・第四十二話 『夢』
いつも読んで頂きありがとうございます!
作者はみなさんのブクマのおかげで生きております。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今日も君は異世界で苦悩するおれの、暗雲に差し込む陽の光のように燦然と、そうまるで女神そのものであるかの如く・・・中略、美しい。
兄貴はだいぶ参っています。
思わずポエムが口からあふれ出すくらいだ。
無事竜兵と合流できたのは良いけど、結局謎が深まっただけで『略奪者』たちの目的も見えないし、奴等の存在自体がどうにもきな臭い。
次はウララに問題が?
君の瞳には一体何が映っているんだろう。
■
おれは真っ暗な空間に立っていた。
目の前には美祈が居る。
美祈が今にも泣きだしそうな表情で、おれを見つめている。
いや、正確にはおれの向こう側?
おれが振り返るとそこには竜兵。
竜兵も目を白黒させて、おれと美祈を交互に見ていた。
そしておれの後ろに居た竜兵の、はるか彼方に白く輝く、何か塊のようなもの。
「お兄ちゃん・・・竜君・・・ウララちゃんが・・・。」
そう言ってその手を挙げ、美祈が白く輝く塊のようなものに指を挿す。
おれの視界がその塊に急激に近付いていく。
その白い輝く塊は、まるで水晶でできた結晶のようなものだった。
結晶からはこの世界の住人たちが『カード化』する時のような、光の粒子が立ち上っている。
そこまではまだ良い、むしろ幻想的な風景とさえ言えるかもしれない。
問題はその結晶の中。
ピンクのゴシックロリータ、まるで魔法少女のような服に身を包んだ、黒髪ツインテールの美少女が結晶の中に居た。
そう、おれたちの幼馴染、ウララだ。
顔色は悪くないが、生きているのか死んでいるのかもわからない。
いつも快活な表情を浮かべるその顔は、まるで眠っているかのように無表情だった。
しゃべらなければアイドルみたいな美少女。
いつもそんな言われ方をするウララだが、彼女らしく伸び伸びと生きている生気をまったく感じられないその姿は、決して魅力的と言える物ではなかった。
「美祈、これは?」
振り返りおれは美祈に訪ねるが、返事は無い。
美祈はただ悲しそうな表情で、同じ方向を指差している。
そして段々自身の体が消えていくような感覚を覚えた。
■
おれはベッドから跳ね起きる。
隣の客間からドタン!バタバタと慌てた音が聞こえてくる。
バターンとおれの部屋の扉が開き、「アニキー!」と竜兵が駆け込んできた。
「竜兵、お前も見たのか?」
おれの問いに、深々と首肯で答える竜兵。
「アニキを助けに行った時と同じ感覚があったよ。美祈姉がウラ姉のピンチを伝えてるんじゃないかな?」
そうだな、おれも確かにそう感じた。
外はまだ朝方と言った風情だが、行動を開始することにする。
クリフォードを叩き起こす事になってしまうかもしれないが、おれを助けに来てくれた竜兵の時の事も考えると、とてもゆっくりする気にはなれなかったんだ。
「竜兵、とりあえずクリフォードと相談だ。バイアは起きてるか?」
「らじゃ、着替えてくるね。じっちゃんもさっき起きたよ。」と、自室に戻ろうとする竜兵に、「バイアも呼んでくれ。」と頼む。
『古龍』の知識が必要になるかもしれない。
この騒ぎの中、隣のベッドでずっと寝続けられるお前が羨ましいよアフィナ。
と言うか・・・宮殿内に自室を貰ったはずなんだが、こいつは何故おれ用の客間で当たり前に寝ているんだろうか?
しばらく見てない間にまた、残念がキャリーオーバーしたらしい。
「ふぅむ。なるほどのぅ。」
おれたちは大食堂に集合した。
上座にはクリフォードが座り、その傍らにセリシア、ヒンデックが立ったまま控えている。
おれとアフィナ、竜兵とバイアが対面に座り、夢の中の話を終えた後、バイアが髭を撫でながら一人ごちた。
「何かわかるか?」
おれの問いかけにバイアは、「あくまでも推測の域を出んがの。」と前置きしてから話しだす。
「おそらく兄者君と妹君、それにお竜ちゃん、あとはそのウララという娘さんじゃの。何かしらのカードの力ないし、『能力』のようなもので、繋がっておるんじゃろ。たぶん向こう側からお前さんたちに干渉できるのは、夢の中や命の危険が迫った時に思えるのぅ。もしかすると『カードの女神』の『加護』のような力が働いているかもしれん。しかしそうなると・・・やはり情報の信憑性は高かろう。実際その力でわしらは、兄者君を見つけておるしの。むしろ力の原因より、そちらの対応の方が重要ではないかの・・・。」
たしかに。
要は、たぶん美祈がすげーってこと?
ごめん端折り過ぎ、ちょっと混乱しました。
それにさらっと秋広が、メンバーから外れていることが何とも哀愁を誘う。
今はおれたちの間に繋がる見えない絆的な力で、一通とは言え美祈がナビゲートしてくれてるような感じか。
そしてバイアの言うとおり、信憑性の高い情報なら、それ相応の対策をしなければならない。と言う事だろう。
「なぁクリフォード。あっちには何がある?」
おれは美祈が指差していた方向。
感覚的には『レイベース帝国』を北にした場合、西だと思われる方向へ指を指す。
黙っておれたちの会話に耳を傾けていたクリフォード、セリシア、ヒンデックが一瞬息を呑み、額に手を当てたクリフォードが苦々しげな表情のまま言った。
「ウララが天使族使いだと聞いて、なんとなくは予感していたのだが・・・この国から西側には一つ国がある。・・・と言うか一つしか無い。他の国は等しくその国に滅ぼされたからだ。それは『正義神』ダインの治める有翼種の国、『天空の聖域シャングリラ』だ。」
なんだかまた厄介事の香りが・・・むしろ確信が。
■
「実際問題、『精霊王国フローリア』内のように簡単な話では無いぞ。」
クリフォードが『天空の聖域シャングリラ』について説明してくれる。
まずはその立地。
空に浮く浮遊大陸の上に、その国は作られているらしい。
その国に辿り着くためには、急勾配の草原の棚田『イリーン階段丘』、虹で作られた雨上がりにしか渡れない『虹の橋立』、青空を魔法で固めた『青の城壁』、彼の国の兵士が常時100人以上詰めている『雲の高見台』、そして神々の通用門と言われる全高10mはある城門『南天門』、これらを通過する必要がある。
虹の橋とか青空の壁とか・・・ファンタジーのインフレがやばい。
頭が痛くなってきた。
そして更に問題になるのはその国風。
『正義神』ダインを絶対唯一の神と崇めるその国民は、正に狂信者。
ほぼ鎖国状態のその国では、他国民と言うだけで罰せられる場合まである。
まして異世界人などとバレた暁には、等しく御用が待っているらしい。
その上、『カードの女神』が『略奪者』に操られていたと言っていた『三賢人』の一人、『聖域の守護者』ティル・ワールドが現在も国の指導者の一人として存命中。
逆に、先の大戦時でも穏健派として知られた『天空の聖域シャングリラ』の英雄、『四姉妹』は行方不明。
うん、なにコレ?
どないせーと。
まぁ行くしか無いんだけどさ。
どう考えてもウララはそこに居るっぽいし。
だが問題はそれだけじゃない。
『精霊王国フローリア』は未だ戦時中だ。
いつまた体勢を整えた『レイベース帝国』が、襲い掛かって来ないとも限らない。
おれたちが無双したおかげで撃退できたのであって、根本は解決していないし、ここまで首を突っ込んで後はサヨナラって言えるほど自分が冷血だとは思わない。
ある種途方に暮れたおれに、竜兵は迷いない瞳で言った。
「ウラ姉はアニキが助けに行ってよ。アニキ、おいらは何をすればいい?」
「竜兵は、ヴェルデのお母さんを取り返しに行くんじゃないのか?」
おれの疑問に竜兵は難しい顔をして「うーん・・・」と唸った後、やはり迷い無い表情で続ける。
「美祈姉が夢に現れた事も考えたら、今はウラ姉が優先だと思うんだ。それにあの鳥面とは、また必ず会うと思うんだよね。」
まるで竜兵の言葉を後押しするかのように、バイアと竜兵の頭の上に居るヴェルデも頷いている。
(弟分が成長しているのに、兄貴がいつまでも迷ってはいられないか。)
おれはこの先の行動方針を決める。
「わかった。おれはこれから『天空の聖域シャングリラ』に行ってウララを探す。ウララをみつけたら一度この国に戻るから、竜兵はそれまでここを守ってやってくれるか?」
おれの言葉に「任せてよアニキ!」とサムズアップの竜兵。
その時沈黙を守っていたアフィナが口を開く。
「ボクもセイに付い「ダメだ。」て行く!」
おれは被せ気味で否定した。
みるみる眦を吊り上げ、おれに食って掛かるアフィナ。
「今度は絶対付いてくもん!ボク、メリラ姉さんにセイの事を頼まれてるんだからね!」
な、なんだとっ!?
外堀から埋められていた。
いやまぁ・・・倒れたのがまずかったかしら。
「もう心配しながら待ってるのはイヤなの!」
叫んだアフィナを応援するかのような周りの面々に、おれは嘆息した。
どうやら回避不可の護衛ミッションのようだ。
「アニキ相変わらずモテるなぁ・・・。」
ボソっと呟く竜兵。
「これのどこがモテてるんだ・・・?」
呆れ顔でおれが竜兵を見ると、その場に居たメンバー全員(ヴェルデ除く)がおれを、信じられないものを見るような目で見てきた。
なにコレこわい。
「ねねっ・・・アニキ。ウラ姉もたぶん、アニキが助けに来てくれた方が喜ぶと思うんだけど、この意味わかる?」
竜兵が尋ねて来るが、意味がわからない。
「そうなのか?おれでも竜兵でも同じだろ?おれは防衛には竜兵の方が向いてるから、この国を守ってくれって頼んだんだが?」
盛大なため息をつく竜兵。
一体何なんだ・・・。
そして竜兵はアフィナに向き直り、問いかけた。
「こういう人だけど、あっちゃん大丈夫?」
アフィナは一度おれをチラリと見た後、視線を逸らし「あーうん、予想はしてたけど、やっぱりそうなんだ・・・。」と、苦笑した。
おれにはさっぱり意味がわからないが、二人は顔を見合わせると「「アハハ」」と、乾いた笑いを響かせた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
仕事がスーパーハード越えました。
現在ヘルモード突入ですが更新はがんばります!