・第四十三話 『古の語り部』
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※5/19 誤表記修正しました。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、異世界生活はままならない。
兄貴はちょっと楽観してたかもしれない。
この世界、確かに面倒なことも多く、『地球』のように簡単な移動手段や便利な利器なんかも無い。
でも魔法の力で空飛んだり、ワープ的なこともできるし、カードチートのおかげで交渉術(物理)なんかも磐石ではある。
たぶん頑張れば神と名乗る輩も、張り倒せるとは思う。
そういうことじゃないんだ。
見えない糸で操られているかのような感覚。
これが神の力だとしたらおれはそいつを許さない!(血涙
おれの引きを返せー!
■
発端は『呪い』に気付いた事からだろうか?
話は出発前夜にまで遡る。
あの時諦めずにちゃんと解決しておくべきだったんだ。
「ほっほ、お竜ちゃんはよほど、ドラゴン族に好かれておるんじゃのう。皆からお竜ちゃんと離れとうないという意思が伝わってきよるわ。」
おれと竜兵が、『魔導書』からはずせないカードに困惑していると、黙っておれたちを観察していたバイアがそんなことを言い出した。
「じっちゃん、はずれないのはそれが理由?」
長い白髭を擦りながら深く頷くバイア。
ちょっと待て。
それが理由なら、おれの『魔導書』のはずせないカードも・・・。
おれはバイアに、はずせない何枚かのカードを見せてみる。
「うーむ、これは・・・。」
言いよどむバイアにイヤな予感しかしない。
「兄者君も基本の理由は一緒じゃのう。盟友カードに関してはその者の意思、魔王と『絶望』の魔法に関しては・・・ふむ、どうやら契約のような物が交わされているのかの。」
契約・・・まだそっちの方が納得できるわー。
イアネメリラをはずせないのは愛されてるってことで許容できるけど、エデュッサ(変態)の愛とかなにソレ怖い。
「お竜ちゃん、お別れじゃないことを念じながら盟友ドラゴンをはずしてごらん?」
バイアに促され、「ふぇ?」っと疑問の声を上げながらも、竜兵は言われた通り念じながら盟友ドラゴンのカードを選択した。
(はずれたし・・・。)
「おおおっ!?」と叫ぶ竜兵を尻目に、おれも同じようにしてみる。
はい、おーけーはずれません。
何でだよ!
おれは金箱を地面に叩き付けようとして、「壊れたら詰む。」と思い直し、ベッドに向かって放り出した。
バイアはおれの様子を見て、ひどく残念そうに嘆息する。
「兄者君のカードには利かんかもしれんのう。盟友の個性が強すぎるし、どうも契約解除は受け付けないようじゃしの。」
まじっすか。
問題はむしろ契約解除の方じゃない。
確かに『魔王の左腕』召喚と『絶望』にまつわる危険性は理解できたが、かといっておれのフィニッシュブローであるこのカード。
もしもの時に必要にならないとは限らない。
それより問題はエデュッサ(変態)なんですよねー。
それから小一時間、バイアや竜兵と相談しつつ色々と試してはみたが、結局有効な打開策はみつからなかった。
そしてその日は諦めて寝た訳だが・・・。
その夜、美祈からウララのピンチを夢で示唆され、慌てて用意を整えたおれとアフィナは旅立つことになった。
そして当然トラブルが起きる訳だ。
■
「ご主人様!お待たせ致しました。貴方の愛妾エデュッサですよ!」
もう勘弁してくれませんかね?
何回引き直してもこれしか引かないんですわ。
竜兵に『精霊王国フローリア』の防衛を頼み、宮殿から出発したおれたちは約二日かけ大草原のただ中、『イリーン階段丘』の入り口に辿りついていた。
これから狂信者の国に向かうに当たり、自分はともかくアフィナの護衛が必要だろうと判断したおれは、『精霊王国フローリア』の国境が近付く間中、『魔導書』を操作し、盟友を召喚しようとしていたのだが。
正に呪い。
そうとしか言いようが無いほどに、エデュッサのカードしか引けない。
手札も二枚しかないし、このまま進んで何かあってからでは遅い。
それでなくてもアフィナは、おれの予想の斜め上を行く残念だ。
不本意だが変態を呼ぶしか無いだろう。
そう判断したおれは、渋々エデュッサを召喚し、二秒で後悔した。
元気いっぱい卑猥なハンドサインをしながら現れたそいつは、なぜか豹柄のバニースーツを着ていた。
「「・・・・・・。」」
おれとアフィナの呆れた視線の前で、やつは自身の体をぎゅっと抱きしめ、「ああっ!ご主人様の冷たい視線!あたい新しい扉が開きそう!」と叫んだ。
こわい変態、変態こわい。
「・・・とりあえずその格好は何だ・・・?」
「あら?お気に召しませんか?ハッ!ご主人様は露出が多い服より、隠された中身に興奮する性癖なんですね!?」
中身言うな。
それにおれに変な性癖を付けないでください。
おれが抗議の言葉を紡ぐよりも早く、変態はおれの持つ金箱に飛び込んだ。
カオスが過ぎる。
「セイ・・・何であの人呼ぶのさー。」
アフィナがジト目で睨んでくる。
「うるさい、お前の護衛だ。面倒はお前が見ろ。」
おれは目を逸らし、残酷に吐き捨てた。
「えー!ヤダよ!」と憤慨するアフィナを無視していたが、箱の中から不穏なセリフが聞こえてくる。
「サーデインさん!ご主人様は露出少な目を脱がす事に、興奮するみたいですよ!」
何だと!?
入れ知恵はサーデインなのか!
まさかの裏切り行為に愕然とする。
こなくそっ!
おれは思わず『魔導書』を展開した。
いや、こなくそって・・・思わず呟いたが、いつの時代の人だよ。
ドロータイミングを通過していて、一枚手札が増えている。
『夢の林檎』を選択する。
空中で林檎が三つに分割されるエフェクト、手札が三枚になる。
(こんな時だけちゃんと引きやがって!)
おれはイライラしつつも、一枚を星の紋章に変換し、召喚の理を唱えた。
『言葉の精霊統べる者、古の物語受け継ぐ者、我と共に!』
辺りが金色の光に包まれる。
光が収まると、ミニスカメイド姿に換装したエデュッサともう一人。
黒髪に緑の瞳、黒い神官服を着て、聖書のような分厚い本を脇に抱えたエルフ族の男性が、非常にバツが悪そうな表情でおれたちの前に現れた。
■
「サーデイン・・・言い訳を聞こうか?」
頬をポリポリと掻きながら目を逸らすサーデイン。
「いやー、主殿を喜ばせようと、アドバイスしただけなんですがね。失敗でしたか?」
ああ、失敗だよ。
サーデインは真面目な表情でそう言いながらも、目が楽しげに笑っている。
お前わかっててやってるだろう?
「・・・本音は?」
おれがなおも問いただすと、サーデインはヤレヤレとでも言うように一度肩を竦めてから話しだした。
「こうでもしないと、なかなか呼んで頂けないと思いましてね。私は他のみなさんに比べると戦闘力には乏しいですからね。」
うん・・・まぁ、それはそうだな。
サーデインは魔法使い系盟友の中でも少々特殊だ。
おれの『魔導書』内に居る盟友たちの中では、特に希少な防御系統の魔法を使うタイプだから、何かのスポット的タイミングで使われることが多いだろう。
もちろん攻撃魔法をまったく使えないって訳ではないが、同じ条件になればどうしても火力特化のジェスキスやプレズントが優先されるのは否めない。
つまり残念ながら、護衛等で出しっぱなしにするような使い方はされないってことだ。
(しかしなんでまた?)
おれの疑問の表情を見て、「まだ続きがあります。」と言うサーデイン。
「主殿が『天空の聖域シャングリラ』に行くと聞きましたのでね。おそらく主殿はあの国の事を少々簡単に考えすぎていると思いましたので。」
「そうなのか?道程が困難な狂信者の国って事だろう?それなりに注意はするつもりだったが・・・。」
おれの言葉に「そうですね。その認識は間違っていません。」と頷くサーデイン。
「私はあの国に行ったことがあるのです。その頃の『天空の聖域シャングリラ』は、確かに信心深い国ではありましたが、周辺諸国を滅ぼしたりするような国では決して無かった。時期的には『第一次エウル大戦』が発生する二年ほど前ですが、『暗黒都市グランバード』の特使として訪れた私を、少なくとも当時の統治者であった『四姉妹』は、ずいぶん友好的に迎えてくれたものです。その際に約定を結び同盟国となったのです。しかし、そこから二年の間に何が起きたのか、『正義神』ダインは他の神を信望する国、特に『狂気の女神』アギマイラと『混沌の女神』アザレア様を邪神認定し、周辺諸国を殲滅。自国ではないと言え『正義』の名を冠した神が起こした暴挙に、『狂気の女神』アギマイラと『混沌の女神』アザレア様は激怒し、自国民を率いて『リラ大平原』でぶつかることになりました。これが『第一次エウル大戦』の馴れ初めなんですよ。」
「この話を聞いて、どう思います?」と聞いてくるサーデイン。
「つまり『聖域の守護者』ティル・ワールドだけでなく、『正義神』ダインすら『略奪者』の息がかかっていると思った方が良いのか?」
おれの返答にサーデインは、「おそらく・・・。」と頷く。
「あの国が今どのような状況なのか、正確に把握している訳ではありませんがね。未だにほぼ鎖国状態だと言うことは、決して楽観できることではないでしょう。問題は主殿の使役する盟友にもあります。一目で魔人族であるとわかるリザイアさんやアリアンさん、更には堕天使であるイアネメリラさん辺りは、目も当てられません。」
なるほど・・・。
なかなか困った状況だ。
たぶんこの忠言を受けてなければ、普通に呼んでた。
「ですから・・・魔人族とは判別し辛いエデュッサさんは、ある意味旅の供には適任なんですよ。」
まぁ、言い分はわかる。
だが、おれとサーデインが至極まじめな会話をしている間中、口汚くお互いを罵り合う残念と変態を一目見て頭痛が悪化する。
おれの目線を追ってサーデインも苦笑する。
「主殿、私も一緒に行きますよ。」
「そうしてくれるか?」
サーデインの提案は、疲れきったおれにとって是非も無い事だった。
「本当はプレズントさんとかジェスキスさんってのも手なんですが、あの人たちは少々顔が売れすぎてるんですよね。」
そういうことか、良く考えてくれている。
変態に入れ知恵しやがってコンチクショウ、とか思ったのは反省します。
「それじゃサーデイン、これから宜しく頼む。」
「ええ、十分に注意して行きましょう。」
サーデインはおれが差し出した手を、両手でぎゅっと握り微笑んだ。
そしておれたちは、言い争う残念と変態を拳骨で黙らせ、先の見えない草原の棚田『イリーン階段丘』へと足を踏み入れた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
※次回三人称視点による帝国のお話を載せる予定です。