・第五話 『切り札(エース)』
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30分後・・・
【ダブルス申請の川浜秋広様・・・準備が整いました・・・バトルルームへ入室してください。】
準備完了のアナウンスが館内に流れ、五人はそれぞれ立ち上がった。
「んじゃ行こうか。」
そう言って休憩室から出る秋広に、四人は付いていく。
三人が先にバトルルームへ入室し、セイと参加しない美祈だけが待合室に残る。
「お兄ちゃん・・・」
「ん、行ってくる。」
いつものように頭をポンポン撫でるセイを、上目遣いで見つめながら、セイの制服のすそを握る美祈。
その目は少し潤んでいる。
「どした?」
普段とは違うその表情に、違和感を覚えたセイはびっくりしてしまう。
「・・・ううん、何でもない、一緒に遊べなくて寂しい・・・だけ・・・と思う。」
別に美祈も『リ・アルカナ』ができない訳ではない。
タロットの称号持ちが、周りに四人も居るのである。
生来の優しい性格ゆえ、人と争うのは余り好きでないだけで、まともにやれば彼女も、タロットの称号を受けていておかしくない実力はあったのだ。
しかし今回は、何かしら得体の知れない不安を覚えた美祈なのだが、つっかえながら言えたのはそんな言葉だった。
「・・・そっか、じゃあこれ持ってろ。」
セイも美祈の態度に釈然とはしていないが、これ以上みんなを待たせるわけにもいかない。
魔導書の控え(サイド)に入れてあった、一枚のカードを美祈の手に乗せる。
「・・・これって・・・」
美祈の手のひらに乗せられた、一枚のカード。
セイと同じ、紫がかった黒髪の青年が、蒼い鎧を着込み、流麗な片刃の槍を携えて構えている。
『蒼槍の聖騎士』ウィッシュ、何故かPUPAには反応しないが、『リ・アルカナ』がただのカードゲームだった時代、セイの切り札だった盟友であり、PUPAで使えない今も、ずっと控え(サイド)に入れて大切にしているカードである。
驚く美祈の頭を、もう一度ポンポンと撫で、バトルルームへ向かうセイ。
美祈は、セイに渡されたカードを、まるで宝物だと言わんばかり大事そうに胸に抱き、
「がんばって、お兄ちゃん。」
無理矢理いつもの笑顔を浮かべ、セイを送り出す。
「兄貴のかっこいいとこ、最前列で見とけよ。」
そう言ってPUPAへ乗り込むセイ。
「今生の別れでもあるまいし・・・」
ブツブツ呟いているウララは、放っておいた方がいいであろう。
美祈が舞台のモニター前へ移動する。
PUPAの扉が閉じて、セイたちはバトルの準備をする。
バイク用のフルフェイスヘルメットのようなものを頭にかぶり、感覚を接続する。
目の前に浮かび上がる、コンソールパネルを操作して魔導書を確認する。
その後に、バトルで着用する戦装束の組み合わせを選択する。
何度も繰り返した作業である。
四者四様、セイの漆黒の法衣、竜兵の野球帽とTシャツにハーフパンツ、ウララの装束はまるでゴスロリの魔法少女のようだ。
秋広は青い縁取りと、金糸で刺繍されたような白いロングコート。
準備は整った。
四人がそれぞれ、準備完了のエンターを押す。
PUPAのシートに座るセイたちに、無機質な女性の声でアナウンスが聞こえる。
【其れは古を喚ぶ力・・・箱の内から産まれる世界】
「「「「え?」」」」
四人の疑問の声が重なった。
突然、不思議な光に包まれる四台のPUPA。
モニター前まで移動していた美祈も、異変に気付く。
不思議な悪い予感が当たってしまった。
「お兄ちゃん!!」
悲痛な声で、兄の入っていったPUPAへ駆け寄ろうとする。
(お願い!届いて・・・)
必死で伸ばしたその手が届いたとして、美祈に何かできるとは思えないのだが・・・
美祈がセイのPUPAに触れる直前。
四台のPUPAは、一際強く輝く。
そして次の瞬間・・・
四人の『リ・アルカナ』トップランカーたちは、『地球』上から消失した。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今話で三人称視点が終わります。
次回からセイの一人称視点で物語が進みます。
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