・第七十二話 『紋章(クレスト)』
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※活動報告にも書きましたが、第二章の終わりに二章までの登場人物紹介を載せました。
拙作の設定上かなり分量が多いのですが、良ければチラ見してやってください。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君ならこんな時どうしていたんだろう。
兄貴のこと、甘いと思うか?
そう、アーライザのことだ。
操られていたとはいえ、自分を襲ってきた相手をあっさり信じ、言ってしまえばそのまま逃がした訳だからな。
秋広辺りには「チョロインw」とか「デレ早いね^^」なんて言われそうだ。
でもなぁ・・・。
あんな真剣な顔されたら信じると思うぞ?
人を信じられなくなったら終わりだ。とか良く言うじゃないか。
まぁ相手は人じゃなくて天使だったんだが。
それにあの後シルキーが言ったんだ。
「リゲルの「処女だから信じる。」は別として、彼女が嘘をついてないのはわかったよ?『一角馬』は乙女の嘘を見抜けるからね・・・。」
うん、オブラートに包んだだけで、結局処女厨なんですね。わかります。
■
『魔導書』を展開して、手札を確認。
サーデインとエデュッサが『魔導書』に戻ったことで、手札はシャッフルされ配りなおされている。
現在の手札は四枚。
(あれからドロータイミングは二回か・・・。)
戦闘後、それなりに休んだとは思ったが、せいぜい四~六時間だったらしい。
しばし考える。
この先を進むに当たって、戦闘力・・・つまりこの場合、攻撃力に長けた盟友を厳選しないといけない。
あのエデュッサですら、はっきりと「火力不足」と言った。
そういえばアイツは今回、不意打ちで一人倒した以外ほとんど牽制していただけだ。
まぁ、その牽制のおかげでおれやサーデインはアーライザに集中できたし、十分に仕事はこなしてくれているんだが。
いかに指導者級の実力者とはいえ、空を飛ぶ天使には相性が悪かったのは事実だろう。
彼女なりにはがゆい思いもしたのかもしれない。
現在の手札を省みて、一人は即決まる。
灰色のカードを一枚タップして、星型の紋章三つに変換。
改めて、光りだしたカードを選択し、召喚の理を唱える。
『霧の精霊を統べる者、全ての姿を得られし者、我と共に!』
箱の蓋が開き、辺りが金色の光に染まる。
「主!我輩を呼んでくれて嬉しいのである。」
金色の光の中から、渋い声で現れた存在。
もはや見慣れたその姿。
今日は子犬バージョンではなく、戦闘モードの全長2mサイズ、霧を纏った漆黒の毛並みに、赤い目を爛々と輝かせた狼。
『精霊王国フローリア』の英雄級盟友、『幻獣王』ロカさんだ。
「ロカさん、よろしく頼む。」
「うむ。主、我輩に任せるのである。」
おれが声をかけると、なんとも心強い返答。
相変わらずの男前、そこに痺れる憧れる。
その時アフィナが「あ!ロカさんだ!」と言って、彼の首に抱きついた。
戦闘モードでも関係無いのか・・・。
これを危惧して今日は子犬モードにしなかったんだが。
ロカさんは「こ、これ娘!離すのである!」とうろたえる。
うん、せっかくカッコいい登場シーンだったのに台無しだね。
■
さて、もう一人をどうしようか。
おれは悩んでいた。
「主、イアネメリラ殿が、かなり呼んで欲しそうだったが・・・。」
首にアフィナを張り付かせたままのロカさんに、そう報告を受ける。
(イアネメリラか・・・。)
確かに今引いてはいるんだが・・・。
今イアネメリラを呼ぶことはできない。
理由は単純。
払うべき紋章のコストが足りないんだ。
その出自か存在ゆえか、彼女を呼ぶためには羽根と星、二種類の紋章が必要になる。
つまりカード変換による紋章抽出に、二枚のカードが必要になる。
おれの手札は現在、ロカさんを呼んだことで二枚。
内の一枚に、イアネメリラが含まれているならどうしようもない。
ロカさんは絶対に呼びたかったので、ここは我慢してもらうほか無いだろう。
それに攻撃力という面で見れば、ロカさんは対個人で最強クラスだが、イアネメリラはどちらかと言えば補助寄り。
まぁ彼女も性能的には万能型のチートなんだが、今はロカさんにアフィナやシルキーの護衛を頼む予定でいるし、いくら正面から事を構えるつもりであっても、さすがに堕天使と即わかるイアネメリラはまずいだろう。
まぁロカさんを呼んだのは他にも理由があるんだが。
それは後ほどおいおいと。
おれは心の中で「すまん、メリラ。」と謝りながら、彼女のカードを紋章に変換した。
中空に炎の紋章が三つ浮かび上がる。
そして残った一枚の光るカードを選択。
召喚の理を唱える。
『伝説の旅を続けし者、炎の祝福受けし者、我と共に!』
またもや辺りが金色に輝き、金箱の蓋が開く。
そこに現れたのは、赤いざんばら髪をポニーテールのように括った、身長160cmほどの柔らかい表情の青年。
濃い茶色のくたびれたローブを纏い、天辺に真っ赤な宝石が付いた、身の丈と同じくらいの大きさの木製の杖を持っている。
彼の名は、『永炎術師』プレズント。
当時、いや現在でも『リ・アルカナ』最強の火魔術師と言われる男だ。
プレズントはおれに向かってにっこりと笑いかけ、杖を持っていないほうの手を軽く挙げる。
「やぁマスター、久しぶり。」
「ああ、前回はインスタントで済まなかった。よろしく頼む。」
軽い口調で現れた彼に、前回インスタント召喚(通常の召喚のように場に滞在することが出来ず、ワンアクションのスポット的起用方法)で呼ばざるおえなかった事を謝る。
プレズントは軽く手を振りながら「いいよ、いいよ。」と笑うだけだ。
いかにも好青年な雰囲気の彼が、とんでもない火力を有すなど見た目だけでは決して慮る事はできないだろう。
だがおれは知っている。
VRでバトル中、『分裂』の魔法カードによって敵スライムの大群に囲まれたおれが、プレズントを呼び出した時。
彼は周りを一瞥した後、笑顔はそのままで辺り一面を火の海に変えた。
あれってさ、おれ以外の味方盟友居なかったから良いけど、もし居たら大惨事だったからね?
おれは忘れない。
敵の氷使いが放った、今にして思えば古代級の攻撃魔法『大雪崩』を、中級攻撃魔法に当たる『火炎』で蒸発させたことを。
相手、ガチで涙目だったから。
いや、助かったんだけど。
助かったんだけどもー。
まぁ簡単に説明すると、プレズントって言う盟友はそういう奴だ。
一言で言うなら「オーバーキル」。
これ以上彼に似合う言葉も無いだろう。
だがこれで対個人、対多数を相手取るに十分な布陣が整ったと思っていいだろう。
手札は相変わらずの0枚。
どうなってんだよチクショウ。
いや、自分でそのように組んだんだけどな?
■
そんないつもの益体も無いことを考えていると、プレズントが言葉の爆弾を投下してきた。
「マスター、ハーレムもほどほどにね?メリラさんが「また増えた!」って怒ってたよ?」
「なんっ!?」
あまりの発言に、思わず言葉が詰まる。
ハーレム!?おれが?いつ、どこで、だれを?
考えるが到底思い当たる節は無い。
一瞬『森の乙女』カーシャの顔が頭を過ぎるが、もう時効だろう?
うむ、そのはずだ。(自問自答
「・・・そんな事実は無い。」
おれの返答に辺りが静寂に包まれる。
ナンデスカネ?
アフィナ、シルキー、キアラの三人が集まって、何事か言い合いを始めた。
端的に聞こえてきたのは・・・。
「アフィナさん、いくらなんでもあれは・・・。」
「ううん、シルキー。セイは本気だよ。」
「わ、わ、わ、私はてっきりわかってて言ってるのかと。」
ガールズトーク怖いわー、なんなのー。
そこになぜかリゲルが混ざって行き、「ブルルン。」と何事か発した。
「シルキー、リゲルはなんて?」と、アフィナが尋ねる。
よせ、どうせ碌な事じゃない。
「あー、うん。彼は「本物」だって。」
三人が顔を見合わせ、えらく納得気に頷いた。
なんだとっ!?
本物はお前だろうが・・・馬め・・・。
おれは大人しく話題を変える事にしました・・・。
「二人とも状況は?」
「キアラさんに聞いたからばっちりだよ。」
「同じくである。」
ロカさんとプレズント、二人を順に見て声をかける。
よし、布石は上々。
「お前ら、出発するぞ。」
全員を見渡し、首肯が返って来たのを確認して号令する。
アフィナがリゲルの背へ跨り、プレズントはロカさんの背へ、『一角馬』モードに戻ったシルキーにおれが乗って準備は完了だ。
おれたちは一路、『雲の高見台』へ向けて走り出した。
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