・第五十話 『二重(ダブルインパクト)』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈はおれの事をズルいと思うか?
兄貴、実は対策してました。
おれたちがこの世界に飛ばされた日の事を思い出してほしい。
そう、おれたちは四人でダブルスをする予定だったのだ。
おれと秋広チームと、竜兵ウララのチーム。
状況をちょっと整理しようか。
闇属性メインのおれのスタイル、使役するユニットのほとんどが剣士や魔法使い等の軽歩タイプ。
狙撃メインで壁役や妨害を担う盟友が主体の秋広。
対する竜兵とウララは、ドラゴンに天使。
うん、どう取り繕っても飛ばれたらしんどくね?
と言う訳で、最後のブリーフィング中に控え(サイド)から追加したカードが、対飛行種用の『暴風』。
メタだなんて言わないでくれ、一枚しか入っていない。
とりあえずあの日のおれ、グッジョブ!
■
さて、飛んでる奴は軒並み、地べたに引き摺り下ろした訳だ。
墜落の際に打ち所が悪かった、或いは一緒に落ちた仲間の下敷きにでもなったのであろう、半数以上の『翼竜』が、光の粒子を撒き散らしながらカードに変わっていく。
おれが右手を前に出すと『カード化』したドラゴンたちは、大人しくまとまっておれの手の中へ収まった。
アンティルールが問題なく適応されたのを見て、このドラゴンたちは『略奪者』が襲った『竜の都』のそれであると再確認する。
おれはすかさずそのカードを、『図書館』へと収納した。
どうやるのかはわからないが開放するにしても、一度竜兵に渡そうと考えたんだ。
『古龍』バイア曰く、竜兵とドラゴンたちの繋がりにはとても言葉で言い表すことができないような、深い絆があるらしいしな。
おれたちがカードゲームの『リ・アルカナ』を始めた当初から、竜兵は極度のドラゴンスキーだったが、何か関係があるんだろうか?
まぁそのドラゴンスキーを極めて、タロットの称号を取ったり、公式大会中学生以下の部では全国優勝もしてるんだから大した物と言えるが。
それはともかくだ。
益体も無い思考に飲まれかけた頭を切り替え、目の前の状況に集中する。
とりあえず空中からの強襲こそ回避できたと言えるが、『翼竜』の生き残りが5、6体に大型が8体残っている。
大型については3体はおれが殴り飛ばした個体に巻き込まれて負傷し、半ば恐慌状態に陥っているようだが、未だ5体は無傷のままだ。
これだけの被害を出したことで、普通の生物が醸し出す生存本能なんかとは少々趣きこそ異なれど、さすがにおれたちのことを深く警戒している素振りが見て取れた。
膠着状態になるのは正直いただけないが・・・。
魔物たちの向かった草原側の状況を、さっと横目で確認する。
エデュッサを先頭に突き出す形で、左右をシルキーたち『一角馬』やカーシュを筆頭とした『翼獅子』の一族が固め、子供や老体であろう弱者を内側に引き入れた三角の陣形で、獣族の壁に突っ込んでいる。
下馬評通りって訳でも無いが、『一角馬』と『翼獅子』はかなり強いな。
『一角馬』が、その角から産み出した稲妻を敵に突き刺させば、その一発で相手は体をビクリと弛緩させ、無抵抗に成り下がる。
『翼獅子』が翼から産み出した風の刃、所謂カマイタチってやつか?
それが通り過ぎた後には敵方の壁に一条の道ができるほどだ。
しかしその道も、補填する者に事欠かないせいですぐに埋まってしまう。
そんな中、エデュッサがかなりがんばっているようだ。
いつものように急所を狙い撃つような攻撃ではなく、大雑把に大量のナイフを投擲して血煙を上げている。
あれは倒すというより、傷を負わせて怯ませるような戦い方をしているんだろうな。
おれの言った「魔物たちの援護をしろ。」って言葉を、彼女なりに解釈して壁の突破を図る行動を優先しているんだろう。
心配していたアフィナも、シルキーの背に乗せられていることで、大人しくエデュッサや魔物たちに攻撃が届きそうな敵の体勢を風魔法で崩したり、威力は弱そうだが小さな火弾を数撃って牽制をしているようだ。
(何だよ、やればできるんじゃねーか。)
残念と変態両名が、普段の奇行からは想像も出来ない献身に、お兄さんちょっと感動しちゃいました。
是非、日頃からその調子でお願いします。
魔物たちの方は今のところはなんとか、大きな被害も出さずに善戦しているようには見えるが、やはり決め手には欠けているし、いずれは数による飽和攻撃でジリ貧になっていくだろう。
結局の所、おれとサーデインが転進できるようにならなければ、まともに逃げることも叶わない状況に変わりは無いってことだ。
一刻も早く駆けつけたい所ではあるが、無傷の5体を含め目の前のドラゴンはそれを許しはしないだろう。
それにおれの予想がはずれなければ。
いや、正直言うとはずれては欲しいのだが。
最悪の場合、おかわりがある。
現状でも十分悪い状況だが、『略奪者』が更に追加のドラゴンや魔物を送り込んでくる可能性もあるし、もっと言えば本人が直接来てもおかしくはない。
実際問題、メインで魔物の住処を襲っていたのは、鳥面の『略奪者』なんだからな。
おれたちは現状を打破すると共に、更なる脅威への注意を考えなければいけないんだ。
■
そこまで一気に考えて、丹田の構えのままドラゴンたちをねめつけて、おれは大きく息を吐いた。
そして気付く。
(おいおい、マジか。)
おれの左手にかけられた攻撃強化魔法『二重』 のエフェクト、魔法文字で出来た輝く円環の約四割が消えている。
この現象は・・・。
どうやら『二重』の魔法は回数制のようだ。
他の強化魔法『幻歩』や『影歩』は、体感三時間程度続いたことから考えが至らなかった。
つまり『二重』は強化と言っても、おれ自身を強化するのでは無く、あくまで追撃の効果みたいなものってことか。
VRだと、ここまでの大群に囲まれるって状況もほとんど無かったし、効果を勘違いしていたな。
このエフェクトの消失具合を考えて、効果は後二、三発ってとこか?
おれの拳は十分ドラゴンに通用することがわかったが、それにしたって数が多い。
それに魔法カードがあれば別だが、サーデインは攻撃能力に乏しい防御と補助メインの盟友だ。
元々が魔法使い系盟友であることも考えると、ドラゴンとガチンコするべきじゃないだろう。
おれが逡巡したのが本能的にわかったのだろう。
手負いの大型ドラゴン3体が、意思を感じられないにも関わらず、憎しみに血走っていると思える瞳を爛々と滾らせて襲い掛かってくる。
「主殿!」
サーデインの叫びを背中で受けながら、軽く後方へ跳躍する。
一瞬前までおれの体があった場所に、大型ドラゴンの牙がガチンッと噛み合わさった。
おれは右手でそのドラゴンの鼻先を掴み、一気に自身の体を持ち上げ飛び上がる。
「らぁ!」
勢いはそのまま、自然と漏れた気合の声と共に、握った左拳をその個体の眉間へ叩き付けた。
バガンッ!
自分でも引いてしまうような、人体が奏でる音とは思えない音を立て、ドラゴンの首が一気に後ろに仰け反る。
そして更にバガンッ!
ドラゴンの巨体が浮き上がり、縦に一回転すると仰向けに地面へ叩き付けられる。
そしてその個体は光の粒子を出しながらカードへ変わっていく。
『二重』のエフェクトの消失は約六割。
(つまり五発か。)
ギャイン!パシャーン
おれの着地点を狙っていたであろう、他の2体の豪腕がサーデインの張った遠隔障壁に一瞬阻まれ、更にそれを割りながら振り下ろされてくる。
サーデインが作ってくれた貴重な一瞬を、おれが無駄にするはずもない。
バックステップで避けた後、振り下ろされた腕を足場にドラゴンの体へ駆け上がる。
位地的に2体同時や、無傷の5体へぶつけられないのは残念だが仕方ない。
自身の体に登られたことで、おれの姿を見失っているドラゴンの背へ左拳を振り下ろす。
ドゴォッ!
一発目でその巨体が折れ曲がる。
「ギュアアア!!!」
苦鳴を上げた所に『二重』の追撃が入る。
ドゴォッ!の音と衝撃に体が地面へ縫い付けられ、一気に光の粒子があふれ出す。
その時おれは、奴を殴った反動を利用してすでに跳躍している。
チラリとサーデインを見ると、無言で頷いた。
どうやらおれの動きを読んでいたらしい。
おれは確信を持って空中に足を踏み降ろす。
そこにはサーデインが作った無色透明の足場。
おそらくは障壁の応用だろう。
おれはその足場を利用して、もう一度跳躍すると手負いのドラゴン、その最後に残った1体の横っ面に左拳を叩き込んだ。
これで残りは満身創痍の『翼竜』が6体と、無傷の大型5体。
かなり減らしたとは言えるが、さてこれからどうするか。
おれの蹂躙劇を見て怯えているのか、すぐに襲ってくることは無さそうだが・・・。
左腕に輝いていた円環はすでに消えている。
『幻歩』の運動強化は顕在なので全くジリ貧とも言えないが、無傷の大型ドラゴン5体を純粋な打撃のみで屠るのは、さすがに無理が過ぎるだろう。
「魔道書」
ドロータイミングは通過しているはず。
新しく引くカードでの状況の打破に一縷の望みを賭け、『魔道書』を展開する。
おれの周りにA4のコピー用紙サイズのカードが三枚。
二枚は変わっていない。
ロカさんとアリアンのカード。
二人のどちらかを呼んでも、現状では決して有効とは言えないだろう。
どちらも英雄級で十分に過ぎるほど強いのだが、ロカさんはどちらかと言えば対個人。
アリアンはその特性ゆえ帝国兵には無類の強さだが、彼の『能力』は帝国兵以外には無意味だ。
新たに引いてきた一枚に望みを繋げる。
そのカードは『オニキス』。
ヒンデックに譲渡された『輝石』を『カード化』した物だ。
効果は【紋章瞳+2、ドロー1】。
魔族の国『砂漠の瞳』の象徴である瞳の紋章を二つ産み出し、カードを一枚ドローできる。
『オニキス』の効果で引いたカードを見て確信する。
(ここでコイツか。これしか無いってことなんだな?)
ロカさんとアリアンのカードを、瞳の紋章六つに変換する。
引いてきた一枚の盟友カードが輝いた。
「サーデイン!障壁全開だ!」
おれはサーデインに魔力障壁を頼み、召喚の理を詠唱する。
そうする必要があった。
『砂漠の瞳に誓いし者、暗黒を世界に教える者、我と共に!』
光るカードがおれの右手に持つ金箱に吸い込まれ、そして世界が金色に輝く。
箱から黒い塊が飛び出したのを確認し、おれは一気にサーデインの方へ飛び退く。
おれが飛び退いたのを確認したサーデインは、強固な二重の魔力障壁を張った。
そしてその障壁の向こう、ドラゴンたちが警戒も露に威嚇する中で・・・悪夢が具現化する。
ここまで飛んで頂きありがとうございます。
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※とうとう50話ですぞー。
勢い任せの拙作にお付き合い頂き、感謝感激であります!