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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
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・第四十六話 『イリーン階段丘』

あけましておめでとうございます。

いつも読んで頂きありがとうございます。

誤字、脱字、変な言い回し等あれば報告頂けると幸いです。


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、『男子厨房に入るべからず』って言葉があるよな。

 兄貴は自分の事を古い人間だとも思わないし、別に料理が得意なら男だって積極的に厨房に入って良いと思う。

 シェフとか板前みたいな職業の人は、圧倒的に男が多いしな。

 おれだって料理は嫌いじゃないから、作ること自体はやぶさかじゃない。

 だけど『地球』にはこんな格言もあるよな?

 『働かざる者食うべからず』

 おれはいつから配給のおばちゃんになったんだ・・・。



 ■



 おれは今、ビーフシチュー(のようなもの)を作っている。

 目の前には、一度噴きこぼしサーデインが魔法で出した流水によって綺麗に水洗いされた牛スジ肉と玉ねぎっぽい野菜が、赤ワインとローリエを加えた鍋でことことと煮込まれていた。

 クリフォードが譲ってくれた魔道具のコンロがとても役に立つ。

 焚き火と違って火力の調節が簡単だしな。

 因みに、この世界には魔法のかかった道具、と言う物が二種類存在する。


 一つは人の手によって産み出された、多少の魔力さえあり簡単な詠唱を使えば誰にでも似たような効果が発揮できる『魔道具』。

 これをおれは、詠唱無しでも魔力さえ流せば使用できる。

 それなりの金銭を積めば誰にでも購入できることもあり、広く世界に浸透している。


 もう一つが人の手ではなく神々、ないし自然が産み出した『謎の道具ミステリアグッズ』。

 『輝石』の類や伝説に出てくるような代物、大雑把にカテゴライズするなら帝国の『機神』もここに含まれる。

 こちらは逆に大抵使用者を選び、非売品が多い。

 クリフォードは他にも色々と役立つ魔道具を譲ってくれたが、それはまぁおいおいだ。

 

 おれの隣では、じゃがいもっぽい野菜を大きめに切り分けるサーデイン。

 三角巾とエプロンがやたら似合っているが、どこから出したとかおれはつっこまない。

 ああ、つっこまないぞ!


 問題はそれじゃない。


 「おいお前ら、いい加減にしろよ。」


 おれは現在進行形でイライラしていた。

 おれとサーデインが、野営の為の夕食を作り始めてから早一時間少々。

 アフィナとエデュッサは何をするでもなくだらりとし、おれたちの作業を見つめていた。

 それだけならまだいい。

 突然思い出したようにエデュッサがアフィナを挑発し、壮絶なキャットファイトを始めたのだ。


 「だってセイ!この人がー!」


 「ご主人様!なにゆえ天上の神々よりも高貴な貴方様が、このような下賎な小娘を侍らせておいでなのです!」


 自分のこめかみがピクピクしているのがわかる。

 たぶん現状でおれの怒りを真摯に受け止めているのは、サーデインだけであろう。

 彼は何も言わずに調理の手伝いを始めていたしな。

 本来王弟のはずなのにたいしたものだと感心した。


 「これ以上おれを怒らせるなら、お前らの晩飯は抜きだ。」


 おれの残酷な発言に、残念と変態は揃って土下座した。

 それも誰もが賞賛するようなレベルの、ジャンピング土下座だった。

 

 「お前ら暇なら寝場所の準備でもしろよ。」


 おれの指示に二人は揃ってコクコクと頷く。


 「ご主人様の寝床はあたいとおな・・・。」


 不穏な事を呟いたエデュッサに拳骨を落としておく。

 サーデインが横でくっくと笑っている。

 『イリーン階段丘』に入ってからずっとこんな調子で、おれはすっかり辟易していた。


 そんなことより今は、ビーフシチューの出来の方が重要なんだ。

 おれは『図書館ライブラリ』から夜中にこっそり自作した、デミグラスソースっぽいものを出し『カード化』を解除する。

 本来ならもう少し煮込みたい所ではあるが・・・。

 くそう、圧力鍋が欲しいところだ。

 まぁ量は十分あるし、『カード化』しておいてまた煮込めば良いか。


 おれはサーデインが切ったじゃがいもっぽい野菜を鍋に入れ、更に10分ほど煮た後、自家製デミグラスソースを投入する。

 最後に塩コショウで味を調え、白パンのカードを『図書館ライブラリ』から取り出し、『カード化』を解いた。

 

 白パンをちぎりながらシチューに浸して食べれば、まぁまぁの出来だろう。 



 ■



 「「「おいし・・・」」」


 おれ以外の三人が、スプーンを咥えたまま固まる。

 それはもういいって・・・。

 

 「主殿・・・おかわりは・・・?」


 サーデインが尋ね、残り二名も期待を込めた眼差しでおれを見る。


 「今日はこれだけだ。足りないならパンを食え。」


 おれの返答に三人はがっくりと項垂れた。

 明日も食えるんだから良いだろう?

 大事そうに自分の皿を抱えた三人を横目で見つつ、おれはサーデインに問いかける。


 「サーデイン、ウララの結晶化について何かわからないか?」


 「それは主殿の妹君が夢に現れた時の・・・?」


 確認するサーデインに首肯で答える。

 サーデインは「そうですね・・・。」と黙考した後に予想を語る。


 「おそらくは『天空の聖域シャングリラ』の秘匿魔法だと思われますね。この世界の住人が『カード化』する際のような、発光現象を伴っていたのですよね?詳細はわかりかねますが・・・正直あまり良い状況とは言えないでしょう。」


 だよなぁ。

 正直おれもそう思う。

 ウララの魔力的な物が、結晶から強制的に引っ張り出されている。

 或いは生命力が?

 猶予はどのくらい残されているのだろうか。

 まぁわからないことは素直に詳しい奴に聞こう。

 博識なサーデインが一緒に居るのは、不幸中の幸いだ。


 「仮に秘匿魔法で封印され、強制的にその力を引き出されていると考えてだ。『制約』の魔法で解除可能か?それにサーデインの見立てではどのくらいの猶予があると思う?」

 

 「そうですね・・・たとえ秘匿魔法だったとしても、効果さえわかれば『制約』で解除は可能でしょう。

猶予は・・・その方は主殿と変わらぬお力をお持ちなんですよね?」


 「ああ、たぶん力だけならおれより強いぞ。」


 そうか、サーデインはウララと戦った時に呼んだことが無かったかもしれないな。

 「おれより強い。」の発言を聞いたアフィナが絶句している。

 実際ウララは相当強いのだ。

 相性のせいってのもあるが、まともにやりあったらおれも四分六で負ける。

 あのウララをどうやって窮地に追い込んだのか、逆にそこに疑問すら覚える。


 「確証はありませんが、およそ一月・・・主殿の魔力と生命力を鑑みて、そこがボーダーラインかと。」


 「・・・なるほど。」


 一月かぁ。

 あくまで希望的観測の一月。

 当然早いに越した事はないだろう。

 夢の中の美祈の表情も気になるしなあ。


 「ご主人様、足を手に入れられては如何ですか?」


 黙ってビーフシチューと白パンを食べていたエデュッサが、おれに意見してきた。

 サーデインも「なるほど。」と頷いている所を見ると、何か移動手段の心当たりでもあるのだろうか?


 「この『イリーン階段丘』には何種類かの魔物が住んでいるのですが、確か・・・あたいの記憶が正しければここから半日ほど歩いた先に、『一角馬ユニコーン』の群れがあったはずなのです。」


 「『一角馬ユニコーン』か・・・。」


 馬は確かに魅力的だ。

 乗馬なんてしたことは無いが、この世界でのおれのチート運動能力を考えたら乗れないこともないように思える。


 (だが大丈夫なのだろうか?)


 『地球』での物語に出てくるような『一角馬ユニコーン』は、総じて男を乗せたがらない。

 所謂、処女の乙女しかその背を許さない処女厨だった気がする。

 おれの疑問を察したのか、サーデインが補足する。


 「主殿、『一角馬ユニコーン』が処女しか乗せないと言うのは事実ですが、それは雄だけです。雌馬は男も乗せてくれますよ。・・・顔の好みが少々うるさいですが、主殿なら問題ないでしょう。」


 (そんなもんなのか?)


 「おれとアフィナはそれで良いとして、サーデインとエデュッサはどうするんだ?」


 いや、サーデインも美形だし大丈夫なのか?

 おれの視線に気付いたエデュッサが、顔を真っ赤にして慌てながら腕をブンブン振り回す。


 「ご主人様!あたいも処女ですよー!」


 なんだとっ!?

 アフィナはわかるがこの変態も処女だと!?

 いやむしろ処女なのに変態とか、どんなスペックだよ。

 非常に生暖かい空気が一同を包んだ。

 まぁ、うそだったら箱に突っ込めばいいか。


 「じゃあ夜が明けたら、『一角馬ユニコーン』の群れに接触してみるか。」

 

 「そうですね。それがいいでしょう。」


 おれの言葉に三人は頷いた。


 「んでだ。見張りはおれとアフィナ、その後サーデインとエデュッサな。」


 「あたい、ご主人様とが・・・。」


 反論するエデュッサを、サーデインが無言で寝床に引きずっていく。

 グッジョブだ、サーデイン。


 「セイはボクと一緒が良いんだよー!」


 エデュッサに向けて「んべっ」と舌を出すアフィナの頭に拳骨を落とす。

 なんでこいつらはこう揉めるんだ。


 「お前寝たら起きないだろうが。それだけだ。」


 思わずため息をつき、椅子代わりの石にどっかりと座り込む。

 目尻に涙を溜め、上目遣いのアフィナがおれの隣に座る。


 「セイ・・・ウララさんが・・・心配?」

 

 「・・・まぁな。」


 アイツがどんな理由で囚われているのかわからないが、おれや竜兵と同じような力を使える彼女をあんな状態にできる存在が居る。

 それだけで十分すぎるほど不安は覚えた。

 アフィナは「そっか・・・。」と呟いた後、「もし・・・もしもボクが・・・。」と言い掛け、「ごめん、何でもない。」と話を切った。

 さすがにおれでも、アフィナが何を言いかけたのかはわかる。


 「少なくとも・・・おれの手が届くところならな。」


 おれはそう言って、アフィナの頭をポンポンと撫でた。


 「セイ・・・。」


 目線は合わせていないが、アフィナがおれを見上げているのはわかった。

 そして『イリーン階段丘』の草原を揺らしながら、柔らかい風が吹きぬけ、始まったばかりの旅路の夜は深まっていった。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

新年早々仕事がヘルモードですが、がんばって更新していきたいと思っていますので、今年もよろしくお願いしますorz

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