・第四十九話 『暴風』
いつも読んで頂きありがとうございます!
皆様のブクマで作者は生きております。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今日の話を聞いて君はどう思う?
兄貴ときっと同じ事を考えてるんじゃないかな。
この世界で魔物と呼称されている彼らは、独自のコミュニティこそあれ、『地球』で暮している人の家族たちの在り方となんら変わらない。
むしろ異質なのは人間の方じゃないか。
『レイベース帝国』の人族至上主義然り、『天空の聖域シャングリラ』の宗教戦争然り、ましてやその裏には、おれたちと故郷を同じくすると思われる『略奪者』。
見た目こそ異形だったりする魔物たちより、その本質はよっぽど醜悪なモンスターに感じるよ。
ただ巻き込まれたから・・・帰る手段が困難だから・・・。
そんな言葉じゃなくて、今おれは自分がしたいからやるんだと思う。
少なくともおれは、目の前で起きる理不尽に黙っていられるほど、大人じゃないってことかな。
■
「ご主人様!敵意を持った何かが来ます!」
珍しくちゃんと仕事をしていたらしいエデュッサの『能力』、『索敵』に反応があったようだ。
この『能力』は常時発動していて、敵意を持った相手に自動で反応するという素敵仕様なんだ。
盟友の等級や相手が『隠密』系統の『特技』を持っていると、隠蔽されることもあるから頼り切るのも危険だがな。
魔物を含めた一同に緊張が走る。
エデュッサの警告に応じて、おれはテーブルやイス等を急いで『図書館』にしまうと、『魔道書』を展開する。
A4のコピー用紙サイズのカードが六枚、おれの周りに現れる。
おれが『魔道書』を展開するのを待っていた。とでも言うようなタイミングで、そいつらは
森の後方、空から現れた。
ドラゴンだった・・・。
プテラノドンのような姿の『翼竜』タイプを筆頭に、奥に行くほど大型の個体が見える。
その数、ざっと見ても30体前後。
(『翼竜』及び亜種が20、大型が10と言ったところか・・・。)
しかしこれはまさか・・・。
そういうことなのか?
竜兵が襲われた際の『竜の都』で、カードにされ奪われたドラゴンたち。
ドラゴンたちの瞳を見て、疑念が確証に変わる。
彼らの瞳には、意思の光が全く感じられなかった。
この雰囲気には確かに覚えがある。
『闇の乙女』サリカの守護する『涙の塔』で、おれを刺した『影人』フェアラートとまるで同じ雰囲気だ。
意思の感じられない瞳なのに、明確な敵意を感じるのは何なのか。
むしろ彼らの全身からその気配が漂っているかのようだった。
首筋の後ろがチリッとひりつく、いつもの危険察知のような感覚。
滞空している『翼竜』はおれたちを中心にして大きく旋回を始めた。
まるで得物を狙う海鳥みたいな動きだな。
さっきの嫌な気配はたぶんこれじゃない・・・。
そこで数体の大型ドラゴンが、おれたちを見下ろすような位置取りに出てくる。
そしておもむろに、大きく息を吸い込み始めた。
(まずいっ!)
ここまで見れば、何をする気かは問う方がばからしい。
おれは咄嗟に『制約』のカードを選択し、サーデインへ投擲する。
そのカードを器用に受け取ったサーデインが、魔法を発動した。
「『制約』、禁ずるは『吐息』」
ドラゴンたちが『吐息』を吐き出そうとした瞬間、サーデインの『制約』が発動し辺りが一瞬だけ白く光る。
結局ドラゴンが吐き出せたのは、炎でも氷でもなくただの空気だけだった。
その後もドラゴンたちは、何度か『吐息』を使おうとしていたようだが、当然それは発動しない。
『制約』の効果は、エリアに一定時間だからな。
禁じた事象に関しては、敵味方も関係ないし問答無用だ。
だからこそ頭を悩ませる訳だが、その選択もサーデインの判断に任せる場合、十中八九最大限効果的な使い方を考えてくれる。
正直、おれが指定するのはよっぽどの時だ。
「サーデイン助かった。」
おれはサーデインの肩を叩き声をかけながらも、警戒は解かない。
現状、しょっぱなから『吐息』もらって全滅の憂き目。
それを回避しただけに過ぎない。
「セ、セイさん?い、一体何をしたんだ!?」
どうやら『吐息』が来るものと身構えていたシルキー他、力持つ魔物たちは困惑しているようだ。
だが今は悠長に説明している場合でもない。
『吐息』が使えない事にやっと気付いたドラゴンたちが、ゆっくりと草原に降下しようとしている。
■
「シルキー、説明してる暇は無い。魔物たちはこのまま『精霊王国フローリア』に向かうんだ。ここはおれたちに任せろ。」
自分でも、今日会ったばかりの魔物たちに、何故こうも肩入れするのかわからなかった。
だけどなんとなく。
そう、なんとなくだがこれは違うだろって思ったんだ。
簡単に言えることなら、『略奪者』のやり口が気に入らないって事かもしれないな。
しかし、おれの言葉を受けてもシルキーを始め、魔物たちは動こうとしない。
相も変わらず周辺を警戒しながら、身構えているだけだ。
(そんなことしてる場合じゃないだろ?ちっちゃな子供も居るだろうに・・・。)
おれが疑問に思いつつも、次々と草原に降り立つドラゴンを警戒していると、遠慮がちに法衣の裾が引っ張られた。
「セ、セイ・・・。」
「ご主人様、状況は悪化しています。」
アフィナの震え声と、エデュッサの緊張した声に促されチラリと横目で確認する。
・・・oh・・・。
ドラゴンが来襲した森とは逆方向、おれたちがここまで歩いてきた方から、今居る魔物たちと同数程度200を越すであろう多種の獣族の姿が見える。
そしてその獣族も纏う雰囲気がドラゴンたちと同じ。
こいつは中々にハードだ。
どちらかを突破・・・もしくは殲滅しなければ安全圏への亡命すら不可能ってことか。
獣族の方を確認すれば不幸中の幸いと言うべきか、称号持ちのネームレベルや指導者級は居ないように見える。
おれが目配せすると、シルキーがすっとおれに寄ってくる。
「シルキー、そっちの戦えるメンバーはどのくらいだ?」
「草原側に居る魔物の群れと相対して、まともに戦えるのは私を含めた『一角馬』の一族10体と、カーシュが率いる『翼獅子』の一族20体、あとは『死熊』や『赤熊』が20体に『大猪』10体と言った所だよ。獣族側ならば少々堪えることはできるだろうが、ドラゴンは厳しい。」
くそ・・・状況はかなり悪いな。
通常の魔物から頭一つ抜けた存在である『一角馬』や、指導者級である称号持ちの『獅子王』カーシュを含めて獣族側に向かわせたとしても、その総数は半分以下。
耐えている間に飽和攻撃で、弱いものから狙われるのが目に見えている。
腹・・・くくるっきゃないか。
「エデュッサ、魔物たちの援護だ!アフィナはエデュッサの補助!シルキー、何とか獣族の方を抜けろ!ドラゴン側はおれとサーデインでなんとかする!」
「了解です!」
「そんなっ!セイ、無茶だよ!」
おれの命令でエデュッサが無数のナイフを両手に産み出し、弾かれた様に低い姿勢で走り出す。
シルキーがアフィナの手を無理矢理おれから引き剥がし、自身は『一角馬』の姿に戻りアフィナを背に乗せ、先行するエデュッサを追走する。
「主殿、来ますよ!」
サーデインがおれに注意を促すと、ドラゴンたちの圧が一気に膨れ上がった。
むしろ今まで襲って来ないでくれて助かった。
なんとなくだが、ドラゴンたちはおれとサーデインを警戒してる雰囲気だ。
『吐息』を防いだのがおれたちってことを、本能的に悟ったのかもしれないな。
とりあえず地面に降りた大型よりも、空を飛ぶ『翼竜』に魔物たちを襲われては堪らない。
叩き落してやる。
どうするかって?
当然それ用のカードを引いている。
「サーデイン、これを使え。」
おれは『魔道書』を一気に三枚選択し、その内一枚をサーデインに渡す。
二枚は強化魔法カード。
運動強化魔法『幻歩』と、一回の攻撃を二重に増幅する攻撃強化魔法、『二重』だ。
『幻歩』の効果で体が一気に軽くなる。
更に『二重』のエフェクト、魔法文字で出来た二つの輪がおれの左手を包み込むように浮かび上がる。
そしてサーデインが渡されたカードを見てニヤリと笑い、「さすが主殿。」と呟きその魔法を詠唱し始める。
おれはサーデインの詠唱時間を稼ぐために、自ら最前列に鎮座する二体の大型ドラゴンに踊りかかった。
二体のドラゴンから繰り出された牙と豪腕の一撃を、『幻歩』で増強されたフットワークであっさりと避ける。
振りかぶった豪腕を避けた時、おれはすでに身を屈ませその個体の腹下に潜り込んでいる。
ボクサーの放つアッパーカットのように突き上げた拳が、ドラゴンの腹部にぶち当たりゴガンッ!と派手な音を奏でた。
「ギュオオオ!!!」
苦鳴を挙げるドラゴンにもう一発。
『二重』のエフェクト、二つの輪が輝くと先程と同じゴガンッ!と言う音を腹から響かせ、5mサイズのドラゴンが1m程宙に浮かび上がる。
おれの一撃ですでに光の粒子を撒き散らしながらも、落ちてくるドラゴンをバックステップで避け、先ほどおれに牙で攻撃してきた、同サイズの個体の側面に回り込む。
「らぁっ!」
自然と漏れた気合の声と共に、全力の正拳突きをドラゴンのわき腹に叩き込む。
ドゴォッ!
「ギュオオオ!!!」
先ほどの個体と同じ苦鳴を挙げるドラゴンに、遅れてもう一発。
ドゴォッ!
おれに殴り飛ばされた5mサイズの個体が横っ飛びに吹き飛び、更に空中で同じ衝撃を受け加速する。
光の粒子を撒き散らしながらも、そのまま草原に降り立ちおれたちの様子を伺っていただろう大型ドラゴンの群れに突っ込んだ。
「「「ギシャアアアア!!!」」」
巻き込まれた三体が暴れ回る中、サーデインが厳かに告げる。
「主殿、時間稼ぎ有難うございます。詠唱が終わりました。」
おれは大型ドラゴンを見据えたまま、丹田の構えを取り呼吸を整え、彼らにとって災厄となる命令を下した。
「サーデイン、やってくれ。」
おれの許可を得て、サーデインが唱え終わった魔法を解き放つ。
「行きます。『暴風』の召喚。」
サーデインが掲げたカードから光が放たれ、消えていく。
カードが消え去った時、風速50mはあるであろうまさに暴風が、おれたちの上空でのみ(・・・)巻き起こった。
旋回しこちらの隙を伺っていたであろう『翼竜』が、なすすべもなくバランスを崩し、或いは近くに居た仲間同士でぶつかり合い、墜落する。
いかに飛行に優れた者であっても関係ない。
上下左右、360度どこから吹くともわからぬ突風が、縦横無尽に空を蹂躙するのだ。
『暴風』の召喚とは、飛行能力を有す者を分け隔てなく大地へと縫い付ける、そんな魔法だった。
そして空を我が物顔で席巻していた『翼竜』たちは、都合20体大地へ落とされた。
これで空からの脅威はある程度排除した。
だがまだ高低差を潰しただけ。
ここからが本番だ。
ここまで読んで頂きありがとございます。
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