・第四十七話 『一角馬(ユニコーン)』
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※2/14 誤表記修正しました。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈も何となく予想はしてたんじゃないかな?
兄貴だって馬鹿じゃない。
この世界に来てからのおれのトラブル遭遇率を考えれば・・・。
いや、わかってはいたんだが。
変態だけじゃなく、理知的なサーデインもまんざらじゃない反応だったから、大丈夫かなーって思ってしまったんだ。
でも確かに言ってはいた。
「何種類かの『魔物』が住んでいるんです。」ってな。
■
「なぁサーデイン・・・。」
「なんでしょう主殿?」
おれは目の前の光景を見て、思わずサーデインに問いかける。
「この世界では・・・こんなことは普通なのか?」
おれの問いかけに「はて・・・。」と言ったサーデインの、こめかみを伝う汗をおれは見逃さなかった。
おーけー、やっぱり普通じゃないんですね?
おれたち四人は現在囲まれています。
『イリーン階段丘』の中腹、草原地帯のど真ん中『一角馬』の群れがあるらしい、西側の森林地帯へ進む際。
最初は小型、中型くらいの低級魔物、額に小さな角を持つ小型犬サイズのウサギ『角兎』や、真っ黒な体毛で立派な一対のねじれた角を持つが、穏やかな性格の羊『黒羊』なんかが遠巻きに見ているだけだった。
この辺の魔物もカードゲームの『リ・アルカナ』で見た事があるし、何より草食系に見えた事から別段警戒を払うことは無かった。
様相が変わったのは、いよいよ森へと侵入しようかという手前、大鷲の翼と嘴を持つ2mサイズのライオン『翼獅子』や、毒々しい真っ赤な体毛、鶏のように逆立った頭頂部のモヒカンヘアー、二足歩行で全高3mもある熊『赤熊』なんかが大挙して現れてからだ。
カードゲームの『リ・アルカナ』の盟友等級制度に照らし合わせれば・・・。
大多数は兵士級、及び仕官級だったと思うが。
一部亜種や王族と思われる大型や異質な姿、普通サイズのそれより一回り大きく羽根も純白の『翼獅子』、『獅子王』カーシュを筆頭に、真っ赤なモヒカンヘアーの両脇に捩れた角を持つ『赤熊』、『死熊』なんていう指導者級、将軍級盟友も混ざっている。
目測でも100や200で利かない数、大小様々な魔物がおれたちを囲んだ後、その瞳でじっと見つめてきた。
明確な敵意こそ感じられ無いものの、その異常な状況におれたちもどうしていいかわからない。
(どこの魔王軍大集合だよ・・・どうすんだこれ?)
秋広が家に遊びに来た際に置いていった、国民的コンシューマーゲームを元にした漫画本の勇者が、魔物の大群に囲まれている状況が脳裏に浮かぶ。
「セ、セイ・・・。」
「ご主人様・・・。」
アフィナとエデュッサが、おれの右手と左手にすがり付いてくる。
アフィナはまだしもエデュッサ、お前は戦闘能力があるだろう?
どういう状況か把握はできていないが、決して楽観できるとは思えない。
楽観から倒れること数回。
さすがにおれも学習した。
「魔道書」
おれの周りに、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚現れる。
おれたちを取り囲む魔物たちの群れに、一瞬にして緊張が走ったのがわかった。
狼型の魔物なんかはすでに身構えて牙を剥き、「グルル・・・。」と唸り始めた。
(やるしかないのか?)
『魔道書』を展開して不用意に刺激してしまったのは確かだが、先におれたちを取り囲んだのはそちらだ。
警戒を解かないままさっと視線をずらし、引いてきた手札を確認する。
身体強化系の魔法カードが二枚、盟友召喚カードが二枚、あとは攻撃魔法とサーデインの専属魔法である『制約』。
現状ほぼ最高の引きに思える。
(これなら余程のことがない限り切り抜けられそうだな。)
そう思っておれは、左手に縋りつくアフィナを、右手に絡み付いていたエデュッサに押し付ける。
いよいよおれが事を構えようと、カードに手を伸ばした時だった。
おれたちの正面に位置する魔物の群れが、まるでモーゼの十戒で割れる海さながらに二つに割れていく。
その動きは淀みなく種族、サイズも関係無いようだ。
なんとも統率の執れた動きに見えた。
そして割れた魔物の間に出来た空間。
魔物の壁に産まれた道を厳かな雰囲気で、『一角馬』が数頭歩み寄ってくる。
(一体これはどういう状況なのか・・・?)
よくわからないが警戒は解かない。
少なくとも突然襲い掛かってくるようには見えないが・・・。
サーデインに視線を向けても、小さく横に首を振るだけで状況の把握はできていない。
今までに体験したことの無い事例で当惑しているように見えた。
参ったな・・・『一角馬』も、比較的温厚な種族だと聞いていたんだが。
おれたちの目前、10m程離れた位置に並んだ『一角馬』。
中央に居た一体が、数歩進み出る。
他の個体に対して一回り小さいが、その角は一番美しく壮麗に見えた。
そしてその小さな『一角馬』は、おれたちの前でボワンと音がしそうな煙を上げる。
それはまるで竜兵の盟友である『古龍』バイアが、人化する際に見せたような煙だ。
■
「こちら側に敵意は無い。まずはその物騒な物を、しまってはいただけないだろうか?人族の英雄よ。」
そう言って緊張の表情を隠しきれないままぎこちなく微笑んできたのは、金髪碧眼の絵に描いたような美少女だった。
非常にゆったりとしたローブ状の白い服を纏い、『地球』で言えばスーパーモデルのように小さな顔、頭部には小さなティアラがちょこんと斜めに乗っている。
年の頃は15,6歳?ともすればアフィナとそう変わらない年齢に見えた。
(たぶん『一角馬』の姫様とかなんだろうが・・・しかしこの世界、美形がやたら多いな・・・。)
そんな益体も無い事を考えつつも、彼女の瞳に宿る明確な怯えを感じ取り、おれは『魔道書』を閉じた。
その途端「ほぅ・・・。」っと、大きなため息をつく美少女。
どうやら相当に緊張状態だったらしく、膝がガクガクしている。
「感謝する人族の英雄よ。私は『一角馬』の王女シルキーと言う。今日は、この『イリーン階段丘』に住む魔物たちの代表として貴方たちと交渉に来た。再度言わせていただく。我々に敵意は無い。どうかその力で我々を害するのを辞めて欲しい。」
「・・・害する?」
おれの法衣の裾を握ったアフィナが、訝し気に呟く。
なんだかお互いに、よくわかっていない齟齬があるように感じる。
サーデインを伺うと顎に手を当て首を捻っている。
交渉事ならサーデインの方が向いていると思うんだが、現状が把握しきれていない今なら、おれが話しても同じか。
状況把握のためにも、言葉が通じる相手と言うのは正直助かる。
『一角馬』に会えたら、誠意で頼んでみようと思っていたし話してみるか。
「おれの名前はセイと言う。シルキー、おれたちは訳あって今、『天空の聖域シャングリラ』に急いでいる。この森に向かっていたのは移動の都合上、君たち『一角馬』に助力を頼めないかと思ったからだ。」
おれの言葉を聞いて途端、その美麗な金色の眉を器用に片方顰ませるシルキー。
「では貴方がたも、我々に危害を加えるつもりは無いと?」
おれが首肯するのに合わせて、他の三人も頷いたのが気配でわかった。
「しかし・・・」
なぜか逡巡するシルキー。
まぁいきなりこのエリアに本来居るはずの無い人間が現れて、危害は加えないから足になれって言われても困るわな。
おれはそう思ったのだが、どうやら様子が違うようだ。
シルキーは決然とした表情になると、おれにその意思の強そうな碧眼を向け、その理由を語り始める。
「貴方がたを信用しないとは断言できない。しかし、この『イリーン階段丘』を含めた各魔物の成育地において、人族の魔導師によると思われる襲撃が続いている。容貌は貴方がたとかけ離れているが、同様にカードの力を用いていると報告があったんだ。」
なるほど。
さっきの過剰な怯えはそのせいか。
それにカードを使った襲撃、十分に思い当たる節がある。
「シルキー、その襲撃者の容貌は、白いローブに奇怪な動物の面を被ったやつじゃないか?」
おれの問いにハッとした表情を作り、さっと身構えるシルキー。
シルキーの様子に、周りで大人しくしていた魔物たちも警戒色を強める。
「それを知っていると言うことは・・・。」
おそらく「お前らも奴の仲間か。」と続けようとしたんだろう。
おれは早合点したシルキーに向かい、手をパタパタと振って否定する。
「違う違う。おれも奴らと敵対してるんだ。」
おれの言葉にシルキーは困った表情になり、「どういうこと?」と聞いてきた。
まだシルキーを始め、魔物たちの警戒は解けない。
そりゃそうだよな。
同じようにカードの力を悪用して、自分の同胞を襲っていると思われる人族が、事件の根幹に居ると思われる人物の容姿を知っていた。
ましておれたちは今日が初対面。
問答無用でギルティと判断し、襲い掛かってこなかった所はむしろ賞賛されるべきだろう。
(でもこれ・・・どうすりゃいいんだ?)
助言を求めてサーデインを伺う。
「主殿、ここは腹を割って話してみてはどうでしょう?」
顎に手を当てたまま、サーデインはおれに提案する。
んー、確かにシルキーは頭が回りそうだしな。
それに話して納得したら、手を貸してくれるかもしれん。
「シルキー、確認したいんだがここに居る魔物たちは信頼できるか?あと人化できるのはどのくらい居る?」
要領を得ない、という顔をするシルキーだが「ここに居る物で人化は私だけだ。信頼とは・・・?」と話を聞く姿勢ではあるようだ。
本当に出来た少女だな。
いや、実際いくつかわからんけど。
『闇の乙女』サリカなんて、見た目5,6歳なのに実際は800歳越えだしな。
「うーん・・・事の重要性を言えば、なんとなく理解してもらえるのか?例えば・・・おれが『カードの女神』アルカ様から『加護』を貰っていると言ったら?」
どこまで効果があるかはわからないが、一応この世界の主神らしい幼女の名前を出してみる。
そして『図書館』から、『サファイア』と『夢の林檎』のカードを出して『カード化』解除と『カード化』を数回やってみせた。
魔物たちが静まり返る。
シルキーも「こ・・・これは・・・。」と呟いたまま、固まってしまった。
とりあえずおれは二枚のカードをしまって、『図書館』からテーブルと人数分のイスのカードを取り出し『カード化』を解除する。
そしてティーセットを用意しお茶を淹れた。
「おれたちがシルキーの敵じゃないって事、なんとなくでもわかってもらえたか?」
「あ、ああ、済まない。しかしその力、間違いなくアールカナディア様の『加護』だ。疑って悪かった。」
『カードの女神』すごいやーん。
魔物たちも一様に警戒を薄めたのがわかった。
「まぁ、こんなとこで立ち話も何だ。長い話だが、ちゃんと説明するから座ってくれるか?」
呆然としていたシルキーを促した後、自らもイスに腰掛けこの世界に来てから何度目になるかわからない、『カードの女神』との出会いからの話をすることになった。
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