・第六十一話 『レーダー』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、言い訳させてもらってもいいだろうか?
兄貴は決して軽んじてた訳じゃないんだ。
いつも意識の片隅には置いていた・・・つもりだった。
言うならば・・・日々繰り広げられる厄介ごとに、主張の乏しい者が忙殺されていくような。
思えば、帰還手段であるそれを知ったのは、この世界に転移してすぐだった。
そう・・・遺失級転移魔法『回帰』のことだ。
便利なレーダー機能もあるってことも、もちろん聞いていた。
ただ、その後のことを思い返して欲しい。
移動しては襲われ、襲われては倒れ、次々と発覚する問題。
そして発生するトラブル。
ウララの件なんてその最たる例だろう。
おのずと、大事な事でも急を要しない事案が、後回しになってしまう場合ってあるよな。
ちょっとだけ・・・そう、ちょっとだけ意識の外側に漏れていたと言わざるおえない。
つまり兄貴が何を言いたいかと言うと・・・。
うん、『回帰』のパーツ集めのこと、すっかり忘れてました。
■
『青の城壁』を越えて、十分な距離を取ってから一度休憩した。
おれがサーデインの呟きに反応して、ウララが『四姉妹』のカードを所有していたことを話した後だ。
みんなそれなりに疲れていたし、足も止まってしまったから丁度良かった。
その後サーデインとエデュッサは箱へ、シルキーに本来の姿『一角馬』に戻ってもらい、アフィナの跨るリゲルと共に、二頭と二人で半日ほど進んだ。
一応は街道のような物が通っているが、おれたちはあえてその道から少し離れた森の中を進んでいる。
当然速度は格段に落ちるが、他者との無駄ないざこざを起こさないように気をつけている。
なんせうちのパーティには、テンプレをはずさない残念と、欲望に忠実すぎる変態が居るからな。
正直、パーティ編成の時点からやりなおしを要求したい。
まぁほとんど人と行き会うようなことも無いんだが・・・念のためって奴だ。
しかし・・・この世界に来てから森ばかり移動してるわー。
デトックス効果すごそうだろ?
時刻は正午を回った頃だろうか。
上空の太陽を仰ぎ見てそう感じる。
この世界には時計ってものがないし、おれも腕時計はしない派だったから、持ってきてないんだよなぁ。
まぁ、この世界に転移した時点で、VRの戦装束で選んでいた、漆黒の法衣と金箱に『魔導書』しか持っていなかったから、たとえ腕時計をしてたとしても持ち込めたかどうか謎だけど。
森の中に小さな池が現れる。
(水場が近い方が良いわな。)
「そろそろ休憩するか?」
乗せてもらっているシルキーの首筋を、ポンと叩いて声をかける。
おれの言葉に合わせ、徐々に減速していくシルキーとリゲル。
池のほど近くでシルキーとリゲルは立ち止まった。
ボワンと音がして、おれの体がふわりと地面に下ろされる。
「お疲れさん、シルキー。」
金髪ポニテの美少女モードになり、丁度良いサイズの岩に腰掛けたシルキーを労い、『図書館』から出した水筒のカードを、『カード化』解除して渡す。
彼女も口には出さないが、やはりそれなりに疲れているのだろう。
「セイさん、ありがとう。」
お礼には軽く手を挙げて答え、アフィナには岩塩のカードを渡す。
「これは・・・リゲルに?」
「ん、ああ。水はそこの池で良いと思うが・・・たしか馬には塩を与えないとだめって、何かの本で読んだ覚えがある。」
正確には思い出せないし、本来の馬と『一角馬』では勝手が違うかもしれないが・・・。
まぁとりあえず水飲めば間違いないだろう。
人型のシルキーに池の水飲めとは言えないが、馬型のリゲルなら問題無いしな。
アフィナは『カード化』解除した岩塩をリゲルに舐めさせながら、「へぇ~、そうなんだー。セイは博識だねー。」とか言っている。
そこで箱の中から、サーデインとエデュッサが現れる。
「ご主人様、伽・・・。」
「エデュッサ、周辺警戒してこい。」
現れたエデュッサの変態発言を食い気味に遮って命令すると、なぜかそれすらも嬉しそうに頬を染め、「これです・・・ご主人様はこうでないと。」などと呟きながら森に消えていった。
最早どう扱って良いのかわからん。
その光景を生暖かい目で見守っていたサーデインが、はたとした感じで口を開く。
「そういえば主殿、そろそろ竜兵さんとの定時連絡では?」
そういやそんなのもあったな。
すっかり忘れてた。
まぁ定時って言っても、「落ち着いた時に、昼くらい。」なんていう取り決めの、現代日本人なら気が狂いそうなアバウトさだが。
おれは『図書館』から『吹雪竜帝』のカードを出し、『念話』を送った。
しかし、おれに答えたのは聞きなれた竜兵の声ではなかった。
■
【竜兵、聞こえるか?】
【・・・セイ殿か!?】
(ん?・・・この声は、ヒンデックか?)
もしや竜兵になにかあったのだろうか。
いくら彼が強いとは言え、『略奪者』が暗躍しているからな。
【ヒンデックか?竜兵に何かあったのか?】
【いや、セイ殿。竜兵殿に何かあったというわけではない。彼は今、フローリアの国境を巡回中でな。わしもそれに同行させてもらってるいるのじゃよ。】
(なるほど。)
おれはほっと胸を撫で下ろす。
どうやら杞憂だったようだ。
しかし国境警備か。
さすが竜兵だ、フットワークが軽い。
ドラゴンモードのバイアに乗せてもらえば、相当効率よく回れるんだろうな。
おれではこうはいかなかっただろうし、やはりアイツに任せてきたのは正解だったか。
【ところでセイ殿。アフィナは無事じゃろうか?】
思考の海へと沈みかけたおれは、ヒンデックのとても心配そうな声で、気を取り直す。
【ちょっと待ってろ。】と言って、アフィナをちょいちょいと手招きする。
自分がなぜ呼ばれたのかわからないのだろう。
不思議そうな顔でカードに触れたアフィナが、『念話』を送る。
【・・・アフィナです。】
【おお!アフィナ!無事か!?ちゃんと寝れておるか?食事は摂れておるのか?セイ殿に迷惑はかけておらんか?】
すっかり孫想いのお祖父ちゃんになってしまったヒンデック。
いやこれはもう、修学旅行中の小学生に電話受けたお母さんだろ・・・。
離れていれば諦めもついたんだろうが、竜兵の『ドラゴンネットワーク』の事を聞いて我慢ができなくなったって所だろうか。
「孫と話したいんじゃ!」と、竜兵に懇願しているヒンデックの姿が想像できた。
【お、お祖父ちゃん!?】
アフィナも大いに驚いたようだ。
さすがにこのまま聞いているのも無粋だな。
おれはそっとカードから手を離した。
■
体感、約10分後・・・。
「つまり、こっからが正念場って訳だな?」
「そうですね。さすがに『雲の高見台』や『南天門』に関しては、『青の城壁』のようには行かないでしょう・・・。」
おれとサーデインがこの先の道程を話し合っているところに、真っ赤な顔をしたアフィナが戻って来た。
「もう!お祖父ちゃん、過保護が過ぎるよ!」などと言ってプリプリしているので、ヒンデックは最早手の施しようが無いデレ期なのだろう。
おれにカードを返しながら「竜君だよ。」と言うので、ヒンデックは引っ込んだらしいな。
【竜兵かー?】
【アニキー!やっと話せたー!】
大分待たされたからだろう。
興奮しきった竜兵の声を聞いて、おれの想像が間違っていなかっただろう事を確信した。
とりあえず状況のすり合わせだな。
【アニキ、ドラゴンたちのカード取り返してくれてアリガトね!カーシュが持ってきてくれたよ。】
【そうか、カーシュたちも無事避難できたんだな。こっちはまぁ・・・今のところ概ね順調だな。ここからが問題らしいが。】
どうやら魔物たちも、無事『精霊王国フローリア』に逃げ込めたようだ。
一つ肩の荷が降りたな。
【それでどうだ?国境巡回してるらしいが、何かあったか?】
【ううん、何も無いね。逆に不自然なくらいだよ。それよりアニキ・・・。】
そうか今のところは目立った脅威は無いんだな。
それはともかく。
一瞬言いよどんだ竜兵の話の続きが気になるな。
【どうした?何か気になることがあったのか?】
【いや、気になるって言うか、クリフのおっちゃんが言ってたんだけど・・・アニキ、『回帰』の事って覚えてる?】
・・・oh・・・。
思いっきり忘れてた。
【も、もちろんだぞ?】
思わずドモったことで忘れていたのはバレたようだ。
『念話』越しに、竜兵のため息が感じられた。
【忘れてたんだねアニキ?それレーダーにもなるらしいよ。】
知ってる。
と言うか、聞いた。
今まで完全に忘れてたけどな!
【わかってる。じゃあ竜兵、また何かあったら連絡を取ろう。】
おれは誤魔化すように『念話』を切った。
そして『吹雪竜帝』のカードを『図書館』にしまい、代わりに『回帰』のパーツ、『回帰 3/7』と表示を変えたそれを引き出してみる。
その時だった。
引っ張り出した『回帰』のカードは、おれの目の前に浮かび上がり、一度上空へレーザーのような光を放つ。
その光は途中で折れ曲がり、『天空の聖域シャングリラ』の王城がある方へ向かっているようだった。
ビカァァァーーー!!!
ええええええええええ!?
レーダーってこんなんなの!?
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