・第六十話 『青の城壁』
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマ、励みになります。
※2/5 修正しました。
設定上の名前と投稿した文の名前が違っていた><
『蒼穹の乙女』→『蒼穹の天女』
2/9 微妙な言い回し修正しました。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、おれはマジモンの天使と遭遇した。
兄貴も実際に見たのは初めてだ。
VRでは、ウララが良く使っていたから、そこまで衝撃ってほどじゃあ無かったけどな。
クリフォードなんかの話し振りから想像すると、この世界における彼らへの認識は、あくまでも「天使」を自称する有翼種。
って雰囲気だったが。
だけど実際目の前に居るとなかなか不思議な感じだ。
羽根の継ぎ目とかどうなっているのか・・・。
さすがに頭に輪っか乗ってるのとかは居ないようだ。
まぁ・・・おれにとっての天使は美祈だk(ry
※以下美祈への賛美が続くので割愛。
■
おれたちは、『青の城壁』に一つだけある通用門の前に立っていた。
全高が3mほど、幅は5,6mくらいか。
青い不思議な素材でできた門だ。
(これが青空を魔法で固めたってやつかね?)
そんな事を考えながら見ていると、門の脇にある小屋のような所から、白い鎧姿の人物が二人現れる。
白い鎧姿の二人は、厳ついおっさんの天使だった。
スキンヘッドと髭だるまのおっさん二人に、純白の羽根が生えている。
むしろ羽根と鎧が豪奢な分、むさくるしさが際立っていた。
(なんだこれ・・・誰得だよ・・・。)
二人は油断無く槍を構え、おれたちへ誰何してきた。
「貴様等は何者だ!なんの目的でここへ来た!」
おれはサーデインと顔を見合わせる。
ここまで来る前に打ち合わせは済ませていた。
サーデインがおれたちの一歩前に出る。
「おはようございます。我々は旅の殉教者です。旅の途中で傷ついた『一角馬』を保護しまして、お礼にと『虹の橋立』を渡らせて頂きました。滅多にあることではありませんので、せっかくですから『正義神』ダイン様の神殿に拝礼させて頂こうと愚考した次第でございます。私は旅の司祭レフティア。この者たちは、私の旅に付き合ってくれている若者たちですよ。」
「ほう・・・『一角馬』を・・・。」
おれたちは、殉教者を詐称できる服装に着替え、本来の姿に戻ったシルキーとリゲルを伴いここに来ていた。
サーデイン曰く、この国で聖職者は青か白の服装になると言うので、おれもアフィナも自身の本来の服装の上に、白いローブを頭から羽織っている。
国の内情に詳しいサーデインが、少し階級が上らしい青い法衣を着ていた。
エデュッサ?
あいつはメイド服のままだ。
最初同じように白いローブ着せようとしたら、なんのこだわりか豹柄のローブなんて持ち出してきたので、慌てて止めた。
一応ミニスカだけはやめさせてロングスカートにさせてるので、司祭付きの女中に見えないことも無い・・・と思いたい。
交渉は基本的にサーデインに一任してある。
彼ならそつなくこなしてくれるだろう。
おれたちは旅の途中で、この地へ巡礼している体を装うことにしている。
そしてこの国で、一部神聖視されている『一角馬』を前面に押し出す形で、切り抜けてしまおうというのが作戦だった。
なんかこの国の守護神である『正義神』ダインの騎獣が、『一角馬』だったとかって逸話があるらしい。
それと彼らの性質。
まぁ所謂、処女厨ってのが巫女や司祭なんかの純潔を尊ぶこの国では、非常に琴線に触れるとか何とか。
「なるほど・・・旅の司祭殿、それは失礼しました。ようこそ、『天空の聖域シャングリラ』へ。」
二人の門番は、おれたちを舐めるように上から下まで観察した後に、シルキーとリゲルを確認して顔を見合わせ、そう言って頭を下げた。
どうやらうまくいったらしい。
サーデインが人好きのする笑みを浮かべ、彼らに握手を求める。
「いえいえ、門番のお仕事ご苦労様です。」
ちらっと見えたサーデインの掌には、金貨が握られていた。
サーデインの握手に応えた門番が驚く。
「司祭殿、このような・・・。」
「なんですかな?私は、仕事熱心な門番殿たちとの出会いに感動し、思わず握手を求めてしまっただけですが?」
サーデインはそんな事を言いながら、彼らににっこりと笑いかけた。
今、彼の笑顔を見て、絶賛賄賂進呈中と想像できる人など居ないだろう。
さすが王弟・・・。
「・・・では、ありがたく。」
先ほどおれたちを警戒していた時よりすっかり柔和な顔になり、再度深々とサーデインに向けて頭を下げる門番二人。
「それではどうぞお気を付けて。」
「ありがとう門番殿、お二人の頭上にも、神の恩寵があらんことを。」
門番に見送られて『青の城壁』を潜るまで、サーデインは満点の司祭を演じきった。
■
まぁ、サーデインが司祭を演じたと言うのは間違いだな。
ふと、そんな事を思う。
サーデインは元から司祭であり、聖職者だ。
もちろん『正義神』ダインのじゃなくて、彼が異端認定した『混沌の女神』アザレアのなんだがな。
そして奴のすごい所は、嘘をついていないってことだ。
確かに服は、門番が誤解するような物に着替えた。
そして旅の司祭レフティアと名乗る。
彼は一言も『正義神』ダインの司祭であるとは言っていない。
そしてレフティア・・・彼の本名サーデイン・L・フローリア。
ミドルネームはレフティアだ。
ちなみにクリフォードがRでライティア・・・謁見の間にあった左右の王座に関係してるんだろう。
まぁこれは蛇足だが。
そして最後に言った「神の恩寵がありますように。」
ここでも『正義神』ダインの名前は出していない。
いやー、サーデインさん策士スキルが半端ねーな。
「まぁ、長いこと王弟なんてやってると自然にですよ。」
おれがそんな事を思いながらサーデインを見ていると、彼は振り返って苦笑いしながらそう言った。
心読まないで、怖い。
『青の城壁』から十分に距離を取った所でサーデインが呟く。
「しかしこの国も変わりませんね・・・。」
「それは・・・さっきの門番とのやり取りか?」
おれが尋ねると、「ええ。」と答えるサーデイン。
「正義、正義と語っていますがね。狂信者と言うべき国民は、実際どの程度なのでしょうかね?少なくとも、先ほどの門番たちのような末端の者には、そこまで考えている節は見受けられないんですよね・・・。」
確かにな。
「少なくともおれが門番だったら、こんな怪しい奴らは通さないぞ。」
自分で言っててちょっと悲しくなったが、サーデインも同意見らしく苦笑いだ。
「国なんて・・・えてして、そんなもんですよ。」
少し自嘲気に呟くサーデイン。
きっと彼も生前色んな体験をしたんだろう。
長命種であるエルフ族だったのだし、それこそおれたち人族の何倍も。
「セ、セイ、もうしゃべって良い?」
「ん、ああいいぞ。」
余計なことを言ってボロが出ないよう、お口チャックを厳命していたアフィナとエデュッサが、ほぅっと息を吐く。
シルキーもボワンと、音を立てて人化した。
「んあー、緊張した~。」
「私もドキドキしたよ。」
「ご主人様、伽ですか?」
途端に姦しい。
それと変態、お前脈絡無さすぎ。
迫り来る変態を手でいなしながら歩いていると、サーデインがポツリとつぶやいた。
「せめて『四姉妹』が居てくれたら、もう少しこの国もマシだったんでしょうが・・・。」
今までも何度か出てきた、『四姉妹』と言う言葉にふと何かが符合する。
これはもしかしたら、おっさんとは言えリアル天使を見たからかもしれない。
「なぁサーデイン・・・?」
「どうしました主殿?」
自身の中に生まれた疑念を、言葉にするのが一瞬躊躇われる。
サーデインを始め、急に立ち止まったおれを訝しむアフィナとシルキー。
隙を突こうとして拳骨であしらわれるエデュッサ。
ええい、鬱陶しい。
「『四姉妹』ってのは・・・それ一人でも英雄級、揃えば揃うほど力を増すってアレか?所謂・・・『蒼穹の天女』エナとか・・・。」
「え、ええ・・・良くご存知ですね。長女が『蒼穹の天女』エナです。」
マジかー。
おれ、それ知ってるわ。
それはつまりもう一つの可能性を示唆していた。
「サーデインとウララの対面が無かったのが、本当に悔やまれるな・・・。」
苦々しく漏らしたおれの言葉に、サーデインがさっと顔色を変える。
「主殿・・・まさか?」
「ああ、『四姉妹』の内少なくとも三人は、ウララの『魔導書』で見たことがある。そして彼女たちは等しくPUPAに反応していた。」
「セイさん、どういうこと?何の話をしているの?」
シルキーには『カードの女神』の『加護』でカードが使えるって言っただけで、詳しく説明してなかったな。
不安そうにポニーテールが揺れている。
「おれたちは、この世界で暮らす者たちのカードを使役している。でも、おれが転移する前に居た世界では、存命中だったり『略奪者』が握っているカードは、使用できなかったんだ。」
シルキーの目が驚愕に見開かれる。
そして残りはアフィナが続けた。
「つまり、セイとセイの幼馴染たちが使ってたカードって、この世界ではもう死んでる人なんだよ。」
一瞬静まり返る一同だが、サーデインがその沈黙を破る。
「主殿、確かに今の統治に助けにはならないでしょうが・・・ウララさんが『四姉妹』のカードを持っている事は、ある意味僥倖かもしれませんよ?少なくとも『略奪者』に奪われている訳ではないのですから。」
確かに・・・そうとも考えられるな。
「じゃあやっぱり・・・少しでも早く助けてあげないとね?」
アフィナの言葉に、おれとサーデインは改めて頷きあうのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。