・第七十話 『再生』
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※2/9 誤字修正しました。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、何でも貫けば、本物になるってのは実際にある話のようだ。
兄貴は今日、そのことを思い知った。
言われてみれば、「好きこそ物の上手なれ。」なんて言葉があるよな。
竜兵も最初はプラモデル作りからだった気がする。
たしか初めての銀細工、おれと君にペアのチョーカーをくれたんだっけ。
まだ拙いその出来に恐縮する竜兵を見て、おれたち二人は少し大袈裟なくらい喜んだんだ。
それ以来だろう。
あいつの銀細工が日に日に上達していったのは。
思えば秋広もそうだ。
自分が着たい、もしくは誰かに着せたいが為に、独学で服飾を始め、今ではネトオクでそれなりの値が付くものを作っている。
まぁモデルとして駆り出されるおれは、正直辟易しているけどな。
ウララの家事全般?
あ・・・そこに触れちゃうか。
まぁ日本には「下手の横好き。」って言葉もある訳で。
今日こんな話題になったのはアレだ。
本物は居るよ。ってことを言いたかったんだ。
■
シルキーがボワンと音をさせ人間モードに変わり、そのまま驚いた表情を張り付かせる。
そしてサーデインとおれは顔を見合わた。
少々淑女らしからぬ声を出し、緑の粘液を吐き出したアーライザは、まるで憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔をしていた。
まぁ、実際取り憑かれていたような物なのかもしれない。
さっきの会話の内容からしても、『封印されし氷水王』の感染者は光属性の攻撃で浄化できるようだ。
後からサーデインに聞いた話によると、最低でも将軍級以上の実力が無いと、今回のような荒療治は無理だろうって話だったが。
どうやら、感染を駆逐する攻撃に耐え切れる最低限度が、その階級以上でないと不可能みたいだ。
そう聞くと、さっき漫画だったら骨が見えてる雷だぞ。と思ったのもあながち的外れではなかったようだな。
だってアーライザ、体から煙も出してたし・・・。
アーライザは、おれたちと出会ったときに浮かべていたようなニヤニヤ笑いではなく、至極真面目な表情でおれたち一人一人を見回す。
そして、丁寧な口調で聞きなおした。
「皆さん教えて欲しい。自分はなぜ拘束されているのだろうか?」
「お前は今までの事を・・・おれたちと出会ってからの事を、一切覚えてないのか?」
おれの問いにアーライザは、数瞬宙を睨むような素振りを見せるが、すぐに肩を落とし項垂れる。
その姿にはとても嘘をついているような様子は見られない。
(まぁ、そういうことなら・・・)
「サーデイン、任せた。」
おれは当然の如く、サーデインに丸投げした。
苦笑ひとしおのサーデインが「わかってますよ。」と言わんばかり、おれと位置を入れ替える。
「では・・・我々の遭遇からお話しましょうか・・・。」
そう前置きしてからサーデインは、これまでの事を語りだした。
見る間に、その顔を青ざめさせていくアーライザ。
話が一段落した所で彼女は、わなわなと肩を震わせ搾り出すように声を漏らした。
「では・・・では、自分は問答無用で貴方がたに襲い掛かり、無抵抗の『一角馬』の角を折ったと・・・。」
「端的に言うとそうです。」
サーデイン、容赦ないな。
ほらー、彼女半べそになってるじゃん。
まぁ自業自得なんだが。
その時小屋のほうでガサゴソと音がして、ねぼすけハーフエルフが起きてきた。
どうやら同じように休んでいたリゲルも一緒のようだ。
「セイおはよ。ボク、寝過ごしちゃったみたいだね。あれ、みんなどうし・・・。」
おれに挨拶し、場の違和感に気付いたのかみんなを見回した後、アフィナの視線がアーライザで固まった。
慌ててリゲルを庇うように、その前へ体を広げた。
「な、なんでこの人が!」
「んー、まぁ落ち着け。」
おれはアフィナの手を取って、自分の横へ座らせた。
「どゆこと?」と目で伺ってくるアフィナを、一つ頷く事で黙らせたおれは、成り行きを見守っている。
「自分が傷つけた『一角馬』と言うのは・・・。」
リゲルの根元から折れてしまった角を見つめ、呟いたアーライザに首肯で答えるサーデイン。
アーライザは、両手と翼を拘束された不自由な体でなんとか立ち上がると、数歩リゲルに近寄り、突然額を地面に打ち付けるかの如く土下座した。
「済まない!自分はとんでもないことをした!」
そう言って彼女は、何度も額を地面に打ち付ける。
鉢金で防護しているはずの額が破れ、血を流しているのが見て取れた。
(どんだけの力で打ち付けてんだ・・・。)
エデュッサに目配せして止めさせる。
そしてリゲルが「ブルルン。」と何か言葉を発したように感じた。
通訳して欲しい気持ちでシルキーの方を見ると、彼女はついっと目線を逸らす。
「・・・おい、リゲルは何て言ったんだ?」
重ねて尋ねると、シルキーはかなり言い辛そうに、「あー、えーと・・・処女だから許すって。」と呟いた。
場の空気が凍る。
すごいな『一角馬』・・・。
「そ、そうだ!自分の肩当てを開けてくれ!」
突然何かを思い出し叫ぶアーライザ。
エデュッサが、彼女の着ている軽鎧の肩当てをはずすと、中から一枚のカードが出てきた。
そのカードを抜き取り、おれに渡してくるエデュッサ。
(・・・これはっ!!)
そのカードは『再生』の魔法カードだった。
■
ある種、『薬箱』のカードよりも上級に当たるその魔法。
『薬箱』のように、魔力さえ続けば何でも治すと言うわけではないが、骨折や四肢の欠損などを瞬時に癒す力がある。
ウララがよく使っていた魔法だ。
もちろん失った部位が無いとだめだし、病気や毒などの治療には使えない。
しかしこれは僥倖だ。
おれは念のためにと、リゲルの折れた角を『カード化』して『図書館』に収納してある。
「もしもの時のために持っていたんだ。」
そう言うアーライザを尻目におれは考える。
問題はだれが使うかだ。
おれが使えれば問題ないが・・・残念、これは光魔法だ。
ならば一番魔法に精通したサーデインと思うのだが、「ブルルン(男はだめだ)。」と、お馬様のお達しである。
光魔法ならとキアラ・・・
「つ、つ、つ、使えますけど、魔力が足りません。」
だめか。
「シルキーはどうだ?」
「セイさん、魔物である『一角馬』はカードで魔法を使えないよ。私が光属性の魔力を出して攻撃できるのは、『特技』だからね。」
むぅ、そうなのか。
アフィナを見るが、ブンブンと首を振る。
「ボク、風と火の魔法しか使えないよ。後、カーシャ様に教わって木の治癒魔法が少し・・・。」
そうか、あれはカーシャの治癒魔法だったのか。
さすが・・・できる女は違う。
「むぅ・・・がんばったのはボクなのに、正当な評価がされてない気がする・・・。セイのためなのに。」
心を読むな。
「なんでおれのためなんだか・・・。」
呟いた言葉にアフィナ、シルキー、キアラがおれを二度見した。
何なんだお前ら・・・。
そのままシルキーがアフィナに耳打ちする。
「アフィナさん、セイさんのあれは本気?」
「あーうん。たぶん。」
二人揃って深々とため息をつく。
混ざろうとしたキアラの首根っこを捕まえる。
お前は魔力が足りないんだろ?
大人しく箱に入ってろ。
しかしどうしたもんか。
エデュッサは魔法使えないしなぁ・・・。
「もし・・・もし良ければ、自分にやらせてもらえないだろうか?」
そのやり取りを見ていたアーライザが、そう進言してきた。
(さすがにそれは・・・。)
操られていたのは同情もするが、まだ彼女のことを完璧に信用した訳ではない。
おれたちが顔を見合わせるとアーライザは、「いや、やはりだめだよな。済まない、忘れてくれ。」と自嘲気味に顔を俯かせた。
その時、お偉いお馬様が「ブルルン。」と何事か発する。
シルキーを見ると、またしても苦い表情。
なんとなく予想がつくが・・・。
「リゲルはなんて言った?」
「あの・・・うん、処女だから信じるって。」
またかお前。
この馬本物やで。
まぁなんだ。
縄を解かれたアーライザの魔法『再生』によって、リゲルの角はめでたく元通りになりました。
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