・第六十六話 『翡翠』
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマ、励みになります。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、この世界では今粘液ブームでも来てるのだろうか。
兄貴にはグロ耐性は無かった。
『暴食』と言い、今回の件と言い・・・。
ああ、『暴食』は鳥面の『略奪者』の仕業だったか。
それはともかく。
赤、緑と来たら、次は黄色か!?なんて身構えてしまうな。
やけにテンプレを理解している節のあるこの世界。
否定しきれないのが怖い・・・。
いやいや、フラグじゃないぞ?
おれは期待してないからなっ!?
■
ヒュガ!キュドーン!!!
真っ赤な閃光と爆音。
すっかり更けた宵闇の中、サーデインが放った『爆破』の効果で、炎の花が咲く。
同時におれが発動していた『悪夢』の効果が切れたのが分かった。
そう、この魔法は効果時間がとても短いんだ。
体感2,3分しか無いんじゃないだろうか・・・。
まぁ今回はそれで十分だった訳だが。
・・・言いたい事はわかる。
完全にこの国に対しメタっぽいこの魔法が、なぜ当たり前に『魔導書』に入っていたのか?
『悪夢』のカードで、何をするつもりだったかってことだろ?
正直言おう。
これは完全にウララとのバトルに向けた対策だ。
いや、こっちの世界に来てからじゃないぞ。
ダブルスで戦う前に控え(サイド)から投入したんだ。
まさかそれがここで役に立つとは思わなかったが。
前にも言った通り、ウララの『魔導書』とおれは相性が最悪だ。
だからってメタみたいな対策は・・・?
いやいや、当然一枚しか入っていない。
それに光属性にも同じ魔法あるからな。
正確にはまったくの逆効果なんだが。
その魔法は『白昼夢』。
闇属性を弱体化、逆に光属性を強化するそれが、ウララの『魔導書』には三枚も入っている。
大事なことだからもう一度言うぞ。
おれは一枚、ウララは「三枚」も入っている。
それはともかくだ。
『爆破』の効果は一瞬。
しかも射程が短い。
たぶん普通なら2m四方、今回『悪夢』で強化されたサーデインが使って、やっと5m四方と言った所か。
まぁその効果を十全にするために拘束し、一まとめにした訳だが。
そのかいあってか、魔法の範囲に収まった雑魚天使は、なかなかに惨憺たる有様になっていた。
明記は避けよう。
食事中には見たくない。とだけ、言っておく。
当然光の粒子に変わり、カードになって空中へ飛んでいくが。
アンティルールが適用されない以上、『略奪者』の使役する盟友では無かった訳で。
それが果たして、良い事なのかどうなのかはとりあえず棚上げだ。
(普通に生きてるな。さすがに無傷とはいかなかったようだが・・・。)
その中にあって、『戦天使長』アーライザはまだ五体満足で生きていた。
さすがに全体的に煤けて、気も失っているようだが。
同じ英雄級でも、あっさりと腹を見せた帝国の某とは違うようだ。
サーデインも少々呆れ顔で、「これでも生きてますか・・・。」なんて呟いた。
(面倒だが捕虜にするか・・・。)
おれは『図書館』から取り出し、『カード化』を解除したロープで、彼女をぐるぐる巻きにしていく。
作業の途中で「ご主人様、代わります。」と寄ってきたエデュッサには、念のため周辺警戒を頼み、アーライザを縛り付けるのはサーデインに任せる。
戦闘の終わりを感じたのか、箱からキアラが飛び出してきた。
「あ、あ、あ、ありがとうございました!セイ様の盟友の皆様には、状況の説明を終えました。セイ様は本当にお強いです!ウララ様の仰っていた通りです!」
ペコリーと頭を下げ、そんなことを言うキアラ。
「そうか?ウララの方が強いと思うがな・・・。それはともかく、聞きたいことがある。」
さっきからずっと気になっていることがある。
おれの問いに「な、な、な、なんでしょうか!?」と、少々興奮気味のキアラを、ドウドウと落ち着ける。
ウララの状況を話してたときは、結構な長文をドモらずに話していたはずなんだがなぁ・・・。
まぁ落ち着いたようだ。
話を進めよう。
「なぁキアラ・・・。天使族ってのは、血が緑色なのか?」
「えっ!?」
まったく意味がわからないと言う顔をするキアラ。
おれは黙って事故現場・・・モザイク処理されてしかるべき、例の場所を指し示す。
所謂、雑魚天使たちの・・・アレ。
なぜか彼らの流したであろう血が・・・緑色なんだ。
グロが加速する・・・許してください。
「えええええ!?そ、そ、そ、そんなことないです!」
状況を理解したのか、キアラが叫んだ。
■
「セイ!?まだ何かあった・・・うっ・・・。」
「セイさん一体どうし・・・うっ・・・。」
ですよねー。
戦闘が終わったと思っていたのに、キアラが叫んだ事でこちらに近寄ってきた、アフィナとシルキーが揃って言葉の途中口元を押さえる。
どうやらリゲルも、立ち上がれる程には回復したようだ。
まずは一安心。
キアラは肩掛けのバッグから羽根ペンを取り出すと、「えいやっ!」っとばかりに、自身の親指にペン先を立てた。
「おまっ!何やって・・・。」
言葉が途中で止まる。
「見てください。」と言ってキアラが差し出した指には、プックリと赤い血の塊が出来ていた。
・・・どういうことだ?
キアラだけ赤い血って事は無いだろう。
いやまて、それより・・・。
おれは『図書館』から清潔な布と、絆創膏のような魔道具を取り出し、キアラの手を治療してやった。
まったく無茶をする。
「あ、あ、あ、あの!ありがとうございます!」
恐縮するキアラの頭をコツンと小突き、「馬鹿なことをするな。」と言うが・・・。
キアラ自身は真っ赤な顔で俯き、やたら嬉しそうだ。
そして一部始終を黙って見ていた、アフィナとシルキーの目線が鬱陶しい。
お前ら一体何なんだ?
おれたちが無言で睨みあう、そんな時だった。
「なるほど、やはり間違いないようですね・・・。」
アーライザを縛り終え、その後自身の持つ聖書のように分厚い本を、一心不乱に捲っていたサーデインが呟いた。
全員の視線がサーデインに集まる。
「サーデイン、何かわかったのか?」
おれの問いにコクリと頷くサーデイン。
「主殿、これは緑じゃありませんよ。」
緑じゃない・・・?
どこからどう見ても緑色にしか・・・。
サーデインの言葉に疑問を抱く。
他の連中も同じように首を捻っている。
「翡翠色・・・と、言えばわかりませんか?」
(翡翠・・・ヒスイ・・・氷水・・・あっ!!!)
おれの中で歯車がかみ合った。
「封印されし氷水王かっ!」
サーデインが、「恐らく間違いないでしょう。」と頷く。
他のメンバーは疑問顔のままだが無理も無い。
たぶんこの情報は隠匿されているはずだ。
『封印されし氷水王』・・・またしても、カードゲーム時代に覚えのある存在だ。
その存在は『天空の聖域シャングリラ』、十数代前の王の成れの果てだと言われている。
当時激化する戦争を治め、自身が世界の王になると野望を秘めた若き天使族の王が居た。
魔法の才に恵まれた彼は禁術を使い、自らを神へと昇華させようとする。
だが結果は失敗。
そこに残ったのは、翡翠色の流動生命体と化したモンスターだった。
自国の王が使った禁術を隠蔽すべく、当時の『天空の聖域シャングリラ』上層部が彼の名前を剥奪し、「氷水王」などともじった称号を付ける。
そして王城の奥深く、開かずの大扉の中へと幽閉した。
なぜ幽閉なのか・・・。
答えは簡単だ。
彼は死なない、殺せない。
ただただ怨嗟を唱え続ける流動生命体。
そんな設定のカードが確かに存在した。
「主殿。私の聖典には確かに記述がありました。彼が今まで引き起こした『災害』は三回。時代の節目とも言うべきタイミングで、必ず何者かが彼の封印を解き、『天空の聖域シャングリラ』を筆頭に何万人もの命を奪うのです。彼の最も恐ろしいところは・・・感染率。要は疫病と一緒なんですよ。彼の体液に寄生された者は等しく攻撃的に、凶暴になります。しかし『略奪者』に使役される盟友とは違い、日常生活等は無難にこなせる。殺してみて彼の痕跡を発見、そこで初めて気付く。まさに『災害』と呼ぶしかありません。」
そんなのの封印が解かれたのか。
思わず頭を抱え込みたくなる話だ。
「「「え・・・。」」」
周辺警戒させているエデュッサを除く、三人の少女が異口同音で絶句する。
「・・・まずいな。」
「ええ、とても。」
おれとサーデインは顔を見合わせた。
そして彼は、「それとです。」と一つ前置きする。
まだあるのか・・・。
すでにトラブルはお腹いっぱいなのよ?
「主殿、先に謝らせてください。『晶柩』の効果を調べました。申し訳ございません。考えが甘かったようです。」
言いよどむサーデインを、おれは目線で促す。
何となくその後は予想できるのだが。
「猶予は一月と申し上げましたが・・・確かに肉体的にはそれぐらい持つと見て良いでしょう。」
「・・・問題は記憶か?」
やはりか。
おれが続けた言葉を首肯するサーデイン。
「ウララさんが、正常な記憶のまま復帰できる猶予は・・・今日を含め、おそらく後七日。」
いきなりハードルが上がった。
もうなりふり構っていられないぞ。
「・・・セイ様、ウララ様を・・・。」
泣きそうな声でおれの手に縋りつくキアラに、おれはただ「わかってる。」と、言うことしか出来なかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
※補足として。
作中セイは、『戦天使長』アーライザに対し、帝国の『大将軍』ガイウスを英雄としての実力不足と断じていますが、それは相手がセイ(しかも『魔王の左腕』発動状態)だったからです。
実際にはそこそこ強いはずの、ガイウス君の名誉のため。
忘れてしまった方は第35、36話辺りを読み直して頂けたら嬉しいですw