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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
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・第五十五話 『暴食(グリトニー)』

いつも読んで頂きありがとうございます。

ブクマ嬉しいです。


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、やっと先に進めそうだぞ。

 兄貴は異世界でスーパーカーを手に入れた。

 ボディは高貴さを醸し出す純白で、縦に走る金色のラインが美しい。

 当然ツーシーターでF1カーみたいに前後に乗る形だ。

 その足回りは力強く、草原みたいな道無き場所、オフロードでもへっちゃら。

 トップスピードに乗れば150キロくらい軽く出るらしいぜ?

 オープンカーだから全力出すといい感じでヤバイがな。

 まぁ・・・スーパーカーって言うかスーパー馬なんだが。

 しかも角付きの・・・。

 人型だったら角付きは仕官クラスが乗るんだっけか?

 昔秋広が、「角があれば、単騎での大気圏突入も可能!」とか、騒いでいたのを思い出した。

 あっ・・・人型にもなるんだったな。

 人型になったら角無くなるけど・・・。



 ■



 カーシュとシルキー二人で産み出した、雷を纏う竜巻が障壁を完全に覆いつくすのを確認し、サーデインは赤ゼリーを閉じ込めていた障壁を解除する。

 それに合わせる様にして赤ゼリーは、『大王陸亀キングトータス』の甲殻に開いた、首や四肢を出すための穴という穴から赤い粘液を放出した。

 ・・・oh・・・。

 子供が見たら夢に出るわ。

 最早、生物として見たくない。

 

 当然竜巻に阻まれる訳だが、構わずに押し通ろうと言う雰囲気だ。

 もちろんそれを黙って見守る義理も無い。

 アルデバランがおれの渡した魔法カード、『火柱ピラーフレイム』を発動した。

 ちょうど竜巻の内側になるように、ちゃんと位置指定できたようだ。

 アルデバランの生命の色と同じ、仄暗く青い火柱が天へ向けて約10mほど噴き上がった。

 本来近接前衛職であるアルデバランも、英雄級の悪魔族。

 今回のように時間をかけて詠唱していれば、十分な威力の魔法も使用できる。

 まぁそれでも、本職の魔法使い系盟友ユニットには見劣りしてしまうが、彼の場合近接戦闘能力がばかげている分仕方ない所もあるだろう。


 アルデバランが放った青い炎が赤ゼリーに襲い掛かる。

 うまい具合に竜巻も混ざり合い、目に見えて火力が強くなった。

 まるでタイヤでも焼いているかのような臭いを撒き散らしながら、赤ゼリーの体積が少しずつ小さくなっていく。

 赤い部分がどんどん真っ黒に炭化していくが、その下からまた新たな赤い肉が生まれ、そして炭化する。

 しばらくそんな事を繰り返し、五分ほど燃え続けていた火柱が、徐々に沈静化していった。

 

 残ったのは『大王陸亀キングトータス』の甲殻。

 しばし眺めていると、その甲殻から人の頭大ほどの赤いゼリーが、三つ飛び出した。

 思考能力があるかどうかはわからないが、おそらく甲殻の中に隠れて火が収まるのを待っていたのだろう。

 まぁ想定内。

 おれは三体の赤ゼリーの真上になるよう、カードを投擲する。

 空中で『カード化』を解除。

 具現化する『油壺』。

 そこに待ち構えていたエデュッサがナイフを投擲。

 『油壷』が割れ、中身が赤ゼリーへたっぷりと降り注ぐ。

 いい感じに油をコーティングされた赤ゼリーに、アフィナの小さな火球が着弾し、面白いように燃え上がった。


 

 ■



 「倒せた・・・?」


 「たぶんな。」


 人化したシルキーの呟きに短く答える。

 アフィナが言ってたら「おいまて、それはフラグだ。」と言いたくなるところだが。

 残された『大王陸亀キングトータス』の甲殻が、徐々に光の粒子に変わっていっているし、まぁ間違いないと思う。

 魔物たちにとっては、近年まれに見る緊張状態だったんだろう。

 すっかり地面にへたり込み、まともに動けるものはほとんどいなさそうだ。

 傷こそあれど重傷の個体も居なさそうだし、野生の生き物なんだから回復能力もそれなりなんじゃないかな?

 とりあえず手近に居る、『角兎ホーンラビット』の子供を抱え上げモフっておこう・・・。

 さすがに疲れた。


 『大王陸亀キングトータス』のカードを回収して、サーデインとアルデバランがおれの前へとやってくる。


 「二人ともご苦労さん。助かった。」


 「勿体無きお言葉。我がきみ、我はそろそろ・・・。」


 「そうですね・・・状況的にやむおえずとは言え、このエリアで悪魔族のアルデバランさんを呼ばざるおえない状況になったのは痛恨です。」


 おれが労うと、アルデバランは地に片膝をついてかしずき、暇を告げる。

 アルデバランは、差し出した金箱に静かに帰って行った。

 サーデインは自身の懸念を語った後、恭しく一礼して回収したカードを手渡してくる。

 渡されたカードを確認して少々落胆。


 (んー、やっぱり『大王陸亀キングトータス』のカードだな。)


 あわよくば『暴食グリトニー』のカードを回収できるかと思ったが、そう簡単じゃなかったようだ。

 おれは『大王陸亀キングトータス』のカードを『図書館ライブラリ』へと収納し、代わりに『吹雪竜帝ブリザードドラゴンロード』のカードを出して竜兵へと『念話テレパシー』を送ってみる。


 【竜兵、聞こえるか?】


 【アニキー!無事ー!?】


 即座に返事が返ってくる。

 ドラゴンカードを握り締めて待っていた、竜兵の姿が目に浮かぶようだ。


 【ああ、大丈夫だ。それでこの『ドラゴンネットワーク』とやらは、指導者級以上のドラゴンカードを持ってさえいれば、誰でも使えるのか?】


 もしそうなら、状況はかなり好転する。

 おれたちは情報戦において、大きなアドバンテージを得られるだろう。

 しばしの沈黙の後。


 【・・・うん、じっちゃんが頷いてる。】


 【そうか、じゃあクリフォードと話せるか?】


 おれがクリフォードを呼んで欲しい旨を伝えると、【クリフのおっちゃん?おっけー、任せてアニキ!】と明るい返答。

 一応一国の王を「おっちゃん」・・・。

 さすが竜兵だ。

 いや、おれも呼び捨てでした。



 ■



 【・・・セイ、聞こえるか?】


 【ああ、クリフォード。忙しい所済まんな。】


 少しして、クリフォードから『念話テレパシー』が飛んでくる。

 よし、通信チートゲットだ。

 おれはシルキーを手招きする。

 

 「このカードに触れてみろ。」


 おれが差し出した『吹雪竜帝ブリザードドラゴンロード』のカードに、おそるおそるその手を添えるシルキー。

 

 【クリフォード、紹介する。『イリーン階段丘』に住む魔物たちのまとめ役、『一角馬ユニコーン』族の王女シルキーだ。】


 向こうから、【ほう!『一角馬ユニコーン』の王女か!】っと感嘆の意識が伝わってくる。


 「セイさん、これは!?」


 目を見開いて驚愕するシルキーに、「まぁ遠隔の『念話テレパシーだ。」と簡単に説明し、三人での話し合いを始めた。


 【つまりだ。この魔物たちに敵意は無い。『精霊王国フローリア』で保護してやってくれないか?】


 【ん、いいぞ?まぁ、『迷子森』か『オリビアの森』に滞在してもらう事になるが。】


 おれの要請をあっさり承諾するクリフォード。

 シルキーはひどく驚いているがおれには確信があった。


 【『神官王』よ。申し出はとても嬉しいが、何故・・・?】


 シルキーの問いかけに、クリフォードが向こうで逡巡する気配。

 うまい言い方を探してるのか?


 【まぁいきなりで困惑するのもわかるが、大きな理由が二つある。一つは『略奪者プランダー』に対する我々の認識、他国はどうかわからないが少なくとも私たちの国、それにセイや竜兵にとっては協力して淘汰すべき敵であること。もう一つは私の国、いや私にとってもセイに対して返しきれない恩があること。今も彼の配慮によって、私の国は竜兵に守られている。そのセイの頼みを無碍にはできんよ。それと・・・交換条件と言う訳でも無いんだが、『一角馬ユニコーン』の王女よ。できればセイに助力してやってくれないか?】


 んー、クリフォードはそんな風に考えてたのか。

 結構自分勝手に動いてた気がするんだが。

 逆にシルキーに応援要請までしてくれるとか・・・。

 相変わらず器のでかい男だ。

 よし、ウララの件が片付いたら帝国をOshiokiしにいこう。


 【なるほど・・・。】


 クリフォードの説明を聞いたシルキーが、何だか熱っぽい視線でおれを見つめてくる。

 何すか?


 

 ■



 「じゃあこのカードは竜兵って奴に渡してくれ。」


 【英雄よ、心得た。】

 

 カーシュの首に、布で包んだドラゴン族のカードを括り付ける。

 あらやだ可愛い。

 これ唐草模様だったら完璧だったな。


 【英雄よ、我らの大恩決して忘れぬ。そなたの窮地には、この『獅子王』カーシュ、身命を賭して駆けつけよう。】


 仰々しく口上を述べるカーシュの肩をポンポンと叩き、「気にするな。また会おう。」と言って送り出す。

 カーシュはその純白の翼を大きくはためかせ、空へと飛び出していく。


 あの後、話が纏まり、魔物たちは『獅子王』カーシュを筆頭にして、『精霊王国フローリア』に避難することが決まった。

 クリフォードの後見だ、何も心配しなくていいだろう。


 そして『一角馬ユニコーン』が二頭、おれたちの旅に付いてきてくれる。

 一頭は青みがかった体毛の若い雄馬、名前はリゲル。

 こいつはアフィナ用だな・・・。

 雄の『一角馬ユニコーン』は、処女しか乗せないって実話らしいし。

 そしてもう一頭・・・と言うか一人。

 なぜかシルキー自ら来てくれると言う。


 「しかし本当に良いのか?シルキーはあの魔物たちのまとめ役なんだろう?」


 遠ざかっていく魔物たちを見つめながら聞いてみた。


 「ふふ、セイさん気にしないでくれ。私の親たちもあちらに合流することになっているしね。親たちも人化できるし、カーシュも居るのだから心配無用さ。」


 そうなのか。

 ならまぁ・・・なんとかなるのか?

 こちらとしては、戦力としてもアテにできるシルキーが来てくれる事に異論は無いが。


 「そう言えば・・・雄は処女しか乗せないって聞いたが、シルキーはアフィナを乗せてたよな?雌の『一角馬ユニコーン』にはあんまり拘り無いのか?」


 おれの素朴な疑問に対し、カッと目を見開くシルキー。

 なにか失言したか?

 美少女然としているだけに普通に怖い。


 「それは誤解だ!あの時は緊急事態だったからだよ!私だってセイさんを乗せたい!いや、これから私はセイさんしか乗せない!」


 えー、なにソレ怖い。


 「聞き捨てなりませんね!ご主人様を乗せるのはあたいです!」


 変態まで絡んできて、なんかおかしな空気になってきた。

 サーデインは心底楽しそうに笑ってるし。

 なんなの・・・。

 それにエデュッサの言ってるのは、明らかにシルキーのソレとは違うだろ?


 「ボ、ボクだって!」


 残念は参加しなくてよろしい。

 アフィナの脇を抱え上げ、リゲルの背に乗せる。

 サーデインがささっと金箱に飛び込み、エデュッサを無理矢理突っ込む。


 「じゃあシルキー、これから頼む。」


 おれがそう言うと、シルキーはおれに右手を差し出して告げた。


 「セイさん、改めてよろしく。私は『一角皇女』シルキー。」


 そうか、称号持ちだったんだな。

 おれは真っ赤な顔をした彼女の手を握りながら一人ごちた。

 そして気付く。

 彼女の金髪はポニーテールなんだが・・・。

 風も無いのに、まるで犬の尻尾のようにブンブンと揺れている。

 ちょっとつっこむの怖いので、放置でオナシャス。


 

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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