・第五十二話 『疾風怒濤』
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマ嬉しいです。
更新お待たせしましたorz
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈にはこの光景を見せたくないな。
兄貴もさすがにこいつはノーセンキューだ。
創作物では良く見る、『合成獣』ってのが居るだろ?
本来ならあり得ない生物同士が合体させられて、新しい生物が産み出されるってやつだ。
有名どころだと、獅子の頭と胴体に山羊頭を付け、尻尾が蛇になっているキマイラとか、猿顔に虎の胴体、蛇の尾を持つ『雷獣』辺りか。
諸説では『翼獅子』も、そういう風に扱われている場合もあるな。
今回のはその類とちょっと違う。
どちらかと言うと、R15指定されてそうなゲームに出てくるような・・・。
おれのSAN値がピンチだ!
■
おれとサーデインは、敵方の魔物の壁を掻き分けながら進んでいた。
それにしても数が多い。
体長1mサイズの狼『灰狼』を筆頭に、『大猪』や『赤熊』などが隙間無くひしめいている。
運動強化魔法『幻歩』の高機動任せ、群がる魔物たちを殴り飛ばし、或いは蹴り抜きながら、カードへ変えて突き進む。
サーデインは、無双するおれの背後にピタリと張り付き、要所要所で小さな障壁を展開し、おれへの凶刃を防いだり、わざと障壁を滑らせたりすることで、敵方の同士討ちを巻き起こしたりと、さすがの策士ぶりを発揮している。
一体一体は実に大したことが無いレベルだが、それでも多方向から同時に襲い掛かられると、手数が足りない。
それでもじりじりと進んでいるが、その速度は決して速いとは言えなくなってしまった。
『氷竜』を屠ったアルデバランが駆けつけてくれれば、大勢は一気にこちらに傾くと思うが、あれだけの圧倒的な力を持つ彼の姿は未だ現れない。
(まさかとは思うが、何かあったのだろうか?)
使役する盟友の状態まではわからないが、存在しているかどうかだけは把握できるので、まかりまちがって倒されているなんて状況ではないが・・・。
それはエデュッサにも言えることから、未だ前線で戦っているのだろう。
とりあえず『カード化』した魔物たちは、隙を見て回収し『図書館』へと収納していく。
はっきりとは数えていないが、すでに約50枚くらい収納した感じだ。
実際問題どれほど居るのか?
最初にシルキーたちに囲まれた時でも2,300体の魔物が居たはずだが、今このエリアでひしめいている連中はそれより更に数を増していた。
拳で道を切り開きながら考える。
このままでもいずれは合流できそうだが、正直かったるい。
それに先行しているアフィナやエデュッサたち。
彼女たちはまだしも、シルキーが指揮する魔物たちの中には、同族を傷つけることに躊躇ってしまうものもいるかもしれない。
おれとサーデインは先を急ぐ。
頭の中に直接声が響いてきた。
【来たか、人族の英雄よ。こちらが少々まずい。】
『翼獅子』族の王『獅子王』カーシュが、『念話』のようなものを飛ばしてくる。
どうやら彼の声が届く範囲にまでは近づけたらしい。
(だが少々まずいとは?)
今のところシルキーたちの仲間である魔物が倒れている姿は見ていない。
【10歩ほどズレてくれ。我が『疾風怒濤』で道を開く。】
『疾風怒濤』・・・?
一瞬の逡巡、思考の紐を解く。
カードゲーム時代、『獅子王』カーシュに書かれていたテキストを思い出した。
【特技『疾風怒濤』風の刃を全身に纏った突進攻撃。『特技』発動後、カーシュの前方約10mに生物は存在できない。】
(おいおい、ちょっと待て!)
カーシュの少し焦ったような『念話』を聞き、おれはサーデインの腰を抱え大きく横に飛び退った。
カーシュの声がサーデインにも聞こえているのかはわからないが、おれの表情を一瞬だけ伺った彼は、黙って周囲に障壁を張る。
直後、一瞬前までおれたちが立っていた場所へ、周囲の魔物を跳ね飛ばしながらカーシュが突進してきた。
相当な無理をしたのだろう。
その純白だった体は血と泥で汚れ、肩で息を吐いている。
ほとんどが返り血のように見えるが、中には自身の傷もあるのだろう。
その大きく美しい羽根にも、『槍鼠』と呼ばれる大型の針ねずみが打ち出す生体槍が二本ほど突き刺さり、実に痛々しい。
彼は相当強いはずだが、どちらかと言えば空中戦が得意なはずだ。
たぶん他の魔物を守るために、苦手な地上戦で奮闘していたのだろう。
「カーシュ、大丈夫か!?他の奴らは?」
【英雄よ、我に乗ってくれ。】
サーデインを降ろし駆け寄ったおれに、己が身を屈め騎乗するように促すカーシュ。
『念話』で伝わってくるのは、彼がひどく焦燥感に駆られていることだった。
カーシュに跨ると、サーデインはおれたちの周囲に障壁を張った後、おれが腰に下げていた金箱へと飛び込む。
「主殿、その障壁は将軍級の攻撃二、三発なら耐えられます。」
「わかった、また後で頼む。カーシュ行ってくれ。」
サーデインの補足説明に答え、カーシュを促す。
おれの言葉に頷いて、カーシュは一気に空へ飛び上がる。
おれたちに向かって、ジリジリと距離を詰めていた敵方の遠距離攻撃は、サーデインの張った障壁に阻まれカーシュを阻むことは出来なかった。
■
向かった先では、確かに少々厄介なことになっていた。
シルキーやカーシュの仲間である友好的な魔物たち、特に力の弱いであろう子供や老体のそれを中央に守るような位置取りで、戦闘能力を有すそれぞれが円形に陣取って耐えていると言う状況。
送り出してからあまり、数が減っているようには見えないので各自奮闘したんだろう。
ただしその姿は決して良いとは言えない。
囲まれてしまったことで進行も止まっているし、戦える魔物から刻一刻と削られ突き崩されているのが見て取れた。
ひどいものは地面にへたり込んだまま動こうともしない。
少しだが回復能力を有す『水晶鹿』なんかが、その水晶でできた桃色の角を光らせて、傷ついた魔物たちを治療しているようだが、焼け石に水と言った感じだ。
そして特に危険に思われるのが、現在エデュッサが対峙している個体。
いや、果たしてそれを個体と呼ぶのが正しいのかどうか・・・。
ベースになっているのは、圧倒的硬質な外殻を有す『大陸亀』の亜種、『大王陸亀』なのだろう。
エデュッサの投擲するナイフを、その甲羅であっさりと弾き返している。
『大王陸亀』という魔物、それ自体は大した問題じゃない。
その防御力こそ圧倒的だが、動きは緩慢だし凶悪な『酸の吐息』も、現在はサーデインが『制約』の効果で、『吐息』自体を封殺している状況。
せいぜいその巨体による、のしかかりくらいしか攻撃手段は無いだろう。
そんなものは指導者級の盟友で、まして身軽な『女盗賊頭』であるエデュッサには当たるはずもない。
問題はそこじゃなかった。
その生物は『大王陸亀』の外殻を持っているが、決してそれではない。
『大王陸亀』の頭は竜のそれではないし、本来手足が生えている場所から、赤いゼリー状の物体が流れ出している。
そのゼリーからは、狼の頭部や熊の腕など魔物の体の一部や、果てはそれぞれが複雑に混ざり合った何とも異様な物体が産み出され、エデュッサに際限なく襲い掛かっている。
エデュッサも今のところ器用に避けながら、ナイフ投げで反撃はしているが、ベースになっているのだろう『大王陸亀』はもちろん、ゼリーから産み出される奇形にもダメージがあるようには見えない。
むしろ甲殻以外に当たったナイフによって飛び散った赤いゼリーが、周囲に居る敵方の魔物にかかると、その魔物を引きずり込み飲み込んで吸収している。
oh・・・
これはなかなか気持ち悪い。
自身のSAN値が、ゴリゴリ削られているのがわかった。
おれがカーシュとともに、シルキーとその背に乗せられたアフィナの横へ舞い降りると、いつものボワンと言う煙。
アフィナはクッションでもあるかのように、ふぅわりと地面へ降ろされた。
サーデインも箱から舞い戻る。
「セイさん、貴方は本当に強いんだな。先ほどのドラゴンとの戦い戦慄した。」
さっと寄ってきたシルキーがそんな事を言ってくるが、おれはなおも戦い続けるエデュッサから目を離さず問いかける。
「シルキー、状況の説明を。」
「ああ、そうだね。・・・と言っても見ての通りだよ。私にも状況は良くわかっていない。こんな生物見たことも無いし・・・現在彼女、エデュッサさん以外は手の出しようも無い。ただ、原因はわかっているよ。」
それからシルキーが語ったのは、この生物が生まれた状況。
「私たちは傷つきながらも、敵方の魔物を除けて進んでいた。『大王陸亀』も一度は屠ったはずなんだ。苦戦はしたものの、確かにエデュッサさんが倒していた。しかし、そこに鳥面の人物『略奪者』が来て何かのカードを使った。すると『大王陸亀』があのような異形に変わったんだ。」
鳥面が来てたのか!
カード効果でモンスターを産み出し、その後どこへ?
「それで鳥面はどこへ?」
「それが・・・セイさんが居る方で、とんでもない魔力が生まれただろう?その魔力を感知したのか、特に私たちに何をするでもなく消えたんだ。」
逃げた・・・のか?
確かにアルデバランを呼んだときの魔力は、ちょっと能力のあるものなら十分に忌避すべき力だったかもしれない。
今までの話を符合するに、ツツジと名乗った猿面も、鳥面の人物も力は十分に持っているはずなのに、ことさら危険を避けている気がするな。
特に自分の身を危険に晒すのは、絶対にいやだとでも言うような・・・。
最後まで自分では戦わずに居た、『魔導元帥』キルア・アイスリバーのように。
鳥面が『竜の都』を襲った時は、おそらく絶対の自信があってのことだったのだろう。
それが竜兵と『古龍』バイアのせいで狂った。
だから今回は、不確定要素を感じた時点で逃げに徹したという所か?
おーけー、ますます気に入らない。
そこまで考えた所で、後方から大きな怒号を感じる。
空気が震える感覚に、サーデインがさっと移動し後方に大型の障壁を張った。
ドキャアアアアアア!!!
おれたちの後方から、地を這って魔物の壁を弾き飛ばした漆黒の剣閃が二本。
斜めの十字、所謂X型で飛来しサーデインの障壁に当たる前にふっと掻き消える。
どうやら障壁の必要も無く、威力は調整されていたらしい。
「済まぬ。我が君、遅くなった。」
魔物の壁を真っ二つに引き裂いて、現れる漆黒の鎧『冥王騎士』アルデバラン。
未だ多数存在する魔物も、その姿に戦慄したかのように身を竦ませている。
「王よ、命令を。」
よし、役者は揃った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
仕事が忙しすぎて書くのが間に合わないorz
プロットはできてるので書くだけなのですが・・・。
前回のあとがき辺り、テンパりすぎて見直しもちゃんとできてないみたいで。
「かみまみた。」になってました。
これからも更新がんばりますので応援よろしくオナシャス。
作者のモチベの為に良ければご意見、ご感想、ブクマに評価など頂けたら泣いて喜びますw