・第六十五話 『悪夢(ナイトメア)』
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマ感謝です。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、ちょっと目瞑っててくれ。
兄貴はこれから『悪魔』になる。
少なくともこちらは、穏やかに会話をした。
できるだけ下手にも出た。
旅の友が傷つけられてすら、我慢した。
もう深く考えるのはやめだ。
目立つ?
知ったことか。
仏の顔も三度までって言うだろう?
自分の事を仏なんて思いはしないが、リゲルの事、ウララの事、そしてウララが守りたかった獣人の少年のこと。
売られた喧嘩を買う理由なら事欠かない。
もう謝っても許してやらん。
■
「・・・よろしい。ならば戦争だ。」
『戦天使長』アーライザは、おれが告げた言葉を唖然とした表情で受け止め、その後弾かれたように笑い出す。
そして、上空の雑魚天使どもに語りかけた。
「アーハッハ!聞いたかお前ら?邪教の信徒が、我々に宣戦布告したぞ!」
雑魚天使はおれたちを取り囲み、その内の一人が声高に叫ぶ。
「アーライザ様、語るに落ちるとはこの事です。最早審判は不要!異端者に裁きを!」
「「「裁きを!!!」」」
声まで合わせてご苦労なことだ。
ガスッ!!
最初に叫んだ天使の喉元、軽鎧の繋ぎ目部分にナイフが突き刺さる。
声も出さずに落下を始める犠牲者。
「なっ!貴様、卑怯な!」
ナイフを投擲したのは、当然エデュッサだ。
そのエデュッサに向けて、他の雑魚天使たちが気色ばむ。
彼女はどこ吹く風と言った体で、手の内へ何本ものナイフを産み出す。
「聞いてなかったんですか?ご主人様は戦争って言ったんですよ?」
エデュッサの言うとおりだ。
自分たちが先にリゲルを攻撃しておいて、暢気に口上を述べてる間に攻撃されれば、卑怯ときたもんだ。
自分たちで散々、邪教の信徒などと断定しておきながら。
おれたちが戦隊物ヒーローの変身を待つ悪役のように、律儀に何もせずに大人しくしているとでも思っていたのか?
寝言は寝て言え。
エデュッサがおれの方を伺ってきたので、「お前の言うとおりだ。」と意味を込め頷いてやる。
普段は空気読まないくせに・・・。
彼女は嬉しそうに頷いた。
そして空中に向け、ドンドン投擲を始める。
「くそっ!皆散れ、的を絞らせるな!」
慌てて散開する雑魚天使を、アーライザが一喝。
「お前ら落ち着け!敵は邪教の信徒だ。あの小娘同様、人外な力を有す可能性がある!あの小僧は俺が相手取る。お前らは他を殺れ!」
油断無くこちらの出方を伺っているのはアーライザだけ。
さすがは称号持ちか。
焦る雑魚天使たちの悲鳴をBGMに、おれは自分の周りへ展開させた『魔導書』を、次々に選択する。
使用するのは四枚。
運動強化魔法『幻歩』、回避率強化魔法『朧』、攻撃魔法『爆破』、そして特殊環境魔法『悪夢』。
『幻歩』の効果で体が軽くなり、『朧』の効果で現れた闇色のマントが背中に広がっていく。
覆い隠すように、おれの全体像がぼやける。
これはアーライザの『能力』、『貫通』に対する対策だ。
どんな防御も突き破ってダメージを与える能力の対処法。
それは至極簡単な話。
受けるのではなく、避けてしまえばいいのだ。
サーデインへ向けて、攻撃魔法『爆破』のカードを飛ばす。
カードを受け取った彼が詠唱を始めたのを確認し、おれは『悪夢』の発動を準備する。
いつもながらクセのあるおれの『魔導書』。
このカードはタイミングが命だ。
おれの行動に危機感を覚えたのか、アーライザが自身の羽根を何本も飛ばしてくる。
(狙いは・・・キアラかっ!)
くそったれ、どこまでも汚い。
キアラを見捨てるか、庇えばおれにダメージが当たると踏んでいるのだろう。
アーライザがニヤニヤ笑いを深めるのを端目に、おれは迷わず後者を選択した。
都合、キアラとアーライザの間に割り込む形。
バックステップで一気に距離を詰め、驚いた表情で強張るキアラの手を掴む。
「きゃっ!」っと短い悲鳴をあげながら、慌てるキアラを引き寄せる。
そして、おれの胸へと収まるはずの、彼女の質量が突然消えうせた。
■
背後には何本もの羽根が迫ってきていた。
奴のことだ。
この羽根一本、一本に『貫通』の『能力』が付与されていると見て、間違いないだろう。
おれを串刺しにできると確信でもしたのか、レイピアを抜き放ち追撃してくるアーライザ。
だが、奴の思い道りにしてやる義理も無い。
おれは『朧』の特殊効果を発動する。
『朧』には二つの効果がある。
一つは純粋な回避率強化。
そしてカードを破棄することによって発動するのが、一回の攻撃を身代わりになってくれる効果だ。
かけたばかりでもったいないが、ここはあえてその効果を選択する。
でかい口を叩いたばかりで、血を流すのも格好悪いしな。
闇色のマントが一瞬にして広がり、その中に全ての羽根が突き刺さった。
ついでアーライザがマントをレイピアで突き刺し、『朧』の効果が雲散霧消する。
当然、そこにおれは居ない。
『朧』の効果を使用した時点で、十分な距離を取っていた。
「ふふん、半端者は見殺しか。」
振り向いたアーライザが、おれの周りにキアラの姿が無いことを見止め、鼻で笑う。
「あ、あ、あ、あの!私死んでません!」
おれの箱の中から、器用に顔だけを出し叫ぶキアラ。
そう、キアラを引き寄せた瞬間、なぜか彼女はおれの金箱の中へ吸い込まれたのだ。
「貴様!何をした!」
今日初めて動揺するアーライザ。
正直おれも驚いたが、たぶんこれはキアラの『能力』だと推察する。
おれの箱の中に居ながら、明らかに自分の盟友ではないとわかる不思議な感覚。
はっきりと覚えてはいないが、たしか彼女の持つ『能力』に、戦闘行為でない限りどちらの陣営にも移動だけ可能。とかそんなのがあった気がする。
まぁそれは今は良い。
偶然だったが運が良かったと思おう。
「キアラ、中で話せるのか?」
「は、は、は、はい!セイ様の盟友の皆様がお揃いです!」
「よし!全員に状況説明を頼む。」
「は、は、は、はい!」
おれは指示を出し、サーデインに目線を送る。
おれと視線を絡ませたサーデインが確かに頷いたのを確認した。
おーけー、勝利へのルートは見えた。
準備完了して待機させていた、『悪夢』の効果を発動する。
間髪入れず、気を持ち直したアーライザがレイピア片手に突進してくるが・・・。
(もう遅い!)
『悪夢』
おれの手から放たれたカードは中空に漂うと、何本もの闇の触手を作り出す。
闇の触手は、その場に居る雑魚天使、アーライザ、サーデインとエデュッサ、そしておれをも絡め取る。
アーライザがキアラを狙ってくれたおかげでおれが移動し、アフィナやシルキー、リゲルと十分な距離が取れたこと。
そして偶然にもキアラが、おれの箱の中へ退避できたことは、正しく僥倖だった。
それが無ければ、もう少し手こずっていただろう。
徹底して弱者を狙うという、アーライザの悪癖が撒いた種でもある。
天罰テキメンって奴だな。
「な!なんだこれは!がぁぁぁぁ!!」「あ、熱い!体が焼ける!」「うああああ!!」
苦痛の声を上げながら、地面へと落ちていく雑魚天使たち。
アーライザもがっくりと膝をつく。
逆におれや、おれの盟友たちは全く何の影響も無い。
むしろ体調が良くなったとさえ感じるはずだ。
秋広が居れば、「最高にハイって奴だ!」きっとこう言うだろう。
当然これは、『悪夢』の起こした現象だ。
特殊環境魔法『悪夢』の効果は意外と単純だが、今この場においてこれほど効果的な魔法も無いだろう。
使用条件に夜限定とあるのも、何らかの大いなる意志を感じずにはいられない。
夜にしか使えないこの魔法の効果は、一定エリア内に存在する全ての光属性を弱体化。
そして逆に同エリア内に存在する、全ての闇属性を強化する。
実に単純明快。
おれたちの敵=光属性の天使族。
おれと盟友たち=闇属性の悪魔、及び闇系の司祭。
「きっさまぁ!」
触手によって未だ拘束されたまま、その目線で射抜けと言わんばかり、おれを睨みつけるアーライザ。
相当な弱体化を食らっているようだが、その気概だけは英雄級と言ってやろう。
他の雑魚天使は飛ぶことすらままならない上に、幻覚すら見てるからな。
おれは自身に絡みつく触手を通し、『悪夢』のカードに意思を送り込む。
左手をぎゅっと握り締めると、おれたちを除く10人、アーライザと雑魚天使が触手によって拘束されたまま、一箇所に固められる。
そしてサーデインが自身の持つ『爆破』のカードをかざす。
『悪夢』によって、強化され膨れ上がった彼の魔力が、カードを通して可視できるほどだ。
おれは静かに命令した。
「やれ、サーデイン。」
コクリと頷いたサーデインが、その魔法を解き放つ。
「『爆破』の召喚!」
絶望を顔に浮かべた天使たちの真ん中に、小さな火種が浮かび上がり・・・チロチロと瞬いた後、真っ赤な閃光と爆音を伴って炸裂した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
ブクマ100件越えの喜びと感謝に、活動報告の方へ番外編SSを載せますので、是非読んでみてください~orz
※補足説明として
魔法の表記ですが、『リ・アルカナ』の住人、または盟友が使う場合は『』内に漢字表記のみ。
例外として魔法使い系盟友が詠唱した場合『・・・』の召喚。と言った具合になります。
また、『地球』の魔導師が使う場合、『漢字(魔法名)』と言った表記になると考えて頂けると多少わかりやすいかと・・・。