・第七十一話 『戦天使長』
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマ、励みになります。
※2/9 誤字修正しました。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、この世界の闇は思ったより根が深いぞ。
兄貴は無事に君の元へ帰れるだろうか?
つい弱気になってしまうのも仕方が無いだろう。
博学なサーデインさえも気付けなかった真実。
50年前起きた大戦の裏側。
これはおれの予想に過ぎないが、あながち的外れでも無いように思う。
ウララのタイムリミットは、刻一刻と近付いている。
それでもおれたちは会話を選んだ。
なんだかそうしなければいけないような、漠然とした予感があったんだ。
「この世界を救って。」と『カードの女神』は言ったが・・・。
一高校生には・・・ちょっと荷が重くないか?
■
角が元通りになったリゲルに向かって、アーライザが何度も頭を下げている。
四肢をピンとつっぱり、無駄にキリッとした表情(馬だが)をしているが、おれのお前に対する評価はもう変わらないぞ?
お前はただの・・・いや違うな。
本物の処女厨だ。
リゲルはそんなおれのジト目を受けて、「ブルルン。」と何事か言っているようだが、どうせ碌な事じゃないから訳してもらう気も無い。
「セイ?急いでるんじゃ・・・。」
聞いてきたアフィナを一瞥して考える。
おれはアーライザを見ながら、アフィナとシルキーに問いかけた。
「なぁ、あれがおれたちを襲ってきた人物と、同一人物に見えるか?」
二人揃って首を横に振る。
(だよな・・・。)
彼女の今の姿が演技だとは到底思えない。
交わした言葉は少ないが、そこには確かに実直さのような物が見て取れた。
確かに急いではいる。
だが、ちゃんと話し合っておかねばならない。
どこか予感めいたものがあった。
おれはアーライザを呼び、全員分のお茶を淹れなおすとイスに腰掛けた。
イスに座った所で、アーライザは改めて全員を見回す。
そして、おれの箱から上半身を出したキアラに目線が固定された。
「あ、貴女はもしかして・・・キアラ様なのか?信じられない・・・50年前と寸分姿が変わっておられないのだな・・・。」
仲間の女性陣が揃って顔を見合わせる。
それもそうだろう。
アーライザは出会った当初キアラのことを、堕天使だの、半端物だのと散々ディスっていたのだ。
(これはやっぱりそういうことなのか?)
おれの疑惑が、半ば確信に変わる。
アーライザは懐かしそうな顔でキアラを見つめた後、もう一度全員を見回してから頭を下げた。
「先ほどは大変申し訳なかった。改めて、貴方がたの事を教えてもらえないだろうか?」
おれは、「では・・・。」と言って話そうとしたサーデインを手で制す。
「アーライザ、先に少し質問して良いか?」
彼女は、「自分に答えられることなら。」と真剣な顔で頷いた。
おれも一つ頷き、一石を投じてみる。
「お前は、異教徒についてどう思う?」
おれの仲間たちが息を飲み、空間に緊張が走る。
そんな中、アーライザは一つ首を捻ると、不思議そうな顔をして答えた。
「自分はその言葉が余り好きではない。恥ずかしながら、わが国の上層部は好んで使うが・・・、この世界はたくさんの人種が住んでいて、それぞれ神を信奉している。自分は『正義神』ダイン様を信仰してはいるが、神に祈るにあたって同も異も無いと思うが・・・?」
(なるほどな・・・。)
「じゃあおれたちの素性を明かそう。」
おれの言葉で、仲間たちに緊張が走ったのがわかった。
「おれはセイ。『カードの女神』から『加護』を受けた、異世界の魔導師だ。こいつはアフィナ。『精霊王国フローリア』の現『風の乙女』で、エルフとドワーフのハーフ。所謂『忌み子』ってやつだ。それから『混沌の女神』アザレアの司祭サーデイン。『女盗賊頭』、鬼人族のエデュッサ。『一角皇女』、『一角馬』のシルキーだ。キアラとリゲルは良いな?」
順に手で示しながら紹介していく。
紹介されたメンバーも驚きを隠せないんだろう。
一応、合わせて頭こそ下げるが、驚愕を顔に貼り付けている。
もちろんこんな紹介をしたのには理由があるんだが。
■
アーライザも驚いてはいるものの、少なくとも仲間たちよりはうろたえていない。
一つ大きな息を吐くと、おれに向かって真剣な眼差しを向けてきた。
「・・・なるほど。それほどの面子が集まっているからには、きっと吝かでない理由があるのだろう。」
「えっ・・・?それだけ・・・?」
顔を見合わせたアフィナとシルキーの疑問ももっともだろう。
だが、おれには確信があった。
質問を続ける。
「アーライザ。異世界人、忌み子、異教の司祭、魔族。どう思う?」
おれの問いにアーライザは「・・・そうだな。」と呟き、その後を続ける。
「異世界人と言うのは自分には良くわからないが、主神様の『加護』持ちなのだろう?ならば敵でないことはわかる。あの方はどの神よりも世界を憂いておられるらしいからな。それから、忌み子と言うのは・・・自分が聞いた話では、親の寿命を喰らうと言われているが、実際にはどんなに長命種同士の子であれ100年生きられぬ子供を哀れんだ、大いなる意志の力だと聞いたぞ?子供が親より早く死ぬことほど親不孝なことは無いからな。『混沌の女神』アザレア様の高司祭、サーデイン様のお噂は当時良く聞いた。理知的で人心の機微が分かるできた方だとな。こうしてお会いできて光栄に思う。エデュッサ殿が魔族だと言うのは少々驚いたが、別に敵意は感じられない。種族で争うなど馬鹿げた事ではないか。」
「「「・・・・・・。」」」
仲間たちが言葉を失う。
イヤな予感がビンビンくる。
虎柄の半纏を着た少年なら、間違いなくアンテナがバリ3だ。
「アーライザ、それはお前だけの考えか?」
「いや、上層部はわからないが、少なくとも自分たちの世代は、ほとんどこんな考えだと思うが・・・?」
それが真実だとしたら・・・。
まずい、本当にまずいぞ!
自分の血の気が引いていくのがわかる。
おれは今きっと相当に顔色を悪くしているのだろう。
アーライザが「セイ殿?自分は何か悪いことを言っただろうか?」と不安気だ。
少女たちが見かねて、「セイ?」「セイさん・・・。」「セイ様。」と口々に寄ってくるが、手で制して考えをまとめる。
「おい、サーデイン!」
サーデインを見ると、彼も顔色が悪い。
おれとサーデインは恐らく、同じ感覚を共有しているんだろう。
背中に氷を突っ込まれたような、身の毛もよだつような感覚だ。
彼女が言った事と、サーデインの知識に大きな齟齬がある。
サーデインは、50年前には彼の国は狂信者の国になっていたと言ったんだ。
つまり50年間、彼女のような天使が造られている?
『封印されし氷水王』の『感染者』が!
「サーデイン、『氷水王』が絡んでることも教えてやれ。」
おれの言葉に、「いやはや、説明しようとした所でアフィナさんが来ましたからね。」と、バツが悪そうな顔をするサーデイン。
その言葉にギョっとした顔で、アーライザはおれたちを凝視した。
「氷水王!氷水王と言ったのか!?」
おれとサーデインが顔を見合わせる内に、アーライザはイスから転げ落ちて蹲り、「あ・・・あああ・・・あああああ!!!」と絶叫する。
「おい!どうした!?」
絶叫の後、ゼーハーと荒い呼吸を繰り返すアーライザの瞳に力が戻る。
「全て・・・全て思い出した!は、早くマルキスト様に報告しないと・・・。」
■
彼女は、『封印されし氷水王』に感染され、操られていた時の事まで鮮明に思い出したらしい。
情報のすり合わせをした所、こうだ。
アーライザは、『天空の聖域シャングリラ』の最高軍事責任者である『裁く者』マルキストにより密命を受け、『封印されし氷水王』と『聖域の守護者』ティル・ワールドの身辺を洗っていた。 これには、ウララが罠にかけられた件も関わりが合ったらしい。
マルキストはその辺りのことも見抜いていたとの事。
神託でウララの生贄が決まった時も、彼だけは最後まで反対し保護しようと尽力したが、四面楚歌だった。
やむおえず逆転の一手を講じるべく、彼の国の暗部に調査のメスを入れようとしたマルキスト。
しかし彼の最大の誤算がそこにあった。
それはアーライザがすでに『感染者』だったこと。
いや、それは最早アーライザだけではないのだろう。
彼の国のほとんどの天使族が『感染者』と見て間違いない。
「自分はマルキスト様をお救いしたい!あの方はすでにマークされているんだ!」
正直もう疑う余地は無い。
おれはアーライザの事を完全に信用してしまった。
「アーライザ先に行け!おれたちもすぐに追う。」
彼の国で唯一まともなんだろう、『裁く者』マルキスト。
ウララを守ろうとした彼のことは、どうか無事でいてくれと思わずにはいられない。
「承知した!セイ殿、忌まわしき呪縛からの解放、心より感謝する!」
そう言って四枚の羽根を広げ、空へと浮かぶ背中に声をかける。
「アーライザ、ウララの事も頼む!」
アーライザは一度振り返り、大きく頷くと一気に上昇した。
「主殿。」「ご主人様。」
おれを見つめる二人の盟友に頷いて、金箱を差し出す。
「二人ともありがとうな。また頼む。」
そしておれは『魔導書』を展開した。
ここからは時間との勝負だ!
ここまで読んで頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。