・第六十七話 『浄化の雷』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、このトラブル発生率ひどすぎると思わないか?
兄貴も今なら、ニートの奥義「床ドン」ができそうな気分だ。
猶予期間、一月から一週間ってのは減りすぎだろう。
それでなくても、これからの道程は厳しくなるんだぞ?
これからおれたちが越えなければいけないのは・・・。
『天空の聖域シャングリラ』の兵士が、常時100人以上詰めている『雲の高見台』。
そして神々の通用門と言われる、全高10mはある城門『南天門』。
サーデイン曰く、どちらも一筋縄ではいかないとのことだし。
案じているのは、自分のせいだったりもするが。
いや、さすがにおれも気付いたぞ?
所謂アレだよな。
トラブル巻き込まれ体質なんだろ!
仕方ない、こちらが避けても向こうから巻き込んで来るなら・・・プランBだ。
プランBは何かって?
ああ、「正面突破」だ。
■
小屋から外に出る。
空気は冷たく、まだ辺りは暗い。
屋根越しに見える東の空が、ほんのりと紫色に色づいてきた・・・そんな時刻。
おれの衣擦れの音に気付き、焚き火の番をしていたサーデインとエデュッサが、目礼で挨拶してくる。
「サーデイン、エデュッサ済まんな。お前たちも疲れているだろうに。」
「いえいえ、主殿こそ・・・少しは休めましたか?」
「そうですよ、ご主人様。あたいたちに遠慮は無用です。」
不寝番を労うおれと、それに返答する盟友たち。
ちなみに全員小声だ。
まだ他の奴らが寝てるからな。
おれたちはあの後、戦闘になった池を離れ、森の中にひっそりと捨て置かれた猟師小屋のような物を見つけ、そこでキャンプを張った。
ウララの『晶柩』リミットまでは、およそ後六日半。
急ぎたい気持ちはあるが、リゲルも傷を癒しただけだしアフィナとシルキーの疲労も危惧された。
まぁ疲労よりも、グロい光景から来る、精神的ダメージが深刻だったのも感じたからな。
おれはサーデインとエデュッサの対面、ちょうど三人で焚き火を中心にした三角を描くような場所へ、『図書館』から引っ張り出した、イスのカードを具現化して腰掛けた。
そして同じく『図書館』から水筒を取り出し、中に作り置きしてある紅茶を人数分カップに注ぐ。
「んっ。」と言って差し出すと、二人揃って「頂きます。」と言い、一口嚥下してほぅっと一息ついた。
カップは後二つ。
おれの分と・・・。
そのタイミングで、『見習い天使』キアラが金箱からひょっこりと上半身を出す。
彼女が起きてるのは、何となく雰囲気でわかっていたからな。
なんというか、使い慣れた箱の中にある一点の異物感みたいな?
まぁこれには訳がある。
単純にもう、キアラがウララから渡された魔力が限界寸前なんだ。
もちろんおれが代わりに魔力譲渡しようと思ったんだが、なんかできなかった。
この世界の住人にも問題なくできると言うのに。
おそらくはウララの使役する盟友だから。って事じゃないかと推察している。
んで、盟友の皆さん曰く、金箱の中に居ると魔力の消費が少ないんだそうだ。
そんな訳で彼女は今、おれの金箱に居候中。
おれが無言でカップを差し出すと、「あ、あ、あ、ありがとうございます!!!」と、赤い顔で少々大袈裟に騒ぐ。
「まだ寝てる奴が居るから静かにしろ。」
おれが小声のまま注意するとしゅんと俯いたが、大事そうにカップを両手で抱えて、ふーふーと冷ましながら静かに飲み始めた。
おれも一口飲んで、カップを見ながらため息一つ。
(状況は決して良くない。)
そんなおれを見ながら、サーデインが切り出した。
「主殿、先ほどエデュッサさんとも話していたんですがね。」
言われ、顔を上げると二人は真剣な顔で頷いた。
■
「こうなってしまっては、最早隠密裏に事を運ぶのは難しいと思うんです。」
まぁそうだな。
国境を越えて即、アルデバランと一緒にドラゴンと魔物の群れを蹴散らし、昨夜は『天空の聖域シャングリラ』の近衛部隊でもある、『戦天使長』アーライザの率いる部隊と、大立ち回りの上殲滅した。
こちらの本意じゃないと言え、この国に入ってからおれたちは、大暴れしてると言っても過言じゃないかもしれない。
「私たちを一度送還して、戦闘に長けた盟友を呼んでは如何でしょうか?」
(二人も十分強いんだが?)
基本的におれの『魔導書』に居る盟友たちには、一長一短、得手不得手こそあれ、明確な優劣など付けているつもりは無い。
それぞれおれが悩んで選んだ仲間、唯一無二の存在だからだ。
ゆえに他の魔導師のように低コストな盟友が居ない訳で。
カードゲーム『リ・アルカナ』の一般常識からすれば、少々「重い」と言われる所以だ。
そんな事を考えながら、頭にクエスチョンマークを浮かべていると、「ご主人様、違うんです。」とエデュッサ。
続きはサーデインが語るようだ。
「理由は幾つかあるんですがね。まず第一に、先ほども言った隠密行動が最早不可能であること。
第二に、ウララさんに残された時間が余りにも少ないこと。そして第三、この先の敵勢力と我々二人の相性がいまいちなこと。私はどうしても防御寄りの魔法使いですし、エデュッサさんは斥候系ですからね。」
「ご主人様。はっきり言うと火力が足りないと思うんです。」
なるほど、たしかに。
おれの『魔導書』にしては珍しく、かなり防御寄りの布陣になってるんだな。
「純粋に人数を増やしてもらう事も考えたんですがね。それだと主殿が魔力面で負担になりますし、お二人の事もありますからね・・・。」
そう言って小屋の方を見るサーデイン。
魔力面では、今のところ自身の限界は見えないが、そこなんだよな。
おれたちは守りながら戦わないといけない。
防御メインの布陣で、戦闘力が余り高くないアフィナとシルキーを守りながら戦うのは、結局ジリ貧の可能性を内包するリスキーな物なんだ。
「それともう一つ。これは・・・考え過ぎかもしれませんが。できれば私はこの先、戦場に出ない方が良いと思うんですよ。」
ふむ、サーデインが言うなら、何か考えあってのことだろう。
「主殿の『魔導書』で、『晶柩』を解除できるのはおそらく、私の『制約』だけです。ですからまかり間違って私がアンティにされると・・・。主殿なら、その場面になれば必ず、私と『制約』を引けますよね?」
なるほど。
それは盲点だった。
これサーデインが言い出してくれてよかったな。
完全に失念していたが、もしサーデインがアンティで奪われたらその時点で詰む。
「わかった。二人ともありがとう。誰を呼ぶか考える。」
三人で頷きあい、おれは『魔導書』を展開した。
■
「・・・セイさん。私は邪魔かな?」
起きてきたシルキーが、申し訳なさそうに呟く。
どうやら、彼女たちを守りながら戦わなければならないといった話を、一部聞いてしまったようだ。
おれが何か言う前に、サーデインが返答する。
「シルキーさん。そんな事はありませんよ。丁度試して欲しいことがあったんです。」
サーデインはおれに目配せを送りながら、未だ気絶中で隅っこに転がされていたアーライザを引っ張ってきた。
「シルキーさん。『一角馬』形態になって頂けますか?」
訝しみつつも「は、はい。」と言って、本来の姿『一角馬』モードに戻るシルキー。
「では、『浄化の雷』お願いします。」
サーデインの言葉に、馬の体で器用に首を傾げながら、その美麗な角へと魔力を集めていくシルキー。
「ではどうぞ。」の声で指し示されたアーライザへ向けて、疑問を浮かべたままのシルキーが雷を放った。
バリィィィ!!
「あばばばばば。」
いやいや、これ大丈夫?
一昔前の漫画なら、完全に骨見えちゃってる奴だけど!?
体の所々から白煙を吹き上げて、「こふっ。」っとアーライザがむせる。
そうしてむせかえった直後。
「うぼぁぁぁぁ・・・。」
性格には難有りかもしれないが、その美しい顔に似合わぬヤバイ声を上げ、口から緑色(正確には翡翠色なんだろうが)の粘液を大量に吐き出した。
・・・oh・・・。
あのね、ブリッジしたまま階段から降りてきたりさ、白目剥いてけたたましく笑ったりさ。
今回みたいに、緑色の粘液を口から吐き出すのは・・・あれフィクションですからー!
目の前で発生した時、人はohしか言えないと思うんだ。
リアルに悪魔祓いをされ白目を剥いたアーライザの、瞳の焦点が合った。
「じ、自分は一体なにを・・・自分はなぜ縛られているのでしょうか?それに・・・あなた方は?」
「これは・・・」
顔つき、それに口調まで完全に変わってますが?
困惑するおれに「思ったとおりでしたね。」と頷くサーデイン。
うん、説明しようか。
でないと今日も、グロ映像見せられただけになっちゃうんよ?
「主殿。聖典には載ってたんですよ。『封印されし氷水王』の寄生能力は、光属性の攻撃で解除できるとね。」
そうか、やっぱり『一角馬』は光属性なんだな。
良かった。
シルキーとリゲルを『悪夢』に巻き込まなくて、本当に良かった!!
「つまり・・・。」
おれの言いかけた言葉をサーデインが引き継ぐ。
「この先の戦い。シルキーさん無しには、相当大変な物になるでしょう。ですから是非、シルキーさんには主殿に付いて行って欲しいのですよ。」
そう言ってウインクするサーデイン。
残念、シルキーはグロ映像を避けて、明後日の方を向いていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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※次回は三人称視点・『天空の聖域シャングリラ』側のお話を投稿する予定です。