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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
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・第五十八話 『妹』前編

いつも読んで頂きありがとうございます!

ブクマ、励みになります。


※今回はセイの妹、美祈視点です。

 いつもの分量より増えた上に遅くなってしまったので、前後編になってしまう事をお許しください。


 地球からおはようございます。

 はじめまして、わたしの名前は、九条美祈くじょう みきと言います。

 今年高校生になった十六歳、天然の茶髪なことを除けば、お菓子や可愛いものが好きな、どこにでもいる女の子だと思います。

 勘の良い方なら苗字でもう気付いてますよね?

 そうです。

 九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイは、わたしのお兄ちゃんです。

 お兄ちゃんは、ドンくさいわたしと違ってちょっと特別です。

 紫がかった黒髪と意志の強さを感じる藍色の瞳、すらっとした長身で身内から見ても自慢のイケメンさん。

 お兄ちゃんはわたしと血の繋がりが無いので、似てないのは当然です。

 わたしが五歳の時、実の両親を同時に亡くして、両親と親友だったお兄ちゃんのお父さんがわたしを引き取ってくれました。

 その日から、落ち込むわたしを陰になり日向になり、十年以上も支え続けてくれたのがお兄ちゃんです。

 今、わたしが笑えるのは全てお兄ちゃんのおかげ、と言っても過言は無いんです。

 わたしは、そんな優しくて格好良いお兄ちゃんが大好きでした。

 でも今、大好きなお兄ちゃんは側に居ません。

 原因ははっきりとはわかりません。

 でも、幼馴染のあっきーさんが言っていた、「異世界転移」って事なら説明がつくのかもしれません。

 いつもではないんです。

 でも時々・・・夢の中でお兄ちゃんや竜君、うららちゃんの姿が見えるんです。

 なぜか・・・あっきーさんは見えませんが。

 まるでVRバチャルリアリティの世界と同じような空間で、お兄ちゃんはいつも戦っていました。

 その背中は、わたしを守ってくれているときとなんら変わりなくて。

 だからお兄ちゃんたちは絶対無事だし、きっとまた会えるって信じてるんです。

 だってお兄ちゃん言ったもの。

 「おれが美祈を一生守る。」って。

 あの日、落ち込んだわたしを慰めるための言葉だったのかもしれないけど、それは今でも胸の中に、確かなぬくもりで灯っているから。

 お兄ちゃんと幼馴染の三人、うららちゃん、竜君、あっきーさんが居なくなってから、すでに三週間以上が過ぎました。

 今日は、ここまでのことを振り返ってみたいと思います。



 ■



 「・・・ひどい顔。」

 

 起き抜けに鏡を見て、思ったのはそれが一番でした。

 顔全体がなんだか腫れぼったい気がするし、目の下の隈も深刻です。

 頬には涙の後がくっきり。

 わたしまた、お兄ちゃんの夢を見ながら泣いていたみたい。


 (これ以上ブスになったらお兄ちゃんに嫌われちゃうな・・・。)


 そんなことはありえないとわかっていても、ついつい考えてしまいます。

 お兄ちゃんたちが、わたしの前から消えてしまって、すでに一週間が経っています。


 あの日、聞き覚えの無いアナウンスが流れて、お兄ちゃんたちの乗ったPUPAピューパがありえない発光をしました。

 光が収まった時には、お兄ちゃんと幼馴染三人の姿は、どこにも見当たりませんでした。

 わたしがPUPAピューパを叩いていると、『サプライズ』の従業員に引き離されました。

 そして場内アナウンスが流れます。


 【大変失礼致しました。当PUPAピューパに、原因不明の不具合が発見されましたので、しばらくメンテナンスの時間を頂きます。幸い搭乗者がおりませんでしたので、不具合の調整次第復旧致します。】


 「・・・え?」


 なんで?

 搭乗者が居ないって・・・お兄ちゃんたちが乗ってたじゃない!?

 

 わたしは愕然としました。

 『サプライズ』の従業員はおろか、大型モニターの前で観戦中だったはずのギャラリー50人近く、誰一人としてお兄ちゃんたちのことを知らないと言うんです。

 結局、わたしの話を聞いてくれる人は誰も居なくて、最後にはまるで哀れむような視線に耐え切れずその場を飛び出しました。

 その時は、事態の深刻さを真に理解はしていなかったんです。


 

 ■



 「あら美祈、今日は早かったのね。」


 家に帰ると、お母さんにそんな声をかけられました。

 お母さんももちろん本当のお母さんではありませんが、とてもおおらかで優しい方です。

 今ではわたしも、うろ覚えになってしまった実の母よりも、この人をお母さんと思っています。

 台所からエプロン姿で現れたお母さんは、「どうしたの?ひどい顔して・・・何かあったの?」と、わたしを心配しているようです。

 きっとわたし、青ざめてるんじゃないかな。


 「お母さん・・・お兄ちゃん帰ってる?」


 もちろん期待なんてしていません。

 あの時の光景は、わたしの夢だったなんて思えないほど鮮明だったし。


 「・・・美祈?熱でもあるの・・・?あなたにお兄ちゃんなんて居ないじゃない。」


 突然胃の奥から、何かがこみ上げてくるような感覚。

 まさか・・・まさか!

 わたしは、「美祈!どうしたの!?」と叫ぶお母さんに、返事もせずに二階へ駆け上がりました。

 二階に部屋は二つだけです。

 手前がわたしの部屋、そして・・・奥がお兄ちゃんの部屋。

 お兄ちゃんの部屋の扉を開けて、わたしはそのまま崩れ落ちました。


 そこには何も無かった。

 いえ、部屋自体はあるんです。

 でも、嵐の夜雷が怖いと言って布団へ潜り込んだわたしを、優しく抱きしめてくれたベッドも、お兄ちゃんのお気に入りだったわたしが作ったクッションも、いつも難しい顔で、『リ・アルカナ』の『魔道書グリモア』を調整していた机も・・・お兄ちゃんが居た、という痕跡だけが何も無くなっていたんです。


 「あああ・・・。」


 本当にお兄ちゃんが、何処かへ行ってしまった。 

 挙動不審なわたしを心配して、お母さんが二階へ来ました。


 「美祈・・・本当に一体どうしたっていうの?」


 ただただ泣くことしかできないわたしを、お母さんは抱きしめて優しく頭を撫で続けてくれました。

 そんな事があってから約一週間。

 今日も一日が始まります。

 いつまでも泣いてばかりいられません。

 優しいお母さんやお父さんに心配もかけたくないし、辛くても最低限学校に通ったりの日常生活はこなさないと・・・。

 きっと今のわたしを見たら、お兄ちゃんは悲しい顔をすると思うから。


 それからも、わたしは色んな人に声をかけました。

 お兄ちゃんたちと親しかった人や、『リ・アルカナ』の運営に問い合わせをしたりもしました。

 結果は最悪。

 誰一人として、お兄ちゃんたちを覚えている人は居ませんでした。

 時々お兄ちゃんを夢に見ていても、なんだか自分のことさえ信じられないような。

 わたしはおかしくなってしまったんでしょうか?

 もしかしてこれ、異世界転移ってやつなのかな。

 あっきーさんが言っていたことを現実として受け止めた方が、自分の正気を疑うよりは幾らかマシですよね?


 学校帰り、そんな益体も無いことを考えながら、いつものように『サプライズ』に寄りました。

 もうほとんど日課になっています。

 わたしがそこに足を踏み入れると一瞬、大モニター前のギャラリーがざわつきます。


 「あの娘また来たぜ?」「あれだろ?タロットの称号持ちが、知り合いに四人も居たとか言ってた・・・。」「なんか一人は兄貴らしいぜ。」「へぇ~、かわいい顔してえげつない嘘つくね。」


 そんなセリフがひそひそと囁かれているけれど、もうわたしには気になりません。

 この一週間あまりで、なれっこになっちゃいました。

 むしろわたしのことなんかより、お兄ちゃんやうららちゃん、竜君、それにあっきーさんが、空想の産物みたいに語られていることが悔しくて。

 わたしは唇をかみ締めながら、今日も『サプライズ』の従業員と同じ会話をします。


 「『悪魔デビル』、『正義ジャスティス』、『ストレングス』、それに『運命のホイール・オブ・フォーチュン』です。もう一度確認してください。」


 「何回言われても無いものは無いね。それにお嬢さんが今告げた称号は、現在空位だよ?こっちも仕事だからね。あんまりしつこいのは困るんだよねぇ。」


 わたしが『サプライズ』の従業員にお願いしたのは、お兄ちゃんたちのPUPAピューパ使用履歴の確認でした。

 過去半年分の情報を検索しても結果は変わりません。

 悔しいけれど、もうわたしにはどうしていいのかわからない。

 すげなく追い払われたわたしに、ギャラリーから哀れみの視線と失笑が降り注ぎます。

 そんな時でした。

 いつもの侮蔑交じりではない言葉。

 どこかで聞き覚えのある声がかけられたんです。


 「あら?あなたは先日の・・・今日はお一人なんですの?山本?」


 (・・・今日は・・・お一人?)


 わたしが慌てて振り向くと、そこに立っていたのは、いかにも豪奢な金髪を立て巻きカールにした、わたしと同い年くらいの少女です。

 隣には黒スーツに身を包み、サングラスをかけた男性の姿もあります。

 少女と山本さんと呼ばれた男性は、わたしに声をかけたのも忘れたかのように話しています。


 「お嬢様確かに珍しいことです。彼女は基本、『悪魔デビル』と行動を共にしているようですからね。」


 「ですわよね?そう聞いていたものだからてっきり・・・。」


 確か・・・天京院飛鳥てんきょういん あすかさん。

 この町に引っ越してきた翌日、わたしたちに絡んでうららちゃんにボッコボコにされてしまった可哀想な人です。

 でもそんなことより。

 彼女も山本さんと呼ばれた男性も・・・わたしが一人で居ることに違和感を覚え、なおかつお兄ちゃんの称号『悪魔デビル』を口に出しました。

 それはつまり。


 「あなたは・・・あなたたちは、お兄ちゃんたちの事を覚えているんですか!?」


 つとめて冷静に、静かに話そうとしたけど無理でした。

 叫ぶようになってしまったわたしの声を受けて、二人は顔を見合わせると一つ頷きました。


 「九条・・・美祈さんでしたわよね?少しお時間ありまして?ちょっと場所を移しましょう。」


 彼女がなぜ、「場所を移そう。」と言ったのかわからなかったけど、この一週間で初めて、お兄ちゃんたちを覚えているのだろう人に出会えたわたしは、肯定の意、頷くという選択肢しかありませんでした。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※次回美祈視点後編です。

 蛇足。

 ちなみにですが、美祈の心情として自分を卑下する傾向が強いですが、本来なら普通に美少女だと認識して頂きたいです。

 周りに美形が多い(特にセイとウララが頭一つ抜きん出ている)ため自信が無いだけです。

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