・第七十四話 『光の鎧』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君はVRで戦う際に、高低差って気にするか?
兄貴はこれの恐ろしさを良く知っている。
秋広と一度でもバトルした事があれば、身に染みて思い知る事になるその力。
まぁ、言われてみれば単純な話だよな。
高いところから低いところを攻撃した方が、ずっと有利だって事だ。
こっちの攻撃が届かない高さに居る秋広を、自分の拳が届く距離まで引き摺り下ろすのに、当時どれほど苦労したことか・・・。
古来からの兵法にも高所からの攻撃ってのがある。
当然弓や銃なんかの射程も伸びるし、高いところから重いものを落とすってだけでも、脅威に早変わりするからだ。
理屈はわかる。
だけど自分がくらうとなると話は別だぞ?
思い出して欲しい。
おれが今戦っているのは羽根を有し空を飛ぶ「天使」。
お前ら・・・降りてこんかーい!
■
ロカさんが放った『魔霧』の効果を潜り抜け、こちらに一直線。
向かってくるのは三人の天使族。
先頭に四枚羽根の大型、その後ろに付き従うような形で二人、二枚羽根の天使だった。
迷い無く飛び来る姿。
明らかにこちらを認識している動きだ。
そしてなかなかに速い。
「魔導書」
おれの目の前に浮かぶカードは二枚。
何度も襲撃を受け、度々プレズントの魔法で撃退していた為、手札はほぼ枯渇状態だ。
まぁもう少しで一枚ドローできる予定だが。
(攻撃魔法のカードは無しか・・・。)
手札を確認し、少しげんなりする。
これは正直いただけない。
どんな低レベルの攻撃魔法であっても、プレズントが詠唱すればそれは様相を変える。
たとえば『古の語り部』サーデインに使わせた魔法『爆破』。
通常2m四方、『悪夢』の強化によって5m四方にまで膨れ上がったそれ。
プレズントなら素で、そのくらいの火力を出せるんだ。
どの攻撃魔法でも約1.5倍の効力を発揮し、火属性の魔法に限って言えば、簡単に2倍を越える。
しかしその火力は魔法カードあってのものだ。
もちろん彼自身、火属性魔法をカード無しで使用できたりするが・・・。
実はそれには問題があった。
サーデインの使う遠隔障壁や、ロカさんも普通に使う即席魔力壁、イアネメリラは重力制御とかも使っていたか。
その手のものなら問題は無い。
プレズントもそれらの類なら、あっさりと産み出し使用する。
問題は攻撃魔法。
イアネメリラなんかは魔力の塊を打ち出したりしていたが。
彼の場合はその強すぎる力ゆえか、攻撃魔法を使うにあたってのみ炎の紋章、つまりコストを必要とする。
使った紋章の数に応じて、一つなら火球、二つなら火槍、三つなら火雨などと最大六段階の火魔法を行使できるのだが・・・。
六つの火魔法とか・・・『業火絢爛』って言うらしいよ?
『災害』の匂いしかしねぇ。
もうね、名前聞いただけでお腹いっぱいです。
それはともかく。
紋章を使うってことは・・・そうです。
手札がまた減るんだよorz
おれの頭の中で、一世を風靡した髭面の紳士が、「結局カード使うんかーい!」と言って、ワインで乾杯した。
■
迫り来る天使族を見ながらロカさんが呟く。
「ぬぅ。三人も逃したのであるか・・・。」
彼は悔しげだが、そこは最早想定内。
むしろ300人以上居たところを、三人にまで減らしたのだから賞賛されるべきだろう。
「ロカさん、十分だ。後はおれとプレズントでやるから、アフィナたちの護衛に行ってくれ。」
ロカさんの肩をポンと叩き、労いと指示を出す。
彼は一つ頷くと「承知。」と言って下がろうとした。
そこへプレズントが全員を伴ってやってくる。
「マスター、来たよ。」
そう言って片手を挙げた、プレズントの真意が読めない。
(なぜ全員で?)
おれの疑問がわかったんだろう。
プレズントは、「ちょっと試してみたいことがあってさ。」とにっこり笑う。
この笑顔が曲者なんだ。
こいつ、どこかしら放火魔の匂いがするねん。
「アフィナ君、おねがーい。」
「は、はい!プレズント様いきます!」
戸惑うおれを尻目に、事態は進行していた。
プレズントに頼まれたアフィナが、小さな火球を空中に浮かべる。
相変わらず、ギルド『伝説の旅人』のメンバー相手には緊張するらしい。
アフィナの膝が、生まれたての小鹿みたいになってるのは、つっこんだ方が良いのだろうか?
プレズントはアフィナが産み出した火球を、なんでもないことのように手で掴む。
「ふんふん。」と何度か頷き、「やっぱりマスターの出す紋章ほどではないかぁ・・・。」と呟く彼に、全員の視線が集まる。
気になったおれは声をかけた。
「プレズント、何をしてるんだ?」
「ん、ああ、マスターの手札を考えてさ。アフィナ君が火魔法使えるって聞いたから、紋章の代用にならないかなって・・・。」
(なんっ・・・だと!?)
そんなことができるなら、早くやってくれよorz
愕然としたおれに対しプレズントは、「いやー、なんとなくできそうかな?って思ったらできちゃった。てへぺろ。」とのお答え。
なにがてへぺろだお前・・・。
プレズントは衝撃覚めやらぬメンバーの気持ちをぶったぎるように、自身の頭の上に三本の火槍を産み出した。
「まぁ紋章に比べると、大分魔力量が少ないからあんまり強い魔法は使えそうに無いけどね。」
彼はそんな事をのたまっているが、普通に殺傷能力抜群に見える火槍。
こちらの世界に来てから、何となくわかるようになった魔力の等級。
その感じ方から、一本一本が古代級の力はありそうな事が伺えた。
そしてプレズントはその火槍をいともあっさりと解き放つ。
勢い良く飛び出した火槍は、最早寸前というところまで迫っていた三人の天使族にぶち当たり、夜空に咲く真っ赤な花になった。
■
夜空に咲いた三つの花火が消え去ると、そこには無傷の天使三人が浮かんでいた。
闇を引き裂くような眩しい白銀の鎧が、仄かに燐光を撒き散らしている。
「・・・え?」
彼の火魔法の威力を鑑みれば、到底在り得ない光景。
火槍を放った本人であるプレズントも、思わずポカンと口を開け呆然とする。
他のメンバーもそうだろう。
先に動いたのは三人の天使族。
「主!」「ロカさん!」
次いでロカさんとおれ。
天使たちはその手に光の槍を出現させると、おれたち目掛けて投擲してきた。
一瞬だけ早く、おれが一気に魔力譲渡したロカさんが、『魔霧』を発生させて作った即席の魔力壁を、前面いっぱいに展開する。
正に間一髪、危ないところだった。
光の槍は魔力壁を貫くことあたわず、光る燐光を放って空中へ消えていく。
その後もロカさんの作った魔力壁を、ゴツゴツと打撃音が襲う。
天使たちは貫けるかどうかなど関係無い素振りで、ただがむしゃらに光の槍を産み出しては投擲している。
おれたちは魔力壁のサイズを縮め、逆に硬度を上げて身を寄せ合った。
お馬様二人・・・二頭のせいで少々狭い。
「あれで無傷とか・・・流石に凹むんだけど・・・。」
「プレズント様ごめんなさい。ボクの・・・ボクの魔力が弱いから・・・。」
「ア、ア、ア、アフィナさん!気をしっかりー!」
若干遠い目で現実逃避しそうなプレズントと、やたら落ち込むアフィナ。
キアラがアフィナを必死で慰めると言った、なかなかにカオスな空間ができあがる。
馬?馬は馬だろ。
シルキー、ジト目はやめろ。
おれが悪かった、だから心を読むな。
お前らちょっとロカさんを見習え。
「主、少々まずいのである。光属性の攻撃に我輩の魔力壁は相性が・・・。」
段々削り取られていく魔力壁に、オロオロするロカさん。
ああん、ロカさんまでー。
まぁおかげでおれは落ち着いた。
「お前ら落ち着け。あれはプレズントの魔法が通用しないんでもないし、アフィナの魔力がしょぼかったせいでもない。ああいうもんなんだ。」
全員の視線が集まったところで一つ頷く。
「プレズント、火槍の対象を天使にしたよな?」
「え?ああ、そうだね。・・・マスター、なにか知ってるのかい?」
おれには心当たりがあった。
これもウララが自分の使役する盟友に、良く使っていたものだったから。
「奴らが着てる鎧、あれは『謎の道具』『光の鎧』だ。効果は着用者を攻撃対象とする魔法の、完全な無効化。ロカさんの『魔霧』が防がれたのもそのせいだな。」
アフィナ、プレズント、キアラが揃って目を丸くする。
「ええ!?そんなものがあるの?」
あるんだよ。
みんな知らなかったんだな。
たぶんサーデインなら知ってた気がするが。
「なんてこった。それじゃ何もできないなぁ・・・。」
「そ、そ、そ、空を飛ばれてると、セイ様とロカ様も攻撃できませんよね?」
がっくしと落ち込む魔法攻撃主体の大魔術師と、現状を的確に把握する合法ロリ天使。
そう、そこは問題。
あいつら一定距離から絶対近付いてこないし。
本当に鬱陶しい。
だがプレズント、諦めるのはまだ早い。
「あ、主ー!そろそろ本当に、まずいのである。」
ロカさんも限界っぽいし状況を打破しようか。
「プレズント、おれはさっき言ったぞ。「着用者を対象とする攻撃魔法」ってな。」
そう言っておれは『魔導書』を展開する。
ドロータイミングを通過して増えた一枚。
当然のように引いてきたそのカードを、選択してプレズントに渡す。
驚いた表情でカードを受け取ったプレズントは、そのテキストを確認してにっこりと笑った。
「このタイミングでこれを引くんだ?マスターの引き・・・本当に『悪魔』だね。」
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