・第四十八話 『子供』
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なんとかギリギリ今日中間に合ったorz
仕事が・・・仕事が悪いんやでぇ
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、新事実が発覚した。
兄貴が患っているのは、どうやら妹スキーだけじゃ無かったらしい。
今日おれは、もふもふに目覚めました。
いや、正確には『地球』に居た時から、兆候はあったのかもしれない。
思えばこれは親の影響なのかもしれないな。
室内には犬12頭、インコ2羽、亀3匹、外にはポニーと梟なんてものまで居た。
ちょっとした動物園と言える環境で、おれと美祈は暮らしていた。
これで動物嫌いになれと言うのが無理だろう。
魔物とは言え子供は可愛いんだ・・・。
■
おれが『カードの女神』の『加護』についてシルキーに話した後、それは起きた。
遠巻きにおれたちの会話を見守っていた魔物の陰から、ひょこっと覗いたそいつらは、まだ生まれて間もないだろう子供たち。
純白のまりもみたいな『角兎』の子供、牙もまだ生え揃っていない『大猪』のウリボー、バンビちゃんさながらの『水晶鹿』の子供。
好奇心に満ち満ちた瞳で、鼻をスンスンさせながらおれたちの方へ近付こうとしている。
親なのであろう魔物たちが必死に止めているが、何頭かはその手足をするりと抜けて近寄ってくる。
最初に近寄ってきた子供たちは全部で七頭。
おれに五頭、サーデインに二頭だった。
距離的には近かったはずの、アフィナとエデュッサはガン無視である。
五頭の子供たちは、周りを嗅ぎ回りながら少しうろうろした後、まるで示し合わせたかのようにおれの顔を見上げ小首を傾げた。
なにこれ、かわいいんですけど?
思わず足元に居たまりも(『角兎』の子供)を、二頭抱えあげる。
アフィナがすごく恨めしそうな目で睨んでくるが無視する。
エデュッサは「魔物すら魅了するご主人様・・・ハァハァ。」とか気持ち悪い。
サーデインも自分に寄ってきた二頭の頭を優しく撫でている。
さすが野生の魔物・・・安全な人がわかるんですね。
おれは『図書館』に『カード化』して収納していた、キャベツみたいな葉野菜の『カード化』を解除して子供たちに与えてみた。
嬉しそうに野菜を食べ始める子供たち。
思わず頬に笑みが浮かんだのが自分でもわかった。
「セイ!ボクも!」
「お前は嫌がるほど抱きしめるからだめだ!」
自分にも野菜をよこせと主張する残念を、ピシャリとシャットアウト。
アフィナの悪癖はロカさんで散々確認済みだ。
おれがエサを出したのを見て、今まで親魔物たちに押さえられていた子供たちも必死に抜け出してくる。
そしてあっという間もなく、おれは魔物の子供たちにもみくちゃにされた。
■
「ふふ。セイさんは面白い方だな。」
初対面の緊張は最早どこかに吹き飛んだらしく、シルキーが柔らかく微笑んでいる。
「普通は人族も魔物もお互い、おいそれと近付いたりはしないものだ。」
「そうなのか?」
おれは今十数頭の子供たちに、絶賛もふられ中だが?
辛うじておれとサーデインからあぶれた子供が数頭、アフィナを構っているので機嫌も直ったようだ。
アフィナ「が」ではなく、アフィナ「を」、ここ重要。
そしてエデュッサには、未だ一頭も寄り付かない。
野生の勘すげぇ・・・。
もふもふは非常に癒されるが、それはともかくだ。
「ところで・・・各地の魔物たちを襲っているのは、白ローブに奇怪な動物の面の人物なんだよな?」
「ああ、私は実際に見た訳では無いが、聞いているのは鳥のような面を被った人物らしい。」
鳥面か・・・。
おそらく『竜の都』を襲った奴と同一人物だろう。
「襲われた魔物たちのカードは・・・。」
おれの問いに、悲しげにその長い睫毛を伏せるシルキー。
「倒された成獣のほとんどは奪われたようだ。子供は・・・。」
そういえば『オリビアの森』で『狩猟蜘蛛』を倒した時も、小型のそれはカード化しなかったな。
やはりサイズや魔力総量で、自然な『カード化』には制限がかかるのかもしれない。
竜兵はそんなこと言っていなかったし・・・ドラゴンは概ね『カード化』の最低水準を満たした個体と識別されている可能性はあるな。
カードゲームの『リ・アルカナ』でも、子竜は『子竜』として存在していた事から、間違いないだろう。
「だからセイさん、済まない。貴方がアールカナディア様の使徒ならば、助力したいのは山々なのだが・・・。」
そりゃそうだよな。
身内がそんだけ危機なら、この『イリーン階段丘』に住む魔物たちを取りまとめる種族である『一角馬』が、動くわけにもいかないのだろう。
まぁおれは『カードの女神』の使徒なんかじゃないし、信用してもらう為に名前こそ出したものの、その権力云々に頼るつもりも毛頭無い。
おれたちの会話が一段落した所で、純白の翼を持つ『翼獅子』族の族長、『獅子王』カーシュがゆっくりと歩み寄ってきた。
【人族の英雄よ、我ら『翼獅子』族が、そなたたちを乗せて飛んでいけばいいのではないか?】
頭の中に直接響く、貫禄のある壮年の声。
なんとなくロカさんの声にも似ている気がする。
「飛べれば・・・楽なんですがね。」
サーデインが苦々しく呟く。
それはおれたちも話し合っていたのだ。
純粋に移動速度の事を考えるのであれば当然、各地をえっちらおっちら歩いていては相当な時間を食ってしまう。
幸いおれは堕天使であるイアネメリラに頼らずとも、短時間なら空を飛ぶ魔法も持っていた。
まぁ一応は、残念エンジン搭載の『飛翔』って言う飛行魔法もある。
しかしおれたちは、飛んで行くという手段は取らなかった。
理由は三つある。
まず第一に燃費が悪いこと。
サーデインとエデュッサを箱にしまって、おれとアフィナだけで飛んでもおれの飛行魔法はともかく、アフィナは絶対に付いてこれないだろう。
そしておれの飛行魔法は残念ながら本人専用だった。
第二にこのエリアがすでに、『天空の聖域シャングリラ』の支配地域であること。
どうやら魔物なんかは放置されているようだが、空を飛ぶ一目で他国の人間とわかる相手に、この国がどんな手段に出るか?
とても平和的解決に結びつくとは思えない。
相手は有翼種と言う名の『天使』族。
まして自身の奉ずる神を、絶対唯一と崇める狂信者たちだ。
そして三つ目。
この『イリーン階段丘』を抜けた先にある『虹の橋立』。
雨上がりにしか現れない虹で出来た橋なのだが、この橋を取り巻く雲海は常に雷気を纏う電界で、空を飛ぶ者がそこに入れば五分と持たず黒焦げになってしまうような、飛行種にとっては天敵のような物らしい。
しかしこの雲海も『一角馬』なら自走できるらしいのだ。
その角から発生する防御結界的な物で、搭乗者ごと身を守れるとのこと。
さすが『一角馬』。
なかなかのファンタジー修正である。
サーデインと事前に確認していたこれらの問題点を挙げると、『獅子王』カーシュはその巨体に似合わずションボリと言った風情で頭を垂れた。
【我はこのエリアから出た事が無いゆえ、無知なのだ。済まぬ。】
おれはカーシュの立派なたてがみを、ポンポンと撫でた。
「別にカーシュのせいじゃない。そう落ち込まないでくれ。」
んー、しかし困ったな。
いつ『略奪者』に襲われるかもわからない状況で、こいつらをこのままにするのもアレな気がしてきた。
特に子供たち・・・。
「なぁシルキー?一時的でも避難することはできないのか?」
おれの言葉にシルキー他、そこに集まった面々は怪訝な表情を浮かべる。
どうやらおれが言いたい事をわかっているのはサーデインだけのようだ。
顎に手を当て「ふむ・・・。」と考えている。
「今なら『精霊王国フローリア』に逃げ込めば、絶対とは言えないがかなり安全率が高まるんだが・・・。」
「セイさん、どういうこと?」
訝しむシルキーに、おれは今の『精霊王国フローリア』の状況をかいつまんで説明した。
優秀な結界が張られていること、『神官王』クリフォードの懐の広さ、そしておれの頼みで防衛に参加してくれている竜兵のこと。
おれの説明を黙って聞いていたシルキーだが、最後にはふるふると弱弱しく首を振る。
「いかに『神官王』が出来た人物と言えど、我々は魔物だ。とても受け入れてくれるとは思えない。」
そうかなー?
アイツなら普通に了承出す気がするんだが。
そこで今まで黙考していたサーデインが口を開く。
たぶんこれ、タイミング見てたな。
「シルキーさん、問題ありませんよ。私と主殿が一筆したためれば済む話です。」
「ああ、そうだな。あんたたちの窮状を説明する手紙を書くよ。敵意が無い魔物って事も含めてな。」
「あ!それならボクも一言添えるね?」
またしても理解できない。と言った顔をするシルキー。
「まぁ簡単に言うとだ。おれは一応あの国の救国の英雄で、守護神である『自由神』セリーヌとも面識がある。そんでサーデインが『神官王』の弟、アフィナは元大臣、現在相談役の孫で貴族。これだけ役者が揃ってたら、『神官王』じゃなくても、いやとは言わないさ。」
「なんと・・・。」
シルキーが絶句したところで、サーデインがささっと羊皮紙とペンを取り出した。
避難援助の嘆願書をしたため、それぞれが自分の署名をし終えた時。
「ご主人様!敵意を持った何かが来ます!」
エデュッサが叫んだ。
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作者はリアルでも、もふもふが大好物です。