・第五十三話 『魔力炉(マナタンク)』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈ともホットラインが繋がらないだろうか?
兄貴は今切実に願っている。
思えば『地球』に居た頃は、本当に恵まれていたんだな。
何にって?
まぁ色々あるんだが・・・。
その一つにはやっぱり通信手段があるだろう。
インターネットやTVでの情報検索然り。
今時小学生でも携帯電話を持つ時代だ。
この世界では情報の伝達において、非常に手間がかかる。
一応ワープや空中飛行なんかで、時間や距離の短縮はできるみたいだが、それはあくまで人づてって事だからな。
秋広の置いていったミリタリー系の漫画なんかでもよく言われている、「情報は最大の武器」って言葉が、現実として実感できるくらいには思い知らされている。
そして何より・・・美祈の声が聞きたい。
■
おれは周りを見回す。
十分に限界と言える状況だ。
戦える者で無傷なのは、おれとアフィナ、それにおれの召喚した盟友たち。
魔物の中ではシルキーと『一角馬』が二、三頭だろうか?
「サーデイン、アルデバラン魔力はどうだ?」
「私は問題ありません。」
「我が君よ。済まない。少々消耗している。」
残存魔力の有無を聞き、アルデバランに魔力を譲渡する。
「アフィナとシルキーはどうだ?」
きょとんとした二人の肩を掴み魔力を流す。
どうやら結構消耗しているようだ。
まぁ無理も無いだろう。
「セイ、ありがと。」
「・・・セイさんはこんな事もできるのか・・・。」
二人揃って、おれに掴まれた肩に手を当て顔を赤くする。
意味がわからない。
ちなみにカーシュには空を飛んでいる間に、十分な量を譲渡していた。
しかしこの魔力ってのも、自然に使ってはいるがよくわからんな。
まぁ使えるものは使わせてもらう。
それにしても・・・おれの存在が『魔力炉』染みてきた。(遠い目
だが、この戦力なら非戦闘民?獣?を守りながらでもなんとかなりそうだな。
もちろん最早逃げるつもりはない。
こうなってしまったらもう、殲滅してしまった方が良いと思う。
幸い、さっきアルデバランがこじ開けた道を埋め尽くせるほどの、残存戦力は無いようだしな。
問題はあの『大王陸亀』もどきの赤いゼリーだろう。
「アルデバランはエデュッサとスイッチ。サーデインはアルデバランの補助をしながら、赤いゼリーを障壁で閉じ込めるようにしてみてくれ。アフィナとシルキーで防御結界できるな?エデュッサとカーシュはおれと来い!」
おれの指示に「「「了解。」」」と答え、あっというまに陣形を整える盟友たち。
アフィナやシルキーは一瞬戸惑っていたが、指示通り他の『一角馬』や『水晶鹿』なんかと防御結界を展開しようとしている。
逡巡してもしかたないだろう。
おれと盟友には絆的なものがあって、思考が伝わりやすい。
おれの横へ並んだエデュッサに、無言で魔力を譲渡する。
何も言わなかったが、相当に消耗しているはずだ。
「ご主人様、ありがとうございます。」
敵と対峙しているというのに、丁寧なお辞儀をしてくるエデュッサに、「よくがんばったな。」とねぎらいの言葉をかけ、二秒で後悔する。
(なんでお前は脱ごうとするんだ・・・。)
「ご褒美は体でおね・・・」
変態発言を拳骨で強制的に打ち切った。
おれの基本の集中姿勢。
肩幅に開いた両足、腰だめに拳を構える。
大きく一つ深呼吸。
所謂、丹田の構えって奴だ。
へその辺りに生命力というか、なんか熱い力が溜まって行くのを感じる。
まぁ気のせいかもしれないが・・・。
「ばかやってないで行くぞ。カーシュも行けるな?」
【英雄よ。任せろ。】
おれたちの仕事は、有象無象の魔物たちを蹴散らすことだ。
カーシュが全身に風の刃を纏い始める。
そして彼の代名詞、『疾風怒濤』が発動する・・・!
■
ドゥッ!そんな音を響かせながら、おれの拳が打ち抜いた『赤熊』最後の固体が、倒れ伏し光の粒子に変わっていく。
激戦はかなり続いた。
おれたちは、約二時間は戦い続けていたんじゃないだろうか?
ドラゴン来襲に端を発したこの戦闘は、昼過ぎから最早すでに夕暮れ、という時間までかかっていた。
最初にかけた運動強化魔法、『幻歩』の効果もとっくに切れている。
カーシュとエデュッサも、全身細かな傷だらけ、肩で息をしているが一応は無事だ。
おれは後半、完全に素で戦っていたが無傷だ。
むしろ素で戦えている姿に自分でも引いた。
おれはいつ人間やめたんだろう・・・?
それはともかく。
非戦闘獣たちと共に、防御結界の中で青い顔をしているアフィナとシルキーは、おそらく魔力切れが近いんだろう。
そしてアルデバランとサーデインは、おれの指示通り赤いゼリーを障壁に閉じ込めることに成功したようだ。
「なんとか・・・なったな。」
おれが呟くと同時に、アルデバランとサーデイン以外は最早限界とばかり、地面に崩れ落ちた。
「主殿・・・。これはあくまで応急処置です。」
おれが赤ゼリーの閉じ込められた障壁に寄っていくと、サーデインが報告してくる。
まぁ・・・そうだろうな。
予想はしていた。
(だがこれどうしたもんか?)
サーデインが作った箱型の障壁に阻まれながらも、その障壁を諦めずゴンゴンとたたき続ける赤ゼリーを見つめ、半ば以上途方に暮れる。
どう考えても放置して良い物には思えないが。
(とりあえず倒した魔物たちのカードを回収しよう。)
少々現実逃避しつつ『図書館』を開いた時だった。
それまで油断無く、赤ゼリーを睨みつけていたアルデバランが振り向く。
「我が君、これを。」
そう言って鎧の肩甲部分を開くと、そこから一枚のカードがおれに向かって飛んでくる。
器用な真似するなぁ。
受け止めたカードを確認して、頭に?が浮かぶ。
「『吹雪竜帝』・・・?なんだこりゃ。」
「先ほど王に処理を任されたドラゴンだ。」
え?
おれがアルデバランに任せたのは・・・『氷竜』ですよ?
『吹雪竜帝』ってほぼ英雄と同格の指導者級なんだが・・・。
ましてドラゴン族は、等級よりも実物の方が強い場合が多々ある。
まずデカいしな?
「アルデバラン・・・コレ、倒して、きたの?」
思わずカタコトになりかけるおれ。
「ああ、我が彼奴に止めを刺そうとしたした所、面妖な鳥面が現れてカードを使った。」
「・・・そしたら『氷竜』が、これになったと?」
アルデバランの言葉を引き継ぐと、彼は大きく首肯する。
色々マジか・・・。
鳥面そっちにも行ったんかい。
どうりで将軍級の『氷竜』相手に時間かかったと思ったが・・・。
そういうことは早く言おうよ。
「それでその鳥面は?」
「我が睨むと、あっという間に何処かへ。」
んー、逃げの一手か。
一貫してるな。
そしておれが『吹雪竜帝』のカードを、仔細に観察していると突然頭に声が響いてきた。
■
【・・・ニキ・・・アニキー!】
うお!
なんだこれ。
【アニキ、聞こえるー!?】
おれのことを「アニキ」って呼ぶ奴は一人しかいない。
【・・・竜兵か?】
【おおおおおおお!!!繋がった!!!じっちゃん、繋がったよ!!!】
頭の中で竜兵の声がワンワンと反響する。
うん、これかなりうるさい。
【お竜ちゃんや、落ち着きなされ。】
こっちはバイアか。
一体何事だ?
【バイア、居るなら説明してくれ。竜兵は少し黙っとけ。】
【アニキー!そんなぁー!】
それから騒ぐ竜兵を宥めつつ、バイアが説明してくれる。
どうやらバイアの『特技』の一つ『竜脈』で、指導者級以上のドラゴン族とリンクできること。
更に竜兵が『涙の塔』を守護する『闇の乙女』サリカに会いに行き、『魂の首飾り』の破片をゲットしたらしいこと。
その破片から『竜の首飾り』なるものを作り出し、リンクしたドラゴンを通じて『念話』を行使できるようになったこと。
『乙女ネットワーク』改め、『ドラゴンネットワーク』らしい。
神々や自然が産み出す『謎の道具』自作とか・・・どんだけー。
【アニキ、おいらアクセ作りとか好きだったじゃん?】
たしかに竜兵は『地球』に居るとき、シルバーアクセとか作っていたな。
いや、そういう問題か?
だが待てよ・・・。
確かにおれも料理が好きだった。
この世界でおれたちのチートっぷりは、その辺にも現れているのかもしれないな。
だとすると、秋広の服飾関係とかも、強化されている可能性はあるな。
まぁウララは・・・お察しください。
それはともかくだ。
おれは竜兵に現状を説明した。
各国の秘匿魔法でもおれが覚えているものは多いはずなんだが、鳥面が使ったと思われる魔法?もしくは盟友カードに全然予測がつかない。
もしかしたらおれの記憶に無いそれを、竜兵が知っているかもしれないと思ったんだ。
【アニキ・・・おいら、あれからもずっと考えてたんだけど・・・。この世界・・・カードゲームの『リ・アルカナ』に似てるけど、異世界。それはわかってるんだけどね・・・。】
少し言い辛そうに、言葉を切る竜兵。
なんだ?
【アニキ・・・これって、これってさ!『無制限』なんじゃないの!?だとしたら・・・おいらたち・・・。】
竜兵が堪え切れない。とばかりに漏らした言葉に、おれは絶句した。
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