・第五十六話 『一角皇女』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、お袋が休みの日に良く作ってくれたおやつがあったろ?
兄貴もあれはすごく好きだった。
お祭りなんかでは時々見かけることもあるけど、作り方は簡単なのにいまいち浸透してないのかね?
一説によると北海道の郷土料理とかって話もあるな。
最近では居酒屋なんかで、チーズを混ぜたりとかってのもあるらしい。
個人的にはシンプルに砂糖醤油が旨いと思う。
何の話かって?
うん、芋もちのことだ。
■
『精霊王国フローリア』へと避難する、『獅子王』カーシュや魔物たちを見送り、二頭の『一角馬』シルキー、リゲルの背に揺られること約二日。
おれたちは今『イリーン階段丘』を抜けた先、雨上がりにしか現れない『虹の橋立』を華麗にスルーし、青空を魔法で固めたと言われる『青の城壁』手前の森で休憩中だ。
『略奪者』の追撃を気にして、多少強行軍になってしまったのは否めない。
予想に反して襲撃は無かったのが、不幸中の幸いと言った所だが、ほぼ休み無しで走り続けることになってしまった。
『イリーン階段丘』の移動はまだ良かった。
下地はほとんどが丈の短い草原だし、『一角馬』も本気とまではいかずとも、継続的に走れる速度としては最高クラスの速さで走ってくれたようだ。
もちろんウララ救出の為に、道程を急いでいることも理解してくれていたし、道中でおれが魔力譲渡で疲れにくいよう底上げしていたのも大きいんだろう。
シルキーの知識頼り、丘陵地を縦断する小川をさかのぼる形で進み、長くは無いが一回2,30分程度の休憩を何度かいれる事が出来ていた。
休憩中に人化したシルキーには、直接魔力を渡していたが、その度にトロンとした表情で、「ふふふ、これはすごいなセイさん。」と、しなだれかかって来るのは頂けない。
まぁ世話になってる以上邪険にもできないんだが、その都度アフィナがむくれるので面倒くさいんだ。
それにリゲル。
歳若く人化こそできないが、さすがは伝説の生き物だ。
かなり足が速いと思われるシルキーにも遅れず付いてきているし、言葉がしゃべれずとも普通に意思疎通ができるくらいの知能も兼ね備えているようだった。
しかし、正真正銘伝承通りの『一角馬』である彼は、当然自身が処女認定したアフィナしか乗せない。
それはまぁいい。
シルキーは問題なくおれを乗せてくれているし、サーデインやエデュッサ、盟友たちも金箱の中にいるから同時に運べている。
だが、「処女以外をその背に乗せないこと」それ以外にも問題があった。
彼はその身の世話もアフィナ以外にさせないんだ。
シルキーと違い、人化できない彼の身の回りの世話にはそれなりに手間がかかる。
特に問題なのは魔力譲渡だった。
なんと乗せるだけでなく、処女以外からの魔力譲渡もだめだと言い出す(正確には言ってるのではなく態度で示してきた)彼に、おれもこめかみがピクピクしかけた。
しかしシルキー曰く、最早コレは『一角馬』の本能的な物らしく、彼自身おれに対し、一切悪感情を持つ訳ではないと言うので我慢する。
さすがに面倒とはいえ、物言わぬ動物に虐待行為などできない。
基本動物は大好きだしな・・・。
魔物だけど。
結局、おれからアフィナに魔力を流し、それを更にリゲルに譲渡するという、訳のわからない二度手間をすることになった。
魔力譲渡で手を繋ぐ度にドヤ顔になるアフィナと、少し不機嫌になりポニーテールがブンブン揺れるシルキーの謎の圧力で、実際の魔力譲渡分よりはるかに疲れたとだけ言っておく。
それも『虹の橋立』に差し掛かってからはできなくなる。
さすがに空中で休憩という訳にも行かないし、約一日間はぶっとおしで移動し続けることになってしまった。
まぁ、走ったのは『一角馬』の二頭なんだが、馬の背でずっと座ってるのもしんどいっちゃしんどいかな。
しかし『一角馬』はすごいな。
話には聞いていたが、本当に『虹の橋立』を繋ぐであろう、しっかりとした造りの石柱をあえてはずれた崖から空中に降り立ち、まるでそこに足場があるように歩いた。
さすがに走ることは無かったが。
雷を纏った飛行種を打ち落とすはずの雲海を、しっかりと踏みしめ進んでいく姿はどこか気品すら感じられた。
ファンタジーが過ぎるが、ロカさんが水の上を歩いたような物だと解釈しておく。
当然野生の魔物であるわけだし、ちゃんとした鞍や鐙も無いのにむしろ良く乗れたもんだ。
おれはチート様の力でさして疲れていないが、アフィナはぐったりだ。
ここに至り、サーデインが「主殿、ここまで来れば多少休んでも大丈夫でしょう。」と、進言してきたので森の中、少し開けた広場になっている場所でキャンプを張った。
もう少し行けば平原らしいが、身を隠すところが何処にも無い場所は正直遠慮したい。
開けた所で大群に囲まれるのは結構しんどいからな。
おれたちの人数なら、逆に隠れられる場所の方が咄嗟に退避行動に出ることも容易いだろう。
金箱から出てきたサーデインとエデュッサに、念のため魔力を譲渡しておく。
いよいよおれの存在が『魔力炉』と化している。
どうしてこうなった?
それはともかく。
幸いまだ日暮れ前。
だが、この世界に転移してからの経験上、あっという間に暗くなるだろう。
準備は急がないといけないな。
野営の資材にはまだまだ余裕があるが、テンプレの宿場町とかは無いものか。
この世界にはどうも町や村が少ないし、人工の灯りは皆無とも言える。
一応『精霊王国フローリア』の『マルディーノス神殿』なんかには、ちゃんとした魔力式ランプみたいなものもあったけれど、暖房とかは暖炉とか使ってたしな。
文明レベル的にはやっぱり『地球』の中世くらいなんだろう。
■
今日はここで一泊することにする。
これから夜を越すに辺り、暖房と灯りの為にも焚き火でも起こしたいが・・・。
「サーデイン、焚き火は大丈夫と思うか?」
念のためだろう。
おれが『図書館』から出した小型のテントの周囲に、障壁を展開していた彼に問いかける。
サーデインは少しだけ逡巡した後に、「まぁ、大丈夫でしょう。」と言った。
彼が言いよどんだ理由には想像がつく。
この『天空の聖域シャングリラ』に侵入してから、おれたちはサーデインが最初示した忠言通り、ことさら注意して進んできたつもりだった。
基本的に野営地では火も起こさず、魔道具の調理器などで過ごしている。
しかし前回の襲撃で全て無駄になった。
『冥王騎士』アルデバランという、悪魔族の中でも特に強力な盟友を呼び出し、大暴れ(大変不本意だが)させてしまった訳で。
シルキーも「とんでもない魔力を感じた。」と言っていたように、ちょっと力のある者なら容易に感知できてしまう規模の魔力だったらしい。
この国のトップに居るであろう、高ランクの天使族がそんな者を見過ごすはずもなく、サーデイン曰く現在おれたちは泳がされている状況だろうとのこと。
つまり焚き火を起こすくらい、今更だと言うことなんだろう。
そこまで考えて、おれは他の面々に指示を出す。
「エデュッサ、焚き火に使えそうな乾木でも集めてきてくれ。アフィナ、火を頼む。」
「了解です!」と返事してエデュッサは森の中へ消えていく。
アフィナは「はーい。」と言いながら、おれが『図書館』から出して『カード化』を解いた、導火用の小枝に小さな火を点す。
移動中は保存食の干し肉とかしか口にしていないし、ちゃんとした物を食べたくなってきたな。
何か作るか・・・。
そんなことを思いながら、『図書館』に収納してあるカードを確認していると、いつのまにか人化したシルキーが、興味深そうにおれの手元を覗き込んでいた。
「セイさん、私は何をしたら良い?」
「んー、そうだな・・・。」
魔物とは言え一族の王女でもあるし、道中ずっと足代わりになってくれたシルキーに特に仕事を割り振るつもりも無かったんだが・・・。
料理ならおれとサーデインがするし、寝床の準備等はアフィナとエデュッサに任せて良いだろう。
(あ、待てよ。)
アフィナはリゲルの世話があるか。
「じゃあ寝床の準備でも頼む。」
と言っても、おれが『カード化』してある毛布や防寒具の類を、テントの中へ適当に配置するだけなんだが。
『カード化』を解いた寝具の類を渡してやると、「わかった。」と言い実に嬉しそうに抱えてテントへ向かっていくシルキー。
手持ちぶさただったのかね?
おっと忘れるところだった。
これは聞いておかないと。
「『一角馬』は草食だよな?肉の類は食べないんだろ?」
振り返ったシルキーは「肉を食べられないと言うことはないが、好みはしないな。でも我侭は言わないよ。」とのこと。
ふーむ、なるほどね。
とりあえず作り置きのビーフシチュー風と白パンをおれたちのメインにして・・・。
肉を好まないならなんか別のもの用意してやろう。
ビーフシチューもどきの入った鍋を、いつのまにか三角巾とエプロンを装着して、食堂のおばちゃんモードになったサーデインに一任する。
だからなんなのそれ・・・。
つっこまないけども!
『図書館』からジャガイモ的野菜を具現化し、ささっと蒸し揚げてしまう。
薄皮を布でこそぐようにして剥き、ボウルに入れてざっくりとすり潰す。
そこへ片栗粉を少量投入。
正確には片栗粉なんだが、その辺はお察しください。
要はそれっぽいなにかだ。
そこからなめらかになるまで混ぜ合わし、触っても火傷しないくらいになったら手でこねてやる。
円柱状に成形し、2センチ程度の厚さで輪切りにする。
フライパンに油を熱し、両面をこんがりと焼いて皿に取っておく。
一度油をふき取って、醤油、酒、砂糖、水を合わせた物を煮詰めてタレを作る。
タレの味見をして・・・うん、上等。
甘辛のタレをたっぷりかけて、所謂「いももち」ってやつだ。
チキンストックとキャベツで作った即席スープに、タレをかけていないいももちを入れてやれば腹持ちも良いだろう。
■
「いただきます。」
おれが手を合わせて宣言すると、皆口々に「いただきます。」を言ってスプーンを持った。
はいはい、わかってますよ。
みなまで言うな。
いつも通り、一口目でシルキーが固まる。
他のメンバーも至極当然とばかりに、ウンウン頷いている。
「セイさん・・・これは・・・。」
「ああ、芋で作った。おれの世界ではお袋が良く作ってた家庭料理だな。」
驚愕の表情を浮かべ、「これが家庭料理・・・なんという美味・・・。」なんて呟きながら、終いにはハラハラと涙まで流すシルキー。
料理チートどんだけー。
リゲルも冷ました芋もちを無心でがっついているし、十分うまかったんだろう。
当然彼の物にはタレはかけていない。
なんかあんまり良くなさそうだろ?
他の三人も非常に羨ましそうな顔をしているので、一つずつ皿に載せてやる。
はい、揃って撃沈。
この世界に済む住人の胃袋がチョロすぎて怖い。
「セイさん、意地汚いと思わないでくれ。そのスープも一口頂けないか?」
まぁ、すげー良い匂いしてるしな。
面倒くさかったのでシルキーに「あーん。」と言って、自分の皿からビーフシチューもどきをスプーンに一口飲ませてやる。
「これも・・・すごくおいしい・・・。」
幸せそうな美少女の笑顔は普通に癒されるな。
実態は馬ですがねー。
しかし問題はおれの皿から「アーン。」したことだったらしい。
その後、「自分にもしろ。」と迫るアフィナとエデュッサをいなすのに、かなりの時間を要した。
食後。
「見張りはどうすっかなー・・・。」
組み合わせが非常に悩ましい。
ぶっちゃけ道中がんばってくれたシルキーには、ずっと休んでもらって構わないんだが。
それはどうも絶対にいやらしく、「私も仲間だ。」とのこと。
リゲルはすでに就寝済みなのに、さすがは王女と言った所か?
アフィナとエデュッサは揉めるから一緒にしたくないし、かといっておれが変態と寝るっていうのもな・・・。
身の危険しか感じない。
アフィナは寝たら次の日まで起きないし。
戦力的な事も考えて結論を出す。
「最初はおれとアフィナ、シルキーで、サーデインとエデュッサは交代な。」
「了解。」と答えたサーデインが、「またですかぁ!ご主人様、伽をぉ!」と叫ぶエデュッサを引きずってテントへ向かった。
そしてテントを開け、苦笑いしながら振り向く。
(何だ?)
「主殿、狭いとは言え枕がとても近いですよ。」
・・・?
おれが寝床を用意したシルキーにジト目を向けると、彼女はさっと目線を逸らした。
何が目的だ・・・。
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