・第七十三話 『雲の高見台』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、異世界すげーわ。
兄貴もたいがい驚いた。
虹の架け橋やら、青空の城壁やら、事実目を疑うものばかり見てきたんだが。
これもまた極め付けだろう。
話には聞いてたが、『雲の高見台』って本当に雲で出来てるんだ。
『地球』に居た頃、理科の授業で習ったよな?
雲は水蒸気の集まりだって。
当然、子供の頃には誰もが一度は夢見るような雲に乗ってみたいだとか、雲の上でお昼寝なんて話は、現実には不可能な訳で。
でもそこはファンタジー修正。
雲で出来た塀のようなもの、『雲の高見台』って言うくらいだし、所謂見張り台なんだろうが。
そこにちゃーんと立ってますよ。
衛兵の鎧を着込んだ天使族が・・・山ほどな。
「ど、ど、ど、どうするんですか!?」と、おれの箱の中に間借り中の天使が心配してますが、そこはそれ。
当然おれだって無策じゃないさ。
質感があるとは言っても雲は雲。
主成分は「水」蒸気なんだろ?
■
おれたちが出発してから、すでに二日が過ぎている。
予定よりだいぶ押していた。
本来なら半日程度の道のりなんだが・・・。
距離的には全く問題は無かった。
むしろ『一角馬』であるシルキーとリゲル、体長2mの狼であるロカさんと言った面々が走った事も考えれば、更に時間が短縮できてもおかしくはなかったのだが。
おれの巻き込まれ体質のせいなのか、はたまたサーデインが言ったように今まで泳がされていたというだけだったのか。
おそらくは後者。
いや、そう信じたい・・・信じさせて?
道中でそれはもう・・・マジで床ドンしたくなる程襲われた。
おれの使役する盟友の中でも、特に火力を優先しただけあってロカさんもプレズントも、正に無双。
おれたちに襲い掛かってきた天使族、『封印されし氷水王』の『感染者』である、奴ら自体の強さはどうってことはない。
強化魔法をかけていないおれの、正拳一発でも簡単にカードに戻せるくらいだ。
問題はあれなんだよな。
数もさることながら・・・あいつら飛んでんだよ。
結果、プレズントの火魔法頼りになり、おれの手札はドンドン減るわ、その火魔法を目印に周囲の敵が集まってくるわで・・・。
うん、強いんだけどね?
威力が高すぎるのも問題だと思うんだ。
大は小を兼ねないよ?(遠い目
おれも思わず「この蚊トンボがぁ!」って叫んだくらい、まぁ鬱陶しかった。
正直アーライザの裏切りすら脳裏を過ぎったが、後で彼女からの『伝書鳩』の魔法が飛んできた。
曰く、未だに操られてる振りをして、おれたちが進んでいるルートの誤情報を流したとか。
その連絡があってから襲撃がピタリと止まったし、おそらくうまくやってくれたんだろう。
うん、疑ってごめん。
それはともかく。
もう日が暮れてからだいぶ経っている。
暗闇の中、おれとロカさんは『雲の高見台』の様子を伺っていた。
他のメンバーは少し離れた草むらで待機中。
作戦的におれとロカさんで事足りるってことと、隠密能力の問題だ。
ロカさんは『特技』『魔霧』を発動し、自身の周囲に認識阻害の効果を発生させている。
おれも隠密強化魔法『影歩』の力で姿を隠していた。
魔力を探知できるタイプの敵が居たら危険だが、今のところ天使族でその手の類の能力者を見ていないし、十分距離も取っているので余程大丈夫だろうと思っている。
「居るなぁ・・・。」
「主・・・すごい数である。」
夜だし多少減ってくれてないかと、淡い期待を抱いたが。
ロカさんの策敵能力で把握できる大体は、クリフォードやサーデインが言っていた「常時100人以上」を遥かに越えて、約300人は下らないだろうとのこと。
以上って便利な言葉だよな・・・。
100より上なら、200でも300でも・・・極論1000人居たって100人以上な訳だ。
まぁ嘘は言っていない。
当然と言えば当然なんだが、進行ルートがわからなくなっても、目的地がわかってたら関所的な場所を潰すよな。
なんだかんだで一直線に王城を目指している訳だし、あちらさんの上層部はすでにおれたちの事を認識してると見て間違いないだろう。
暴れたしね?
「ど、ど、ど、どうするんですか!?」
(ああ、そういえばお前もいたっけ・・・。)
おれの金箱から顔を出し、小声で大慌てをするという器用な真似をこなした天使族の少女。
キアラを見ながらおれは考えがあることを告げた。
「ロカさん、いけそうか?」
「主・・・確かにこれは水を多く含むのだが・・・なぜそんなことを?」
おれの作戦を聞き、半信半疑ながらも実際に確かめたロカさんが、驚愕で目を見開く。
うん、雲の主成分って水だよな。
どうやらこの世界の住人は良くわかってないようだが、これは『地球』に住む日本人なら、小学生で習う話だ。
ファンタジー世界にありがちな、魔法で何でも片付けるから科学が進まない。って見本みたいな話だぞ?
「雲の主成分は水。これはおれの住んでた『地球』の日本なら、キアラくらいの年齢の奴でも知ってる話だ。」
「なんとっ!?・・・さすがは主。」
見る見る内に顔を輝かせたロカさんが、おれに尊敬の眼差しを送ってくる。
いやいや、ロカさん。
見つけたのおれじゃないから。
知識として知ってるだけだから。
「あ、あ、あ、あの!私、こう見えても200歳越えてるんですけど!」
慌てたキアラの一言に三人揃って言葉を失う。
(まじか・・・。)
この世界、本当に見た目と年齢のギャップがすごい。
それにしても200歳越えてて『見習い天使』なのか?
いつになったら『一人前天使』になるんだ。
「あ、ああ、見た目の話な・・・。」
おれはとりあえず、無難なスルーをすることにした。
■
『精霊王国フローリア』の英雄である『幻獣王』ロカさんは、闇と水の二属性を自在に操るチート犬だ。
『特技』の『魔霧』も現在使っている認識阻害系の効果や致死性の屍毒だったり、眠りの霧なんかも産み出せたりと万能なんだが。
今日注目するのは彼の『能力』、そこに『水支配』と言う物がある。
これは水の上をまるで地面のように歩いたり、空気中の水分を集め水球を産み出したりと用途が広く、少々大袈裟に言ってしまえば、水に関係する事ならなんでもできる。と思ってもらって構わない。
だって『支配』だもの。
おもえば、『涙の塔』を守護する『闇の乙女』サリカに会いに行った際。
道中の『パロデマ湿地帯』で彼は、おれたちの進行ルートに獣避けの毒を流し続け、結果モンスターとの遭遇を全回避した。
後に判明したがこれは相当にすごいことで、彼の湿地帯に潜む水棲系のモンスターは凶暴かつ好戦的。
おれたちを襲ってきた『影人』フェアラートのような、高位隠密スキルでも無い限りエンカウント率は200%を越えるらしい。
200%って・・・なにそれこわい。
道中の話を聞いたクリフォードが、ロカさんに定期的な巡回を懇願していたのは、記憶に新しいことだ。
さて本題、雲の主成分は水だ。
つまり雲という物自体が、魔法で固められていようが、質感があって人が乗ることすら可能になっていようが、水である以上はロカさんに支配されるってこと。
みなさんもうおわかりですね?
おれが考えた作戦は、湿地帯でロカさんが起こした現象のトレース。
雲を媒介にして毒を流す。
だが今回の相手は『封印されし氷水王』の『感染者』とほぼ断定できる天使族。
当然、獣避けの毒なんてレベルの代物じゃなく、強力な催眠や麻痺・・・極端に言えば即死が望ましい。
おれはロカさんに尋ねる。
「ロカさん、雲が水で出来てるってことは分かっただろう?それを踏まえて・・・300人の天使を無力化することはできるか?」
ロカさんは少しだけ逡巡した後、「やってみるのである。」と言って頷いた。
おれは彼の肩に手を置き、魔力を譲渡する。
ロカさんの体に纏った黒い霧が一気に広がった。
黒い霧がドンドン雲に吸い込まれていく。
雲自体も黒く染まり、傍目から見てもそれがロカさんに支配されていく様子が見て取れた。
雲が支配されるってのも不思議な言い回しだが・・・そうとしか形容のしようが無いんだ。
『雲の高見台』のサイズがでかいからか、もしくは今回やってることがそれなりに無茶だからか?無尽蔵に感じられたおれの魔力も、さすがに急激に減っていっているのが感覚でわかる。
ロカさんの能力もそうだが、これおれが魔力もチートじゃなかったら無理だったな。
「主。大丈夫であるか?」
「ああ、まだ魔力は余裕だ。」
そんな事を言い合いながら、雲をドンドン黒く染め上げていく。
それなりに距離がある高見台の塀の上、見張りをしていたであろう天使族の衛兵たちが、一言も発する間も無くバタバタと倒れていくのが確認できた。
「す、す、す、すごいです!」
箱から上半身を乗り出して興奮するキアラ。
程なくして全ての雲が黒く染まり、ロカさんは霧を放出するのをやめた。
「主。ほぼ無力化はできたと思うのである。使用した『魔霧』は屍毒。将軍級くらいまでなら即死。よしんば指導者級以上が混じっていても、麻痺状態になっている可能性は高いのである。ただ・・・。」
言いよどむロカさんの後を繋ぐ。
「何人か漏れたな?」
「うむ。」
予想はできていた。
事実、帝国兵とのファーストコンタクトでも直面した問題。
なぜかピンポイントで水と闇の抵抗鎧、なんてものを着込んでいたオーガには屍毒の効果が十全に発揮されなかった。
そこまで極端でないにしろ、なにかしらの防御策を講じていた敵が居たとしてもおかしくはない。
その時、『雲の高見台』から三人の天使族が飛び上がった。
上空で一度旋回した三人は、明らかにこちらへ向けて飛んでくる。
「プレズント来てくれ!戦闘になる!」
「了解。」
おれは仲間たちが隠れる草むらへと注意を促した。
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