・第五十四話 『無制限(アンリミテッド)』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今回おれは竜兵に教えられた。
兄貴はこの世界に来てからずっと、「この世界はカードゲームじゃない。」と思ってきた。
いやむしろ自身にそう、言い聞かせてきたと言ってもいいだろう。
確かにこの世界に存在する住人は、倒れるとカードに変わってしまう。
だがそれぞれに喜怒哀楽もあるし、傷つけば血も流す現実の存在なんだ。
いつからそれが、彼らだけの事だと思っていたんだろう。
その事実は、おれや幼馴染たちにも当然降りかかってくる。
もちろん世界の異物と呼称された『略奪者』だって、そうなんじゃないのか?
いつから・・・いつからカードの力が、スタンダードな物だと誤解していた・・・。
■
突然だが・・・『地球』のカードゲーム、『リ・アルカナ』には三つの『規定』というものがあった。
全世界で20万人を熱中させたカードゲーム。
そのゲームが世界的に有名になったのは約五年前。
おれが中学一年生だった時だ。
当然先行して情報を仕入れていた秋広に誘われるまま、幼馴染たちと美祈、五人でそのゲームを始めることになった。
1500円に消費税、それで『スターター魔道書』が手に入る。
スターターというだけあって中身は同一、メインの50枚以外に控え(サイド)も、10枚しか入っていない。
それでも初心者が遊ぶ分には十分な内容だ。
しかしこのゲーム、カードの種類は千差万別。
確かおれが覚えているだけでも500種は下らない。
ちょっとこなれてくると、他のカードを使ってみたくなるのが人の性という物だろう。
そこに登場するのが『拡張パック』。
ランダムに封入された10枚の束を、400円に消費税と言う値段で購入し、自分の『魔道書』をカスタマイズしていく訳だ。
当時の部数は第三版。
一年に一度発表される『拡張』によって、おれたちが最後に遊んでいた世代は第八版だった。
当然新しいカードが出ると、そこに新規参入するプレイヤーが増える訳で。
すると旧来のプレイヤーたちと軋轢が産まれてしまう。
なぜか?
旧来のプレイヤーが持つカードの内容を新規は知らない場合が多々あるし、絶版になった強力なカードを手に入れることも困難だからだ。
中にはそれ一枚で勝敗を決するものであったり、コストと効果のバランスが明らかにおかしいものもある。
一応人気の高いものや、基本になるようなそれは再版されることもあるが、ここではあえてそのことについて言及はしなくていいだろう。
古参と新規の無駄な軋轢を避けるため、運営が打ち出したのが公式のルールである、三つの『規定』だった。
現行である第6~8版でプレイする、『通常』。
一世代前の第4,5版も使用可能な、『準通常』。
そして初版から最新の第8版まで、何でも使用可能である『無制限』。
運営の推奨もあり、世界的によっぽどの偏屈でもない限りは『通常』でプレイされる場合が多い。
せいぜいの所やるとしても、中級や上級プレイヤーが身内だけで、『準通常』で遊ぶくらいだ。
『無制限』になると余りにもカード種が膨大になるし、カード自体のバランスがかなり壊れている。
特に初版~第3版までは、ほとんどメタとも言えるカードが多数存在していた。
更にVRの参入によって、カード効果はもちろん、そのエフェクト的に余りにも好ましくないものは、除外されるようになった。
つまり、現在おれたちが見ている赤ゼリーなんかは、本来弾かれてしかるべき存在だったと言えるだろう。
つまりこれは・・・。
■
【アニキ、おいらその効果に、ちょっとだけ心当たりがあるよ。】
竜兵の声で思考の海から舞い戻る。
【そうだな。】
そう考えればおれにも思いつく。
いやむしろ、しっくり来るとさえ感じた。
なぜその可能性に今まで気付かなかったのか。
竜兵やウララが、カードゲームの世界と混同していないか心配だ。などと言っていた、おれ自身がカードゲームの延長くらいに考えていたのかもしれない。
この世界の住人が実際生きているように、『略奪者』たちも独自の思考や目的があるんだろう。
カードの力を使えるおれたちが、PUPAのシステムに合わせた『通常』仕様の『魔道書』を使っているからと言って、相手もそれと同じだと考えるなんて、愚の骨頂だった。
この世界が現実なら、当然そこは『無制限』。
そう、つまり「何でも有り」ってことだ。
【アンティルールもそうだし、鳥面が使ってたと思う魔法、『痛みの楔』や『死の閂』も第4版のカードだよね?ってことはさ、アニキが今対峙してるのって・・・。】
【・・・『暴食』だろうな。】
おれが心当たりのカード名を告げると、竜兵が『念話』で【うん、間違いないと思う。】と呟いた。
魔法カード『暴食』。
ほぼ禁止カードに指定されていた。と言っても過言じゃない。
七つの大罪を冠したそのカード。
第二版で発表された、七つの大罪をモチーフにしていると思われる、余りにも悪意に満ちた魔法カードだ。
将軍級以上の盟友一体を素体にして発動し、放置すればそのバトルフィールドを、赤い肉塊が埋め尽くす。
そうと判ればだ。
(やっぱり放ってはおけんな。)
通常攻撃はほぼ無意味だ・・・と言うか、下手に手を出すと生きたまま吸収される。
むしろあんなものに直接触りたくは無い。
だがカード自体が判れば対策もわかる。
【これから『暴食』を処理する。一回切るぞ、竜兵。】
【わかったよ!アニキ気をつけて。】
集中するために、携帯代わりになっていた『吹雪竜帝』のカードを『図書館』に収納し、竜兵との『念話』を打ち切った。
たしか弱点は火だったはずだが、吸収している固体の数に応じて耐久力が跳ね上がる仕様。
結構食いまくってたように思うが、火力は足りるだろうか?
「魔道書。」
覚悟を決めて『魔道書』を展開した。
おれの前に一枚カードが浮かび上がる。
ドロータイミングは一回だけだったか。
動き始めたおれを見て、サーデインが声をかけてくる。
「主殿、対策が?」
「ああ、あれは『暴食』という魔法だろう。弱点は火だ。」
固唾を呑んで見守っているシルキーとカーシュは、「そんな魔法は知らない。」と目が雄弁に語っていた。
「王よ。彼奴が火に弱いと言うのなら、我が魔力を暴走させて焼け・・・。」
「却下だ。おれは自分の盟友を犠牲にして勝つつもりは無い。」
魔力を暴走させて突っ込むつもりなんですね?わかります。
だが断る!
カミカゼー発言しかけたアルデバランの言葉を遮る。
幸い火魔法のカードを引いてはいるが・・・。
正直火魔法に関しては、プレズントが居ればな・・・。と思わざる得ない。
あいつに火魔法使わせると、ただの『火炎』程度が『業火』クラス、所謂二段階程昇格するからな。
最強の炎術師の呼び名は伊達じゃないってことだ。
まぁ居ない者は仕方ない。
居るメンバーで最善を尽くせってことだろ?
「セイ・・・ボクにも何かできることは・・・?」
そうだな。
アフィナも火魔法はちょろっと使えるし、この際全員で潰した方がいいだろう。
良く言うだろ?
所謂、「みんなの力を合わせるんだ!」って奴だ。
「アルデバランはこの魔法を使え。」
おれは引いてきた『火柱』のカードを選択して、アルデバランに渡す。
「シルキーとカーシュで風と雷の・・・そうだな、竜巻みたいなものはできるか?」
おれの問いに、【可能だ。】「問題ないよ。」と答える二人。
いや、シルキーはおれの言葉で『一角馬』モードに戻ったし、二頭って言った方が良いのか?
まぁそれはどうでもいいか。
「エデュッサはおれが投げるカードにナイフを投擲、アフィナも火球で同様だ。サーデインは竜巻を確認したら障壁を開けてくれ。」
それぞれが自分の役割を理解した所で、おれも『図書館』からカードを数枚取り出した。
これはカードゲームのカードじゃない。
旅の為に『精霊王国フローリア』の市場で購入し、『カード化』してあった『油壺』のカードだ。
おれはこれを赤ゼリーの頭上に投擲し、エデュッサとアフィナに着火してもらうつもりだ。
この世界、『略奪者』も『無制限』だと言うのなら、おれも使えるものは使わせてもらおう。
方針は決まった。
準備完了している面々の顔を確認し、おれはカーシュとシルキーに向けて頷いた。
まずは雷の竜巻だ。
カーシュが産み出した竜巻にシルキーが雷を付与し、赤ゼリーを囲む障壁を抱くように膨れ上がった。
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