・第四十五話 『報告』
いつも読んで頂きありがとうございます!
予定より更新遅くなってしまった(汗
※今回で所謂『精霊王国フローリア』編が終わります。
章分け機能をいまいち理解してないので、理解できたら分けますw
次回から『天空の聖域シャングリラ』編だと思って頂けたら幸いです。
ツツジは『アークキャッスル』内にある自分の執務室へと帰っていた。
相も変わらず大量の書類が詰まれたデスクへ向かい、一枚のカードを取り上げる。
部屋にはツツジともう一人。
『大将軍』ガイウス・O・マケドナルがツツジの背後、控えるように跪いていた。
彼らの事を知る人なら違和感を覚えるはずであろう。
この二人、(主にガイウスがだが)事あるごとに衝突をくりかえし、決して仲の良い間柄だとは思われていない。
ましてプライドの塊のようなガイウスが、カーマイン以外の人物に頭を垂れるなど、太陽が西から昇るようなできごとである。
跪くガイウスを一瞥したツツジが、パチンと指を鳴らすとその部屋はまったく違った様相を現す。
ただただ真っ白な広い空間に、一台の事務デスクのようなものと、脚に車輪の付いた事務椅子、そしてデスクの上にPCのモニターのようなもの。
ツツジは事務椅子に反対向きで座り顎を背もたれへ乗せ、くるくると回り始める。
そして「くふ、くふふ」と帝国内では見せない気持ちの悪い笑みを浮かべる。
そこにどこからともなく、白ローブをまとった黒髪の美女が現われる。
「ガイウスは手に入れたようね。少しは計画に近付いたのかしら?」
「ホナミか・・・いやー、あぶねーとこだったわー。」
ツツジの返答に眉を顰めるホナミ。
その顔に促されるようにして、いやらしい笑みを浮かべたツツジが語り始める。
「あの爺さんやべーわ。ガイウスを本物か?って聞いてきやがった。」
「爺さん・・・『剣聖』デュオル?」
ホナミの問いかけに「そうそう。」と、実に楽しそうに笑うツツジ。
「しかしまー、いくら『悪魔』が規格外でも、『一騎打ち』と『最終兵器』でいけると思ったんだけどなー。」
「・・・『最終兵器』まで使ったの?」
驚くホナミだが、ふと思い当たる。
ツツジの言葉からすると『最終兵器』を使ったにも関わらず、『悪魔』を倒せなかった事を示唆している。
一体どんな手品を使えば帝国の二大『機神』デオグランとバーベリオンから逃げおおせるのか?
『最終兵器』の効果を思い浮かべても、とても想像がつく物ではない。
ホナミの顔を見て「逃げた。」と思っているのを察したツツジは、「違う違う。」と手を振る。
そして跪いたままのガイウスをビシっと指差す。
「こいつが弱すぎて全然削れなかったってのもあるんだけどさー。『力』が来ちゃってねー。しかも、『古龍』バイアを連れて。だから『機神』は二機とも大破。」
「なっ!?」
「さすがに『古龍』バイアの存在はヤバイから、あくまでも『悪魔』が悪いって方向で話を進めたけどねー。」
絶句するホナミを見て、ツツジは満足気だ。
ツツジは人を驚かすこと、特にホナミが驚くのが大好きだった。
「なんとか隙を突いてガイウスだけは回収したけど、あちらさんもなかなかやるよねー。」
肩を竦めて「お手上げ」のポーズ。
その時白い部屋の中に、テニスボールサイズの黒点が突然浮かび上がる。
黒点はゆっくりと人一人がすっぽり入れる程のサイズまで広がる。
大きな黒い染みと化したそれを潜り抜けるようにして、鳥を模した奇怪な面で顔を隠した人物が現われる。
その人物は身に纏った白ローブを、自身の流したであろう血でどす黒く染め上げていた。
傍目にも一目でわかるほど、その右半身が傷だらけだった。
「ぐっ・・・。」っと苦痛の声を漏らし膝を突く鳥面、声は男。
慌てて駆け寄り、支えるホナミ。
ツツジはホナミとは対照的に「ありゃりゃー。」などと言いながら、椅子に腰掛けたまま車輪を滑らせ、鳥面の男にシャーっと近付いて行く。
「ずいぶん派手にやられたじゃなーい?『魔術師』のサカキともあろうお方がー。」
「ツツジ・・・!『力』が居たぞ!」
どこか揶揄したような声音で、鳥面を『魔術師』のサカキと呼称したツツジに、サカキは怒鳴るように告げる。
一方サカキの言葉を聞いたツツジは、「うんうん。」とでも言うように頷いている。
「サカキ落ち着いて!ひどい傷よ、『力』にやられたの?」
「違う、これは『古龍』バイアだ。」と言うサカキの傷の状態を確かめながら、ホナミは懐からカードを一枚取り出す。
そのカードはアフィナがセイに使ったものと同じ、『薬箱』のカード。
ホナミの『薬箱』の効果で少しだけ回復し、顔色を取り戻したサカキは自分の言葉に全く動じていない二人を見て訝しむ。
(まるで事前に知っていたことを改めて聞かされたような・・・。)
二人の態度を見て、サカキはそう感じた。
「・・・どういうことだ?この世界に転移者は、おれたちだけじゃ無かったのか?」
サカキの問いにツツジはいつも通り芝居がかった態度で、ひょいと肩を竦ませる。
「それがね・・・サカキ。私たち以外にも転移した人が居るみたいなのよ。」
サカキはツツジを睨む。
ツツジはその視線を受け「おーこわ。」とおどけてから、「だって、君あんま連絡つかないじゃーん?」と笑う。
人を食った態度にイラっとしながらも、サカキは最悪なソレに思い当たった。
「もしかして・・・アイツも居るのか?」
サカキが思い当たったアイツとは・・・。
『力』の竜兵とはセットみたいな存在。
いや、むしろ竜兵の方がくっついていると言っても過言ではないだろう。
TCG『リ・アルカナ』を少しでもかじった人間なら、むしろ『リ・アルカナ』を知らない人でさえも、その通り名をどこかで聞いた事がある。
幸運の女神に愛された男、空手を自己流にアレンジした喧嘩殺法で、町の暴走族や果てはヤの付くおじ様たちまで避けて通る、最愛の妹に近付く悪い虫は地獄の底まで追いかけて殴り倒す等々、伝説に事欠かない少年。
「『悪魔』が居るのかっ!?」
「うん、居る。」
サカキの悲鳴にも似た叫びに、チャットならwが10個は付いていそうな顔でツツジは答えた。
■
「奴らもカードの力を?」
「使えるみたいだねー、それも下手するとおれたちより巧く?」
サカキはホナミの『薬箱』で治療されながら、説明を受けていた。
「しかしあの面倒臭がりが、まさか戦争に加担するとは思わなかったなぁ。」
ツツジの言葉にサカキも「確かに・・・。」と思う。
サカキの知っている『悪魔』のセイと言う男なら、身内にはとことん甘いが、大して知りもしない異世界の国同士が戦争したところで、そのどちらかに与して戦うなど考えられなかった。
(一体何が、奴の琴線に触れたのか?)
それは総じてこの場に居る面々、(ツツジの盟友となったガイウスを除けば)の総意であった。
「しかしサカキ、知らなかったとは言え、『力』と敵対したのはまずかったなぁ。いずれは潰さなきゃいけない相手だとしても、こちらを認識されちゃったのは悪手だねー。」
「だがツツジ、お前も姿を見せたのだろう?」
苦言を呈しニヤニヤするツツジに対し、憮然とするサカキ。
その時白い空間に突如、ドアのような物が生まれる。
部屋に居た面々が見守る中ドアはゆっくりと開き、やけに小柄な白ローブがひょっこりと顔を出す。
その顔を隠す仮面は猫のような物だった。
他の三人の仮面に比べれば、随分愛嬌があるようにも思える。
「あっるぇ?さかきっちもおるやん?なんや、怪我したん?」
そんな事を言いながら白い部屋に降り立った猫面の人物の背後で、ドアがひとりでに閉まると空間に消える。
その人物の声は明るい少女のそれであった。
「おかえり、ハル。何かわかったのかーい?」
出迎えるツツジの声に「せやせや。」とポンと手を叩く、ハルと呼ばれた人物。
「うちら以外、と言うか今回つつじっちが見つけた『悪魔』のツレと思われる奴らのうち一人をみっけたで。」
「ほう。」と感嘆の声を上げたツツジは、ハルに先を促す。
「うちが見つけたんは、『正義』のウララや。」
「なるほどなるほど、やっぱり居るんだねー。」
三人の予想通り『悪魔』と縁の深い名前が語られる。
「『力』に『正義』か・・・。となると、もう一人も当然、どこかに居るんだろうな。」
サカキの呟きに「だろうねー。」「せやなー。」と肯定するツツジとハル。
「しかし、隠れられると一番やっかいな奴の所在が不明か。」
それぞれの脳裏に、『運命の輪』の称号を持つ、眼鏡をかけた男の姿が浮かんだ。
ツツジはそれを打ち払うようにパンと手を叩く。
「まぁ行方がわからない奴の事はしょうがないねー。それで、『正義』は排除できそう?」
「いや、無理やわ。うちらでもたぶん手出しできひん。」
ハルの言葉に一同困惑する。
『悪魔』や『運命の輪』に比べたら、『力』や『正義』は比較的くみしやすい相手のはずなのだ。
それが無理とはどういう事なのだろうか?
「うちが『正義』を見つけたんは『天空の聖域シャングリラ』。秘匿魔法の何かで封印されとった。手も出せへんけど、ある意味動かないだけマシなんちゃう?」
「なーるほど。」深く頷くツツジ。
じわじわと侵食している最中ではあるが、彼の国は未だ自分たちの支配下とは言い辛い。
その国の何者かが、ツツジたちですら知りえぬ方法で彼女を拘束中と言うならさし当たっての脅威とは見なさなくても良いだろう。
そこまで考えてツツジは思い出す。
『悪魔』に言われた事、それを周知しておかねばなるまい。
「そーそー。これからおれらは『略奪者』と名乗るよ。『悪魔』がおれのことをそう呼んでたんでね。おれたちが略奪者だってさ。くふふ、なかなかトンチが利いてるだろ?」
「略奪者ねぇ・・・。」サカキには何か思うところがあるようだが、ホナミは何も言わないし、ハルは「ふーん、ま、ええんちゃう?」と何とも気の無い返答である。
どうやらツツジのように感銘を受けた者は居ない様だ。
ツツジはそれに少々寂しさを感じながらも、それぞれに指示を下す。
「ホナミは今まで通り、サカキは今度は獣系を狩りに行って貰おうかなー?ハルは他のメンバーに通達した後、引き続き『天空の聖域シャングリラ』の動向を探ってもらうよー。」
「わかったわ。」「いいだろう。」「ほいほい、ほなまたなんかあったら報告すんでー。」三者三様に答えたメンバーが、あっという間に空間から消える。
後に残されたツツジは、跪いたままのガイウスに何事か囁くとカードを一枚手渡し、「さぁ面白くなって参りましたー。」と笑った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
年末年始の更新はまだちょっとわからないです。
2日朝2時から仕事とかウボァー。
連載開始から約一月半、お世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
それでは良いお年をー!