・第六話 『双子巫女』
読んで頂きありがとうございます。
今回から一人称視点で物語が進みます。
※4/26 微修正しました。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君は今どうしているだろうか?
兄貴はどうやら、えらいことに巻き込まれたみたいだ。
心配のあまり、その可愛い顔を曇らせ、食事も睡眠もまともにとらず泣いている姿が、目に浮かぶようだ。
必ず帰るから・・・どうか、待っていてほしい。
そういえば神様(笑)に会ったよ。
死んだ訳じゃないらしいから安心してくれ。
■
異様に痛む頭のせいで、おれの意識は覚醒した。
(なんだか背中も痛む・・・まるで長時間床で寝てたみたいだ・・・)
そんなことを考えながら、ゆっくりと重い瞼を開くと、目に入ってきたのはまるで、石で作られたような天井だった。
「・・・知らない天井だ・・・」
(くそ、言ってしまった・・・)
このセリフは回避できなかったようだ。
家に遊びに来ては漫画やラノベ、あの薄い(・・・)本などを置いていく秋広が悪い。
生粋のオタクのくせに、妙にコミュ力の高い秋広のせいで、放課後やお昼休みに知らない女子に呼び出されまくった黒歴史が脳裏に・・・
いやいや、そんなこと思い出してる場合じゃなかった。
ここはどこだ・・・?
その時おれの呟きに反応したのか、誰かがしわがれた声で話し始めた。
「どうやら目覚めたようだよ。」
「そうさねぇ、意識はあるようじゃ。」
おれは声の聞こえた方へ目を向ける。
そこは石櫃のような小部屋に見えた。
おれが寝ている場所は、淡く緑色に光る魔方陣の中だ。
あまり明るくは無いな。
光源と言えばその魔方陣と、おれの方へ近づいてくる二人の老婆が持つ、杖の先に灯る小さな輝きだけか。
背も低く腰も曲がっているが、どことなく品があるような・・・
そっくりな背格好、色違いの刺繍が入った白いローブ・・・
おれは何故か、その老婆たちに見覚えがあった。
「『双子巫女』セル・ネル・・・?」
『リ・アルカナ』のカードに、その老婆たちと全く同じ姿のものがあった。
「おや?あたしらのことを知ってるようだよ?」
「そうさねぇ、あたしらも意外と有名なのかね?」
呟きを聞きとめたのか、二人はそっくりな仕草で頷き合うと、そのままおれに近づいてくる。
おれは混乱しつつも、身を起こそうとするが・・・
「痛っ・・・」
体があちこち痛み、うまく起き上がることができない。
(・・・おかしい・・・PUPAにはまだ痛覚のリンクは無いはずだ・・・。)
「すまないねぇ・・・色々混乱してるとは思うんだが・・・」
「そうさねぇ・・・だけどあたしらにゃ時間が無い・・・」
二人はまるで我が子を慈しむように優しく微笑み、おれの両手を握る。
次の瞬間、おれと二人の老婆は真っ白い空間に移動していた。
■
広大に広がる真っ白な空間に呆然とするおれと、跪く『双子巫女』セル・ネルの前には、一人の人物が立っていた。
いや、果たして人物と呼称してもいい者なのか・・・?
その者は姿はぼやけて見えないが、神々しいオーラのようなものを纏っているように見えた。
「セル・ネル・・・無理をさせたね・・・済まない・・・」
「なんのなんの、主神様の神託とあらば・・・」
「そうさねぇ、是も否もないことですじゃ・・・」
いたわるような美声に、跪いたまま答える『双子巫女』セル・ネル。
おれはこのやり取りで、ある程度予想がついてしまった。
VRでは実装されていなかったはずの体の痛み、カードとまったく同じ容姿の二人の老婆、石櫃のような部屋から突然訪れたこの真っ白な空間、そして『主神』と称された目の前の存在。
夢や、VRのシステムエラーだと断ずるには、余りにも違う可能性の方へ条件が整いすぎている。
「異世界転移・・・」
認めたくは無いが、おれの口から確信めいた言葉が漏れた。
「・・・ほぅ・・・」
主神と呼ばれた存在から、感嘆めいた声が漏れる。
「当たりか・・・どうすれば『地球』に帰れるんだ?後は他の三人、いや三人かは判らないか、一緒に連れてこられた奴が居るなら教えてくれ。」
ゆっくりと立ち上がり、突然矢継ぎ早に質問を始めたおれに、唖然とする『双子巫女』セル・ネル。
神と呼ばれ、実際神々しい存在相手でも、物怖じせずに聞きたいことを聞く。
それはおれの当然の権利だ。
神は大きく頷くと静かに語りだした。
「理解が早いようで助かる。まずは詫びさせてもらえるだろうか?こちらの都合で君を・・・いや、君たちをだな、この世界に召喚した者が居る。確かに私は、この世界『リ・アルカナ』で、神と呼ばれる存在だ。率直に頼む、力を貸してはくれないか?この世界は今、とても大きな問題を抱えているんだ。」
ここまでの話を、ただ黙って聞いていたおれだが、言っとかないとな。
「神様、腰が低いのは感心するが、おれの質問には何も答えてくれていない。それに世界を巻き込むような大問題を、普通の高校生が力を貸す程度で解決できるとは思えないが?」
頬をポリポリ掻きながら、実に不遜な態度かなとは思う。
不敬罪とかあるなら捕まりそうだが、勝手に呼びつけたのはそっちだ。
しかし神は、そんな態度すら気にした風は無い。
むしろ傍で見ている『双子巫女』セル・ネルの方が、泡でも吹きそうな顔色だ。
「済まない、少々焦り過ぎたようだ。そうだな、まずは質問に答えよう。君が元の世界『地球』に帰る手段ははっきりしていない。確かにあるとも言えないし、また絶対に無いとも言えない、どうも異世界転移に関しては、私の能力の範囲外なのだ。それと君以外の転移者だが・・・感じられたのは三人、手を伸ばそうとしたのだが、君以外は運命の力がそこまで強く無くてね・・・残念ながら私の近くに呼べたのは君だけだったんだ。それと、君に頼りたい件についてだが、君はおそらく、とてつもなく強いよ。それこそそうだね、君たちの言葉で言うなら『チート』とでも言うのかな・・・」
むぅ・・・思わずおれも唸ってしまう。
自分で聞いた事といえ、ここまですべて情報を出してくれるとは思わなかった。
それにチートか・・・いやな予感しかしないな。
もちろん神がすべて正直に話しているとも限らないが、しかし転移者の三人都合が良すぎる、どう考えても幼馴染の三人に思えるな。
正直この世界のことは、知ったことかってのが本音だけどな・・・
だけど幼馴染たちをよくわからん世界に置いていく訳にも行かないし、勝手に呼んだことについては悪いとも思ってるようだ。
まぁどんなテンプレな事態になってるのかはわからないが、とりあえずおれたちが帰れるようになるために協力するのは仕方ないか。
どこかの勇者みたいにがんばるつもりは無いが、ラノベの主人公よろしく、目立たないように隠れながらなんとかしたい所だ。
おれは盛大なため息をつくと、
「・・・わかったよ神様、協力できるかどうかは話を聞いてからだ。」
そう苦々しく搾り出した。
『地球』に帰るためにはまず、情報収集が必要そうだ。
神様ならサクっと送り届けて欲しいものだな・・・。
それでもおれは、あくまで乗り気で無いスタンスを貫かせてもらおう。
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