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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
71/266

・第六十八話 『総本山』

投稿遅れてごめんなさい。

書いてる途中で気絶(寝落ち)しました!

いつも読んで頂きありがとうございます。

ブクマ、励みになります。

気が向いたら評価なんか付けてあげると、作者のパッションがあふれ出すかもしれませんw


※今回は三人称視点による『天空の聖域シャングリラ』内のお話です。


 神々の通用門と言われる全高10mに達する巨大な扉、『南天門』。

 そこを抜けた先は、眼下に雲海を見下ろす崖である。

 『天空の聖域シャングリラ』の、所謂城下町と王城はそこには存在しない。


 ではその二つはどこにあるのか?

 答えは視線を斜め上へと移動すればわかることだ。

 そう、『天空の聖域シャングリラ』は空中にある。


 空中に浮かぶ岩塊・・・いや、その大きさは島と言うべきであろう。

 ピラミッドのような三角錐を、上下に二つくっつけたような形。

 そして崖と島を繋ぎ止めるかのように、巨大な鎖が何本か伸びている。

 これはこの国誕生の逸話によって、語り継がれている。


 曰く、『正義神』ダインが自らの臣民のためにと、遺失級空間魔法『断界』で大陸を分かち、同じく遺失級重力魔法『浮島』でその切れ端を空へ浮かべ、作られた島であると。

 また『浮島』の効果が強すぎたため、そのままだと島は際限なく空へ登って行ってしまう。

 ゆえに鎖で大陸と繋ぎ止めているのであると。

 なんとも眉唾な話ではあるが。

 もしも上空から見ることが叶うならば、門側の崖とこの島の側面が、ピッタリと合わさるであろうことが伺えるため、あながち嘘とも言えない所があったりもする。


 それはともかく、この島の概要を語ろう。

 下部分はむき出しの岩壁、一番広い腹部を皮切りに、段々畑のような階層が三つ広がっている。

 一番広い最下層面が一般市民、所謂天使族以外の者たちが住まう階層。

 いくつもの家が整然と並び、区画ごとに公園や商店などが見て取れる。

 二層目が天使族及び、その他の種族の中でも、一部の上流階級、役人や官吏など公務員に当たる者が住んでいる階層。

 こちらも整然としているが、一軒一軒の建物の大きさが明らかに違う。

 更にこの区画には役場や図書館、公共の設備が備えられていた。


 そして三段目。

 『地球』で言うところの、中世ヨーロッパ様式とでも表すのだろうか。

 パッと見はいかにもなお城に見えるのだが、良く見るとそれはいくつもの教会のような物の集合体だと言うのが見て取れる。

 こここそが『天空の聖域シャングリラ』の王城とされる建物。

 この国の住人が言う所の『総本山』である。


 

 ■



 時間軸的にはセイがアーライザと遭遇したのと同時刻頃の話である。

 『総本山』の最深部一歩手前、この国の守護神である『正義神』ダインの神殿へと続く大回廊を三人の人物が少々足早に歩いていた。


 「ねぇ王様、考え直しませんか?」


 そう言って、一番前を歩く八枚羽根の天使族に話しかけたのは、黒髪黒目の青年。

 年の頃は20代後半から行っても30代前半程度だろう。

 純白の神官服に、学童のような帽子をかぶり、背に大剣を斜め掛けにしている。

 人懐っこそうな笑みを浮かべながら、王と呼称した相手の右後方に付き従っていた。

 王城の中にありながら彼が帯剣を許されているのは、その役職と扱う剣が特殊なものであるがゆえ。


 彼の名は、『裁く者』マルキスト。

 『天空の聖域シャングリラ』の最高軍事責任者である右大臣になる。

 そして彼が持つ大剣が、この国の至宝『裁断刀ゲイル』。

 この大剣、剣としての殺傷能力は皆無である。

 なぜなら、この剣には刃が無いのだ。

 この剣が切るのは肉に在らず、不浄なる穢れ、それは亡霊や怨霊の類であったり、もしくは罪を犯した者の精神である。

 天使族の治めるこの地において、人族である彼が軍部の最高位である右大臣を任され、至宝である『裁断刀ゲイル』を下賜されていること考えれば、その実力たるや推して知るべきであろう。

 事実、純粋なる剣技で言えば、この国でマルキストに勝てる者は一人も居ない。

 それは如何な天使族であってもだ。


 「くどいぞ、マルキスト。これは決定したことだ。」


 そんな彼を一瞥し、にべもなく跳ね除けたのがこの国の現国王。

 『天尊』カルズダート三世。

 輝くようなくせのない金髪を腰辺りまで伸ばし、青いゆったりとしたローブに身を包む。

 歳はずいぶんと若そうに見え、おそらくは十代半ば。

 しかしマルキストにかけた声は、自身が絶対的上位者であることを疑わぬ、強い自尊心に満ち溢れている物だった。

 そして・・・何よりも目立つのはその背。

 守護神である『正義神』ダインと同じ枚数。

 最高位とされる八枚羽根だ。


 「そうは言ってもですね~。すごく嫌な予感がするんですって・・・。王様も私の『能力アビリティ』はご存知でしょう~?」


 王に対するには、ずいぶんとフランクに感じるその言葉に、カルズダートの片眉がピクリと反応する。

 マルキストの『能力アビリティ』の一つに、『予知』というものがある。

 この力かなり限定的なもので、自身の行いが正か否かなんとなくわかると言う程度の物ではあるのだが、それが軍部の最高責任者、それも国内随一の剣士でありながら、現在も武力だけでなく勉学にも励み、右大臣として叡智でもこの国に大いに貢献するマルキストの言となれば、ずいぶん話が変わってくる。

 実際にこの国は、彼の『予知』のおかげとしか思えない危機回避を何度も経験しているのだ。

 今までもマルキストが「嫌な予感がする。」と言えば、決定事項が覆るのもそう珍しいことではなかった。


 その辺りのことを想起しつつ、カルズダートは自身の左後方に付き従う人物に声をかける。


 「『聖域の守護者』ティル・ワールドよ。マルキストはこう言っているが、わが国が誇る賢者であり左大臣、『三賢人』の一人としてのお前の意見を聞かせてもらおう。」


 その人物とは・・・20年前の大戦末期に、超古代級究極破戒魔法『終末』を用い、未曾有の大量虐殺を行った張本人。

 目線を隠すように前髪を伸ばした灰色の髪、青みがかった三枚の羽根を持つ有翼種。

 左大臣という役職には到底相応しからぬ、質素なローブを着込んだ男。

 『聖域の守護者』ティル・ワールド、その人だった。

 カルズダートに意見を求められ、彼は心底不思議そうに聞き返した。


 「・・・王よ。神託があったのだろう?ならば何を迷う。」


 その言葉には感情が全く込められていなかった。

 いや正確には、「理解できない。」という感情は込められていたのかもしれないが。


 「決まりだな。」


 「王様・・・。」


 得心顔で頷くカルズダートに、二の句を次げないマルキスト。

 どうしてこうなってしまったのだろうか。


 (アレは触っちゃいけないものだ・・・。)


 マルキストは心の中でそう確信していた。



 ■



 それからの三人が、無言のまま歩き続けること約15分。

 正に『総本山』の最深部へと足を踏み入れた。


 実際にはもう一つ奥があるのだが、一般的にはここが最深部だと言われている。

 その事実を知るものはほんの一握り。

 もちろんこの国の最高権力である三人はその事を知っているが、今は目的が違うので考えてはいない。


 目の前には魔力によって封じられた大型の扉。

 『正義神』ダインの守護色でもある、青い装飾が施されている扉に三人は魔力を注ぐ。

 両開きの扉が、ひとりでにゆっくりと開いていく。

 ここは『正義神』ダインの住処と言われる神殿、置いてある調度品や祭具もすべからく人間サイズのものはない。


 そしてその中央部に、若く美しい少女が結晶に閉じ込められた姿で安置されていた。

 『天空の聖域シャングリラ』の秘匿魔法、神代級封印魔法『晶柩』によって囚われの身となった、セイたちの幼馴染である異世界の魔導師、橋本麗はしもと うらら通称『正義ジャスティス』のウララだ。


 彼女はまるで眠っているように穏やかだった。

 しかし、その表情に生気は一切感じられない。

 また、そうしている間にも結晶から淡い魔力が浮かび上がり、上空へ向けて消えていく。

 

 「しかし・・・実際にその目で見ていても、そこな少女があれほどの力を有したとは信じがたいな。」


 カルズダートがしみじみと呟く。

 マルキストもまた、その意見には同意だった。

 彼女が起こした正に『災害ハザード』と言うべき被害は、この国において戦後初の大事件と言えた。


 (まぁ彼女を怒らせた、私たちが悪いんですがね・・・。)


 マルキストはそう思う。

 彼女の怒りは至極まっとうなものだった。

 心情的にはこの国の上層部が行った行為は、『裁く者』の称号持ちとして見過ごすことができないような暴挙だったのだ。

 それでも・・・彼は王命、神託と言われて踏みとどまった。

 それを今では後悔しているが、自分がどこかでストッパーにならないと、この国、この王、そして『聖域の守護者』は更に暴走するだろう。


 「では、始めようか。」


 カルズダートの宣言に、ティル・ワールドは頷くと小声で何事か詠唱を始めた。

 彼らが行おうとしているのは、神召喚の下準備だ。

 王は言う。

 神託があったと。

 異世界の魔導師であるウララを生贄に、完全なる形での神召喚を行い、『正義神』ダインの旗の下、全ての国を迎合しようと言うのだ。


 神託自体を疑う訳ではないが・・・。

 年端も行かぬ少女を罠にかけ。

 ましてやこの国どころか、この世界の住人ですら無い彼女を生贄に求める神。

 神の言うことならと、疑いもせずそれを実行する人々。

 これのどこに『正義』があると言えるのか。

 マルキストは深々とため息を吐いた。


 (師よ・・・最早、この国は手遅れだと思うのです。私一人では少々荷が勝ちすぎていますよ。せめて・・・せめて『四姉妹』のどなたかでも残っていれば・・・。)


 ウララが収められた結晶を中心に、大型の魔方陣が形成されていくのを眺めながら、マルキストは改めて一つ決意した。


 (このままではいけない。最終的には・・・儀式を妨害してでもこの愚行を止める・・・。)


 そんな彼のことを、一人の男が見つめていた。

 魔法を唱えながらも、灰色の髪に隠されたその瞳は、まるで全て見通すかのようにマルキストの背中を射抜いていた。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※三人称視点はもう一話続く予定です。 

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