら、それをコストにすればたぶん・・・この『雲の高見台』くらい一撃で消滅させられる程度の魔法は使えるよ。あ!そうすればこの問題も解決じゃない?」
なんだか突然物騒な事を、目をキラキラさせながら言い放つ。
確信は持てなかったが何となくわかってきたぞ。
こいつあれか?火力バカなのか?
「まてまて、根本の解決になってないぞ。」
おれの言葉も耳に入らないのか、なおも「そっか、そうだよね。」などと一人で納得するプレズント。
「マスター、火属性の魔法を溜めといて。『合成』と『増幅』の『特技』で一気に王城を焼き払おう。四、五枚『合成』すれば『灰燼』級の魔法が使えると思うし、たぶん本気でやれば国ごといける気がする。うん、それで万事解決な気がしてきた。」
そしてもう一つの『特技』が『合成』。
こちらは同じ属性の魔法を複数使用することで、その威力と特性を纏める『特技』だ。
一発が最低でも上級以上の火力を持つ魔法を、四、五枚『合成』して敵国のど真ん中に叩きつける?
結果は火を見るより明らかだ。
ええ、『災害』ですね。
別にうまいこと言ったつもりはない。
座布団はいらない!
「まてまてまてまて、あそこにはウララとマルキストにアーライザが居るんだぞ?それに国ごとってお前、天使族以外の住人は操られていない可能性もあるし、『回帰』も回収しなきゃいけないんだぞ?」
突然饒舌に大量虐殺を教唆するプレズントと、必死に止めるおれ。
「マスター、それは些細な問題だよ。圧倒的火力の前には、皆等しく無力って事を、愚かな天使族に思い知らせてやろう。いや、思い知らさなければいけない。」
なんだこれ。
どこでスイッチが入った?
仲間たちが揃ってドン引きだ。
場が静まり返り周りを見渡した後、突然我に返ったように爽やかに笑うプレズント。
頬をポリポリと掻きながら一言。
「じょ・・・冗談だよ?」
「嘘つけええええええ!」
思わずおれは叫んだ。
ごまかせねーよ。
結局その後、シルキーが『浄化の雷』を放ち、プレズントが『増幅』をかけて『封印されし氷水王』の触手と卵を駆除しました。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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