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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
62/266

・第五十九話 『妹』後編

遅くなりましたー!

いつも読んで頂きありがとうございます!

ブクマ、感謝です。


※美祈視点後半、楽しんで頂けたら幸いです。


 わたしは今、天京院飛鳥てんきょういん あすかさんと並んで座り、彼女のSSシークレットサービスと思われる男性、山本さんの運転する高級車に揺られどこかへ向かっています。

 これがロールスロイスって言う車なんでしょうか?

 TVなんかで見たことはあっても、乗ったのは当然初めてです。

 ただ・・・色がピンクで高級感が台無しでした。

 飛鳥さんの趣味なんでしょうか?


 「あの・・・どこへ向かっているんですか?」


 「ワタクシの自宅です。もう少しで着きますわ。」


 わたしの問いに対して、あすかさんは端的に答えました。

 でも何故突然自宅へ・・・。

 それから五分と立たずに、車は音も立てずすーっと停まりました。

 山本さんが「どうぞ。」と言って、車のドアを開けてくれます。

 降りた所でわたしはまたも驚きました。

 

 目の前にあったのは、50階はあると思える円形の高層ビル。

 このビル全てが彼女の持ち物で、自宅として使っているのは最上階のフロアーだそうです。

 わたしはどうしていいかもわからず、ただ彼女に促されるままに後ろに付いていきました。


 最上階に着き、ぶち抜きの大広間になっている部屋へと通されて、彼女と正対しました。


 「突然自宅に招いて驚かせてしまいましたわね。ただ・・・お互いの持つ情報、おそらく人に聞こえぬ場所でした方が良いと思いましたの。」


 圧倒されてしまっていたわたしも、そこで正気を取り戻します。

 そうです。

 飛鳥さんと山本さんは、お兄ちゃんたちの事を覚えている口ぶりだったんです。

 わたしが言葉を発しようとする前に、飛鳥さんがとても真剣な表情になりました。


 「九条美祈さん、まずは前回の非礼を詫びさせてくださいまし。貴女とお兄さんの関係を知らずに失礼な発言をして、本当に申し訳ありませんでした。」


 飛鳥さんはそう言って、深々と頭を下げました。

 とてもそんなことをするような人には見えなかったこともあり、わたしは驚いてしまいました。


 「あ、あの、もう気にしてないです!それに飛鳥さん、うららちゃんに・・・わたしもあれはちょっとやりすぎって思ったし・・・。」


 しどろもどろになりながら、そんな事を言うのが精一杯です。

 

 「ええ・・・自分が撒いた種とは言え・・・『正義ジャスティス』の橋本麗さん・・・あの方を思い出すと、未だに膝が震えるんです。」

 

 完全にトラウマになっちゃったみたいです。

 飛鳥さんは遠い目して言いました。


 「そ、それで・・・お話と言うのは?飛鳥さんと山本さんは、お兄ちゃんたちの事を覚えてるんですよね?」


 飛鳥さんはわたしをじっと見つめました。

 そこで奥の扉が開き、山本さんが部屋へ入ってきます。


 「お嬢様、準備が整いました。」


 「わかりましたわ。美祈さん、お話をする前に、一つ確認したいことがありますの。よろしくて?」


 飛鳥さんは、何かの守備を伝えた山本さんに答えると、わたしに確認があると言います。

 わたしが「なんでしょう?」と訪ねると、「こちらへ。」と言って先ほど山本さんが現れた扉の部屋へ案内されました。



 「これは・・・PUPAピューパですか?」


 その部屋にあったのは二台の繭型VRバーチャルリアリティ用座席です。

 わたしの質問に「そうですわ。」と答える飛鳥さん。

 

 「美祈さん、『魔導書グリモア』はお持ちですよね?これからワタクシと戦って頂きます。」


 話が見えません。

 わたしは、遊ぶためにここまで着いてきた訳じゃないんです。


 「確かに今『魔導書グリモア』は持っていますが、なぜ飛鳥さんとバトルしないといけないのでしょうか?それよりも話の続きを・・・。」


 わたしが渋ると、飛鳥さんは首をふるふると振って、「そういう訳には参りませんの。」と言います。

 一体何なんでしょう・・・。

 やっぱり黙って着いてきたのは失敗だったかもしれない。


 「貴女が情報を開示するに相応しい人間だと示してくださいまし。それとも・・・。」


 飛鳥さんの物言いに段々腹が立ってきました。

 遊んでる場合じゃないんです。


 「それとも・・・何ですか?」


 何だか自分の声がザラついています。

 これ以上彼女の言葉を聞いたら取り返しがつかないかも・・・。

 それでも質問は止められない。

 今のところ何かを知っているのは彼女たちだけなのだから。


 「貴女のお兄さんは、貴女を甘やかすだけ甘やかし、何かを得るには資格が必要だ。って事すら教えてくれなかったんですの?」


 全身がかーっと熱くなりました。

 わたしのことはどうでも良いんです。

 だけどお兄ちゃんを侮辱するのは許せない。


 「わかりました。やりましょう。」


 わたしはそう言って、PUPAピューパのシートに腰掛けました。


 

 ■



 15分後・・・。


 「ハァ・・・ハァ・・・これで、満足、ですか?」


 乱れる呼気もそのままに、わたしは飛鳥さんの首元に左手の短刀を突きつけ、こめかみには右手の短銃を構えていました。

 わたしの使役する盟友ユニットたちも、彼女の盟友ユニットを完全に封殺している状況。

 己が主を救出することは叶わないでしょう。

 そしてこの状況は、彼女が何かアクションをする前に、「わたしはあなたを二回倒せる。」という意味を込めています。

 本来肉体的には疲れないVRバーチャルリアリティの中で息が荒いのは、肉体の方が興奮状態だったからでしょう。

 彼女はわたしの顔をまっすぐ見据えたたまま、「ええ、ワタクシの完敗。降参ですわ。」と言いました。


 PUPAピューパのシートから降りて、最初に通された部屋に戻ると、山本さんがティーセットの用意をしていました。

 わたしは促されるまま席につきます。

 わたしと飛鳥さんの前へ、紅茶の入ったカップが置かれた所で、彼女はやっと話し始めました。


 「美祈さん、試すような形になってしまってごめんなさい。それに、貴女のお兄さんをダシに使うような発言をしたことも、心より謝罪致しますわ。でもこれで、ワタクシたちの立てた仮説に、確信が持てましたの。」


 「仮説・・・?確信ですか?」


 彼女の表情は、本当に申し訳なく思っている事が感じられて、わたしもそれ以上怒りを持続することはできませんでした。

 それよりも今は話の続きが気になります。

 わたしの呟きに対し、一度頷いた彼女は一口紅茶を飲んでから、衝撃的な事実を告げました。


 「結論から申し上げますと、貴女同様にワタクシも姉妹を探して居るんですの。まぁワタクシの場合は姉なんですけど。」


 「お姉さん・・・ですか?」


 それが、わたしの状況とどのように繋がるんでしょうか?

 

 「美祈さん、鈴原保奈美すずはら ほなみと言う名前に、聞き覚えはありませんこと?」


 わたしはその名前を反芻しました。


 (すずはら・・・ほなみ・・・ホナミ!?)


 思い当たって驚愕したわたしに向かって、飛鳥さんは大きく頷きました。


 「やはり知っていますねのね・・・と言うよりは、「思い出した。」と言うのが正しいですわね。」


 わたしは確かにその名前を知っていました。

 鈴原保奈美・・・通称『節制テンパランス』のホナミ、と称された『リ・アルカナ』のトップランカーです。

 お兄ちゃんとも仲の良かった彼女は、わたしとの面識も一度や二度ではありません。

 むしろ何故今までホナミさんのことを忘れていたのか・・・。


 「彼女はワタクシの腹違いの姉、所謂異母姉と言う方ですの。そして彼女も現在行方不明。けれど、その事実に気付いているのはほんの一握りの人だけなんです。何故かおわかりになって?」


 ホナミさんも行方不明、そしてお兄ちゃんたちのように、周りの人々から忘れ去られている?


 「現在、『リ・アルカナ』のトップランカーと言われている称号の内、所在がわかっているのは十、その中で更に、本来の空位を除けば・・・実質五名だけですわ。つまり・・・ホナミ姉さんや美祈さんのお兄さんたちも含め、実に12名もの方が行方不明になっているんですの。そして、ここからがもっと深刻な問題。この事件に気付けるのは『リ・アルカナ』において、称号を持っている人間だけ。それも、その人物を確かに認識していないと、いつのまにか忘れていると言う極悪仕様なんですわ。」


 私は言葉を失いました。

 でも、どこかで無くしたパズルのピースが埋まったような感覚がありました。

 確かに・・・確かにです。

 飛鳥さんの言った仮説は、納得のいく話でした。



 ■



 「ですから・・・似た境遇でもあるワタクシたちは、この事件に対して協力しあえると思うんですの。」


 彼女はそんなことを言いながら、わたしのことをチラチラ伺っているようです。

 さっきまでは自信満々で、仮説を語っていたのに一体どうしたんでしょうか?

 

 「でも、なぜわたしのことを・・・?」


 「それはもちろん、貴女が力ある魔導師だからですわ。『聖杯カップ』の美祈さん?」


 (何でそのことを!?)


 彼女の発した言葉に、わたしは再度驚愕したんです。

 実はわたし・・・称号持ちだったんです。

 飛鳥さんの『ソード』と同じ、タロットの称号一歩手前です。

 『リ・アルカナ』の運営からは、「実力だけはタロットクラスと遜色ありません。けれど美祈さんには公式大会での実績が少なすぎる。」そう言われて、けれど一般プレイヤーからは明らかに逸脱した実力、ということで非公式に贈られた称号です。 

 でもこの称号、お兄ちゃんたちとも相談した結果、無駄なトラブルを避けるためにと、運営と幼馴染のみんなしか知らないはずなんです。


 「なんで・・・知ってるんですか?」


 わたしが恐る恐る訪ねると、彼女は山本さんを指差して言いました。


 「山本は、ワタクシの秘書兼SSシークレットサービスとして働いてくれていますけれど、『リ・アルカナ』のトップランカー、『吊られたハングドマン』としての顔もあるんですの。当然運営にもそれなりに顔が利きます。それに昔からこう言うでしょう?「壁に耳あり、障子にメアリー」と。」


 山本さんも称号持ちだったんですか・・・。

 なんだか本当に、飛鳥さんの仮説が正しいように思えてきました。

 たった二人でこんなに調べて居たなんてすごいです。

 わたしは気持ちを新たにお二人を見ました。

 でもお二人は何だか焦っています。


 「山本、どうしましょう?まったくウケませんわ!?」


 「お嬢様、諦めてはいけません。さっきは聞こえなかっただけかも・・・。」


 そんな事を言い合っています。

 意を決したように飛鳥さんが声をかけてきます。


 「あの、美祈さん?障子に目あり、を人名のメアリーと・・・。」


 え・・・?ダジャレ?

 しかもそれを説明するんですか?

 思わずわたし、噴き出しちゃいました。

 お兄ちゃんが居なくなってから、初めてかもしれません。

 そんなわたしに向かって、飛鳥さんは真っ赤な顔をして右手を差し出します。


 「み、美祈さん、ワタクシとお友達になって下さいませんこと?・・・本当はあの日も、『サプライズ』で注意を促すつもりでしたの・・・。今となってはたらればの話ですけれど・・・。」


 わたしは彼女の右手をしっかりと握りました。

 飛鳥さんは結局、不器用なだけでどこまでも真摯でした。

 後から山本さんに聞いた話ですが、今日彼女の自宅でバトルしたのも、わたしの称号の話がただの噂だった場合、危険に巻き込まない配慮があったらしいのです。

 わたしたちの初めての出会い、あの日のことはお互いにとって不幸な事故だったんです。


 「こちらこそお願いします。飛鳥さん、一緒にわたしたちの大切な人を救いましょう。」


 飛鳥さんもわたしの手をしっかりと握り、「ええ。」と頷きました。

 


 ■



 そしてわたしたちが、お互いのことを「あすかちゃん」「みきちゃん」と呼び合うようになるのに、さほど時間はかかりませんでした。

 あすかちゃんはお嬢様育ちが長かったせいで、多少常識に欠けるところがあるけれど、とても優しく繊細な人でした。

 育った環境は違えど、お互い大切な人の行方を探していること、歳も同じく十六歳、共通点は多く、毎日を共に過ごすようになりました。

 縦撒きカールは本人の意思ではなく、お母さんに無理矢理やられていることなど、他愛ない話もたくさんしました。


 わたしの夢に関しても相談に乗ってもらい、二人で出した結論は「タロットの称号を得よう。」という事でした。

 それから二人で、正確には山本さんも一緒に、三人で『サプライズ』に通いバトルを行いました。

 ランキングを上げて、空位の称号を得るためです。


 そんな事を二週間ほど続けたある日の事でした。


 「みきちゃん、ワタクシと山本は今日『サプライズ』に行けませんわ。タロットの称号持ちとアポイントが取れそうなんですの。話が本決まりになったら、みきちゃんにも一緒に行って頂きたいのだけどよろしくて?」


 あすかちゃんは突然そんな事を言い出しました。

 わたしに反対する理由はありません。

 タロットの称号持ちなら、お兄ちゃんたちを覚えている。

 もしくは、忘れていても思い出す可能性が高いんです。


 「もちろん!その時はお願いします。じゃあ今日は、わたし一人で『サプライズ』行ってくるね?」


 「ええ、気を付けて。ごきげんよう。」


 そしてその日の帰り、わたしは一人裏路地を歩いていました。

 

 (あすかちゃんがアポイント取れそうって言ってた人は、お兄ちゃんのこと覚えてるかな・・・。)


 そんなことを考えていたわたしは、お兄ちゃんから言われていた、「遅くなったらこの裏路地使っちゃダメだ。」って言葉をすっかり失念していたんです。

 そしてわたしは、三人の怖い青年に絡まれました。

 途中でお兄ちゃんの「逃げろ。」って声が聞こえた気がして、逃げようとしたけどだめでした。

 その内の一人がわたしのお守り。

 お兄ちゃんが居なくなる前に預けてくれたカード、『蒼槍の聖騎士ガラント・オブ・フィナーレ』ウィッシュを取り上げます。

 わたしは必死で取り返そうとするけど、届きません。

 その時、まるで上空にお兄ちゃんが居るような気がしました。

 怖い青年たちもぎょっとした様子でそちらを振り向きます。

 でもやっぱり、そこにお兄ちゃんは居ませんでした。


 その後はみなさんも知っての通りです。

 何だか胸騒ぎと、誰かが自分を呼ぶ声を聞いたような気がしたと言う、あすかちゃんが裏路地を覗いてくれて。

 乱暴される寸前のわたしを、山本さんが助けてくれました。


 そしてあすかちゃんに、家へと送ってもらう車の中で告げられました。


 「みきちゃん、朗報ですわよ。『リ・アルカナ』ランキング二位。『戦車チャリオット』を捕まえましたわ。」


 どうやら二人の交渉はうまくいったみたいです。

 でも確か・・・『戦車チャリオット』って・・・。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

よければご意見、ご感想お願いします。


※次回はセイ視点に戻ります。

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