・第五十九話 『妹』後編
遅くなりましたー!
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマ、感謝です。
※美祈視点後半、楽しんで頂けたら幸いです。
わたしは今、天京院飛鳥さんと並んで座り、彼女のSSと思われる男性、山本さんの運転する高級車に揺られどこかへ向かっています。
これがロールスロイスって言う車なんでしょうか?
TVなんかで見たことはあっても、乗ったのは当然初めてです。
ただ・・・色がピンクで高級感が台無しでした。
飛鳥さんの趣味なんでしょうか?
「あの・・・どこへ向かっているんですか?」
「ワタクシの自宅です。もう少しで着きますわ。」
わたしの問いに対して、あすかさんは端的に答えました。
でも何故突然自宅へ・・・。
それから五分と立たずに、車は音も立てずすーっと停まりました。
山本さんが「どうぞ。」と言って、車のドアを開けてくれます。
降りた所でわたしはまたも驚きました。
目の前にあったのは、50階はあると思える円形の高層ビル。
このビル全てが彼女の持ち物で、自宅として使っているのは最上階のフロアーだそうです。
わたしはどうしていいかもわからず、ただ彼女に促されるままに後ろに付いていきました。
最上階に着き、ぶち抜きの大広間になっている部屋へと通されて、彼女と正対しました。
「突然自宅に招いて驚かせてしまいましたわね。ただ・・・お互いの持つ情報、おそらく人に聞こえぬ場所でした方が良いと思いましたの。」
圧倒されてしまっていたわたしも、そこで正気を取り戻します。
そうです。
飛鳥さんと山本さんは、お兄ちゃんたちの事を覚えている口ぶりだったんです。
わたしが言葉を発しようとする前に、飛鳥さんがとても真剣な表情になりました。
「九条美祈さん、まずは前回の非礼を詫びさせてくださいまし。貴女とお兄さんの関係を知らずに失礼な発言をして、本当に申し訳ありませんでした。」
飛鳥さんはそう言って、深々と頭を下げました。
とてもそんなことをするような人には見えなかったこともあり、わたしは驚いてしまいました。
「あ、あの、もう気にしてないです!それに飛鳥さん、うららちゃんに・・・わたしもあれはちょっとやりすぎって思ったし・・・。」
しどろもどろになりながら、そんな事を言うのが精一杯です。
「ええ・・・自分が撒いた種とは言え・・・『正義』の橋本麗さん・・・あの方を思い出すと、未だに膝が震えるんです。」
完全にトラウマになっちゃったみたいです。
飛鳥さんは遠い目して言いました。
「そ、それで・・・お話と言うのは?飛鳥さんと山本さんは、お兄ちゃんたちの事を覚えてるんですよね?」
飛鳥さんはわたしをじっと見つめました。
そこで奥の扉が開き、山本さんが部屋へ入ってきます。
「お嬢様、準備が整いました。」
「わかりましたわ。美祈さん、お話をする前に、一つ確認したいことがありますの。よろしくて?」
飛鳥さんは、何かの守備を伝えた山本さんに答えると、わたしに確認があると言います。
わたしが「なんでしょう?」と訪ねると、「こちらへ。」と言って先ほど山本さんが現れた扉の部屋へ案内されました。
「これは・・・PUPAですか?」
その部屋にあったのは二台の繭型VR用座席です。
わたしの質問に「そうですわ。」と答える飛鳥さん。
「美祈さん、『魔導書』はお持ちですよね?これからワタクシと戦って頂きます。」
話が見えません。
わたしは、遊ぶためにここまで着いてきた訳じゃないんです。
「確かに今『魔導書』は持っていますが、なぜ飛鳥さんとバトルしないといけないのでしょうか?それよりも話の続きを・・・。」
わたしが渋ると、飛鳥さんは首をふるふると振って、「そういう訳には参りませんの。」と言います。
一体何なんでしょう・・・。
やっぱり黙って着いてきたのは失敗だったかもしれない。
「貴女が情報を開示するに相応しい人間だと示してくださいまし。それとも・・・。」
飛鳥さんの物言いに段々腹が立ってきました。
遊んでる場合じゃないんです。
「それとも・・・何ですか?」
何だか自分の声がザラついています。
これ以上彼女の言葉を聞いたら取り返しがつかないかも・・・。
それでも質問は止められない。
今のところ何かを知っているのは彼女たちだけなのだから。
「貴女のお兄さんは、貴女を甘やかすだけ甘やかし、何かを得るには資格が必要だ。って事すら教えてくれなかったんですの?」
全身がかーっと熱くなりました。
わたしのことはどうでも良いんです。
だけどお兄ちゃんを侮辱するのは許せない。
「わかりました。やりましょう。」
わたしはそう言って、PUPAのシートに腰掛けました。
■
15分後・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・これで、満足、ですか?」
乱れる呼気もそのままに、わたしは飛鳥さんの首元に左手の短刀を突きつけ、こめかみには右手の短銃を構えていました。
わたしの使役する盟友たちも、彼女の盟友を完全に封殺している状況。
己が主を救出することは叶わないでしょう。
そしてこの状況は、彼女が何かアクションをする前に、「わたしはあなたを二回倒せる。」という意味を込めています。
本来肉体的には疲れないVRの中で息が荒いのは、肉体の方が興奮状態だったからでしょう。
彼女はわたしの顔をまっすぐ見据えたたまま、「ええ、ワタクシの完敗。降参ですわ。」と言いました。
PUPAのシートから降りて、最初に通された部屋に戻ると、山本さんがティーセットの用意をしていました。
わたしは促されるまま席につきます。
わたしと飛鳥さんの前へ、紅茶の入ったカップが置かれた所で、彼女はやっと話し始めました。
「美祈さん、試すような形になってしまってごめんなさい。それに、貴女のお兄さんをダシに使うような発言をしたことも、心より謝罪致しますわ。でもこれで、ワタクシたちの立てた仮説に、確信が持てましたの。」
「仮説・・・?確信ですか?」
彼女の表情は、本当に申し訳なく思っている事が感じられて、わたしもそれ以上怒りを持続することはできませんでした。
それよりも今は話の続きが気になります。
わたしの呟きに対し、一度頷いた彼女は一口紅茶を飲んでから、衝撃的な事実を告げました。
「結論から申し上げますと、貴女同様にワタクシも姉妹を探して居るんですの。まぁワタクシの場合は姉なんですけど。」
「お姉さん・・・ですか?」
それが、わたしの状況とどのように繋がるんでしょうか?
「美祈さん、鈴原保奈美と言う名前に、聞き覚えはありませんこと?」
わたしはその名前を反芻しました。
(すずはら・・・ほなみ・・・ホナミ!?)
思い当たって驚愕したわたしに向かって、飛鳥さんは大きく頷きました。
「やはり知っていますねのね・・・と言うよりは、「思い出した。」と言うのが正しいですわね。」
わたしは確かにその名前を知っていました。
鈴原保奈美・・・通称『節制』のホナミ、と称された『リ・アルカナ』のトップランカーです。
お兄ちゃんとも仲の良かった彼女は、わたしとの面識も一度や二度ではありません。
むしろ何故今までホナミさんのことを忘れていたのか・・・。
「彼女はワタクシの腹違いの姉、所謂異母姉と言う方ですの。そして彼女も現在行方不明。けれど、その事実に気付いているのはほんの一握りの人だけなんです。何故かおわかりになって?」
ホナミさんも行方不明、そしてお兄ちゃんたちのように、周りの人々から忘れ去られている?
「現在、『リ・アルカナ』のトップランカーと言われている称号の内、所在がわかっているのは十、その中で更に、本来の空位を除けば・・・実質五名だけですわ。つまり・・・ホナミ姉さんや美祈さんのお兄さんたちも含め、実に12名もの方が行方不明になっているんですの。そして、ここからがもっと深刻な問題。この事件に気付けるのは『リ・アルカナ』において、称号を持っている人間だけ。それも、その人物を確かに認識していないと、いつのまにか忘れていると言う極悪仕様なんですわ。」
私は言葉を失いました。
でも、どこかで無くしたパズルのピースが埋まったような感覚がありました。
確かに・・・確かにです。
飛鳥さんの言った仮説は、納得のいく話でした。
■
「ですから・・・似た境遇でもあるワタクシたちは、この事件に対して協力しあえると思うんですの。」
彼女はそんなことを言いながら、わたしのことをチラチラ伺っているようです。
さっきまでは自信満々で、仮説を語っていたのに一体どうしたんでしょうか?
「でも、なぜわたしのことを・・・?」
「それはもちろん、貴女が力ある魔導師だからですわ。『聖杯』の美祈さん?」
(何でそのことを!?)
彼女の発した言葉に、わたしは再度驚愕したんです。
実はわたし・・・称号持ちだったんです。
飛鳥さんの『剣』と同じ、タロットの称号一歩手前です。
『リ・アルカナ』の運営からは、「実力だけはタロットクラスと遜色ありません。けれど美祈さんには公式大会での実績が少なすぎる。」そう言われて、けれど一般プレイヤーからは明らかに逸脱した実力、ということで非公式に贈られた称号です。
でもこの称号、お兄ちゃんたちとも相談した結果、無駄なトラブルを避けるためにと、運営と幼馴染のみんなしか知らないはずなんです。
「なんで・・・知ってるんですか?」
わたしが恐る恐る訪ねると、彼女は山本さんを指差して言いました。
「山本は、ワタクシの秘書兼SSとして働いてくれていますけれど、『リ・アルカナ』のトップランカー、『吊られた男』としての顔もあるんですの。当然運営にもそれなりに顔が利きます。それに昔からこう言うでしょう?「壁に耳あり、障子にメアリー」と。」
山本さんも称号持ちだったんですか・・・。
なんだか本当に、飛鳥さんの仮説が正しいように思えてきました。
たった二人でこんなに調べて居たなんてすごいです。
わたしは気持ちを新たにお二人を見ました。
でもお二人は何だか焦っています。
「山本、どうしましょう?まったくウケませんわ!?」
「お嬢様、諦めてはいけません。さっきは聞こえなかっただけかも・・・。」
そんな事を言い合っています。
意を決したように飛鳥さんが声をかけてきます。
「あの、美祈さん?障子に目あり、を人名のメアリーと・・・。」
え・・・?ダジャレ?
しかもそれを説明するんですか?
思わずわたし、噴き出しちゃいました。
お兄ちゃんが居なくなってから、初めてかもしれません。
そんなわたしに向かって、飛鳥さんは真っ赤な顔をして右手を差し出します。
「み、美祈さん、ワタクシとお友達になって下さいませんこと?・・・本当はあの日も、『サプライズ』で注意を促すつもりでしたの・・・。今となってはたらればの話ですけれど・・・。」
わたしは彼女の右手をしっかりと握りました。
飛鳥さんは結局、不器用なだけでどこまでも真摯でした。
後から山本さんに聞いた話ですが、今日彼女の自宅でバトルしたのも、わたしの称号の話がただの噂だった場合、危険に巻き込まない配慮があったらしいのです。
わたしたちの初めての出会い、あの日のことはお互いにとって不幸な事故だったんです。
「こちらこそお願いします。飛鳥さん、一緒にわたしたちの大切な人を救いましょう。」
飛鳥さんもわたしの手をしっかりと握り、「ええ。」と頷きました。
■
そしてわたしたちが、お互いのことを「あすかちゃん」「みきちゃん」と呼び合うようになるのに、さほど時間はかかりませんでした。
あすかちゃんはお嬢様育ちが長かったせいで、多少常識に欠けるところがあるけれど、とても優しく繊細な人でした。
育った環境は違えど、お互い大切な人の行方を探していること、歳も同じく十六歳、共通点は多く、毎日を共に過ごすようになりました。
縦撒きカールは本人の意思ではなく、お母さんに無理矢理やられていることなど、他愛ない話もたくさんしました。
わたしの夢に関しても相談に乗ってもらい、二人で出した結論は「タロットの称号を得よう。」という事でした。
それから二人で、正確には山本さんも一緒に、三人で『サプライズ』に通いバトルを行いました。
ランキングを上げて、空位の称号を得るためです。
そんな事を二週間ほど続けたある日の事でした。
「みきちゃん、ワタクシと山本は今日『サプライズ』に行けませんわ。タロットの称号持ちとアポイントが取れそうなんですの。話が本決まりになったら、みきちゃんにも一緒に行って頂きたいのだけどよろしくて?」
あすかちゃんは突然そんな事を言い出しました。
わたしに反対する理由はありません。
タロットの称号持ちなら、お兄ちゃんたちを覚えている。
もしくは、忘れていても思い出す可能性が高いんです。
「もちろん!その時はお願いします。じゃあ今日は、わたし一人で『サプライズ』行ってくるね?」
「ええ、気を付けて。ごきげんよう。」
そしてその日の帰り、わたしは一人裏路地を歩いていました。
(あすかちゃんがアポイント取れそうって言ってた人は、お兄ちゃんのこと覚えてるかな・・・。)
そんなことを考えていたわたしは、お兄ちゃんから言われていた、「遅くなったらこの裏路地使っちゃダメだ。」って言葉をすっかり失念していたんです。
そしてわたしは、三人の怖い青年に絡まれました。
途中でお兄ちゃんの「逃げろ。」って声が聞こえた気がして、逃げようとしたけどだめでした。
その内の一人がわたしのお守り。
お兄ちゃんが居なくなる前に預けてくれたカード、『蒼槍の聖騎士』ウィッシュを取り上げます。
わたしは必死で取り返そうとするけど、届きません。
その時、まるで上空にお兄ちゃんが居るような気がしました。
怖い青年たちもぎょっとした様子でそちらを振り向きます。
でもやっぱり、そこにお兄ちゃんは居ませんでした。
その後はみなさんも知っての通りです。
何だか胸騒ぎと、誰かが自分を呼ぶ声を聞いたような気がしたと言う、あすかちゃんが裏路地を覗いてくれて。
乱暴される寸前のわたしを、山本さんが助けてくれました。
そしてあすかちゃんに、家へと送ってもらう車の中で告げられました。
「みきちゃん、朗報ですわよ。『リ・アルカナ』ランキング二位。『戦車』を捕まえましたわ。」
どうやら二人の交渉はうまくいったみたいです。
でも確か・・・『戦車』って・・・。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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※次回はセイ視点に戻ります。