・第六十三話 『貫通』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、ウララから手紙が来たぞ。
兄貴は思わず苦笑いしている。
アイツは異世界でも男前だった。
自分の方が大変だろうに、一番年少である竜兵の事を心配してるんだぞ?
相変わらず普段の言動とその心根が重ならない奴だ。
早く助けてやらなくっちゃな・・・。
そんなおれたちの前に、新たなお客さんが現れた。
しかも今回の奴らは言葉が通じないぜ。
いや、言語がわからないってことじゃないぞ?
言ってることはわかっても、最初から聞く気、会話する気が無いって奴だ。
関西系の血なんかまったく流れてないはずなのに、鮮明に思い出される言葉。
「これアカンやつや!」
そういえば秋広がウララに、ロッカールームへと連れて行かれる時に叫ぶセリフだ。
■
エデュッサの注意は数瞬ばかり遅かった。
おれたちはすでに囲まれている。
上空に居るのは大きな白い羽根を羽ばたかせて、白銀の鈍く輝く金属製軽鎧に身を包み、いかにもな槍を装備した天使族。
見える場所だけでその数、11。
内10人は顔の上半分を覆う、所謂チェラータのような兜を被っているため、その表情を伺うことはできない。
一人だけ姿が違うものが居る。
白銀の金属製軽鎧は同じだが、そいつだけ兜と槍を装備していない。
兜の代わりに鎧と同素材に見える鉢金、腰には刺突用だろう細剣を下げている。
何よりも他の奴らと違うのは、その羽根が二対なことだろう。
兜を被っていないので、その顔を見ることができた。
濃い目の紫髪を三つ編みにして背中へ流し、青い目に白い肌。
全体的に引き締まった体つきだが、ちゃんと出る所は出て引っ込むべきところは引っ込む、そんな印象を受ける美女だった。
言うなればイアネメリラクラス、文句なしの美女と言える彼女を見ても、まったく心引かれるような感覚は無い。
それは彼女の目のせいだろう。
おれたちを完全に見下しているのがありありとわかる。
都合四枚の大きな羽根を羽ばたかせ、悠然とおれたちを見下ろすその姿に、一種不思議な焦燥感を覚えた。
他の天使たちを手で制し、一人だけ池のほとり、少し開けた場所へと降りてくる。
「おやおや・・・不審な魔力の波動を確かめに来て見れば・・・邪教の教えに穢れた堕天使が居るじゃないか・・・。」
そう言ってニターっと笑う彼女が見据えるのは、ウララの盟友『見習い天使』キアラだ。
キアラは小さく「ひっ!」っと悲鳴を上げて、おれの背後に隠れた。
その様子を見て、初めておれたちに気付いたとでも言わんばかりに、おれたち全員を舐めるように見る四枚羽根の天使。
おれは彼女の姿を、カードゲーム時代の『リ・アルカナ』から検索していた。
「・・・『戦天使長』アーライザか・・・。」
おれの呟きに反応して、彼女の目が細められる。
「ほぅ・・・俺の事を知っているのか。」
あまり状況がよろしくないのはわかったんだろう。
サーデインがアーライザの視線を遮るように割ってはいる。
「ご高名な『戦天使長』アーライザ様にお目にかかれて光栄です。我々は旅の殉教者。旅の途中で傷ついた『一角馬』を保護しまして、お礼にと『虹の橋立』を渡らさせて頂きました。滅多にあることではありませんので、せっかくですから『正義神』ダイン様の神殿に拝礼させて頂こうと愚考した次第でございます。私は旅の司祭レフティア。この者たちは、私の旅に付き合ってくれている若者たちですよ。」
『青の城壁』でも使った言い訳を、落ち着いて告げる。
アーライザは興味深そうに、フンフンと聞いているように見えた。
(切り抜けられるか・・・?)
おれとしては正直、これからウララを助けに行く事も考えて、事を荒立てたくない。
アーライザは一通りサーデインの話を聞いた後、またもやニターと笑う。
せっかくの美女だが、表情がもう台無しだ。
そしておもむろに、おれたちを上空から取り囲んだままの天使たちに声をかける。
「おい、聞いたかお前ら?旅の殉教者らしいぞ?」
その途端に大声で笑い始める天使たち。
アーライザも至極愉快そうにニヤニヤしている。
なんだこれ?
サーデインが慌てて問いただす。
「な、何かおかしい事でもありましたか?」
その問いに合わせて、天使たちはピタリと笑いを止めた。
そして一層底冷えのする笑みを浮かべたアーライザは言う。
「ああ可笑しいね。笑いが止まらない。妖精族の司祭に、人族の殉教者?そこの小娘に至っては混ざりもんだろう?お前ら・・・それで本当に、『正義神』ダイン様の信者だとでも言うつもりなのか?」
(やべぇ・・・全部バレてやがる。)
かろうじてエデュッサが魔人種であること、シルキーが実は『一角馬』であることは、バレていないようだが・・・。
それでもパッと見だけで、アフィナがハーフなのまで見抜くとは。
しかも「混ざりもん」って表現は・・・ひどいな。
言われた当人もすっかり肩を落としている。
「まぁいい。お前らは不審者として連行する。それよりもそこの人族のガキ。貴様の後ろに隠れている堕天使をさっさと引き渡せ。」
おれのことか・・・。
まぁ人差し指が思いっきりおれを指してるし、そうなんだろうが。
人様に指差しちゃいかんって親に習ってねーのか?
それにキアラのどこが堕天使だってんだ。
おれが言葉を発しようとした瞬間、再度サーデインが遮ってくる。
なおも説得を試みるようだ。
おれにはなんだか徒労に思えてきたぞ?
「お待ちください!アーライザ様。我々に敵意はありません。それに、そこな『一角馬』が我々と共に居てくれることは証拠になりませんか?」
その言葉を聞いてアーライザは、一度目を瞑り「ふむ。」と一人ごちた。
■
アーライザは呟く。
「・・・『一角馬』・・・『一角馬』ねぇ?」
急に胸騒ぎがした。
何だかわからんがまずいっ!
おれの胸騒ぎが現実の物となる。
アーライザはその場から一瞬で移動すると、リゲルに向けて飛び掛った。
(そっちか!?)
おれが受けたいやなイメージは、何となくだがおれの盟友たちにも通じていたのだろう。
エデュッサが慌ててナイフを二本、アーライザの進路上に投擲する。
二本のナイフは、アーライザが抜き放ったレイピアの柄であっさりと弾かれる。
サーデインがリゲルの前へと、障壁を展開する。
「それじゃだめだ!」
おれの叫びは一瞬遅かった。
カードゲーム時代に見たアーライザの『能力』に、『貫通』と言うものがある。
【能力『貫通』この盟友の攻撃は、対象になった相手の防御力、または障壁や結界等のダメージ軽減効果を無効化する。】
アーライザはいとも容易く障壁を貫き、リゲルの角を切り落とした。
「ヒヒヒィィン!!!」
苦鳴をあげてドゥッと倒れるリゲル。
慌ててシルキーとアフィナが駆け寄っていく。
『一角馬』にとっての角は急所の一部。
そんな逸話がよくあるが、この世界においてはそれは正解ではない。
角を切られたとて死ぬ訳では無いし、日常生活において支障もきたす事は無い。とシルキーには聞いていた。
それでもその角には彼らの魔力が満ちていて、切られたり折られたりすれば激痛を伴うし、一度失うと新たに生え変わるまでその能力のほとんどを失ってしまうらしい。
つまり、角を失った『一角馬』は、普通の馬と変わらない力しかなくなるってことだ。
「アーライザ様!何を!?」
サーデインが叫ぶが、おれはそれを手で制す。
アーライザは実にすっきりした。と言う表情で周りを見渡すと、上空に浮かぶ天使たちに声をかける。
「なぁお前たち。ここに『一角馬』なんて居るかね?」
「いいえ。アーライザ様!ここには『一角馬』など居ません!」「なにやら馬は居ますがね?」「大方、その馬に『角兎』の角でもくっ付けて、『一角馬』だと詐称していたのではないですか?」
それに口々に答える天使たち。
その言葉に満足そうに頷き、ニターっと笑うアーライザ。
「と、言う訳だが諸君、何か申し開きはあるかね?」
一歩前に出ようとすると、まだ諦めていないのかサーデインが訴えるような目でおれを見る。
おれは無駄だとは思いつつ、サーデインの顔を立てておく。
最後まで平和的に進めようとしているその姿に敬意を払ってだ。
すでに旅の仲間であるリゲルを傷つけられたおれの心中、懸命な方ならお分かりだろう?
自分でも良く耐えてると思う。
そしてサーデインは今一度、アーライザに問いただす。
「アーライザ様。これが『天空の聖域シャングリラ』の、『正義神』ダイン様の信徒が為さることですか?あなた方の正義とは一体?」
抑えてはいるが、サーデインの言葉にも十分棘がある。
これならおれに話させても変わらないだろ。
しかしアーライザも天使たちも、キョトンとした顔で静まり返り、数秒後こうのたまった。
「『正義神』ダインは仰られた。隣人を愛し、敬い、信じ、そして助けよと。・・・しかし、我等の隣人に異教徒は必要ない。それだけだ。」
その言葉を聞いた瞬間おれは、関西系の血なんかまったく流れてないはずなのに、思わず口から自然と言葉が漏れた。
「これアカンやつや。」
アーライザの返答に、唖然としていたサーデインも頷いた。
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