・第六十四話 『晶柩』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、やっぱり怖いな。
兄貴には受け入れられそうに無い。
なにがって?
・・・宗教だ。
この世界に神様が実在するって話はしたよな。
だと言って、信じる信じないは自由だろう。
おれが本当に怖いのは、神様の名の下に自身の全てを正当化する狂信者たちだ。
『正義神』ダインは果たして何を救うのか。
そこに正義は実在するのか。
少なくとも、おれが信じても良いと思った神、『カードの女神』は「世界を救ってくれ。」って泣いてたぞ?
■
昼過ぎに会敵してからどのくらいたったんだろうか?
すでに夜の帳が迫りつつある。
思えばおれたちは随分無駄なことをしていたのかもしれない。
少なくとも『見習い天使』キアラが来た時、エデュッサは何も言わなかった。
しかし他の天使たち、『戦天使長』アーライザを含む一団が現れた時には、彼女ははっきりと告げたんだ。
「ご主人様、敵です!」と。
つまりエデュッサには最初から、奴らが敵意を持って近付いてきた。とわかっていたんだろうな。
それを見過ごして「穏便に済ませよう。」などと考えてしまった。
リゲルの角が切られた原因はおれにもある。
シルキーがアーライザを睨み付けたまま、おれたちの所へ駆け寄ってくる。
「シルキー、リゲルはどうだ?」
「・・・命に別状は無いよ。今はアフィナさんが治癒魔法をかけてくれている。だけど・・・セイさん、彼の角が・・・。」
そうだな・・・。
角は最早、絶望的なんだろう。
アーライザはその間も、ニヤニヤとこちらを伺っているだけ。
まるでいつでもトドメは指せると言った風な、捕まえたネズミをいたぶる猫みたいな雰囲気だ。
その様子に堪えきれなくなったのか、シルキーが叫んだ。
「彼が!リゲルが、貴方に何をしたって言うんだ!」
アーライザはシルキーの熱気を受けても、「ヤレヤレ。」と言わんばかり肩を竦める。
「『戦天使長』の名の下に、異教徒に与する害獣を駆除した。」
「なっ・・・!」
思わず絶句するシルキー。
なるほど、自分に都合の悪い物はそう言って排除できる訳ね。
わなわなと震えるシルキーの肩に、ポンと手を置く。
「世の中には居るんだ。こういう類の輩が・・・。」
「わ、私は・・・世間知らずだから・・・。」
こんな世間は知らなくていい。
おれはシルキーへ、「リゲルについててやれ。」と言って背中を押し、この場から離れさせる。
チラリとリゲルの倒れている場所を見やると、アフィナが真剣な表情のまましっかり頷いた。
任せていいんだな?
そうだな。
おれはこちらの処理をさせてもらおうか。
しっかし言語がわかっても、言葉が通じない相手と話すのはどっと疲れるな。
最早、問答は無意味だろう。
ここまで堪え続けたサーデインも、両掌を肩口で広げた所謂、「お手上げ」のポーズ。
だから無駄って言ったろ?
いや、心の中でだけども。
■
「魔導書」
おれの周りに、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚浮かび上がる。
さっと確認、まぁ悪くない。
十分に現状打破は可能だろう。
それを見たアーライザが目を細め、上空の天使たちがざわめく。
「なるほど。貴様もあの小娘と同じ、邪教の信徒だったか。」
「・・・邪教ねぇ・・・。」
たぶん小娘と言うのはウララのことだろう。
しかし、彼女が一体何をしたと言うのか。
おれはアーライザからは決して視線を逸らさず、背後に庇ったままのキアラに問いかける。
「キアラ、ウララはこの国で何をしたんだ?」
「ウ、ウ、ウ、ウララ様は悪くありません!」
ドモりながらも必死に答えるキアラ。
心配するな。
アイツが悪くないことなんて、おれにはお見通しだ。
問題は・・・この国の中枢、『正義神』ダイン及び、その周囲にとってどれだけ都合の悪いことをしたのかって所だな。
安心させようとおれが背中越しに差し出した右手を、キアラは縋るように両手で握り締めた。
どうやらアーライザも、すぐに邪魔するつもりは無いらしい。
おれはキアラに先を促す。
その内容は・・・。
「ウララ様はこの国に転移なさいました。そしてカードの力に気付いてあまり目立たぬようにと、小さな集落を回りながら傷ついた人々を癒し、皆様の情報を探しておいでだったんです。・・・半月ほどたったある日、ウララ様の噂を聞きつけた王城の遣いがやってきました。曰く、「ウララ様の使う力、それは唯一の神『正義神』ダインの『加護』である。ゆえに王城に出頭されたし。」と。当然セイ様も知っての通り、ウララ様はそんな言葉を信用なさる方ではありません。それでも渋々ながら来城なさったんです。・・・もしかしたら皆様の情報を集めやすいかもしれない。と一縷の望みを賭けて。」
ここまでにとりあえず問題は無い。
だが王城に行ったのか・・・。
おれには『カードの女神』やサーデインの話を聞いた後では、『天空の聖域シャングリラ』の王城なんて魔窟にしか思えない。
だがそんな話を聞いていないウララなら、その選択もありえるだろう。
キアラが話を続ける。
「一週間ほどは何事も起きず暮しました。その間ウララ様は「聖女」などと呼称されて、非常に嫌がっておられましたが。そんな折です。王城の下働きの奴隷、獣人族兎種、五歳くらいの少年です。大病に侵されて、そのまま放置されていた所を偶然、ウララ様がみかけて癒した子供なのですが・・・それ以来ウララ様の世話役としてお仕えしていた彼が、『正義神』ダインを召喚するための生贄として選定されました。彼のことを大層可愛がっておられたウララ様も、当然・・・ええ、当然ブチキレました。」
(・・・まぁ、そうだろうな。)
おれでも聞いてるだけでキレそうなのに、ウララが我慢する訳ないわな。
「完全にウララ様は怒髪天状態になり、私や他の盟友様たちが宥めても無駄でした。愛用の巨大ハンマー『女神の鉄槌』を担いで、『正義神』ダインへと宣戦布告。そのまま神殿へと、殴り込みをかけたのです。けれど・・・そこまでが全て罠でした。この国の上層部は類まれな力を持つウララ様をずっと危惧していて、懐柔できるなら良し、だめそうなら観察し罠にはめ、大義名分を持って亡き者にしようとしていたのです。しかしそれでもウララ様は負けなかった。もちろん戦闘能力の無い私、以外の盟友様も獅子奮迅の勢いで戦ったのです。王城に詰めていた天使族およそ1000名、ウララ様だけで約500名は蹴散らしたでしょう。」
なにそれコワイ。
やっぱあれは、怒らしちゃアカン者やで。
だがそれならなぜ?
「最後に彼らは、人質と共に交換条件を出してきました。ウララ様がお助けしたかった兎種の少年を前面に押し出し、『天空の聖域シャングリラ』の秘匿魔法である、神代級封印魔法『晶柩』を受けろと・・・。そして、ただの封印、拘束術だと言ってかけた『晶柩』も実際には違うものでした。その効果は、中に封じられた者の生命力、記憶を魔力に変換して放出すると言うもの。膨大な力を持つウララ様を、この魔法で『正義神』ダインの生贄にする。それが彼らの真の目的だったんです。」
(・・・汚ねぇ。)
どこまでもウララの優しさに付け込んだ、いやらしい作戦だ。
これ『略奪者』関係無さそうだよな。
目の前に居るアーライザもとても操られているようには見えないし。
つまりはこの世界の住人、少なくとも『天空の聖域シャングリラ』の連中は、おれらに喧嘩売ってきてると思って良いだろう。
おーけー、そっちがその気なら地獄を見せてやる。
おれたちを睨みつけて、話を聞いていたアーライザは、「ハン。」と鼻を鳴らすと、吐き捨てるように言った。
「邪教に穢された堕天使よ。こちらが黙っていれば、どこまでも自分に都合良く囀る物だ。貴様の如き半端者が、『正義神』ダイン様を敬称無しで呼ぶなど恥を知れ!大体にして何年、いや何十年経ってもガキのまま、天使たる自覚すら持たぬ半端物の分際で・・・」
前半はともかく、後半はキアラの容姿に対するただの悪口だな。
もういいだろう。
聞いてるこっちが腹立たしい。
「・・・やかましい。」
おれの呟きは良く聞き取れなかったのか、怪訝な表情で見返してくる。
「やかましいって言ったんだ。」
おれの言葉を反芻し、徐々にニターっと笑みを浮かべるアーライザ。
「そういえば・・・俺は先ほど、ナイフで攻撃されたなぁ?」
周囲の天使どもが「そうです!邪教の輩に攻撃されましたよ!」などとはやし立てる。
雑魚が鬱陶しいな・・・。
「つまりはお前らは俺の敵って訳だ。」
「じゃあ、どうするんだ?」
ニタニタと笑うアーライザに向けておれは問う。
返答なんて判り切っている。
これは一つの儀式。
「もちろん・・・武力で制圧だ!」
「「「おおおおお!!!」」」
アーライザの言葉に盛り上がる雑魚天使の群れ。
逆におれはドンドン頭が冷えてくる。
(秋広、お前の決めゼリフ借りるぞ。)
おそらく何かのアニメか漫画から抜粋してるんだろうが・・・。
キアラが握り締めていた右手を優しく振りほどく。
足を肩幅に開き、両の拳を腰だめ、丹田の構えで一つ深呼吸。
おれは、『戦天使長』アーライザから目を離さずに言った。
「・・・よろしい。ならば戦争だ。」
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