・第七十五話 『砂漠の嵐』
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※2/8 誤字修正しました。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今日は自分の盟友にまで言われたよ。
兄貴の引きはデビルドロー。
まさかウララ以外、それも自分の使役する盟友にまで言われるとは・・・。
認めよう。
おれの使う魔法や攻撃方法が『悪魔』っぽいことを。
つい悪乗りした時は『悪魔』を名乗っていることも確かだ。
それでも、それでもだ。
そのネーミングはあんまりじゃないか?
おれの耳は地獄耳じゃないし、熱光線も出せません。
今のところ背中にこうもり羽根も生えてません。
単に引きが良いってのは運が良いだけとも言えるよな?
そのくせにトラブル巻き込まれ体質なんだから、最早それ相殺、むしろカードの引きが良いからどうなの?ってレベルじゃないか?
これ・・・おれの責任か?
■
「さすがはマスター、安定のデビルドロー。」
「・・・・・・。」
カードを受け取り、にっこり笑顔のプレズント。
彼の発した単語に、思わず渋面になるおれ。
(デビルドローって・・・。)
まさか使役する盟友にまで、これを言われるとは思わなかった。
いや、自分でもわかってはいるんだぞ?
最早何かしら、大いなる意思的な力が働いてるんじゃないかとすら思える引きの良さ。
欲しい時に欲しいものが手札に入ってくるその感覚は、おれにとってはそれこそトランプレベルの話でも常時発生する現象だ。
ゆえに戦略が絡むTCGならいざ知らず、カードの引きだけでどうにかなってしまうような類のカードゲームをプレイした記憶はほとんどない。
おれの一人勝ちで終わってしまうのは、相手もおれも面白くないからだ。
その点、『リ・アルカナ』に出会ったのは天啓とも言えた。
戦略が絡むそれは、当然おれの引きを上回る猛者が山ほど居たわけで。
当然初心者の頃なんか、秋広にそれはもうボッコボコにされたものだ。
逆に新鮮で楽しかったけどな。
それに未だ、ウララには普通に負けるし。
アイツの『魔導書』とは、もう決定的に相性が悪すぎる。
それはともかく。
まぁ、幼馴染たちに『魔導書』を開示した時にも言われたんだが。
どうにもおれの『魔導書』の作り方は異常らしい。
指導者級、英雄級しか入っていないそれは、明らかにコストバランスがおかしい。
使う魔法は闇と炎、それに数種の身体強化。
他の魔導師ならば必ずと言っていいほど入っている、武器カードは皆無。
あえて言うなら『魔王の左腕』召喚が武器に近いっちゃ近いんだが。
「それも問題だけど、それよりも!」と彼らが言うには、「なぜ普通に用途が多く、汎用性が高いカードを一枚しか入れないのか?」って事らしい。
『リ・アルカナ』のシステムでは、一部を除き同じカードを四枚まで入れられる。
特に使用頻度の高いものに関しては、四枚ないし三枚入れてあるのは常識と言われていた。
この常識ってやつ、おれには当てはまらない。
まず第一におれの使役する盟友は全員称号持ち、所謂ネームレベルって奴だ。
称号持ちの盟友は『魔導書』内に一枚しか入れられない。
単純に考えてそうだろう?
固有名を持った人物が同じ場所に、二人も三人も居たら辻褄が合わないじゃないか。
おれもこの世界に来て、多少『魔導書』をいじくったから、盟友以外なら二枚入っているカードももちろんある。
『夢の林檎』とかがそうだし、『地球』に居た頃からだって、運動強化魔法『幻歩』や、回避率強化魔法『朧』は二枚ずつ入っていた。
ああ、後は攻撃魔法の一部もだな。
基本になる『火炎』や『闇』、この辺も二枚ずつ入っている。
「いやいやいやいや、そんだけ使える汎用性の高いものを、二枚しか入れないとか訳わかんないし!あたしだって『光』は四枚入れてんのよ!?」
「ふふ・・・、僕は運なんて信じないよ。」
ウララと秋広はそんなことを言っていたが。
いや、だって二枚も入ってたら普通に引ける。
引けるものは仕方ないじゃないか。
まぁ、対策だったり保険だったりする一部のもの、『暴風』や、『悪夢』なんてのは一枚だ。
二枚も入れたら普通に引いてしまう。
そこのバランスはおれにとってとても大事だったんだ。
常にきっちきちのバランスだから、抜ける物が少ないってのもあるんだが。
この手のカードでガチガチに固めた、所謂メタテーマってのを使う奴も、『地球』で『リ・アルカナ』やってた中には居たけど。
大体は狙った相手にしか勝てない雑魚だったし、そんなんで勝っても本当に楽しいのかどうかって話だ。
現実であるこの世界で、楽しさを求めるのもおかしいんだけどな。
■
「主!プレズント殿!何か策があるなら、早くして欲しいのである!のわっ!」
チュイン!っと音がして、ロカさんの魔力壁をとうとう貫いた光の槍が、彼の頭の毛を一房持って行った。
プレズントの発言に意識が持っていかれたおれも、「そんな事考えてる場合じゃなかった。」と、気持ちを切り替える。
「おっと、そうだね。」なんて呟きながら、プレズントが詠唱を始める。
今回プレズントに渡したカードも、そんなカードの一枚だった。
バキャンっと音がして、ロカさんの張った魔力壁が完全に割られる。
ジリ貧ではあるが、プレズントの詠唱が終わるまでまた張りなおしてもらうかと思った所で、リゲルとシルキー二頭の『一角馬』がすっくと立ち上がった。
二頭が目線で頷きあうと、その角を大きく輝かせる。
「「ブルル、ヒヒーン。」」
二頭が声を合わせていななく。
おれたちの前に、光と雷を纏った魔力壁が生まれた。
その魔力壁をギャリン!ギャリン!と光の槍が削っていく。
相性的にはそう悪くないようだが、圧倒的な実力差。
ロカさんのそれと違い、二頭の魔力壁は数発と持たずに壊されてしまうだろう。
相性が悪いにも関わらず、かなりの時間耐え切ったロカさんが、いかにオーバースペックなのかよくわかるな。
とはいえ見覚えの無い天使族、明らかに称号持ちには見えない奴ら。
たぶん四枚羽根が『大天使』、二枚羽根は『天使兵』だろう。
その攻撃、せいぜい中級攻撃魔法程度なんじゃなかろうかと高を括っていたが。
これ・・・攻撃面でも『謎の道具』使ってるんじゃないか?
確かウララも使ってた『輝く天槍』のエフェクトに酷似している気がする。
あれは指輪型の『謎の道具』だったが、その名の通り光の槍を産み出す道具だったはずだ。
今にして思えば移動速度もやたら速かった。
おそらくあれは、『輝く翼』の効果だろうと当たりを付ける。
(なるほど、完全武装型の天使って訳か。)
色々と強化された状態で来てるらしいが、それは逆に好都合。
プレズントに渡したカードの効果を思い、ついついほくそえんでしまうのを必死に堪える。
「マスター、準備完了。」
「よし、やれ。」
詠唱が終わったプレズントの報告に、実にあっさり命令を出す。
「『砂漠の嵐』召喚。」
おれが渡したカードを指に挟み、光り出したそれを上空に掲げるプレズント。
カードが一際輝いて消えうせると、宙に浮かぶ敵天使たち、『大天使』と思われるその固体を中心に、突如発生した砂嵐が包み込む。
奴らは別段慌てることも無く、その身を砂嵐に晒し続ける。
『輝く翼』の効果があるせいか、大きく体勢を崩す者すらいない。
むしろ、余裕の表情すら浮かべているように見られた。
たぶん『光の鎧』で守られると思っているんだろう。
甘い。
コンデンスミルクより甘いぞ。
炎が効かなかったから砂嵐とか、そんな単純な話じゃあないんだよ。
「セイ?攻撃魔法は無効化されるんじゃ?」
「まぁ見てろ。」
先ほど自身も関与した火槍を、あっさりと無効化されたアフィナが疑問の声を上げる。
時間にすれば数秒。
天使たちを包み込んだ砂嵐が、何事も無かったように消える。
そして天使たちは驚愕に目を見開いた。
それもそうだろう。
今あいつらは、突如重くなった羽根と鎧、それにどうやっても発動しない『輝く天槍』を、必死に動かそうとしているはずだ。
おれがプレズントに使わせた魔法カード『砂漠の嵐』。
魔族の国『砂漠の瞳』の、上級魔法に過ぎないその魔法の効果が彼らを確実に蝕んでいた。
その効果はこうだ。
【砂漠の魔力を含んだ砂が、効果範囲内の『謎の道具』全てに浸入し、その能力を打ち消す。これには自身のコントロールする『謎の道具』も含まれる。】
「ど、どゆこと?セイ、なにをしたの?」
「簡単な話だ。」
疑問ひとしおのアフィナに対し、おれの言葉をプレズントが引き継ぐ。
「アフィナ君、『光の鎧』の攻撃魔法無効化って、着用者を対象としている必要があるんだよ。」
「それってつまり?」
まだわからないのか。
察しが悪いな。
「あ、あ、あ、あの!つまり、『謎の道具』を対象にした魔法なら、普通に効くってことですかっ!?」
おれの金箱から上半身だけ出したまま、自分の思い至った結論を語るキアラに「正解。」と短く答える。
この魔法によって、ウララが今の天使族同様「ムキーーー!!」となったのは、つい最近の話だったりする。
「でも、動きを止めるだけ?」
未だ納得していない感じのアフィナに向かい、笑顔で頭を振るプレズント。
「もう終わったよ。彼らは詰んでる。」
そう、もう終わったのだ。
この魔法、本当にえげつないのはここから。
テキストに追記がある。
【また、この魔法を唱えたのが魔法使い系盟友だった場合、効果によって能力を失った『謎の道具』の数だけ、そのコントローラーにダメージを与える。このダメージは使用した魔法使い系盟友の属性と同様になる。】
今『砂漠の嵐』を使用したのは、火属性の魔法使い系盟友プレズントだ。
そして奴らは多数の『謎の道具』で、ガチガチに武装していた。
つまり・・・。
上空で滞空していた天使たちの鎧や翼、それに指先などから光が漏れ始める。
グゥワッと空気がたわむ感覚。
一瞬後、ゴバァーーー!!!っと轟音を上げて、三人の天使たちは爆散した。
驚愕するアフィナに向けて、プレズントは「ね?」っと微笑む。
「な、なるほど・・・このタイミングであの魔法を引いてくるセイって・・・。」
「でしょ?」
引きつるアフィナと、笑顔を深めるプレズント。
なぜそんなに嬉しそうなのか・・・。
おれとロカさんは密かに嘆息した。
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